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春信(レン視点)
一年で最も寒い月を越え、日も少しずつ延びてきた。そんな季節の変わり目、ある日の午後。
「あっ、そうだ」
商店街に差し掛かるなり声をあげた麻績につられて立ち止まる。
「俺、ちょっと用事があるからレンは先に帰ってて」
「用事って、例のやつか?」
例のやつというのは、昨晩シェアハウスで行われた「鉄進誕生日事前会議」のことだ。要は誕生日会に向けて誰が何の準備をするかを決める話し合いである。
その会議で、麻績は真っ先に装飾準備係に立候補していた。ちなみに、アドハムは鉄進のプロデュース係で、レンは当日の飾りつけ担当だ。
「うん。色々と用意したいものがあるんだ」
「それならオレも付き合う」
いくら気に食わない相手とは言え、誕生日会に参加する以上プレゼントを用意しないわけにはいかない。わざわざ買いに出かけるのも癪なので、この機に済ませてしまいたかった。それに、装飾グッズの調達なら荷物持ちがいた方が麻績も楽だろう。
一人が苦手な麻績ならこの提案に喜んで乗ってくると思ったのだが。
「うーん、でもなあ……。どうしようかな。レンには言っちゃおうかなあ」
麻績は腕を組み考えるそぶりをしながらチラチラとレンを見る。これは良いことを思いついていて、それを言うのをもったいぶっているときの態度だ。
シェアハウス内では物わかりが良く素直な麻績だが、レンの前ではこうやって子供っぽい言動をとる。時々面倒くさいと思うこともあるが、親友が自分にだけ見せるこの幼い一面が好きだった。
「何だよ。さっさと言えって」
「あのね、今回の装飾なんだけれど――」
続きを促すと、案の定「待ってました」と言わんばかりにペラペラ話し出す。
鉄進がシェアハウスで生活するようになって丸二年。忙しいタイトに代わり雑務をこなす鉄進は、ほぼ毎日この商店街に通っている。おかげで今では商店街の人々と随分馴染んでいるらしい。そこで、商店街で鉄進へのお祝いメッセージを募り、その寄せ書きを誕生日会の壁飾りとして使用する計画を立てているのだという。
「アイツ、外に仲良い人なんていたんだ」
真っ先に出た感想はこれだった。初対面から今日に至るまで、鉄進と顔を合わせれば喧嘩ばかりのレンには到底想像がつかない光景だ。
「もうすごいんだよ! 鉄進と一緒に商店街に行くとね、『テツ』『テツ』って色々な人から声をかけられるんだから」
「ふーん」
自分のことでもないのに嬉しそうに自慢する麻績。その表情はとても幸せそうで、少しだけ悔しい気持ちになる。
それと同時に、一つ疑問が浮かんできた。
「オマエはそういうの見て嫉妬とかしねーの?」
もし鉄進が麻績の立場であったなら、間違いなく嫉妬の嵐だろう。何せ、レンが麻績と話しているだけで恨めし気に睨みつけてくるのだから。誰彼構わず噛みつく姿はまるで、飼い主を守ろうとする番犬だ。
「うーん……あんまりないかなあ。鉄進のことを理解してくれる人が増えて嬉しいよ」
「そういうもんなのか」
誰かさんとは大違いだな、と考えていると「それに」と麻績が言葉を続ける。
「鉄進の居場所はここなんだって、しっかり理解してもらわないと」
鉄進が勝手にいなくならないように、しがらみは出来るだけ多い方がいい。
そんな全く可愛くないことを言う親友を見て、やっぱりアイツと同類だわ、と思い直した。
「で? どこからまわるんだ?」
「えっ。付き合ってくれるの?」
「最初からそのつもりだったし。つーかそんな大掛かりなこと麻績一人にやらせらんないだろ。オレも一応、祝う側だしな」
麻績が大きな目を細めて笑顔を浮かべる。
「ありがとう! レンのそういう面倒見のいいところ、大好き」
「知ってる」
麻績と二人で声をあげ笑い合う。こんなやり取りが出来るのもあと少し。
