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冒険者達の記録書

Reg
 目が覚めた。外はまだ雨が降っているのか、起きた時間が早かったのか……とにかく暗い。だが、俺にはこれくらいがちょうど良い。洞窟で長い間暮らしてきたせいか、未だに目が慣れていないのだ。昨日だって日光で目が潰れそうだったしな……。
 手に巻いていた髪留めで髪をまとめる。もうそろそろ髪を切った方が良いだろうか。髪は持参していたハサミでちょくちょく切ってはいたが、最近は全然切っていなかった事を思い出した。
「…うーん…」
 ルギが起きたみたいだ。起き上がり、大きく伸びをしている。そして「レグ、おはよう!」と大きな声で言った。いや、叫んだ。
「ありゃ、まだ雨降ってる?あ!もしかして雷落ちるか!?」
「雨だけだろうな」
 そう言った途端、ルギは不機嫌になる。
「あーあ、楽しみにしてたのに。」
「それくらいで落ち込むなよ……ん?」
 扉を叩く音がする。開けると、ミクがいた。
「おはよう、2人とも。朝ご飯出来たから、いつでも下においでね!」
 それを聞いた途端、ルギは「朝ご飯!」と立ち上がる。
「行こうぜ、レグ!」
「ああ。」
 
「夕べはどうだった」
 俺はミクに尋ねる。夕べミクはテノールと同じ部屋で寝たのだ。あいつが逃げ出したり暴れたりしていないか、俺も心配だったのだ。彼女は難しそうな顔をした。
「大人しかったよ。やっぱり疲れてたのかな、布団の隅っこでじっとしてた。」
「そうか。あいつは今、どこにいる?」
「まだ寝てるよ。目は覚めてたんだけど、まだ怪我が酷くて動けなくって。」
「飯は食えそうか?」
 うーん、とミクは唸る。夕べは粥を食べたが、あいつはたった数口しか食べなかったなと俺は思い出した。
「お母さんがね、『レグ様と一緒に食べるのがいいんじゃないかしら』って言ってたの。レグが一緒にいてくれたらちゃんと食べてくれるんじゃないか……って。」
「そうだな。俺もそう思っていた。」
 昨日の様子を見るに、彼女は警戒心が強いようだ。夕食を共にした俺がいたほうが彼女も少しは安心するだろう。

「テノール、おはよう」
「……」
 彼女はぐったりとして、俺をじっと見るだけだった。警戒を解いたというよりは、抵抗する元気もなく諦めたという感じだ。
「飯、食えるか?」
「……ん」
 彼女はゆっくりと起き上がる。
 今日の朝食は薄めの粥とすりおろした玉ねぎのスープ。俺にとっては物足りないが、弱りきった彼女はこれくらいしか食べられない。
 昨日と同じように、俺が一口食べたのを見てから口に含む。ほどよい温かさの飯は身に沁みたことだろう。
「……」
 固形物の入っていないスープを一気飲みする。薄いコンソメの味と玉ねぎの甘みが口いっぱいに広がる。腹が満たされた気はしなかったが、やはり人の作った食事は美味い。
「もう、食べられない。……ごめんなさい。」
 テノールは下を向く。スープは完食。粥は半分くらいまで食べられた。
「昨日より食うようになったな。」
 えらいぞ、と俺はテノールの頭を撫でた。身じろぎはしたが、昨日のような敵意は感じられなかった。
「体の具合はどうだ?まだ痛むか?」
 彼女は頷く。
「今日も安静にしてろ。昨日みたいに逃げようとはするなよ。」
 彼女の肩が跳ねる。怖がらせてしまったか。
「すまない、言い方が悪かったな。無理に動こうとはするなって事だ。傷が開いたりしたら大変だからな。」
 じゃあな、と言ってもう一度頭を撫でる。食器を持って、部屋を出た。
 
 いくら美味かったとはいえさすがに粥とスープでは足りなかったので、ランとミクに食器を返すついでに朝食の残りをもらう。幸い焼き魚が1本残っていたので、それをもらった。
「テノールちゃんの具合はどう?」
「だいぶ食うようになった。ミクとランさんの美味い料理のおかげだな。」
 ミクとランは顔を合わせて笑う。
「俺も帰ってきて最初に食う物がここの料理で良かったよ。」
 俺は焼き魚にかぶりつく。ほどよい塩味と脂ののった魚に舌鼓を打つ。
「レグ、今日はどうするの?やっぱり領主様のお屋敷に戻るの?」
 俺は頷いた。
「外、雨降ってるみたいだけど……」
「それでも行ってやらないと。俺だって早くあいつの顔が見たいしな。」
 それに光の樹があんな事になってしまったのだ、ロンドの屋敷に何も影響が無いとは限らない。とにかく早く帰らなければ。
 ごちそうさまを言って席を立とうとした時、誰かに肩を叩かれた。
「へーい!」
 後ろを向くとルギがいた。
「ああルギ、どうした?」
「ちぇ、つまんないの。もうちょっと驚けよな……」
 ルギはブツブツと呟いて、俺を見る。
「なーレグ、リョーシュサマ?って奴のとこに行くんだろ?オレもついて行っていい?」
「……」
 確かにルギは俺と一緒にいるのが1番良い気がする。だが、素性も知れない奴を屋敷の中に入れて良いものか。それ以前にコイツは屋敷の中で行儀良くいられるのか。ロンドは多少の無礼を働いたとしても怒るような奴ではないが……。……悩んだ結果、彼も連れて行く事に決めた。
「分かった。」
「やった!」
 ルギは目を輝かせる。早く準備をして帰ろう。俺は最後の一口を飲み込んだ。

 ミクの家を出て、しばらく歩く。この道中で奇妙な噂を聞いた。「領主の屋敷は幽霊屋敷となっている」、「使用人はみな屋敷を去ったらしい」……などなど。何があったのだろうか。不安に思いながらも、俺達は歩いた。そして、俺達は領主の屋敷……ギルガ家の屋敷の前にいた。
「すごいな!!でっかいな!!」
「いいか、余計な事はするなよ。ちゃんと俺の後ろに……」
「分かってる分かってる!だいじょーぶだって!」
 本当に分かっているのだろうか。頭を抱えたくなったが、もう連れてきてしまった以上気にしても仕方がない。俺は、自分の身長の何倍もありそうな扉を叩いた。
「どちら様ですか?」
 聞き覚えのある声。ロンドの声だ。最後に話した時よりも少し大人びているように聞こえた。
「ロンドか?俺だ。レグだ。」
 え、と間抜けな声が響く。
「れ、レグ!?本当かい!?ああちょっと待っててね、今開けるから!」
 しばらくすると、扉が開いた。中から1人の男が出てくる。俺と同じ青い髪、青と黒の瞳。眼鏡をかけ、高そうな服を着ている…俺の、双子の弟。
「レグ、久しぶり!……あれっ?そこの子は?まぁいいや。早く入りなよ!」
「あ、ああ。」
 理由はないが、何かがおかしい。どうしてかは分からないが、ロンドの態度に違和感があるのだ。俺がいない間に変わってしまっただけなのだろうか。理由の無い違和感に内心首をかしげながら、俺達はロンドについていった。
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