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愛し君に最高のお祝いを(鉄進視点)
このシェアハウスでは住人総出で誕生日を祝う習慣がある。
そして本日は二月二十五日。麻績の誕生日だ。居間では午後の誕生日会に向けて着々と準備が進められ、室内は華々しく飾り付けられている。
そんなさ中。居間の長机で顔を突き合わせる我々三人の間には、この空間に似つかわしくない不穏な空気が流れていた。
「オマエが書けって言ってるだろ!」
瀬木弟はそう怒鳴りながら、長机の上に置かれた襷を指さした。それは主役の麻績が誕生日会中に身に付ける大事な品であり、この不穏な空気の原因でもある。
というのも、現在我々にはこの白紙の襷に祝辞を書き込む任務が与えられている。襷に替えの用意はない。責任重大な任務である。
故に私と瀬木弟の間で「どちらが書き込むべきか」十分以上揉めているのだ。なお、アドハムはこの世界の文字の読み書きがまともに出来ないので論外だ。
こうなった時進んで話をまとめてくれる麻績は、現在自室で待機、着替え中の為不在である。
「だから、何故、私を指定するのか。その理由を聞いている」
「理由なんかどうだっていいだろ! いいから書けよ」
先ほどから瀬木弟は執拗に私が書くよう要求してくる。そのくせ、理由を聞いても「別に」「なんとなく」としか返ってこない。
全く話にならない。前々から思っているが、この男、話し合いが下手すぎる。
「ネー。まだ決まンないノ? ボクもう飽きた」
ずっと蚊帳の外だったアドハムが、長い髪を指にくるくる巻きつけながら文句を言う。
私だってこんな不毛なやり取りをいつまでも続けたくはない。だからと言って譲ることも出来ない。大事な麻績の誕生祝い、失敗は絶対に許されないのだから。
「こういうものは最も親しい間柄の者が書くべきだ。その方が麻績君も喜ぶ」
瀬木弟は麻績の親友だ。ただの同居人である私が書くより余程相応しいに決まっている。この男には、何故、それがわからないのだろう。
「んなことテメェに言われなくてもわかってんだよ! だからオレは……!」
瀬木弟がひと際声を荒げて何かを言わんとする。が、そこにアドハムが気の抜けるような欠伸を一つ。同じやりとりを繰り返す我々への当てつけだろうか。
そんなアドハムの態度に気を削がれたらしい。瀬木弟は私から視線を逸らすと、頭をがしがしと掻いた。
「あー、もういい。オレが書く」
瀬木弟は黒い油性ペンを手に取ると、今までの押し問答は何だったのかと思うほど呆気なく襷に直書きし始めた。
おい待て。文字の大きさの計算とか下書きとか、始めにするべきことがあるだろう。それは麻績が身に付ける大切な襷なんだぞ。
「もっと丁寧に書け」
「うるせーな、文句言うなら自分で書けば良かっただろ」
不貞腐れた様子の瀬木弟は下唇を突き出しながら私を一睨すると、勢いのまま書ききってしまう。そして、使用したペンを私の胸元にぐいぐい押し付けてきた。
いや、この状態でペンを渡されても困るのだが。一体私にどうしろと?
