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『A』

Neal
 茶色い髭を生やした騎士のオッサンに連れて行かれた先は、変わり果てた居住区だった。巨大なストレンがここに現れて、暴れていたそうだ。暴れていたストレンはどこへ行った、と、茶色い髭の騎士のオッサン……ドーバッツァ団長に訊ねると、そいつはもう死んでいて、研究室で解剖されているのだそうだ。
 数日後、瓦礫の撤去も怪我人の救助もほとんど終わった。これでひと段落ついた。
「ニール」
 ゼノンがやってきた。彼は居住区に現れたストレンについての調査であちこち駆け回っていたそうだ。「本当はお前たちのように救助活動をしたかったのだが」と残念そうに呟いていたのを覚えている。
「お疲れ。こっちはほとんど終わったぜ。調査はどうだ?」
「それなりに進んではいるが……。」
 なかなか思い通りにいかない、ということか。
「まあまあ、人数少ないし仕方ないって。騎士団の奴らはほとんど救助に回ってるしさ。調査任されてるの、少ししかいないんだろ?」
 ゼノンは頷く。
「救助活動はもうほとんど終わったし、何人かそっちに行けるようになると思うぜ?……それで、ただこんな話をするためにこっちに来たわけじゃないんだろ?」
「ああ。一応報告をと思ってな。」
「団長ならあっちだぜ。」
 オレはドーバッツァ団長のいる場所を指さした。ゼノンは「あんな血筋だけの男は団長とは認めん」と鼻で笑った。もう少し仲良くしてもらいたいものだ。
「俺はお前に報告をしに来たのだ、元団長。」
「分かったよ。じゃあオレが聞くよ。」
 ゼノンは紙の束をオレに渡す。そこには調査結果と思われる文章がびっしりと書かれていた。
「詳しくはこれに書かれているが、簡単に説明させてもらう。」
「おう、頼む。」
「まず、ここに出現したストレンがどこから来たのかについて。目撃者たちによると、居住区に迷い込んだトカゲが突然巨大化し、人型のストレンとなったそうだ。」
「トカゲが人型の巨大ストレンに?何だそりゃ。」
「有り得ないと思うだろうが本当の事だ。……そのストレンが居住区で暴れた理由は未だに分かっていないのだ。人間を食うのが目的ではなかったようだしな。」
「アイツらって人間や他の動物を襲いはするけれど食ったりしないよな。何でだろ?」
「そのことについてならば……話は変わるが、この前のストレンの巣の話を聞いてもらいたい。」
 数日前、洞窟で見つけたストレンの巣か。
「昨日、手の空いた騎士が1人、そこの調査に行ったのだ。あそこにはストレンが何匹もいたが、奴らは互いの肉を喰らっていたそうだ。騎士が来た頃にはストレンの数は2、3匹ほどに減っていたらしい。」
「えーっと、つまり共食いをしていたってことか?」
「ああ。近くの森に餌となるものが豊富にあるにも関わらず、だ。どうやら、ストレンの大好物は同じストレンの肉のようだな。奴らにとっては人間や動物の肉は不味いのだろう。」
 これで奴らが人間らを襲うが食べない理由が分かった。……まだ話すことがあるようだ。オレはゼノンに続きを促した。
「だが、目撃者の何人かから奇妙な事を聞いてな。その巨大ストレンを倒した者がいたそうだが、その者の腕にストレンが噛みついたらしいのだ。」
 今「人間を襲うが食べない」と聞いたばかりなのに……確かに奇妙な話だ。
「ストレンを倒したって奴の特徴は?」
「三つ編みにした黒い髪。緑の目。美しいが、女性なのか男性なのかよく分からない人、だそうだ。」
「三つ編み……緑の目……」
 思い浮かべたのは、アルバの顔だった。三つ編みにした黒髪に、緑色の目。女性だが男物の服を着ている……確かに、目撃情報と一致している。
「アルバか」
「俺もそう思って何度か彼女を訪ねたが、うまくはぐらかされてしまってな。腕も見せてもらったのだが、ストレンと戦った時に負ったはずの噛み傷もなかった。」
 だったら、あいつは違うということか?
「うーん?よく分からねぇな。」
「ニール、救助活動はひと段落ついたのだろう?だったら家に帰って、これからアルバの監視をしてほしい。」
「ああ、分かった。」
「頼んだぞ。」
 ゼノンは踵を返し、歩いていく。引き続き調査を進めるのだろう。オレは紙の束を持って、団長のもとへと歩いた。
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