ワイルドストロベリー
「この度は本当にありがとうございました。おかげで収穫した作物を無事に市場まで売りに行けます。ほんの少しですがこれを受け取ってください」
老婆とその息子であろう男性はミナトに深々と頭を下げると、大量の野菜と米俵をミナトに持ち帰るように言った。
「そんな、僕はただここを通りかかっただけですから」
「いいえ。貴方のおかげで大切に育てた作物を横取りされずにすみました」
「あんちゃんのおかげで俺たちはこうして怪我もなく商品を守れたんだ。どうか遠慮せず受け取ってくれや」
「お心遣いありがとうございます。ですが生憎先を急いでますので。お気持ちだけ頂戴いたします」
「……そうですか。それは残念です」
せめて家で夕飯でも御馳走できたらねぇ、と会話を続ける二人にミナトはやんわり断りを入れる。
30分前。ミナトは単独の里外任務が無事に終わり里に帰還している最中であった。
ここらで少し休憩しようかと近くの木陰へ腰を下ろそうとした時、突然悲鳴が聞こえた。急いで声の聞こえた方へ様子を確認しにいくと、先程の老婆と男性の二人が賊に襲われている最中であった。二人は収穫した作物を売りに行く途中なのか荷車にたくさんの荷物を乗せていた。
ミナトはサッ分身をすると数人の賊の背後から近づき、首元に軽く手刀で刺激を与え気絶させる。忍びのミナトにとって賊を気絶させることなど朝飯前であった。
そうして賊から作物を守り、二人を助けたミナトは大変感謝された。お礼にと米俵を渡されそうになった時は流石に慌てた。
「それでは先を急ぎますので」
「ちょっとお待ちを、せめてこれを受け取ってください」
そういうとお婆さんはゴソゴソと懐から四角く折り畳まれた和紙を取り出し、ミナトの手にそっと握らせた。
「……これは?」
「うちで育てた野苺の種よ」
「野苺の種」
「ワイルドストロベリーって言ってね、うちの村では幸運を招く種と言われているの。この種を枯らすことなく育てるときっと良いことが貴方に舞い込んでくるわ」
うちで育ててるから保証つきよ、と老婆はお茶目に告げる。
高価な作物や大荷物の手土産では受け取って貰えないと踏んだ老婆は、ミナトが比較的受け取りやすいモノとして、持っていた種を渡してくれたのだろう。
ミナトは老婆の好意を汲んで、ありがとうございますと素直に受け取った。
「ところで貴方には好いた相手はいる?」
「えッ!?」
老婆の唐突な発言にミナトは声を発した。
いるのね、とつぶやくと老婆は優しい笑みを浮かべる。
「貴方のこれからに幸多からんことを」
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