高校卒業を間近に控えた下校中の出来事だった。
一年で最も寒い月を越え、日も少しずつ延びてきた。そんな季節の変わり目、ある日の午後。
「あっ、そうだ」
商店街に差し掛かるなり声をあげた麻績につられて立ち止まる。
「俺、ちょっと用事があるからレンは先に帰ってて」
「用事って、例のやつか?」
例のやつというのは、昨晩シェアハウスで行われた「鉄進誕生日事前会議」のことだ。要は誕生日会に向けて誰が何の準備をするかを決める話し合いである。
その会議で、麻績は真っ先に装飾準備係に立候補していた。ちなみに、アドハムは鉄進のプロデュース係で、レンは当日の飾りつけ担当だ。
「うん。色々と用意したいものがあるんだ」
「それならオレも付き合う」
いくら気に食わない相手とは言え、誕生日会に参加する以上プレゼントを用意しないわけにはいかない。わざわざ買いに出かけるのも癪なので、この機に済ませてしまいたかった。それに、装飾グッズの調達なら荷物持ちがいた方が麻績も楽だろう。
一人が苦手な麻績ならこの提案に喜んで乗ってくると思ったのだが。
「うーん、でもなあ……。どうしようかな。レンには言っちゃおうかなあ」
麻績は腕を組み考えるそぶりをしながらチラチラとレンを見る。これは良いことを思いついていて、それを言うのをもったいぶっているときの態度だ。
シェアハウス内では物わかりが良く素直な麻績だが、レンの前ではこうやって子供っぽい言動をとる。時々面倒くさいと思うこともあるが、親友が自分にだけ見せるこの幼い一面が好きだった。
「何だよ。さっさと言えって」
「あのね、今回の装飾なんだけれど――」
続きを促すと、案の定「待ってました」と言わんばかりにペラペラ話し出す。
鉄進がシェアハウスで生活するようになって丸二年。忙しいタイトに代わり雑務をこなす鉄進は、ほぼ毎日この商店街に通っている。おかげで今では商店街の人々と随分馴染んでいるらしい。そこで、商店街で鉄進へのお祝いメッセージを募り、その寄せ書きを誕生日会の壁飾りとして使用する計画を立てているのだという。
「アイツ、外に仲良い人なんていたんだ」
真っ先に出た感想はこれだった。初対面から今日に至るまで、鉄進と顔を合わせれば喧嘩ばかりのレンには到底想像がつかない光景だ。
「もうすごいんだよ! 鉄進と一緒に商店街に行くとね、『テツ』『テツ』って色々な人から声をかけられるんだから」
「ふーん」
自分のことでもないのに嬉しそうに自慢する麻績。その表情はとても幸せそうで、少しだけ悔しい気持ちになる。
それと同時に、一つ疑問が浮かんできた。
「オマエはそういうの見て嫉妬とかしねーの?」
もし鉄進が麻績の立場であったなら、間違いなく嫉妬の嵐だろう。何せ、レンが麻績と話しているだけで恨めし気に睨みつけてくるのだから。誰彼構わず噛みつく姿はまるで、飼い主を守ろうとする番犬だ。
「うーん……あんまりないかなあ。鉄進のことを理解してくれる人が増えて嬉しいよ」
「そういうもんなのか」
誰かさんとは大違いだな、と考えていると「それに」と麻績が言葉を続ける。
「鉄進の居場所はここなんだって、しっかり理解してもらわないと」
鉄進が勝手にいなくならないように、しがらみは出来るだけ多い方がいい。
そんな全く可愛くないことを言う親友を見て、やっぱりアイツと同類だわ、と思い直した。
「で? どこからまわるんだ?」
「えっ。付き合ってくれるの?」
「最初からそのつもりだったし。つーかそんな大掛かりなこと麻績一人にやらせらんないだろ。オレも一応、祝う側だしな」
麻績が大きな目を細めて笑顔を浮かべる。
「ありがとう! レンのそういう面倒見のいいところ、大好き」
「知ってる」
麻績と二人で声をあげ笑い合う。こんなやり取りが出来るのもあと少し。
高校卒業を間近に控えた下校中の出来事だった。
