『A』
Neal
「ただいま……あれ?ゼノン?」
家に帰ると、ゼノンが玄関で立っていた。
「ニール、話がある」
そう言って彼はオレだけを家の裏に連れ出した。
「……は?人型のストレン?あいつが?」
「あくまで噂だ」
家の裏でゼノンから聞かされたのは、「アルバが人型のストレンなのではないか」という噂だった。
「はぁ、なるほど。それで皆にジロジロ見られてたワケか。」
「……」
ゼノンは黙っている。兜の中ではいつも以上のしかめっ面をしているのが簡単に想像できた。
「何だ?珍しく人の心配か?」
茶化してみるが、彼の気持ちはよく分かる。
「……気丈に振る舞ってはいるが、アイツも不安を感じているだろう。変わったところはないかよく見てやれ。」
「ああ、分かってる。ゼノンもちょくちょく様子見に来てやってくれよ。」
彼はゆっくりと頷いた。
ゼノンに別れを告げ、家に戻る。キッチンにはアルバがいた。鍋の前に立ち、何かを煮込んでいるようだ。
「よっ、アル……」
「……」
冷たく鋭い目だった。窮地に陥った軍人のような、焦りと少しの絶望を抱きながらも諦めてはいけないと必死に考えを巡らせている目だ。
「ああ、ニール」
アルバはオレに気付き、いつものように笑う。美しいが、よく見ると不自然な笑み。彼女は考えに考えてオレ達を欺く事に決めたのだろうか。窮地の中、独りで戦う事を決めたのだろうか。ここは戦場じゃない。彼女にとって最も安らげる場所であるべきなのだ。どうすれば良いのか迷ったが、とりあえずオレは彼女の隣に立った。
「ど、どうしたんだ?」
「ゼノンから全部聞いた。大変だったな。」
「……どう思った」
彼女は訝しげにオレを見る。
「どうも思わない。ただ変な噂だなって思っただけさ。アルバは?何か感じたか?」
「何も。」
彼女の口元が一瞬引き攣る。彼女は嘘をついている。何故だ?彼女は何かを隠そうとしているのか?
「ニール、もうそろそろご飯ができる。ディーを呼んでくれ。」
テーブルを見ると、すでに料理は並べられていた。彼女は仮面のような笑みを浮かべている。何を言ってもその笑顔を崩す事はできない。自分はただそれにつられて笑うしかできなかった。
結局、その日は彼女に何を尋ねてもはぐらかされてばかりだった。
Alba
次の朝。私達はいつものように朝食を摂っていた。いつも通りではないのは、ニールの様子。黙ったまま時々私をチラチラと見ている。目が合う度に微笑んでみるが、ニールは気まずそうにはにかむだけだった。一方ディーはいつにも増してよく食べている。
「よく食べるな、どうしたんだ?」
ディーに問うと、パンくずのついた頬をほころばせとびっきりの笑顔を見せた。
「早く起きてニールに弓を教えてもらってるんだ!それでお腹ペコペコになっちゃって。」
「そうか。いっぱい食べてくれよ。」
「うん!」
ディーはあの噂を気にしていないのか、それとも聞いていないだけなのだろうか?どちらにせよ笑顔でいられるのは良いことだ。ニールもそれを見て、表情が少し和らいだようだ。いつも通りのようでどこか違う時間はそのまま過ぎていった。
彼らを見送った後。私は家の掃除をしていた。今日は予定がある。昼になる前に全て終わらせるつもりだ。
「……」
物置に入る。掃除もしなければならないが、ここにあるものを拝借しようかと私はここに入った。こう言ってはなんだが、ニール達はここにあるものに関しては管理がずさんだ。何か持っていっても気づかれはしないだろう。
この前使った剣。黒いものをこぼしたような汚れが付いた鞄。出納帳として使われた形跡があるが書きかけで終わっている手帳。小さくなった鉛筆。汚れたスカーフ……ガラクタばかり置いてある。これでは管理が雑になるのも無理はない。私は必要なものだけを取っておいた。
一通り家事が終わった。どうやら時間までに終える事ができたようだ。今日はニール達は夜まで帰ってこないらしい。ということはある程度自由に動く事ができるのだ。私は荷物を手に取り、家を出た。目指すは紫の森。重い足を引きずるような気分で、私は歩きだした。
