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キミ想イ

「斯波ぁ。浮かない顔してどうした? 腹でも痛ぇの?」
 間延びした、呑気でアホっぽい声。
「べっつにぃ? 午後の授業、ダリィなって」
 俺もいつもの調子で笑ってみせる。本心を見せないのは簡単だ。慣れてる。
「わかるわかる。ダリィダリィ」
「……でさ、お前もそう思うだろ?」
 三人の話の輪の中に俺も加わり、続きが始まった。
「何? 何の話?」
 尋ねると、三人は互いに目を合わせて含み笑いをした。
「なによー。なんなの」
「いやいや……。あのさ、二組の津島って知ってる?」
「んー……? いや……」
「なんだ。じゃぁ、今度教えてやるよ。で、ソイツがさぁ、あんまカマっぽいからホモなんじゃねーかって噂なってんの」
 胸を、えぐられた気がした。
 一瞬真顔に戻ったけど、すぐに笑顔の仮面をつけ直す。
「へ……へぇー。そうなんだ。どんな奴だろ。そんなカマっぽい奴見たことねーよ、俺」
「地味な奴だからなぁ。でも、ヒョロくて白くて。仕草もさ、妙に綺麗っていうか。オネェっぽいんだよな」
「お前、よく見てんなぁ。……あ。案外、お前ってー」
「なっ……!! 違ェよ、バカ!」
「慌てるトコが怪しいよな」
 三人のやり取りを聞きながら笑う。
「俺は関係ありません」って顔で。「普通です」って顔で。 
 こんなことは、しょっちゅうだ。
 侮蔑と嘲笑。
 そして、再確認する。思い知らされる。
 自分が周囲と違うこと。こうやって、笑われる存在であること。
 彼らにとって、この問題はフィクションだ。俺の中では、痛いくらいのリアルなのに。
 このズレは、簡単には分かり合えないと思う。
 彼らが嘲笑う限り。
 俺が仮面をつけている限り。
「……俺、もう行っかなー」
 さり気なく呟いて踵を返した。
 もうこの話は限界だ。耐えられない。
「そういえば、斯波さぁ」
 数歩歩いたところで呼ばれ、振り返る。
「お前、瀬田と何かあった?」
 ドクン、と心臓が跳ねる。
 動揺を隠すために、とっさに薄ら笑いを浮かべる。
「別にー? なんで?」
「お前ら最近別行動多いからさ。喧嘩でもしたのかなって、なんとなく。今日だってよ……」
「ンな訳ないじゃん。たまたまだよ。たまたま」
「ならいいけど。……瀬田がさ、最近なーんか機嫌悪ィんだ」
「オンナノコの日なんじゃねー? アイツー」
 跳ねまくる心臓を無理矢理押さえ込んで、おちゃらけて言う。
 三人が同時に吹き出す。
 俺も笑う。
 いつものことだ。
 慣れている。
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