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泡沫の夢で君と



最近、木の葉の若いくノ一達の間で流行っているおまじないがある。 

〝ニゲラの花を枕元に置いて眠ると、意中の相手が夢にでくる〟

どこからともなく広がった噂は年頃の恋に悩める少女達を通じてあっという間に里中に広がり、どこの花屋を探してもニゲラの花は入荷未定の札をぶら下げることとなった。



「ごめんなさいねぇ、ニゲラの花は今売り切れてて……入荷も未定なのよ」

「やっぱりそうですよね……」

今日何度目かわからない似たような会話をして私は訪れた花屋を後にした。

現在、どこの花屋でもニゲラの花は売り切れ続出中。
おまじないの噂が流れて数日足らずの出来事である。恐るべし、恋する乙女の行動力!とでも言うべきであろうか。
ふぅとため息をつきながら空を見上げる。
まだ行っていない花屋さんあったかなぁと考えるあたり、私は自分で思っている以上に恋する乙女なのかもしれない。

今日は天気が良い。雲ひとつない真っ青な空。
まるで彼の瞳のように澄み切っている。


───ミナト、何してるかな。



最後に会ったのはいつだっただろう?
近頃少しずつではあるがランクの高い任務が割り当てられるようになり、ミナトと休みが合う日は以前にも増して少なくなった。
恋人同士ならば会いたいと言えるのだけれど生憎私たちはただのお友達の止まりの関係なのだ。告白する勇気もないし、するつもりもない。
じゃあせめて夢だけでもいいからミナトに会いたいと思うのは自然なことで。



「山中花店はまだ行ってない……けど、いのいちが店番してたらからかわれるかもしれないしなぁ……」

行くべきか、辞めるべきかと一人悩んでいると私を呼ぶ声が聞こえた。

「眉間に皺なんか寄せてどうしたの?」

「ミコト!」

「久しぶり!クシナ」

ミコトは任務明けなのか土で汚れていたが、それでもなお彼女の美しさは損なわれることはない。

「え、と……その、花屋に行こうかと……」

「花屋?……あ〜〜なるほどねぇ」

ミコトは何かを察したのかニヤニヤとした顔で私を見つめてきた。

「な、なによ!私だって花くらい買うってばね!」

「うんうん、ミナトは中忍に昇格してから忙しいものね〜夢でくらい会いたいわよね〜」

ミナトの事なんて一言も話していないのに、察しのいいミコトには私の考えている事なんて全部見通しだ。

「でもニゲラの花って今どこの店も売り切れてるんじゃない?」

「うん、そうなんだよねぇ……」

夢でくらい好きな人に会いたい。そんなささやかな願望すら叶わないなんて。人生そんなに甘くない……。
私は今日何度目かわからないため息をつく。


「そんなクシナに朗報です!ジャーン!」

ミコトは先程から手に持っていた紙袋を「これはクシナの分ね」と、ひとつ私に差し出した。
袋を受け取り中を覗いてみると、レースのような葉の中に囲まれるように青色の花が綺麗にラッピングされてある花束が入っていた。

「もしかしてこれって……」

「そのもしかして、ニゲラの花!」

「ありがとうミコトッ!!大好き!!」

「うおっと!」

私は喜びのあまり勢いよくミコトに抱きついた。
ミコトは倒れそうになりながらも私を受け止めるとギュッと抱きしめ返す。

「ミコト!ありがとう」

「ふふふ、こんなに喜んでもらえるなんて思わなかったわ」

どうやって手に入れたのかミコトに尋ねると、花屋から依頼された任務のお礼にと出荷前のニゲラの花を頂けることになったのだそうだ。
不自然なほどの土汚れだとは思っていたが危険地区で花を摘む任務だと聞いて合点が入った。

これでミナトと夢で会える。そう思うと顔が自然と緩む。

ミコトはニコニコと笑みを浮かべ、ニヤケ顔の私を微笑ましそうに眺める。

「会えるといいわね」

ミナトくんと。と、ミコトは耳元で囁いた。


「〜〜ミコト!」

「うふふ、クシナったら真っ赤になっちゃって可愛い!」

ミコトはニヤニヤしながら真っ赤になった私の頬をツンツンと突いた。
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