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金運上昇アイテム





「テーピングに絆創膏、消毒液に包帯……えーと、残りは何だったっけ?」
「冷却スプレーかな。あとスポーツドリンクの粉の在庫が少なかった思うから、これも買っていこうか」
「よし、これで終わりね!お会計済ませて早く帰るってばね!」



世間はGW、大型連休真っ只中である。が、生憎学生の俺たちにはのんびりと過ごす時間はあまりない。
特に俺とクシナが所属している弓道部はそこそこ良い成績を残している部活動のため、休日は丸一日拘束されるのだ。
それに大会が来週に控えているということもあり、この長期休暇は休日らしい休日は過ごせていない。
しかし今日は珍しく午前中のみの部活であったため、せっかくだし午後はクシナと出掛けようかと約束をしていたのだが……。
さあ、帰ろう。そう思っていた矢先、部活の備品が少なくなっている事に気づいた先輩から一年生に買い出しをするように伝言があったのだ。こんなに小さな世界部活動でも年功序列は成立する。
仕方がなく買い出しをジャンケンで決めることになった俺たち一年生。そして運が悪いことに俺が負けたという訳だ。
流石に申し訳なくてクシナには遅くなるからと先に帰宅するよう伝えたが一緒に行くってばね!と跳ね返されてしまった。
現在、学校から1番近いドラッグストアで部活の備品調達を手伝ってもらっている次第である。

頼まれていた備品を全て籠に入れると結構な量になった。今度からは二人以上で買い出しに来ることを心に誓う。
不本意だが今日はクシナがいてくれてよかった。

昼過ぎだというのに想像よりもレジコーナーは混雑しており長蛇の列ができていた。

「俺が袋に纏めるからクシナがその間に会計しててくれないかな」
「わかったってばね」

俺が荷物を纏めてる間にクシナに会計してもらった方がスムーズに終わるだろう。そう判断し部費の入っている自分の財布をクシナに渡した。








無事買い物を済ませることができた俺たちは学校に着くと備品を片付けるため弓道場へと向かった。

「ん、救急箱の補給もできたし、あとは残りの部費とレシートを自来也先生に返して終わりかな」
「やった!ねぇミナト、せっかくだしこの後一楽に行こうよ」

弓道場の時計を見ると針はもうすぐ14時を刺そうとしていた。
いい加減お腹も空くというものだ。

「そうだね。一楽に行こうか」
「塩ラーメンが食べたいってばね!」

そういってクシナは目をキラキラさせながら元気よく答える。
クシナは一楽の塩ラーメンが大好物だ。今日のお礼にチャーシュー大盛りを頼んであげたらきっと喜ぶだろう。
そうと決まればさっさと自来也先生に部費を渡して帰ろう。まだ職員室にいるだろうし。
確か財布はクシナに預けたままだ。

「クシナ、俺の財布返してもらっていいかな」
「はーい」

そう言ってクシナは自分のバックから俺の財布を取り出す。
財布を手に取ったクシナは何かを思い出したのかハッと顔を上げて俺を見た。

「そういえば会計の時に気になったんだけど……」
「ん?」
「これ、なんだってばね?」

クシナは俺の財布の小銭入れから四角く薄っぺらいモノを取り出すと謎の物体の正体について俺に問うた。

「ん?どれど、れ……」

クシナが手に持っているモノに目をやると、俺は雷にでも撃たれたような衝撃に見舞われ、これでもかと目を大きく見開いた。



目の前には不思議そうな顔で避妊具コンドームを握っているクシナがいた。



誰かこの状況を説明できる人がいたら俺に教えてほしい。



どうしてクシナは避妊具を持っている?
そして何故俺の財布に避妊具が入っているんだ!?
誰もいない2人っきりの弓道場、目の前には愛しの彼女が小首を傾げて避妊具を握っているシチュエーションって破壊力ありすぎない!?!??
ッてそんな事言ってる場合じゃないッ!!
ッ冷静になれ!ミナト、先ずは状況を確認するんだ!

俺はクシナが持っていた避妊具に目をやる。
黄色を主としたソレは紫の蝶々が所々に飛んでいる柄であった。

なぜだろう、パッケージに凄く既視感を感じる……。
ッそうだ、思い出したッ!!