私は仕方なく押しつけられたペンを受け取る。そして散々迷った挙句、麻績の名前の下に小さく敬称を付け足した。
……字体や大きさが不揃いで非常に不格好だ。まずい。明らかに悪化した。どうにかして修正しなければ。
「エー。なンか地味ー」
私の肩口から覗き込んできたアドハムが、これまた不満げに唇を尖らせる。文字が黒一色であることが気に食わないらしい。私としては、初めから入っている両端の赤線だけで色は十分足りていると思うのだが。
アドハムは桃色と黄色のペンを手に取ると、隙間にハートマークを書き込んだ。雑に。次々と。
……もう駄目だ。完全に終わった。絶望だ。
麻績の悲しむ顔を想像して目の前が真っ暗になりかけたところで、家主から声が掛かる。麻績の準備が整ってしまったらしい。
途端に襷への興味をなくした様子の二人は、さっさとこの場を離れてしまう。
一人残された私は放置されたペンを片づけると、無残な姿となった襷を手に、重い四肢を引きずりながら麻績のもとへ向かった。
こうして始まった今年の誕生日会。
襷を受け取る麻績の表情は……眩しく感じるほど明るい笑顔だった。
このシェアハウスでは住人総出で誕生日を祝う習慣がある。
そして本日は二月二十五日。麻績の誕生日だ。居間では午後の誕生日会に向けて着々と準備が進められ、室内は華々しく飾り付けられている。
そんなさ中。居間の長机で顔を突き合わせる我々三人の間には、この空間に似つかわしくない不穏な空気が流れていた。
「オマエが書けって言ってるだろ!」
瀬木弟はそう怒鳴りながら、長机の上に置かれた襷を指さした。それは主役の麻績が誕生日会中に身に付ける大事な品であり、この不穏な空気の原因でもある。
というのも、現在我々にはこの白紙の襷に祝辞を書き込む任務が与えられている。襷に替えの用意はない。責任重大な任務である。
故に私と瀬木弟の間で「どちらが書き込むべきか」十分以上揉めているのだ。なお、アドハムはこの世界の文字の読み書きがまともに出来ないので論外だ。
こうなった時進んで話をまとめてくれる麻績は、現在自室で待機、着替え中の為不在である。
「だから、何故、私を指定するのか。その理由を聞いている」
「理由なんかどうだっていいだろ! いいから書けよ」
先ほどから瀬木弟は執拗に私が書くよう要求してくる。そのくせ、理由を聞いても「別に」「なんとなく」としか返ってこない。
全く話にならない。前々から思っているが、この男、話し合いが下手すぎる。
「ネー。まだ決まンないノ? ボクもう飽きた」
ずっと蚊帳の外だったアドハムが、長い髪を指にくるくる巻きつけながら文句を言う。
私だってこんな不毛なやり取りをいつまでも続けたくはない。だからと言って譲ることも出来ない。大事な麻績の誕生祝い、失敗は絶対に許されないのだから。
「こういうものは最も親しい間柄の者が書くべきだ。その方が麻績君も喜ぶ」
瀬木弟は麻績の親友だ。ただの同居人である私が書くより余程相応しいに決まっている。この男には、何故、それがわからないのだろう。
「んなことテメェに言われなくてもわかってんだよ! だからオレは……!」
瀬木弟がひと際声を荒げて何かを言わんとする。が、そこにアドハムが気の抜けるような欠伸を一つ。同じやりとりを繰り返す我々への当てつけだろうか。
そんなアドハムの態度に気を削がれたらしい。瀬木弟は私から視線を逸らすと、頭をがしがしと掻いた。
「あー、もういい。オレが書く」
瀬木弟は黒い油性ペンを手に取ると、今までの押し問答は何だったのかと思うほど呆気なく襷に直書きし始めた。
おい待て。文字の大きさの計算とか下書きとか、始めにするべきことがあるだろう。それは麻績が身に付ける大切な襷なんだぞ。
「もっと丁寧に書け」
「うるせーな、文句言うなら自分で書けば良かっただろ」
不貞腐れた様子の瀬木弟は下唇を突き出しながら私を一睨すると、勢いのまま書ききってしまう。そして、使用したペンを私の胸元にぐいぐい押し付けてきた。
いや、この状態でペンを渡されても困るのだが。一体私にどうしろと?
私は仕方なく押しつけられたペンを受け取る。そして散々迷った挙句、麻績の名前の下に小さく敬称を付け足した。
……字体や大きさが不揃いで非常に不格好だ。まずい。明らかに悪化した。どうにかして修正しなければ。
「エー。なンか地味ー」
私の肩口から覗き込んできたアドハムが、これまた不満げに唇を尖らせる。文字が黒一色であることが気に食わないらしい。私としては、初めから入っている両端の赤線だけで色は十分足りていると思うのだが。
アドハムは桃色と黄色のペンを手に取ると、隙間にハートマークを書き込んだ。雑に。次々と。
……もう駄目だ。完全に終わった。絶望だ。
麻績の悲しむ顔を想像して目の前が真っ暗になりかけたところで、家主から声が掛かる。麻績の準備が整ってしまったらしい。
途端に襷への興味をなくした様子の二人は、さっさとこの場を離れてしまう。
一人残された私は放置されたペンを片づけると、無残な姿となった襷を手に、重い四肢を引きずりながら麻績のもとへ向かった。
こうして始まった今年の誕生日会。
襷を受け取る麻績の表情は……眩しく感じるほど明るい笑顔だった。
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