冒険者達の記録書
Miku
再びギーバの町に戻ってきたわたし達を迎えたのは、ひそひそ声と鋭い視線だった。みんなこっちを見てる。こっち、というよりレグが抱えている女の子を。
「レグ様!」
男の人がレグに声をかける。
「そいつを捕まえてきてくれたんですね!それで、レグ様はそいつをどうするつもりなんです?」
「ああ、こいつか。こいつは俺達が保護する事にした。」
そうレグが言った途端、周りが騒ぎ出した。
「正気ですか!?こんな得体の知れない奴を……」
「得体の知れない奴だからこそ、だ。そこら辺に放置すればまた何かやらかすかもしれないからな。俺達が保護し、監視するのが最善なのではないか?」
「は、はぁ……」
男の人は納得したのかしていないのか、はっきりしない様子で頷いた。
「用はそれだけか?悪いが、こいつの手当てをしてやらないといけないのでな。」
Reg
「なぁなぁレグ!お前さ、みんなにレグ様レグ様言われてるよな!何で?」
「さっきは領主様の兄、みたいなこと言ってたよね?領主様……青い髪の毛……レグ……あっ!もしかしてレグ・ギルガ様!?」
「ん?……ああ、そうだな。」
俺には双子の弟がいる。彼はロンド・ギルガ。フロー村とギーバを領地に持つ領主だ。俺と同じ髪の色、同じ顔をしている。優しく賢く、交渉や謀に関しては天性の才能を持つ男。対して俺は策略よりは武術に長けていたため、領地をパトロールしたり盗賊や害獣を追い払ったりとそういう事をしていた。弟よりは住民との関わりがあるのだ。
「えっ、本物!?本物だ!?どうしよう、わたしレグに、いやレグ様に……」
「そう慌てるな。別に俺が領主の兄であろうと何も変わらないだろう。」
俺は笑う。が、彼女には邪悪な笑みにしか見えなかったようだ。ルギでさえ「うわ怖っ」と顔を背けた。
「……まぁ、アレだ、さっきの奴らみたいに堅苦しくなられるのは俺もあまり好きじゃない。今まで通り接してくれ。」
そう言うと、ミクは頷いてくれた。
そういえば、ロンドはどうしているだろうか。「月の宝玉」をめぐった事件があってしばらく山奥に身を隠す事になってしまったが、一体どれほどの時間が経ってしまったのだろうか。今日は行けるか分からないが、できるだけ早く家に帰ろう。
「……ん」
腕の中の身体がぴくりと動く。少女は目を開けた。ルビーのような、赤く美しい目だ。
「!?」
彼女は身をこわばらせる。先程のように取り乱されてしまってはたまらない。
「暴れるなよ。落ちるぞ。」
一応そう言ってみるが、緊張は解けない。
「もう、そんなに睨みながら言ったら怖がっちゃうでしょ。」
ミクは溜め息を吐く。そう言われても、睨んだつもりなどないのでどうしようもできない。目つきが悪い事は自覚していたが、まさかここまで酷いとは思わなかった。
「悪い。そんなつもりはなかったんだ。……あー、ええと。お前、名前は?」
どうにかして緊張をほぐそうと、とりあえず名前を尋ねてみる。
「……じゅ……」
彼女は何かを言いかけた後、黙り込んだ。
「……」
「どうした?」
「……テノール。テノール・リーディット。」
テノールというのか。ずいぶんと男性的な名前だな。
「……私をどこに連れていくつもりなのか?」
不安そうな目で彼女は俺を見る。
「どこ、か。」
正直、彼女をどこに連れていけばいいか悩んでいた。俺の家には双子の弟がいる。久しぶりに帰ってきて、手土産が満身創痍の少女1人というのはいかがなものか。突然の事でも柔軟に対応する奴だが、そんな事をしたらさすがに慌ててしまうに違いない。せめて手当てだけでもしてから連れて行きたい。
「……」
テノールは怯えた目で俺を見ている。その表情はまるで鼠捕りにかかった鼠だ。
「やだ、やだやだやだやだ、やぁぁっ……」
突然彼女は悲鳴に近い声をあげ、顔の傷を掻きむしる。
「あっ、おい!何やってる!?」
広がる傷口。赤く染まる指先。俺は慌てて怒鳴ってしまった。彼女は目を見開き、顔に手をやったまま動かなくなった。また怖がらせてしまったか。
「……傷が悪化する。やめろ。」
できるだけ優しい声で制止する。彼女に届いたかは分からないが、その後はずっと大人しくしていた。
