サイクロ3猫で猫の日小説
欲しいものほど手に入らないのは世の常で、僕達は何度だって挫折してきた。世界征服して全ての壁をぶち壊そうとしたのも、今となってはいい思い出だ。こんな事を言ったら、どっかの4番目がまた怒りそうだけど、それはそれ。
ただ、今は結構穏やかに過ごせていて、幸せなんだ。
考えてみれば当たり前で、僕達はただ、平和に過ごしたかっただけだった。剛くんに泣いて欲しくなかった。
それだけのことだったんだ。
だから、出来れば、荒事は避けていきたいんだけど……。
「君達、ホントよくやるね」
「るっせ。関係ねぇだろ」
「先に喧嘩を売ったのはキッドだ。拙者は悪くない」
「あァん!? オイラの昼寝の場所取りやがったのはテメーだろうが!」
「あ、こらクロ、動くな! 手元が狂う!」
「マタタビくん、必要な木材ってこれで全部? 今のうちにダンクと一緒に買ってこようか」
今日もまた、些細なことで喧嘩した2人を手当する。フジ井家は例によって瓦礫の山になっていた。
友達のところへちょっと顔を出してみたら家が倒壊してました、なんて、普通はほとんどないはずなんだけど。こんな状況に何度も遭遇するあたり、僕達も大概巻き込まれ体質だなぁと思う。剛くんやコタローくんが作った発明品が暴走することもあるけど、それは置いとこう。突っ込んだらめんどくさいから。
「しかしマタタビくんってば、生身の体でよくクロと張り合うよなぁ。アイツなりに手加減はしてるだろうけど、この調子じゃいつ死んだっておかしくないぞ?」
傷口に包帯を巻きながら、小声で話しかける。クロは剛くんと言い合ってるから、今なら聞かれないはずだ。
なにせ、彼らの喧嘩は激しすぎる。
猫の喧嘩で刃物が舞い踊ったり、鈍器が飛び交ったり。クロはマタタビくん相手に銃火器は使わないみたいだけど、それでも危険なことに変わりはない。
「何だ、急に。何が言いたいんだ」
1つしかない赤の瞳で、じろりと睨み付けられる。ぐっと息が詰まったけれど、問わずにはいられなかった。
だって、彼らはもう、穏やかな生活を手にしているんだ。
僕達が世界を敵に回してでも欲しかった安住の地を、クロとマタタビくんはもう手に入れた。ジーさんバーさんに可愛がられて、猫として安穏たる生活を送ることができる。
勿論、失ったものが多いのは分かってる。僕達だってそうだ。
僕は生身の体を、剛くんは右手を失った。クロに右目を奪われたマタタビくんに、クロの体を奪った僕達が偉そうに言えることじゃないかもしれない。
けれど、穏やかに暮らせるならその方が、
「ミー。お前、人を殺したこと、あるか?」
静かな声に遮られて、はっと我に返る。
彼の目は不気味なほど透き通っていて、まるで血のようだった。動脈から飛び出る、目が眩むほど鮮やかな赤。
「ずっと共に過ごしてきた仲間を手にかけたことは?」
話している内容は恐ろしいのに、口調はとても落ち着いていた。真顔で正面から問い掛けられて、息を呑んだ。
「そんな、の」
「ああ、悪い。別に責めている訳じゃない。そんな経験、ないに越したことはないんだからな」
ただ、キッドは、ずっとそれを抱えてるんだ。
たまに悪夢を見るほど鮮明な記憶を、今も律儀にな。
ちら、と僕から目を逸らす。視線の先には、着ぐるみを脱いで剛くんに修理を受けているクロがいた。
もういい加減長い付き合いだから、2人が言い合いをしているのも見慣れてきた。今まさに治療を受けているからか、たまに手を出しそうになってはそっと引っ込めていた。
クロは……アイツは、見た目よりもずっと貸し借りを大事にする奴だ。
それは、分かっていたつもりだったけど。
「『いっそオイラが死ねば良かった』と、寝言でぶつぶつ呟くんだ。かつて拙者たちを育ててくれたオスや、拙者を呼びながら。自分が関わったら皆が不幸になるからと、うなされながら懺悔してな。現実にいる拙者が何を言っても、夢の中のキッドには届かないんだ」
拙者は、今もここにいるのにな。
皮肉っぽく笑った顔は、今にも泣きそうに引きつっていて。
僕、何も見えていなかった。ただ喧嘩をしている2匹を見ているだけで、その奥を知ろうともしなかった。
「キッドは元々、あそこまで可愛げのない性格ではなくてな。きっと、まだ抜け出せてないんだろう。全てを失った、あの頃の記憶から」
だから、拙者や周りの奴に辛く当たる。罪悪感に苦しみながら、せめて今いる仲間は巻き込むまいと遠ざける。
だが、そんなことは、拙者が許さん。
どうしようもなかったことまで1人で背負って粋がって、その癖周りのことは放っておけない。
そんな甘ったれた弟分を放っておくなぞ、拙者には出来ん。
だから何度だって、骨の髄に染み込むまで伝えてやるのよ。
貴様がどんな事をしようと、拙者は化けてでも傍にいてやると。1人になろうとしたって無駄だ、諦めて幸せになれと、体に解らせてやるのさ。
なにせ、奴は拙者のいうことなど聞かんからな!
