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キミ想イ

 修兄ちゃんがウチの学校に来て、一週間が経った。
 その間、修兄ちゃんは授業をそつなくこなし、ウチのクラスの連中とも男女共に打ち解けていて。そういうトコ、流石というか何というか……。
 昔からデキる人なんだよね。修兄ちゃんって。
 昼休みの教室は、暖かな陽が差して、のどかな雰囲気に満ちていた。
 瀬田と差し向かいで昼メシを食う。どうでもいいことをダベりながら。一日のうちで、一番楽しくて、少しだけ苦い時間。
「斯波。メシ食ったら、バスケ行かない? 工藤がさ、人数足りねーって騒いでて」
 菓子パン片手に瀬田が言った。
 いつもだったら、喜んで行く所……なんだけど。
「あー……。ごめん。俺、ちょっと用あるから」
 そう言って断ると、瀬田の表情が俄かに曇った。
「なんだよ。斯波、最近付き合い悪い」
「……ごめん」
「別にいいけどさ。……訊いていい?」
「何?」
「用って、どんな?」
 瀬田の質問に、俺は沈黙で返した。
 すると、瀬田は諦めたように溜め息をつくと、
「言えないこと」
 と、言った。
 なんでだろう。責められてる気がする。
 そう思うのは、後ろめたい気持ちがあるからだろうか。
 ……誰に? 瀬田に? それとも、俺自身に?
「ごめん」
 俺は口に残っていたパンの欠片をようやく飲み下し、絞り出すように謝った。
「いーよ、別に。謝んなくても。大事な用なんだろ。俺にも言えないよーな」
 トゲのある、瀬田の言葉が胸に刺さる。俺は返す言葉が見つからず、ただ俯いていた。
 それから少しして、瀬田が遠慮がちに尋ねてきた。
「……斯波さ。お前、何かあった?」
 息が止まりそうになる。でも、すぐに取り繕って笑った。
「んー? 急に何? 別に無いよ、何も」
 そう言うと、瀬田はじっと俺を見つめた後、静かに目を逸らして、
「なら、いいけど」
 と、言ったきり黙り込んでしまった。
 俺より先に食べ終えて、瀬田は何も言わずに教室を出て行った。
 俺はというと、階段を上って屋上へ。
 本当は、扉に鍵が掛かっていて屋上へは行けない。でも、実はこの鍵は壊れていて、コツがいるけど、ちょっとした手を使えば開く。
 このことは、誰も知らない。俺も知らなかった。修兄ちゃんから教わるまでは。
 一応、周囲を窺った後で、ギィッと重い扉を開けた。と、同時に、フワリと暖かな風が吹いて俺の髪を揺らす。
 修兄ちゃんは、いた。柵にもたれて気怠く煙草をくゆらせている。
 その姿が陽の光に溶け込みそうで、俺は目を細めた。
「修兄ちゃん」
 近寄って声をかけると、修兄ちゃんは少し陰のある笑みをみせた。
「……また来たのか」
「悪い?」
「俺は別にいいけど。お前はいいのか?」
「何が」
「トモダチ」
「…………」
 答えず、俺は修兄ちゃんの傍らに立って遠くを眺めた。
 視界に広がるミニチュアの街と真っ青な空。白い雲がゆっくりと流れている。
 微かに、校庭で遊んでいる奴らの声が聞こえてきた。きっと、あの中に瀬田もいるのだろう。
「ここんとこ、しょっちゅう俺のトコ来て。好きな奴放っといてどうすんの」
「……いいんだよ、別に」
 瀬田の傍は、痛いから。
 胸が痛くて苦しいから。
 最近、耐えきれなくなりつつある。
「ねぇ、修兄ちゃん」
「ん?」
「俺と付き合ってよ」
 真っ直ぐ前を向いたまま、そう言った。強い風に髪がなびく。
 修兄ちゃんの視線を感じる。どんな表情をしているのか、俺にはわからない。
「ヤだね」
 灰を落として、アッサリと修兄ちゃんは答えた。
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