序章
夢主の名前
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「…その、大事な話とはなんでしょうか。」
「…」
数日前、萩原は日本に電話をしていた。これから総裁選が始まる上で、どうしても話したいことがあると。
総裁選や選挙を控えた政治家から対談を持ちかけられても、日本は断るようにしていた。自分を支持してほしいと懇願されることがほとんどだからである。どんな勢力にも加担しないことが、彼なりのポリシーであったのだろう。
しかし、彼は萩原との対談だけは受け入れたのだった。
「君は…私のやり方について、どう思っていた?」
「えぇ?」
「私は、二千年以上続いたこの国が、これからどんな混沌とした世界になろうと、日本としての形を保って生き残れるようにしたかったんだ。」
「憲法を改正し、軍を持ち、兵役制度を設け、あらゆる財界に逆らって、経済の面でも国力を高めようとした。だが、悪の枢軸国の一員としての反省が見られないと、国内外から軍国主義者と批判され、支持率が下がり、碌な後ろ盾もない私は、政権を維持できなくなった。」
「だが、君なら、私がこういった行動に出た理由もわかっているだろう?」
「はぁ…」
菊は電話を受けた時、少し落胆していた。萩原とは分かり合える部分も多く、公約をきちんと守る有限実行の姿勢も評価していた。
生真面目で、国民想いで、会食などもほとんど行かず、豪遊するよりも官邸で読書や勉強をしている方が好きな男だった。
勤勉で、誰よりも国のことを考えているはずの彼が、自身の立場のために自分を頼ろうとしていることが悲しかった。
ただ、そんな考えも、次の萩原の発言で日本の頭から消え去ったのだ。
「君は…あの戦後を忘れられるか?」
「敗者は勝者に決して逆らえない。搾取され、奪われ、甚振られ、弄ばれ、冒涜され…声を上げることもできない。現に私は、我々の先祖が紡いだ崇高な文化と国民性を悪だと教えられて育った。」
「敗者になってはいけないのだよ。力が無い者は奴隷になるのだ。私も君も、それを身を持って知った筈。あの戦後を生き抜いたのだから…」
「…」
戦後、連合国占領下の日本。
戦後から華々しい成長を遂げた日本だが、その裏で陰湿で残酷な仕打ちがあったことも事実であった。
国の彼にとって、それは人生のほんの一瞬だったが、圧倒的な力の差を見せつけられた経験は、良くも悪くも菊の消極的な性格に拍車をかけた。
「だから…私が再び総理の座に戻れるように、協力してくれないか?菊。」
「っ!?」
「私はここで終わるわけにはいかない。この命が尽きるまで、私は私の理想にしがみつくつもりだ。」
「私は君に、国としての現実的な意見ではなく、一人の人間としての本心を聞きたいんだ。」
「…」