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サイクロ3猫で猫の日小説

いつか流した涙は星になって消えていった。ボクが剛くんと流した沢山の雫は、助けられなかったいくつかの命への後悔と一緒に空の上で瞬いている。
たまに、そんなことを考えるんだ。
そう思っていれば、今まで生きてきた道のりも、少しは綺麗な思い出にできる気がして。
「星ねぇ。そんなに綺麗なもんじゃねーよ」
剛くんの絡み酒に付き合わされたクロは、ボクの感傷をバッサリ切り捨てるように返した。よっぽど機嫌が悪いらしい。マタタビ酒は口に合わなかったかな?
ちなみに事の発端の剛くんは、一通り騒いで、世界征服について泣きながら語って、そのまま寝落ちた。
たまにお酒を飲むときに誰かに絡んでいくのが剛くんのちょっと困った癖だけど、そんなところも嫌いになれない。
「星は嫌い?」
「そんな好きじゃねーな。そもそも夜はあんまし見えねぇし」
それに、あの星の中にアイツらがいるんだったら、きっとオイラを恨んでるよ。
目をすがめて夜空を眺める。
あまり見えないと言いつつも、どこか遠くを見るような視線は、過去を振り返っているようにも見えた。
「恨まれる心当たりでもあるのかよ?」
「少なくとも1匹はテメーもよぉーく知ってるだろ。オイラ、昔はまぁ、色々あったからな。こうして余計なモンもくっついてくる訳だ」
足で軽く蹴った先にいたのは、酒瓶を抱えて酔い潰れたマタタビくん。早々に出来上がって剛くんと愉快に会話(のような何か)を繰り広げた後、倒れるように眠り込んでしまった。
「昔馴染みなんだろ? もっと仲良くすればいいのに」
「コイツと? 冗談じゃねぇ」
「何で」
何もそんなに拒絶しなくたって。
ボクと剛くんみたいに、はちょっと大袈裟かもしれないけど、多分彼らも浅からぬ縁があるんだろう。そうでなきゃ、喧嘩しながらこんなに長く一緒にいないと思う。嫌だったら離れる、多分コイツはそういう奴だ。
「──マタタビの、目」
ぽつり、と呟く。
眉間に皺を寄せて、幼馴染を見下ろす。
「オイラが奪った。眼帯をつける派目になったのはオイラのせいだ。……血みたいな真っ赤な目で見られると、今でもあの頃のことを思い出すから、嫌いだ」
珍しく泣きそうな顔に見えたのは気のせいだろうか。少なくとも、今のクロは普段よりもほんの少しだけ素直になっているらしい。酔ってるのかな?
今のが本音だとすると、クロにとっての過去の思い出は血の色だってことになる。昔ドンパチしてたみたいな話を聞いたことがあるから多分それのことだろう。
それは、確かに、星として昇華するには重すぎる気がする。
それに、マタタビくんは生きてるんだから、星として扱うのはあまりに早すぎる。
ボクらも決して正しいと言われることをしてきた訳じゃないけれど、クロは過去の過ちをずっと目の前で見せ付けられてるようなものなのかな。
そうだとしたら、多分ボクが思ってる以上に辛いんだと思う。ボクにとっては剛くんの右手のようなものだ。
もう少し早かったら、間に合ったのに。
その後悔は今でも尽きることはない。
クロも、似たようなものを抱えてるのかな。マタタビくんの目のこと、ボクらが思ってるよりずっと気にしてるのかもしれない。
「んぅ、」
ボクが言葉を選んでいる最中、ふと足元から声がした。
マタタビくんが、うっすらと目を開けて視線をさ迷わせている。
「きっど……?」
呂律の回らない声で呼ぶ。焦点の合わない目を見ているクロの体が、びしりと固まった。
「きっど、ああ、さがしたぞ。こんなところにいたんだな」
体をゆっくり起こしながら、クロの腕を掴む。掴まれた当の本人は振り払おうとしなかった。できなかったのかもしれない。
「……寝惚けてんじゃねーぞ、マタタビ。オイラはどこにも行ってねーっての」
「うそら」
手でクロの顔をそっと撫でて、ふっと笑った。それはまるで、子を見守る親のようで。
「おまえ、めがわるいんらから。おれがおまえのめになってやる」
「っ、」
「だから、どこにも、いくなよ」
優しい口調。
普段いがみ合ってることも忘れそうなくらい、切ないほどの願い。
目という単語に体を軋ませたクロは、勢いよくマタタビくんの手を振り払った。
「ふざけんな! お前の目は、オイラが……!」
「ああ、おまえがもってるんだっけか。だいじにしてくれよ」
「捨てられるかよ、あんなもん」
腹の収納ボックスを指でなぞる。クロの体の中には、瓶詰めになった眼球が大事に収められている。
「よかった」
すてられなくて、よかった。
きっどがいなかったら、おれ。
それだけ言い残して、マタタビくんは再び夢の中に落ちていった。
残されたのは、苦虫を噛み潰したような顔をしたクロとボク。
「……最後のは、どういう意味だったんだろうね」
「ただの酔っ払いの言葉だ、気にすんな。どうせオイラのことはガキの頃の姿にでも見えてたんだろ」
嘘だ、とすぐに分かった。
だって彼は、マタタビくんは、どこにも行くなと言ったんだ。昔の彼はクロのことを探して旅をしていた。
クロに目を抉られて、復讐をするために。
もしも記憶が混濁してそれより前の『キッド』だと認識していたのなら、目を奪ったという話に乗れないだろうし、復讐に燃えていた頃ならあんなに穏やかな顔はしなかったと思う。
今のクロを認識して、その上で、どこにも行くなと言ったんだ。
でも、それを言うのは野暮だと思ったから。
切ない顔でかつての親友を見つめる姿は、きっとこれ以上見られたくないだろうと思ったから。
「ふぁああ……ボクも眠くなってきちゃった。おやすみ、クロ」
「……ああ」
だからボクは、わざと嘘の欠伸をして、体を横にし、剛くんの隣で寝ることにした。
諸々に気付かないふりをしたのは、何もかも不器用なあいつのための、ボクなりの嘘だった。

END
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