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冒険者達の記録書

Rond
 目が覚めたら自分の部屋にいた。体中が痛い。
「起きたか。一晩中眠っていたんだぞ」
 声がした方を向けば、僕にそっくりな背の高い男が立っていた。僕の双子の兄、レグだ。
「……レグ」
 レグはグラスに水を注いで僕に渡す。
「ほら、水。喉渇いたろ?」
 差し出されたグラスを受け取り、飲む。痛いぐらいに渇ききった喉が潤っていく。
「ありがとう」
 ああと頷き、彼はぎこちなく笑う。笑顔に慣れていない彼らしい笑みだ。
「怪我の具合は?」
「だいぶ良くなったよ。……ごめん、心配かけて。情けないよね。僕、ギルガ家の当主なのにさ。こんな問題も1人で解決できないなんて。」
 レグは、「気にするな」とかなり強めに僕の頭を撫でた。
「ちょっと、髪の毛がぐしゃぐしゃになるじゃないか。」
 不器用だけど優しい兄。それが彼なのだ。
「……それで、何があったんだ?」
 レグに問われ、どう言っていいのかしばし悩んだ後、僕は口を開いた。
「信じられないとは思うけど、今から話すのは本当の事だからね。君がいない間、ローディンがここに使用人として来たんだ。
 あいつ、夢とか幻とか…そういうのを操る事が出来て…。簡単に言うと、ずっと悪夢を見せられ続けていたんだ。起こす時も体を思いっきり蹴られて…。」
 トイフェル族。別名『悪魔族』。魔法という不思議な力を使える種族だ。
それを聞いたレグは、難しい顔をして考え込んでいる。やっぱり、信じてもらえないかな。
「…そうか。やけに痣が酷いと思ったら、そういう事だったのか…。」
…あ、意外とあっさり信じてくれた。
「骨とか折れなくて良かったな。…全く…あいつといい、お前といい…何故俺の近くに全身ボロボロな怪我人が2人もいるんだ…。」
僕の他にも、いるのか?
「…あいつって?」
「…テノールっていう奴で、お前くらい…いや、お前以上にボロボロだったんだ。おまけにすぐ倒れるぐらい体力を消耗していてな…。それなのに、屋敷に行く俺の事を心配していて。…ここにローディンがいた事を感じとっていたのかもな。今はミク…知り合いの家で休んでるんだが…。」
…びっくりした。何がって?レグに知り合いがいた事だよ。こいつ、どっちかっていうと一匹狼な人なのに…。……そうだ、僕が閉じ込められていた時に聞いた、男の子の声。あの子もレグの事を知ってる風だった。……それに、レグがこんな風に長く誰かの事を話すなんて…。
あれ、テノール?その名前、どこかで…。
「…あのさ、そのテノールって子…男の子?」
「いや、女だ。真っ赤な瞳で黒い髪で…肌が異常に白くて冷たいんだ。顔は人形みたいに綺麗でな。…火傷や切り傷の痕はあるが」
女の子なのか…。人形みたいな女の子、か。…と、いうことは…。
「…む?どうしたんだそんなにニヤけた顔をして…」
「へぇー…そうなのかぁ。ついにレグにも春が……」
「何を言っているか分からんが、気持ち悪いぞお前」
「酷いな!!気持ち悪くなんかないやい!」
全く、失礼な奴だ。
「それはそうとお前、眼鏡はどうするんだ?悲惨な状態になってるんだが」
そう言ってレグは、何かを取り出す。…ひしゃげて割れた、眼鏡だ。…あー…これ、ローディンに殴られて吹っ飛んだ後、ぐりぐりと踏み潰されたんだよね…

「…おいちょっとこれかけてみろよ。意外と似合うかもしれんぞ」
レグは僕に眼鏡を押し付ける。
「いやいや似合う似合わないの問題じゃなくてさ!危ないだろ!レンズ割れてるぞそれ!」
「むぅ、そうか。残念だ。……ならば、これから眼鏡無しの生活か…」
レグはすっごく残念そうに呟く。
「レグ?分かってると思うけどこれ伊達だからね?ただのオシャレだからね?」
「視力の問題ではない!眼鏡はお前のアイデンティティでもある!眼鏡が無いお前なんて…お前なんて……………………思いつかん」
「思いつかないのかよ!」
「とにかく!眼鏡はしろ!でないと俺は自分のこの無駄に長い髪を切るぞ!」
「何だって!?」
それはマズい。レグが髪を切ってしまったら…僕と同じ髪型になってしまったら…僕らの見分けがつかなくなる!
「それだけじゃない!服装も口調も全てお前に似せてやるぞ!!背丈でしか判断出来ないようにしてやる!!この標準サイズの平凡め!」
「背の事は言うなー!!」
この野郎!僕が気にしてる事を!!
「…ふぅ、疲れた」
レグは床に座る。お前から仕掛けてきたくせによく言うよ。
「なぁロンド。お前、光の樹の事は知ってるか?」
「…?」
光の樹に何かあったのだろうか?…そういえば、ローディンがそんな感じの事を言っていたような…。
「…ちょっと待って。思い出すから…。
…そうだ。ローディンが言っていたんだけど…光の樹が、闇にのまれたらしいんだ。それを仕組んだのは自分達だって言ってた。…それを元に戻すには、月の宝玉が持つ大きなパワーが必要だって事も。…逆に言えばさ、月の宝玉があれば元に戻せるかもしれないって事だよね。…だから、ローディンはあんなに『宝玉の在処を言え』って言ってたのかな。」
「…なるほど。だとしたら…部屋が荒らされていたのもローディンの仕業か」
「…だろうね」
そうだった。あいつ、宝玉を探してそこら中探し回っていたんだっけ。
「…と、いうか…何故こうなったんだ?それに、使用人はどうした?全員クビにしたのか?」
「…1ヶ月前の、事だったんだ。ローディンは、ここに執事として入ってきた。その時はまだ、他の使用人もたくさんいたんだ。…でも、ローディンが入って来てから、次々と辞めていく人が増えてね。理由を聞くと…『ここはお化けが出る』『何度も怖い夢を見る』『何者かに「出て行かないと殺す」と脅された』…って。実際に怪我をした人もいたんだ。それでもここに残った人もいた。だけど…皆、行方不明になってしまって…。
いつの間にかここは幽霊屋敷みたいな扱いになって…。…最後は、もう僕とローディンだけになってしまった。そして…睡眠薬でも盛ったのか、あの変な術を使ったのか分からないけど、僕は突然眠くなって倒れたんだ。…そして、気が付いたら…あの部屋の中。」
自分でも、声が震えているのが分かる。すごく、恐ろしかった。使用人が辞めていった時は「いつか独りになるんじゃないか」って不安になったし、ローディンに閉じ込められた時はすごくショックだった。
「…なるほどな。俺がいない間にそんな事が…。」
「また、いつ何が起きるか分からない。僕がもっとしっかりしていなくちゃ…」
そう言う僕の肩を、レグはぽんと叩く。
「あまり気を張るなよ。とりあえず今は休め。寝なさい。お前結構体弱いんだから…あまり無理してると、ぶっ倒れるぞ。」
「…。」
僕は頷き、再び横になる。まだ、体は痛いけど…なんだか、凄く楽になった気がした。
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