からからと笑うマタタビくんが眩しくて、目を細める。
ああ、とんだ思い違いだった。
マタタビくんは、クロはまだ、戦ってる最中なんだ。
心穏やかに過ごすには、他の血を流しすぎたから。生き残った彼らにとって、背負った荷物を下ろすことは至難の業で。
だから、たまにこうして自分たちのありのままをぶつけ合わないと生きていけない。
彼らが命を賭けるような喧嘩をするのも、今を穏やかに過ごすために必要なことだったんだろう。
そう思うと、さっきの僕の発言は、とてつもなく失礼だった。頭を下げようとして止められる。
「謝らなくていい。拙者の身を案じてくれたのだと、それくらいは分かるさ」
ただ、頼む。
今の話は他言無用ということにしてくれ。
奴は、気を遣われたと悟れば激昂する、面倒な性格だからな。
人差し指を立てて笑うマタタビくんに、僕も笑い返した。
僕や剛くんとは違う、2人なりの幸せの形。今もきっと探しているだろうそれは、案外近くにあるんだろう。
でも、こっちとしては正直見てて面白いから、クロがずっとそれに気付かなくてもいいな、なんて。
マタタビくんの体の心配をした上で、そんな無責任なことを考えてしまった。
END
ただ、今は結構穏やかに過ごせていて、幸せなんだ。
考えてみれば当たり前で、僕達はただ、平和に過ごしたかっただけだった。剛くんに泣いて欲しくなかった。
それだけのことだったんだ。
だから、出来れば、荒事は避けていきたいんだけど……。
「君達、ホントよくやるね」
「るっせ。関係ねぇだろ」
「先に喧嘩を売ったのはキッドだ。拙者は悪くない」
「あァん!? オイラの昼寝の場所取りやがったのはテメーだろうが!」
「あ、こらクロ、動くな! 手元が狂う!」
「マタタビくん、必要な木材ってこれで全部? 今のうちにダンクと一緒に買ってこようか」
今日もまた、些細なことで喧嘩した2人を手当する。フジ井家は例によって瓦礫の山になっていた。
友達のところへちょっと顔を出してみたら家が倒壊してました、なんて、普通はほとんどないはずなんだけど。こんな状況に何度も遭遇するあたり、僕達も大概巻き込まれ体質だなぁと思う。剛くんやコタローくんが作った発明品が暴走することもあるけど、それは置いとこう。突っ込んだらめんどくさいから。
「しかしマタタビくんってば、生身の体でよくクロと張り合うよなぁ。アイツなりに手加減はしてるだろうけど、この調子じゃいつ死んだっておかしくないぞ?」
傷口に包帯を巻きながら、小声で話しかける。クロは剛くんと言い合ってるから、今なら聞かれないはずだ。
なにせ、彼らの喧嘩は激しすぎる。
猫の喧嘩で刃物が舞い踊ったり、鈍器が飛び交ったり。クロはマタタビくん相手に銃火器は使わないみたいだけど、それでも危険なことに変わりはない。
「何だ、急に。何が言いたいんだ」
1つしかない赤の瞳で、じろりと睨み付けられる。ぐっと息が詰まったけれど、問わずにはいられなかった。
だって、彼らはもう、穏やかな生活を手にしているんだ。
僕達が世界を敵に回してでも欲しかった安住の地を、クロとマタタビくんはもう手に入れた。ジーさんバーさんに可愛がられて、猫として安穏たる生活を送ることができる。
勿論、失ったものが多いのは分かってる。僕達だってそうだ。
僕は生身の体を、剛くんは右手を失った。クロに右目を奪われたマタタビくんに、クロの体を奪った僕達が偉そうに言えることじゃないかもしれない。
けれど、穏やかに暮らせるならその方が、
「ミー。お前、人を殺したこと、あるか?」
