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『A』

 気がつくと、私は倒れていた。
「ねえ!キミ!大丈夫!?」
 目を開けると、黄色が見えた。金髪に黄色の目の少年が、私の目の前にいた。
「あっ!起きた!」
 腹が痛い。背中も。大きな傷ができているのだろう。全身にも、それほど大きくはないがたくさん傷があるようだ。身体が濡れているのか、その傷が水に沁みてズキンズキンと痛む。
「   」
 痛い。痛くて話を聞くどころじゃない。それでも、何か言わなければ。
「……ぃた……い……」
 声を絞り出す。ああ、情けない。真っ先に出た言葉は「痛い」か。……痛い。苦しい。寒い。目の前にいるであろう少年も、よく見えない。
 ……そして、ついに目の前が真っ暗になった。

「……」
 私は、ふかふかのベッドの上にいた。起き上がり、辺りを見回……
「……っ!!」
 背中に激痛が走る。そうだ、私、怪我をして……。背中を触ると、包帯が巻かれていた。包帯は、真っ赤に濡れていた。布団も赤くなっている。傷が開いたのだろうか。
「……」
 箱を持った金髪の少年が部屋に入ってきた。多分、先程の少年だろう。彼は私を見ると、目を見開いた。
「だ、だだだ大丈夫!?」
「ああ大丈夫だ。心配するな。」
 ニコリと笑うと、「大丈夫じゃない!」と私の所へ駆け寄ってきた。
「すまない。布団が汚れてしまったな。」
「そうじゃなくて!傷が開いてるよ!?……」
 彼は顔を真っ赤にして、目を逸らす。何故かと首を傾けたが、自分の身体を見てすぐに分かった。私は服を着ていなかった。身に付けているものと言えば、背中の包帯ぐらいだ。……ついでに言えば、私は女だ。それに気付いて、私はすぐに布団で身体を隠した。
「えっと……えぇっと……そうだ、包帯替えなきゃ……血も止めて……」
 彼は、持っていた箱から包帯と小さな容器を取り出す。
「えっと……包帯、外してもいい?」
「自分でやる」
 背中の包帯を解く。多分、グロテスクな傷ができているのだろう。
「……」
 彼は真っ青な顔でじっと傷を見つめている。容器を持つ手が震えている。
「それを傷に塗ればいいのか?」
「う、うん……」
「……貸せ。」
 容器を受け取り、開ける。軟膏のような中身を掬い上げ、背中の傷に塗る。血が固まっていくのが分かる。そして包帯を受け取り、巻いていく。
「包帯巻くの慣れてるんだね。」
「まあ、そうかもしれんな。背中以外にも傷があるみたいだし、怪我をするのも慣れていたのではないかな。」
「そうかもしれんな、ではないかな、って……自分のことでしょ?」
 少年は首を傾ける。そう言われればそうだ。自分のことだし、それくらい覚えていて当たり前だ。……覚えていて当たり前?
「……?」
 私は、どうやってここまで来た?この怪我はどうして出来た?……私は誰だ?
「……はははっ、どうやら私は頭もぶつけてしまったようだな。」
「ど、どういうこと?」
「ふふ、私は記憶をなくしてしまったようだ。」
 何故か分からんがとても可笑しくて、笑いを堪えられなかった。
「笑いごとじゃないでしょ!そんな、記憶がないなんて……じゃあ、じゃあ、自分の名前も分からないの!?」
 名前、名前……私の名前は……。
「それは忘れていないようだな。まあ、自分に最も近い情報だからな。当たり前と言えば当たり前だろう。」
 少年に向かって手を出し、笑う。
「多分、私はアルバだ。アルバ……苗字は思い出せないが、まあいい。よろしくな。」
 少年は少し躊躇しているようだったが、ついに私の手をそっと握り、はにかむ。
「僕はディータ。皆からはディーって呼ばれてるの。よろしくね!」
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