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『A』

Alba
 次の朝。背中の包帯を外し、この部屋にあった姿見で傷を見る。怪我をしてから2日しか経っていないのに、傷は完全にふさがり、黒い痕を残すだけだった。一応、新しい包帯をきつく巻く。
「……どっちにしようか」
 緑のワンピースと白いシャツ。少し迷ったが、動きやすいシャツを着た。襟が少し広かったので、髪留めとしていくつか買ってもらったリボンを巻いた。
 ズボンを履いて、髪を三つ編みにする。普通に髪を束ねるよりもなんだかしっくりくるのだ。
「……はは」
 姿見に映る自分を見て、思わず笑ってしまう。……まるで男だな。
 時間がかかってしまった。早く朝食を作らないと。
 
「アルバ、おはよう。」
 朝食が出来上がった頃、ディーとニールが起きてきた。
「お、よく似合ってるじゃないか。オレでもちょっと嫉妬するレベルだな。」
「かっこいいね!」
 ありがとうと返事をして、皿をテーブルに置いた。
 
 ニールとディーは楽しそうに喋っている。……本当に仲がいいんだな。
「ごちそうさま」
 自分の食器を重ねる。
「……?アルバ、もういいの?」
「ああ。……いつから、仕事を再開するんだ?」
 ニールは「許しが出たら……だな」と笑う。「許し」という言葉が気になったが、とりあえず「そうか」と笑っておいた。
 
 食器を洗っていたら、ノックの音が聞こえた。ニールが応対しに行ったようだ。お茶でも出したほうがいいだろうか。私は昨日買った茶葉でお茶を淹れた。
 
Neal
 玄関のドアからノックと男の声が聞こえる。
「ニールとディーはいるか?」
 ドアを開けると、甲冑を身につけた男がいた。男は兜と頭巾を取る。……灰色の髪が露になった。
 
 ここは応接室(と俺は勝手に呼んでいる)。客の話はいつもここで聞いている。
「朝早くからすまないな。」
 コイツはゼノン。俺の同僚で、ディーの次に仲が良い友人だ。
「いいっていいって。ま、とにかく座れよ。」
 ゼノンは俺とディーが座ってからソファに座る。テーブルを隔てて、俺は彼を見る。
「それで?何か用があって来たんだろ?」
「ああ。この前お前達が報告してくれた事について話があってな。」
 この前報告した事……何かあったっけか。
「最近、ストレンの襲撃が多くなったことだよね?」
 ディーの言葉にゼノンは頷く。……相変わらずの仏頂面だ。
 ストレン。数ヶ月前、突如現れた正体不明の化け物。獣のような姿だったり植物の姿だったり、その種類は様々だ。今でも、ストレンについて分かっていることは少ない。ただ、奴らは人間や他の動物を襲う狂暴な化け物だということはほとんどの人が知っている。
「確か僕たち、ストレンの巣が近くにあるかもしれないって言ったんだよね?」
「ああそうだ。悪いが、その巣の場所を突き止めてくれないか。」
 ストレンは謎の生物だ。もし本当に巣があるならば、その謎を解明する手がかりになるだろう。よしわかった、と言おうとした時、ノックの音がした。
 
Zeno
 ノックの音がする。
「ニール。入っていいか?」
 ニールが「いいぞ」と言うとドアが開き、黒髪の青年が入ってきた。……いや、男のような服を着ているだけで、声や身体つきは女性のものだ。その女性はポットとカップが乗ったトレイを持っている。
「お茶を持ってきたのだが……」
「ああ、ありがとな。」
 彼女は人数分のカップにお茶を注ぐ。……お茶請けは小さく切ったパンに砂糖をかけたものだ。
「……。」
 三つ編みにした、黒く艶のある髪。翡翠を思わせるような緑色の瞳。華奢で小柄ですぐ折れてしまいそうな身体は、緑の模様が入った白いシャツによく似合っている。
「ああ、こいつはアルバ。一昨日うちに来たんだ。アルバ、こいつはゼノン。オレの友人なんだ。ちょっと嫌味で頑固なところもあるけど良い奴だぜ。」
「そうか、ニールの友人か。よろしく、ゼノン。」
 そう言って女性……アルバは薄い唇をほころばせて、俺に微笑みかける。どこか妖しさを感じさせるような笑みだ。
「……」
 気がつくと、3人が俺を不思議そうな見ていた。ぼうっとしていたようだ。
「なんだ、惚れたか?」
「……」
 はっきりと否定はできない。それくらい彼女は美しい。だが、それ以上に……
「アルバ……だったな。よろしく」
 この名前、どこかで聞いたことがある気がするのだが……。
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