『A』
Zeno
ドーバッツァの取り調べも終わり、俺はアルバを家に送ろうと街を歩いていた。
「疲れた」
アルバは苦笑する。そう思うのも無理は無い。質問責めにされ、何度か彼が望むような答えに誘導されかけたのだ。だが、さすがはアルバだ。都合の悪い問いはうまくはぐらかし、逆にこちらから質問するような姿も見せた。確かに相手のペースに飲まれそうな時はあったが、その時は俺が助け舟を出した。頭脳戦ならば彼女とはいいコンビになれそうだ。
「あいつ、鼻の下伸ばしてたな。」
あの時の彼がアルバをいやらしい目で見ていたのは誰が見ても明らかだった。それはもう、見ていた俺まで不快になったほどだ。
「おかげでやりやすかったよ。彼には悪いけど、そこら辺利用させてもらった。」
「……ほう」
彼女は彼の下心さえも利用した。感心するとともに、少し心配する。
「アルバ。お前、いつか痛い目を見るぞ。」
「分かってるさ。でも、これは彼らの為にも必要な行動だ。ニールとディーは私を助けてくれた。そんな彼らの為なら、この身なんて安いものだ。」
アルバは笑い声をあげる。その声は街の喧騒に溶けるように消えた。
「……」
最後に彼女はボソリと呟く。が、俺には聞き取れなかった。
「まあ、その。なんだ、そこまであいつらに尽くさなくてもいいんじゃないか。」
「……」
彼女は「でも」と言いかけたが、すぐに黙ってしまった。
「……あ!そうだ!」
話題を逸らすかのようにアルバは顔を上げる。
「ちょっと市場に寄りたいんだ。一緒に来てくれないか?」
「ああ、分かった」
市場に来ると、痛いくらいの視線を感じた。アルバを見ているのか、それとも俺を見ているのか。
「……いつ来ても慣れないな」
彼女はうんざりしたように呟く。城下町で人の出入りが激しいとはいえ、突然現れた彼女の事は街でも噂になっていた。
「悪く思わないでやってくれ。本当は良い奴らばかりなんだ。」
「分かってる。何だかんだ言ってちゃんと商品も売ってくれるしな。ただ私の事が気になるだけだ、そうだろう?」
ちょっとずつでも彼らと話せればいいのだが、と彼女は笑う。
「その声はゼノンか!あんた大丈夫なのかい!?」
そこにいた男性に話しかけられる。よくニールと行っている酒場の店主だ。
「ストレンの血を浴びて『トカゲ病』になった兵士がいるって聞いたんだが……あれってお前だろう?」
「ああ、だがもう大丈夫だ。心配かけたな。」
「……ところでゼノン、その人は誰だい?」
店主の視線の先にはアルバがいた。
「ニールんとこの居候。行き倒れになっていたのを拾ったらしい。」
「そうか。……あんた、この前デカいストレンをやっつけてくれた子だよな?」
ああ、とアルバは頷く。
「あんたが来てくれなきゃとんでもない事になってたよ。変な噂のせいでアンタに近付く人はあまりいないと思うが、本当はみんな感謝してんだ。ありがとうな。」
ありがとう、と言われてアルバは照れくさそうに頬を掻く。俺はそれよりも彼が言った「変な噂」が気になっていた。
「変な噂、とは何だ?」
うーん、と彼は唸る。
「……前からこんな噂があったんだ。『ストレンはトカゲ病にならない。紫の森に住んでいるから毒の霧を浴びても死なない。』って。あんた、ストレンの血を浴びても平気だったし、紫の森から生きて帰ってきただろ?」
「何が言いたい」
店主はしばし黙る。
「……恩人のあんたにこんな事言いたかねぇけど。あんたが人の形をしたストレンなんじゃないかって皆言ってるんだ。」
「……!」
アルバは1歩後ずさる。彼女は顔を真っ青にしていた。
ドーバッツァの取り調べも終わり、俺はアルバを家に送ろうと街を歩いていた。
「疲れた」
アルバは苦笑する。そう思うのも無理は無い。質問責めにされ、何度か彼が望むような答えに誘導されかけたのだ。だが、さすがはアルバだ。都合の悪い問いはうまくはぐらかし、逆にこちらから質問するような姿も見せた。確かに相手のペースに飲まれそうな時はあったが、その時は俺が助け舟を出した。頭脳戦ならば彼女とはいいコンビになれそうだ。
「あいつ、鼻の下伸ばしてたな。」
あの時の彼がアルバをいやらしい目で見ていたのは誰が見ても明らかだった。それはもう、見ていた俺まで不快になったほどだ。
「おかげでやりやすかったよ。彼には悪いけど、そこら辺利用させてもらった。」
「……ほう」
彼女は彼の下心さえも利用した。感心するとともに、少し心配する。
「アルバ。お前、いつか痛い目を見るぞ。」
「分かってるさ。でも、これは彼らの為にも必要な行動だ。ニールとディーは私を助けてくれた。そんな彼らの為なら、この身なんて安いものだ。」
アルバは笑い声をあげる。その声は街の喧騒に溶けるように消えた。
「……」
最後に彼女はボソリと呟く。が、俺には聞き取れなかった。
「まあ、その。なんだ、そこまであいつらに尽くさなくてもいいんじゃないか。」
「……」
彼女は「でも」と言いかけたが、すぐに黙ってしまった。
「……あ!そうだ!」
話題を逸らすかのようにアルバは顔を上げる。
「ちょっと市場に寄りたいんだ。一緒に来てくれないか?」
「ああ、分かった」
市場に来ると、痛いくらいの視線を感じた。アルバを見ているのか、それとも俺を見ているのか。
「……いつ来ても慣れないな」
彼女はうんざりしたように呟く。城下町で人の出入りが激しいとはいえ、突然現れた彼女の事は街でも噂になっていた。
「悪く思わないでやってくれ。本当は良い奴らばかりなんだ。」
「分かってる。何だかんだ言ってちゃんと商品も売ってくれるしな。ただ私の事が気になるだけだ、そうだろう?」
ちょっとずつでも彼らと話せればいいのだが、と彼女は笑う。
「その声はゼノンか!あんた大丈夫なのかい!?」
そこにいた男性に話しかけられる。よくニールと行っている酒場の店主だ。
「ストレンの血を浴びて『トカゲ病』になった兵士がいるって聞いたんだが……あれってお前だろう?」
「ああ、だがもう大丈夫だ。心配かけたな。」
「……ところでゼノン、その人は誰だい?」
店主の視線の先にはアルバがいた。
「ニールんとこの居候。行き倒れになっていたのを拾ったらしい。」
「そうか。……あんた、この前デカいストレンをやっつけてくれた子だよな?」
ああ、とアルバは頷く。
「あんたが来てくれなきゃとんでもない事になってたよ。変な噂のせいでアンタに近付く人はあまりいないと思うが、本当はみんな感謝してんだ。ありがとうな。」
ありがとう、と言われてアルバは照れくさそうに頬を掻く。俺はそれよりも彼が言った「変な噂」が気になっていた。
「変な噂、とは何だ?」
うーん、と彼は唸る。
「……前からこんな噂があったんだ。『ストレンはトカゲ病にならない。紫の森に住んでいるから毒の霧を浴びても死なない。』って。あんた、ストレンの血を浴びても平気だったし、紫の森から生きて帰ってきただろ?」
「何が言いたい」
店主はしばし黙る。
「……恩人のあんたにこんな事言いたかねぇけど。あんたが人の形をしたストレンなんじゃないかって皆言ってるんだ。」
「……!」
アルバは1歩後ずさる。彼女は顔を真っ青にしていた。