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キミ想イ

「俺、修兄ちゃんと一緒にいたいんだよ」
 柵に置いた腕に頭をつけて、俺は弱々しく呟いた。
「そりゃ、お前……」
 煙を吐き出す、修兄ちゃんの息の音が風に溶ける。
「単に安心してるってだけだろ。同類見つけてさ。一人じゃねーって思いたいだけで」
「……それの、何が悪いの。他の奴らだって、安心するからって理由で付き合ったりしてる」
「そうじゃなくて。……好きな奴はいいのかって」
 グッと息が詰まった。不意にアイツの笑顔が浮かぶ。
 苦しい。
「……うん。もう、いい。最初から、望みなんか……無かったし」
 体を起こして修兄ちゃんの方を向いた。
 修兄ちゃんは、なんだか侮っているように口元だけで笑っている。
「修兄ちゃんは好きな人、いる?」
「さぁな」
 冷たい声に、唇を噛む。
「キスしてよ。……同情でもいいからさ」
 不安だった。
 誰かとの、確かな繋がりが欲しかった。自分を丸ごと見て欲しかった。
 アイツとの未来なんて最初から無い。それなのに、想い続けてどうする。
 これからも、ずっとこんな思いをしていくのかと思うと、重くて苦しくて辛くて……。
 修兄ちゃんはフッと笑った後、煙草の火を踏み消して、静かに俺の頬に触れた。
 そして、また触れるだけのキス。
 何がどうでも、修兄ちゃんの傍は心地いいんだ。
 その場所に、ずっといたいと思うのは間違っているのかな。
 俺にはわからないよ。
「いっそのこと……したらどうだ?」
 唇を少し離して修兄ちゃんは囁いた。声が熱っぽい。
「え?」
「告白」
「……嫌だ。できないよ」
 目を逸らして俯く俺の肩を強く掴んで、修兄ちゃんは顔を近付けて言った。
「さっきはできた」
「あれは、だって……。……嫌だよ。修兄ちゃんだって、わかるだろ? アイツは俺のこと知らない。言える訳無いよ」
「言ったら、言い触らされる?お前の好きな奴って、その程度?」
「……違う。……ううん……本当は、わからない」
 ギュッと修兄ちゃんのシャツを掴む。
 信じたいと思う。アイツを。
 でも、もしそれが俺の思い違いだったら?
 そうであって欲しいっていう、俺の勝手な願望だったら?
 思い込みだったら?
「親友なんだろ? 大丈夫……」
「そんな保証、どこにも無いじゃないかッ!!」
 今まで出したこと無いくらいの大声で、俺は叫んだ。
「エーシ……」
「そんな保証……どこにも……。俺だって、アイツがそんなことする奴じゃ無いって思うよ。でも……わからないじゃないか。言い触らされなくても、避けられたら。変に距離を置かれたりしたら。……多分、俺……死んじまう」
 じんわりと瞼が熱くなって涙が滲んできた。
 修兄ちゃんは何も言わずに両手で俺の頬を包んで顔を上げさせた。真っ直ぐな修兄ちゃんの瞳と出会う。
「……そうだな。悪い。軽率だった」
 そう言って、コツンと自分の額を俺の額に当てた。
 そして、そのまま俺の頭を引き寄せて抱き締める。ぬくもりに包まれて、涙がこぼれた。
 いっそのこと。
『好きな人』が修兄ちゃんのままなら良かったのに。
 そんなことを思った。
  告白。
 修兄ちゃんに言われて、ずっと頭の中でこの言葉が渦巻いてる。
 想ってるだけで良かった。それだけで幸せだった。
 何も無いフリして卒業して。いつかはこの気持ちも忘れる。
 そう思ってた。
 告白しようなんて、そんなの考えたことも無かった。
 ……でも、やっぱり。
 言える訳無いじゃないか。
 ふぅ、と溜め息をついていると、渡り廊下でダベっているクラスメイトと目が合った。
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