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『A』

D
「確かに『巣があるかも』とは言ったが、どこにあるかは全く分からないんだよね……。」
「全くってワケでもないぜ。」
 ニールはこの町の地図を広げて、ペンで丸を書く。
「ここらへんでストレンがよく出没している。この周辺に巣がありそうだな。それっぽいのはこの近くの森か。」
「なるほど。では今日はそこを探すか。俺も協力する。」
「ありがとなゼノン。よし、じゃあ、皆で探すか!」
 ニールは立ち上がる。部屋を出ようとして、あっと言い振り返る。
「アルバは留守番な」
「えっ?」
 アルバはぽかんとしている。
「そりゃあお前、危険だからに決まってるだろ。ストレンは凄く狂暴なんだ。」
「わ、分かった。……いってらっしゃい。」
 アルバはぎこちない笑みを浮かべた。
 
Zeno
 ここは町外れの森の中。俺達は3人でストレンを探していた。
「ゼノン、騎士団の皆は元気か?新しい騎士団長は?」
 ニールが訊ねる。元騎士団長として、気になるのは当然か。
「新しい団長が厄介なお方でな……。ドーバッツァ家の三男が団長になったのだが、自分が貴族だからと威張りちらしているのだ。」
「あー、やっぱそうだよなぁ」
 ニールは苦笑する。
「そういえば。アルバ……だったか。あの女性は何者だ?」
「オレもよく分かんないんだよ。この前、紫の森の入り口で倒れてたのをディーが見つけてさ。記憶がないらしいんだけど……。なあ、ディー。」
「うん。ずっと痛い痛いって言っててさ。傷だらけで、びしょ濡れで……。」
「紫の森……『毒の霧』か。」
 『紫の森』と呼ばれる森がこの街の東にある。紫色の植物が特徴的な森で、その奥では『毒の霧』と呼ばれる霧が立ち込めている。この霧を吸った者は気が狂うと言われている。彼女が記憶をなくしたのもこの霧のせいではないだろうか。
「おいゼノン、さっそく出てきたぞ」
 ニールが指さした先には、焦げたように黒く固そうな毛の犬……ストレンが4匹ほどいた。こんなに多いストレンを見るのは初めてだ……などと感心している場合ではない。俺達は武器を構えた。
「1匹は殺さず残しておけ。」
「了解!」

Alba
 とりあえず出来る事をしようと家の中を掃除したり物置にあった剣や盾などを手入れしてみるが、どうにも気分が晴れない。
『そりゃあお前、危険だからに決まってるだろ。』
 ニールは私の事を考えてくれていたんだ。分かっているのに、お前は役立たずだと言われたんじゃないかと不安になる。
 ニール達には恩がある。倒れていたのを助けてもらって、面倒も見てもらって……。なのに、私はその恩を返せていない。
「……うぅ」
 少し休みたくて、剣を机に置き椅子にもたれかかる。背中の傷はもう治ったはずなのに、痛みはまだ消えない。背中だけじゃない。腕も、足も、首もお腹も。体のあちこちが裂けたように痛いのだ。ニール達の前では平気なふりをしているけれど、それももう限界かもしれない。もしこの事を言ったらどうなるだろうか。心配してくれるかもしれないし、迷惑がられるかもしれない。……これ以上迷惑はかけたくないな。
「……?」
 外が騒がしい。何か起こったのだろうか。私は手入れしていた剣を握り、家を出た。
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