静かな声に遮られて、はっと我に返る。
彼の目は不気味なほど透き通っていて、まるで血のようだった。動脈から飛び出る、目が眩むほど鮮やかな赤。
「ずっと共に過ごしてきた仲間を手にかけたことは?」
話している内容は恐ろしいのに、口調はとても落ち着いていた。真顔で正面から問い掛けられて、息を呑んだ。
「そんな、の」
「ああ、悪い。別に責めている訳じゃない。そんな経験、ないに越したことはないんだからな」
ただ、キッドは、ずっとそれを抱えてるんだ。
たまに悪夢を見るほど鮮明な記憶を、今も律儀にな。
ちら、と僕から目を逸らす。視線の先には、着ぐるみを脱いで剛くんに修理を受けているクロがいた。
もういい加減長い付き合いだから、2人が言い合いをしているのも見慣れてきた。今まさに治療を受けているからか、たまに手を出しそうになってはそっと引っ込めていた。
クロは……アイツは、見た目よりもずっと貸し借りを大事にする奴だ。
それは、分かっていたつもりだったけど。
「『いっそオイラが死ねば良かった』と、寝言でぶつぶつ呟くんだ。かつて拙者たちを育ててくれたオスや、拙者を呼びながら。自分が関わったら皆が不幸になるからと、うなされながら懺悔してな。現実にいる拙者が何を言っても、夢の中のキッドには届かないんだ」
拙者は、今もここにいるのにな。
皮肉っぽく笑った顔は、今にも泣きそうに引きつっていて。
僕、何も見えていなかった。ただ喧嘩をしている2匹を見ているだけで、その奥を知ろうともしなかった。
「キッドは元々、あそこまで可愛げのない性格ではなくてな。きっと、まだ抜け出せてないんだろう。全てを失った、あの頃の記憶から」
だから、拙者や周りの奴に辛く当たる。罪悪感に苦しみながら、せめて今いる仲間は巻き込むまいと遠ざける。
だが、そんなことは、拙者が許さん。
どうしようもなかったことまで1人で背負って粋がって、その癖周りのことは放っておけない。
そんな甘ったれた弟分を放っておくなぞ、拙者には出来ん。
だから何度だって、骨の髄に染み込むまで伝えてやるのよ。
貴様がどんな事をしようと、拙者は化けてでも傍にいてやると。1人になろうとしたって無駄だ、諦めて幸せになれと、体に解らせてやるのさ。
なにせ、奴は拙者のいうことなど聞かんからな!
からからと笑うマタタビくんが眩しくて、目を細める。
ああ、とんだ思い違いだった。
マタタビくんは、クロはまだ、戦ってる最中なんだ。
心穏やかに過ごすには、他の血を流しすぎたから。生き残った彼らにとって、背負った荷物を下ろすことは至難の業で。
だから、たまにこうして自分たちのありのままをぶつけ合わないと生きていけない。
彼らが命を賭けるような喧嘩をするのも、今を穏やかに過ごすために必要なことだったんだろう。
そう思うと、さっきの僕の発言は、とてつもなく失礼だった。頭を下げようとして止められる。
「謝らなくていい。拙者の身を案じてくれたのだと、それくらいは分かるさ」
ただ、頼む。
今の話は他言無用ということにしてくれ。
奴は、気を遣われたと悟れば激昂する、面倒な性格だからな。
人差し指を立てて笑うマタタビくんに、僕も笑い返した。
僕や剛くんとは違う、2人なりの幸せの形。今もきっと探しているだろうそれは、案外近くにあるんだろう。
でも、こっちとしては正直見てて面白いから、クロがずっとそれに気付かなくてもいいな、なんて。
マタタビくんの体の心配をした上で、そんな無責任なことを考えてしまった。
END