「ただいま……あれ?ゼノン?」
家に帰ると、ゼノンが玄関で立っていた。
「ニール、話がある」
そう言って彼はオレだけを家の裏に連れ出した。
「……は?人型のストレン?あいつが?」
「あくまで噂だ」
家の裏でゼノンから聞かされたのは、「アルバが人型のストレンなのではないか」という噂だった。
「はぁ、なるほど。それで皆にジロジロ見られてたワケか。」
「……」
ゼノンは黙っている。兜の中ではいつも以上のしかめっ面をしているのが簡単に想像できた。
「何だ?珍しく人の心配か?」
茶化してみるが、彼の気持ちはよく分かる。
「……気丈に振る舞ってはいるが、アイツも不安を感じているだろう。変わったところはないかよく見てやれ。」
「ああ、分かってる。ゼノンもちょくちょく様子見に来てやってくれよ。」
彼はゆっくりと頷いた。
ゼノンに別れを告げ、家に戻る。キッチンにはアルバがいた。鍋の前に立ち、何かを煮込んでいるようだ。
「よっ、アル……」
「……」
冷たく鋭い目だった。窮地に陥った軍人のような、焦りと少しの絶望を抱きながらも諦めてはいけないと必死に考えを巡らせている目だ。
「ああ、ニール」
アルバはオレに気付き、いつものように笑う。美しいが、よく見ると不自然な笑み。彼女は考えに考えてオレ達を欺く事に決めたのだろうか。窮地の中、独りで戦う事を決めたのだろうか。ここは戦場じゃない。彼女にとって最も安らげる場所であるべきなのだ。どうすれば良いのか迷ったが、とりあえずオレは彼女の隣に立った。
「ど、どうしたんだ?」
「ゼノンから全部聞いた。大変だったな。」
「……どう思った」
彼女は訝しげにオレを見る。
「どうも思わない。ただ変な噂だなって思っただけさ。アルバは?何か感じたか?」
「何も。」
彼女の口元が一瞬引き攣る。彼女は嘘をついている。何故だ?彼女は何かを隠そうとしているのか?
「ニール、もうそろそろご飯ができる。ディーを呼んでくれ。」
テーブルを見ると、すでに料理は並べられていた。彼女は仮面のような笑みを浮かべている。何を言ってもその笑顔を崩す事はできない。自分はただそれにつられて笑うしかできなかった。
結局、その日は彼女に何を尋ねてもはぐらかされてばかりだった。
Alba
次の朝。私達はいつものように朝食を摂っていた。いつも通りではないのは、ニールの様子。黙ったまま時々私をチラチラと見ている。目が合う度に微笑んでみるが、ニールは気まずそうにはにかむだけだった。一方ディーはいつにも増してよく食べている。
「よく食べるな、どうしたんだ?」
ディーに問うと、パンくずのついた頬をほころばせとびっきりの笑顔を見せた。
「早く起きてニールに弓を教えてもらってるんだ!それでお腹ペコペコになっちゃって。」
「そうか。いっぱい食べてくれよ。」
「うん!」
ディーはあの噂を気にしていないのか、それとも聞いていないだけなのだろうか?どちらにせよ笑顔でいられるのは良いことだ。ニールもそれを見て、表情が少し和らいだようだ。いつも通りのようでどこか違う時間はそのまま過ぎていった。
彼らを見送った後。私は家の掃除をしていた。今日は予定がある。昼になる前に全て終わらせるつもりだ。
「……」
物置に入る。掃除もしなければならないが、ここにあるものを拝借しようかと私はここに入った。こう言ってはなんだが、ニール達はここにあるものに関しては管理がずさんだ。何か持っていっても気づかれはしないだろう。
この前使った剣。黒いものをこぼしたような汚れが付いた鞄。出納帳として使われた形跡があるが書きかけで終わっている手帳。小さくなった鉛筆。汚れたスカーフ……ガラクタばかり置いてある。これでは管理が雑になるのも無理はない。私は必要なものだけを取っておいた。
一通り家事が終わった。どうやら時間までに終える事ができたようだ。今日はニール達は夜まで帰ってこないらしい。ということはある程度自由に動く事ができるのだ。私は荷物を手に取り、家を出た。目指すは紫の森。重い足を引きずるような気分で、私は歩きだした。