再びギーバの町に戻ってきたわたし達を迎えたのは、ひそひそ声と鋭い視線だった。みんなこっちを見てる。こっち、というよりレグが抱えている女の子を。
「レグ様!」
男の人がレグに声をかける。
「そいつを捕まえてきてくれたんですね!それで、レグ様はそいつをどうするつもりなんです?」
「ああ、こいつか。こいつは俺達が保護する事にした。」
そうレグが言った途端、周りが騒ぎ出した。
「正気ですか!?こんな得体の知れない奴を……」
「得体の知れない奴だからこそ、だ。そこら辺に放置すればまた何かやらかすかもしれないからな。俺達が保護し、監視するのが最善なのではないか?」
「は、はぁ……」
男の人は納得したのかしていないのか、はっきりしない様子で頷いた。
「用はそれだけか?悪いが、こいつの手当てをしてやらないといけないのでな。」
Reg
「なぁなぁレグ!お前さ、みんなにレグ様レグ様言われてるよな!何で?」
「さっきは領主様の兄、みたいなこと言ってたよね?領主様……青い髪の毛……レグ……あっ!もしかしてレグ・ギルガ様!?」
「ん?……ああ、そうだな。」
俺には双子の弟がいる。彼はロンド・ギルガ。フロー村とギーバを領地に持つ領主だ。俺と同じ髪の色、同じ顔をしている。優しく賢く、交渉や謀に関しては天性の才能を持つ男。対して俺は策略よりは武術に長けていたため、領地をパトロールしたり盗賊や害獣を追い払ったりとそういう事をしていた。弟よりは住民との関わりがあるのだ。
「えっ、本物!?本物だ!?どうしよう、わたしレグに、いやレグ様に……」
「そう慌てるな。別に俺が領主の兄であろうと何も変わらないだろう。」
俺は笑う。が、彼女には邪悪な笑みにしか見えなかったようだ。ルギでさえ「うわ怖っ」と顔を背けた。
「……まぁ、アレだ、さっきの奴らみたいに堅苦しくなられるのは俺もあまり好きじゃない。今まで通り接してくれ。」
そう言うと、ミクは頷いてくれた。
そういえば、ロンドはどうしているだろうか。「月の宝玉」をめぐった事件があってしばらく山奥に身を隠す事になってしまったが、一体どれほどの時間が経ってしまったのだろうか。今日は行けるか分からないが、できるだけ早く家に帰ろう。
「……ん」
腕の中の身体がぴくりと動く。少女は目を開けた。ルビーのような、赤く美しい目だ。
「!?」
彼女は身をこわばらせる。先程のように取り乱されてしまってはたまらない。
「暴れるなよ。落ちるぞ。」
一応そう言ってみるが、緊張は解けない。
「もう、そんなに睨みながら言ったら怖がっちゃうでしょ。」
ミクは溜め息を吐く。そう言われても、睨んだつもりなどないのでどうしようもできない。目つきが悪い事は自覚していたが、まさかここまで酷いとは思わなかった。
「悪い。そんなつもりはなかったんだ。……あー、ええと。お前、名前は?」
どうにかして緊張をほぐそうと、とりあえず名前を尋ねてみる。
「……じゅ……」
彼女は何かを言いかけた後、黙り込んだ。
「……」
「どうした?」
「……テノール。テノール・リーディット。」
テノールというのか。ずいぶんと男性的な名前だな。
「……私をどこに連れていくつもりなのか?」
不安そうな目で彼女は俺を見る。
「どこ、か。」
正直、彼女をどこに連れていけばいいか悩んでいた。俺の家には双子の弟がいる。久しぶりに帰ってきて、手土産が満身創痍の少女1人というのはいかがなものか。突然の事でも柔軟に対応する奴だが、そんな事をしたらさすがに慌ててしまうに違いない。せめて手当てだけでもしてから連れて行きたい。
「……」
テノールは怯えた目で俺を見ている。その表情はまるで鼠捕りにかかった鼠だ。
「やだ、やだやだやだやだ、やぁぁっ……」
突然彼女は悲鳴に近い声をあげ、顔の傷を掻きむしる。
「あっ、おい!何やってる!?」
広がる傷口。赤く染まる指先。俺は慌てて怒鳴ってしまった。彼女は目を見開き、顔に手をやったまま動かなくなった。また怖がらせてしまったか。
「……傷が悪化する。やめろ。」
できるだけ優しい声で制止する。彼女に届いたかは分からないが、その後はずっと大人しくしていた。