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ファーストキスの行方



「クシナ」

「ミナト。こんなところで何してるの?任務終わり?」

「ん、そんなところ」

あの事故チュー事件をきっかけにミナトとは気心の知れた中になった。たまに修行を付き合ってもらったりご飯を食べにいったりなんかする。

仲良くなったらミナトは普通に良い奴だった。感情を隠すのが上手いだけで、飄々として見えるが意外とポンコツな事を考えていたりするし、案外涙もろい。それに一度決めたら融通が効かないくらい頑固なところもある。
完璧に見えるけれど、それは幻想だ。
くノ一の子達はミナトのことを王子様だとかヒーローだとか言うけど、全然そんなんじゃない。カッコイイなんて見た目だけだ。
爽やかな見た目に反してミナトは案外強かだ。コイツは自分の顔面の良さを確実に理解している。
そんなことを一度本人の前で言ったら何故だかちょっとだけ喜ばれた。なんで。貶してるのが伝わらなかったのだろうか?


「クシナ、これから空いてる?」

「うーん、夕方くらいなら」

「さっき一楽の割引券をもらったんだ。一緒に行かない?」

「行く!」

「ん、それじゃ夕方に家まで迎えにいくね」

そう言ってミナトは私の髪に触れる。ゴミでもついていたかしら。
ミナトは何か考えた後、あ、そうだ。と呟きゴソゴソしたのかと思えば何かを口に咥えて、唇にキスをした。何かがコロリと口の中に入ってきた。

「……これ」

口の中に広がるのはレモンの味。

ミナトはごそりとポケットからレモンの飴を取り出した。
なるほど。レモン飴を舐めた後だとレモンの味がするよなぁと一人納得した。

「これでやり直し、できたかな?」
 
「う、うん。?」

ミナト、ファーストキスのこと結構気にしてたのね。リアリストに見せかけて、意外とロマンチストなミナト。それかシチュエーションに凝るタイプなのか。 

「ミナトってキス魔か何か?」

「え?」

未だにファーストキスを引きずっているらしいミナトはあの後もちょくちょく不意打ちにキスをしてくる。
ミナトは「あー、」と声を漏らし頭を抱えると、そうかもね。なんて適当な返事をした。

「どうかしたの?頭痛?」

「いや頭は痛くない。けど……まぁイタイ、というか何というか、俺の勘違いで、恥ずか死……」

最後は声が小さくなってあまり聞き取れなかった。
それじゃあ夕方ね、と言うとミナトはドロンと消えた。

おお、前見た時よりもミナトの瞬身の術に磨きがかかってる!私も負けてはいられないってばね!よーし!夕方まで修行がんばるぞー!
そう思い、思い切り伸びをした。


「ちょっとクシナ!今の一体どう言うこと!?」

近くにいたミコトは大声で叫ぶとクシナを呼び止めた。








「クシナ、どういうこと!?あんたミナトくんと何があったのよ!?」

「え?何にもないけど?」

「何にもなくてキスなんてするわけないじゃないッ!詳しく!事細かに!説明しなさいッ!」

クシナにしつこく言いよるとクシナは先日ミナトくんと事故チューしてしまったことを話し出した。

「え、待って?つまりアンタ達の関係ってどう言うこと?」

「え?友達だけど?」

「はぁぁぁぁああ!?!?」

思わず叫んでしまったが私は悪くない。絶対悪くない。

「キスしちゃったんだよね!?」

「まぁ、事故だけどね」

「でもその後もしてるよね!?!?」

「ミナトはキス魔だからね」

「さっき飴を口移ししてたよね!?!?!?」

「あれは、ミナトがシチュエーションの鬼だからだよ」

シチュエーションの鬼!?なにそれ?そんなんで何度もキスするわけあるかッ!!!このウスラトンカチ!!と言いたいのをグッと我慢した。

クシナは何かを思い出しているのだろうか、吹き出して笑っていた。

ねぇ、ミナトくん絶対クシナと付き合ってると思ってるよ!!ねぇ!!
この鈍感娘はことの重大さを全く分かってない。
そしてあのミナトくんの落ち込みよう。きっと気がついたのだ。この子が自分と付き合っている自覚が全くないと言うことを。自分が一人相撲をしていたと言う事実を。
む、むごい。むごすぎるわ……。

確かに好きや、付き合ってほしい、なんて言われてはないようだが。ミナトの接し方で気がつかなかったのだろうか。
何より自分の貞操の危機に気がついてないクシナが一番恐ろしい。

これは一度教育する必要があるわね、とミコトはクシナのほっぺをフニとつねった。



Fin
2021/10/31
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