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君の笑顔が見たいから(麻績視点)

 世間が連日の猛暑に悩まされている中。麻績は夏休みの課題もそこそこに、レンへの誕生日プレゼント選びに頭を抱えていた。
 二人は学校でもシェアハウスでも常に一緒にいる仲だが、その実趣味も食べ物や服の好みも全く異なる。
 そしてレンには手心というものが一切ない。『センスがねェ』プレゼントをしようものなら、そのままクローゼットの肥やしになるに違いなかった。誕生日プレゼントの末路がそれでは、あまりにも悲しすぎる。
 去年と一昨年は良いプレゼントが思いつかず、無難に昼食を奢った。食べ盛りのレンは喜んでくれたけれど、麻績は全く満足していなかった。
「今年こそ、ぜ~ったい、喜ばせるんだから!」
 そう意気込んではみたものの、良いアイディアは全く浮かんでこない。そもそも麻績には、友達へプレゼントを贈る、という経験が圧倒的に不足している。
 そこで、他の住人達のプレゼントを参考にするため話を聞いて回ることにした。

* * *

 「というわけで、プレゼントの予定を教えてもらえたら嬉しいのだけれど」
 早速、廊下を掃除中の鉄進を捕まえて相談した。
 律儀に手を止め話を聞いてくれている鉄進だが、いつもより眉が数ミリ吊り上がっていてどことなく不機嫌そうに見える。タイミングがまずかったのだろうか。
「ただの同居人の意見が、君の役に立つとは思えないのだが」
「いいんだ、参考にするだけだから。ね? お願い!」
 両手を合わせながら鉄進の顔を仰ぎ見る。と、鉄進の金色の瞳がわずかに揺れた。
「……焼き菓子を作るつもりだ。甘味でなく、塩味の」
「わあっ。いいなあ~!」
 鉄進お手製菓子はいつもハズレがない。それぞれの好みに合わせて味を調節してくれるからだ。言葉にすることはないけれど、レンも鉄進お手製菓子を大層気に入っている様子。今回もきっと喜ぶだろう。
 手作りかあ……気持ちが伝わって良いかも!
 とは言え、不器用な麻績には少々難易度が高いプレゼントに思えた。
「教えてくれてありがとう、鉄進!」
「あぁ」
 話が済むなり黙々と雑巾がけを再開した鉄進を残し、麻績は階段を下った。

 リビングには三人掛けソファを占領してスマホをいじっているアドハムがいた。麻績が同じソファにちょこんと腰かけると、気だるげに上体を起こす。
「レンの誕生日プレゼント~?」
「うん。何を贈ろうかちょっと迷っていて。アドハムはもう決めた? ……って、あ、アドハム?」
 返答の代わりにすうっとアドハムの手が伸びてきて、首を傾げた拍子に頬にかかった前髪を払われた。
 不意を突かれた麻績が驚きアドハムを見ると、妖しい光を放つ色違いの瞳と目が合う。思わず固まった。
「教えてあげてもいいヨ。麻績チャンがボクのモノになってくれるなら」
 頬にアドハムの長い指が添えられ、綺麗な弧を描いた瞳と艶っぽい唇が、徐に近づいてくる。
 キスされる、と思った。
「っ、結構です!」
 ハッと正気に戻った麻績は両腕を突き出すと、妙な空気ごとアドハムの顔面を思い切り押し返した。
「アハッ。ジョーダンだヨォ」
「も~、俺は真面目に相談しているんだからねっ!」
 愉快そうに笑うアドハムの瞳に、先ほど見えた妖しさは一切ない。麻績は心の内でため息を吐いた。
 アドハムは時々良くないスイッチが入る。こうしてからかって、相手の反応を面白がっているのだ。中でも恥ずかしがり屋なレンは格好の的だ。アドハムの思わせぶりな態度に振り回され真っ赤になったレンが、部屋を飛び出していく光景はシェアハウスの日常になっている。二人の友人としてアドハムを止めるべきなのだろうが、残念ながら麻績にはその手立てがない。
「ボクのはネ~、コレ」
 目の前に差し出されたスマホ画面に映っているのは、大きく柄がプリントされたTシャツの写真。アドハムが好みそうなデザインだ。少々厳つく派手だが、ガタイの良いレンが着たら似合いそうだと思う。
「どーせプレゼントするなら、いつも見えるモノがイイと思うナァ。その方が、ジブンも楽しいし」
 確かに、自分の贈り物を使ってくれている姿が見られたら絶対嬉しい!
 とは言え、レンからセンスない判定をもらっている麻績に服選びは難しそうだ。
「アドバイスありがとう! 参考にさせてもらうね」
「頑張ってネ~」
 再びソファに寝そべってひらひら手を振るアドハムに見送られ、リビングを後にした。

 その後、庭いじりをしていたタイトとバイト帰りのアレクにも同じ質問をした。
 タイトは『レン君が志望する医学部に入れますように』という願いを込めて、パワーストーンのストラップキーホルダーを贈るそうだ。
 高校入学からの二年半、頑張る姿を一番間近で見てきた麻績としても、レンの受験は全力で応援したい。
 一方アレクは、誕生日前にレンを連れてお揃いのピアスを新調しに行くとのこと。
「俺としてはもっとカッコいいやつを一式揃えてプレゼントしたいんだけどさァ。アイツ、変なところでこだわり強くって。お兄ちゃんと一緒じゃなきゃイヤだーオレンジじゃないとイヤだーって駄々こねるんだよ。こういうところがまだまだ子供なんだよな~」
 そう愚痴るアレクの表情は嬉しそうで、兄弟の特別な絆を羨ましいと思った。

* * *

 皆に話を聞いて回ったおかげで方向性は固まった。
「あとは理想のプレゼントを探し出すだけ!」
 ……なのだが、そう都合よくはいかないもので。
 翌日、麻績は二駅隣の大型デパートへやってきた。その中にある食品コーナーにアパレルショップ、ジュエリー店等複数の店舗を回ったものの、ピンとくるものが見つからない。
「はあ……もしこのまま見つからなかったらどうしよう。何でも奢ります券でも作ろうかな。五……いや。三枚綴りで。レンは絶対遠慮とかしないし」
 と諦めムードで覗いた雑貨屋の一角。
 そこで麻績は運命に出会った。

 色とりどりの刺繍糸で編まれたアクセサリー、その名もミサンガ。別名プロミスバンドとも呼ばれ、色や付ける部位に願いを込められるらしい。特別な道具は不要。数日かければ不器用な麻績でも様になるものが作れるだろう。

「手作りで、願掛けもできて、一緒に普段から身に着けられるもの……これしかない!」
 ようやく見えた光明に、麻績の瞳もキラキラと輝く。
「絶対、喜んでもらえるものを作るぞ!」
 だって、レンは俺の大切な親友なんだから!
 購入したばかりの刺繍糸を握りしめ、改めて決意を口にする麻績だった。
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