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『A』

D
 いつものように起きて、下に降りる。今日はなんだか美味しそうな匂いがするな。そう思ってドアを開けると、アルバがいた。
「ディー、おはよう」
「アルバ!?怪我は大丈夫なの!?」
「だいぶ治った。心配するな。」
 アルバは緑色の目を細めて笑う。長く、うねった黒髪が揺れる。
「アルバ、ご飯作れるの?」
「一応な。」
「ほんと!?」
 僕もニールも料理は苦手だ。ゆうべはニールがご飯を作ってくれたのだけど、とてもじゃないけど美味しいとは言えなかった。いつものことだけど。
「おはよう……」
 ニールが目を擦りながら部屋に入ってくる。
「さっき旨い料理を食う夢を見たんだ。その時の匂いが今も残って……うう……」
「ニール、これは多分夢じゃないよ」
 テーブルに視線を向けると、そこにはほかほかと湯気を立てているコーンスープと、こんがり焼けたベーコン、綺麗な形の目玉焼きがあった。
「おおお、黒焦げじゃねえ!ぐちゃぐちゃでもないぞ、これ!!」
 こんなに美味しそうなものを見たの、久し振りだ。
「すまない、フォークとかは自分で出してくれ。場所が分からなかったんだ。」
 アルバはパンの乗った皿を並べる。 
「お、おう!それくらいだったら……」
 フォークなどの食器を持ってきて、並べる。

Alba
 ニールもディーも、朝食を美味しそうに頬張っている。
「……ニール、今日は……」
「……」
 駄目だ。食べるのに夢中で聞いていない。
「……」
 私も朝食を食べながら、自分のことについて考える。
 私はどこから何のために来たのか。私はどんな人間だったのか。夕べも頑張って思い出そうとしてみたのだが、やはり思い出せない。料理のレシピや読んだ本の内容の一部は覚えているみたいだが……。肝心なものが思い出せないのは辛いな。
「アルバ?」
「……?」
 気づけば、ディーがこちらを見ていた。
「どうした?」
「アルバ、無理に思い出さなくてもいいからな。そりゃあ思い出せるならそれでいいが……」
「ああ、そうだな。」
 テーブルを見ると、だいたい料理は食べ尽くされていた。
「ニール、今日はどうするんだ?」
 ニールは腕を組んで考え込む。
「いつも通り、ここでじっとしてる……と言いたいところだが、アルバが来たし、生活に必要なものも色々揃えないとな。」
「買い物か?……ええと、昨日も言ったと思うが私は無一文だ。まだ何も買えな……」
「あー、そこは心配すんな。金はオレ達が出す。うまい飯食わせてもらったお礼だ。」
 な?とニールはディーに問いかける。もちろんだよ!とディーは頷く。
「そ、そこまで図々しい女じゃないぞ、私は。むしろお礼をするべきなのはこっちだろうが。」
 怪我の手当てをしてもらい、食料や服も分けてもらったんだ。これ以上何かしてもらうのは申し訳ない気がする。
「そんなことないよ!僕達、アルバが仲間になってくれて嬉しいんだ!ね、行こう?」
 そこまで言われたら、断るわけにはいかない。
「……ああ、分かった。……ありがとう。」
 できるだけ安いのを選ぼう。
「よし!そうと決まればさっそく出かける準備だ!」
 ニールは部屋を出る。私達も彼に続いた。
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