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冒険者達の記録書

 一方その頃。
 
 とある塔の中。そこには2人の男と1人の女がいた。
「光の樹はどうなっていますか?」 
 うねった銀髪の男は派手な赤い服の男に問いかける。
「良好そのものだなぁ。しかもしかも、周りの動物や植物を狂暴化させるオマケ付きだぜぇ。狼やら鳥やらはギャアギャアバウバウ吠えて、枯れ木とか花とかはあちこち動き回ってんの。あんなもん初めて見たぜ。」 
「よく見ていますね。町で女性を口説いてばかりいる割には。」 
「てめぇオレを馬鹿にしてんのかぁ?」 
 赤い服の男は椅子にどかっと音を立てながら座り、赤毛の混じった黒髪をわざとらしく掻き上げる。 
「あれはなぁ。口説いてんじゃなくて調査してんだよ。」 
「よく言いますわね。この前フローで黒髪の綺麗な女性を捕まえて『ちょっとお茶飲みに行かないかぁ?』なんて言ってたのはどこのどなたかしら?」 
 紫色のドレスを着た金髪の女性はくすくすと笑う。
「おやメリーサ、それは本当ですか?」 
「ええ。だけどあっさり断られてましたわ。ふふふっ、今思い出しても笑えますわね!」
 メリーサと呼ばれた女は声をあげて笑った。
「笑うんじゃねぇよ!……そうだローディン、あの領主サマはどうしてる?」 
 赤い服の男は話題を逸らすようにローディンと呼ばれた銀髪の男に話しかける。
「ロンド様ですね?あの男もなかなか強情でして。」 
「ほどほどにしてやれよ。アンタなかなかえげつねぇからなぁ。」
 赤い男は苦笑する。
「ヘラーノ、貴方も加わります?」
「やめとくよ。そんな趣味ねぇからな。」
 赤い服の男……ヘラーノは背もたれに体を預け、呆れたように欠伸をした。
 ロンド・ギルガ。ギーバの領主。ローディンは1ヶ月ほど前からロンドの屋敷に侵入していた。そしてついに彼は屋敷を乗っ取ったのだ。今はロンドを捕らえ、尋問を行っているという。
「『月の宝玉』がどこにあるのか、早く口を割ってくれませんかねぇ。」
 彼らは「月の宝玉」を求めていた。それが彼らの目的を達成する為に必要だったのだ。ギルガ家の家宝であるそれの在処は、当主であるロンドが知っているはず。そう考えてローディンは尋問をしてきた。だがロンドは何も話さない。そうやって屋敷の中だけ探していろ、とでも言わんばかりにローディンを睨みつけるだけだった。
「あれに関しては2年前から警備が厳重になっていることは分かっていましたが、まさかああまでしても見つからないとは……。」
 2年前、ギーバに盗賊団が攻めてきた。彼らの狙いは「月の宝玉」。町に火も放たれ、被害は相当なものだったという。この事件のせいで先代の当主は死亡し、ロンドの双子の兄であるレグ・ギルガは賊を皆殺しにしたのち行方不明になった。それ以来「月の宝玉」は厳重に管理されるようになり、今やそれを見た者は誰もいないそうだ。
「そうだ、その2年前から行方不明になってた兄ちゃんだが、今日帰ってきたらしいぜ。町の奴らが噂してた。」
「ほう?生きてたんですか、あの人。」
 そういえばロンドは兄であるレグの事も何も喋らなかったな、とローディンは思い出す。レグとともに姿を見せなくなった宝玉。ある考えが彼の頭によぎった。
「なるほど、なるほど!それは見つからないわけだ!」
 やっと分かった。ローディンは高笑いをする。
「なんだローディン。何がなるほどだって?」
 ローディンは2人に背を向ける。
「やる事ができました。お先に失礼しますね。」
 彼は早足で部屋から出る。バタンと音がして、部屋に2人取り残された。
「月の宝玉の在処が分かったのかしら?」
 メリーサは口角を上げる。
「そうなんじゃねぇの?」
 ヘラーノは髪の毛をいじる。目は明後日の方向を向いている。何か考え事をしているようだ。
「どうしましたの?まだ気になる事でもあるの?」
「……オレさ、領主の兄貴が帰ってきたっていう噂を聞いたって言ったろ?そいつが変な女の子を連れてきてたっていう噂も聞いたんだ。」
「変な?」
 ああ、とヘラーノは返事をする。
「なんでもその子、前から光の樹に何かしてたみたいでよ。樹を凍らせてた、とかなんとか。」
「あら!あらあらあら!」
 メリーサの顔がパッと明るくなる。
「なんだよその顔はよぉ。メリーサ、もしかしてアンタが何かしたんじゃねぇの?光の樹をあんなにしたのもアンタだ、そこら辺の奴を洗脳でもしてけしかけるぐらい簡単だろ。」
「ふふ、そうですわね。」
 メリーサは曖昧な返事をして笑う。なんだよ、とヘラーノは顔をしかめた。
「さて、わたくしは光の樹を見に行って来ますわ。樹がどれだけ闇に染まったか…楽しみですわ」 
 メリーサは「うふふ」と笑い、席を立ち、彼女のお気に入りの黒い傘を片手に持つ。 
「見に行くっつっても…外は大雨だぜぇ?」 
「大雨だからこそ、ですわ。…それでは、ご機嫌よう」 
 そう言い残して、メリーサは部屋を出た。

 ここは、ギルガ家の屋敷の部屋の中。 
「…うぅっ、ぐ、」 
 ここには、ギルガ家当主のロンド・ギルガがいる。ロンドは悪夢を見ているのか、ひどくうなされていた。
 ガチャリと音を立てて、ローディンが入ってきた。
「ほら、起きなさい」 
「ぐ、あ」 
 ローディンはロンドの腹を蹴る。何度も、何度も。彼が起きても蹴り続ける。 
「起きましたか。…さてさてロンド様。月の宝玉の在処を話す気にはなりましたか?」
「……。」 
 ロンドはローディンから目を逸らす。どうやら、話すつもりはないらしい。 
「やはり話しませんか。 ……ああ、そうそう。知ってますか?貴方のお兄様が帰って来たそうですよ?」 
「!?」 
 ロンドは目を見開く。相当驚いているようだ。 
「不思議だと思っていたんですよ。何故月の宝玉がどこにも無いのか。金庫の中からベッドの下まで探しましたが、どこにも無いんです。警備が厳重になっていると聞いたから、見れば分かると思ったのに。ですが……そもそも、この屋敷の中には無かったんですね?」 
 彼の顔が青ざめる。 
「貴方のお兄様が、宝玉を持っているのでは?」 
「……!!」 
 ロンドは必死に「違う、違う!」と叫んでいる。この反応からして、ビンゴだ。彼の兄、レグが持っているに違いない。 
「そうと決まれば、彼を探さなければ!まだ近くにいる筈。探してここまで連れて来て、何としてでも彼から宝玉を奪い取らねば!!そう。何としてでも。…私が貴方にしたように。」 
 ローディンはにやりと笑う。ロンドの顔がさらに真っ青になった。
「…!や、やめてくれ!レグにだけは…!」 
「おやおや、そんなにお兄様が大事なのですねぇ…。明日には嫌でも彼と顔を合わせる事になるのですから、心の準備をしておいて下さいね?」 
 ロンドの腹をもう一度蹴り、部屋を出た。 
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