あれは二日前の事。その日は5月にしては異常なほどに暑い日だった。
いつものように部活を終えた俺たちは一番近いシカクの家に涼みに行くことにした。そこで誰かが水風船と水鉄砲を持ってきて水遊びをしようと提案して来たのだ。
その時だ。誰かがあのパッケージの避妊具コンドームを持ち込んだ。
俺達は避妊具コンドームがどれくらいの水に耐えられるのか?と素朴な疑問が湧いた。

【議題:避妊具コンドームはどれ程の強度があるのか?】
俺達はそれを検証するべく避妊具コンドームを水で膨らませ、データを取るため様々な負荷をかけた実験をした。俺達はその結果をまとめ……なーんてことはせず、普通に避妊具コンドームを水で膨らませて投げ合って遊んだ。
言わずもがなすごく楽しかった。
男はいくつになっても馬鹿な生き物なのだ。

話を戻そう。
きっとその時だ。悪戯でシカクかいのいち辺りが俺の財布に避妊具を隠したのだろう。ニヤニヤしながら事に及ぶ二人が安易に想像できる。
運が悪いことに俺は二日間財布を使う事がなく、忍ばせた避妊具に気づく事ができなかった。
そして最後の砦である預かった部費もお札だったため小銭入れを開くことは無かった。
不運なことにクシナがソレ避妊具の第一発見者になってしまったのだ。



「ミナト?聞いてる?」
「ん?ああ…聞いてるよ」
「これよ、これ!」

そう言ってクシナは見やすいようにズイッと例のソレ避妊具を俺の顔に近づける。
近い近い。

「あー、えーっと…それはね」



避妊具コンドームだよ」なんて口が裂けても言えるわけ無いッッ!!


俺はクシナにどう返答しようかと頭を抱えた。

俺達は付き合っているけれど、肉体関係がない…キス止まりの、いわゆる清い交際中のカップルだ。
何よりクシナはそっち方面に大変疎い純粋無垢な少女であった。
そんなクシナにもし避妊具だと伝えてしまうとクシナは焦るのではないだろうか?俺がクシナを求めているのだと。
俺だってもちろんそういう事に興味がないわけではない。むしろ逆だ。だけど……。
それで2人の関係にヒビが入ってしまっては元も子もない。
焦って空回りするクシナの事なんて考えなくてもわかる。
クシナのペースに合わせてゆっくり進んで行けたらいい。クシナの気持ちを大事にしたい。


どうする…?何と答えたら正解だ……?
俺は覚悟を決めて口を開く。


「き、金運上昇のアイテムなんだ!」
「金運?」
「そ、そう!金運のアイテム。聞いたことない?これを財布に入れておくとお金が貯まるって言われてるんだ!」
「へー!そうなんだ!」


知らなかったってばね!とクシナはキラキラとした眼差しを俺と避妊具に向ける。
クシナの純粋な眼差しが痛い。
嘘をついたことに少しだけ罪悪感を感じつつも何とか誤魔化せた事にホッと一息つく。


「中に何か入ってるのかしら?開けて見てもいい?」
「そっ、それはダメッ!!」
「何で?」
「何でッ!?」

何でだって…!?


「……あ、開けたら金運の効果が無くなるんだ。だから開けちゃ駄目なんだ」
「へー!凄いってばね!!」

俺はハハハと乾いた笑いでやり過ごす。


「ミナト!私も欲しいってばね!」


そうだよね!絶対そう言うよね!!クシナが何を次に言うかなんてお見通しさッ!!!


「ん、でもこれ人気で、どこに行っても売り切れててなかなか手に入らないんだ。俺もシカクといのいちから貰ったから……」
「そうなんだ…まぁ確かに金運のアイテムならみんな欲しがるよね」


嘘です。そのへんのコンビニで簡単に手に入ります。あ、シカクといのいちから貰った事だけは間違ってないよ。

クシナは少し残念そうにしていたがどうやら納得したらしい。

「さぁ、そろそろ帰ろう。お腹も減ったしね」
「そうね!早くラーメン食べに行きましょう!」


俺はクシナから財布と避妊具を受け取る。
任務は完了だ。ホッと胸を撫で下ろす。
まだまだコレを使うには先は長いな、なんて思いながら俺は避妊具をバックの奥底にしまった。




Fin
2021/05/16
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