挿話集
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「いらっしゃいませ…あ、壮くんじゃないですか」
『こんにちは、安室さん』
いつものくださいと伝えて、壮は窓際のテーブル席に座った。
ここは、喫茶ポアロ。窓際のテーブル席は僕のお気に入りの席で、この場所から見るカウンター向こうの安室さんが大好きなのだ。
この喫茶店を知ったきっかけは、クラスメートの毛利さんと鈴木さんの会話だった。
「蘭~、久しぶりにポアロ行かない?」
「どーしたの園子。珍しいね?」
「今日コンビニのサンドイッチ食べたんだけど、ちょっとイマイチだったのね。だからハムサンドが恋しくなっちゃって!」
「あのハムサンドほんと美味しいよね。私も久しぶりに食べたくなっちゃった」
「じゃあ決定ね!」
眩しいくらいの笑顔を浮かべながら話す二人に、『そんなに美味しいの?』と呟いてしまい、あろうことかいつもより大きめの独り言が偶然二人の耳に届いてしまったようで、「何なに天沢、ハムサンドに興味あるの?!」と、鈴木さんに話しかけられた。
「ちょっと園子!急に話しかけたら、びっくりしちゃうよ、天沢君」
『大丈夫だよ、毛利さん。お気遣いありがとうね』
「天沢君がいいならいいけど…」
毛利さんはちっちゃな溜息をした後、「園子ってほんとこわいもの知らず」と、褒め言葉なのか、それ以外の意味もあるのか真意のつかめない呟きをした。
「それ、どーゆーことよぉ!」
小さい声だったけど、鈴木さんには聞こえていたらしい。口調が強い返し言葉に、自分が言われているわけではないのに、肩がすくむ。地獄耳っていうのかな。
「え〜?独り言だったかもとか、読書の邪魔しちゃ悪いかもとか、そういう配慮がないから…」
「長所の間違いじゃない?」
「もー、園子ったら調子乗っちゃって!」
壮には、友達といえる相手がいないため、二人のぽんぽん弾むような会話が面白くて、テンポがいい音楽みたいだ。
「ほら早速天沢君置いてけぼりじゃない」
「あ、ごめんねぇ…天沢!」
「私からもごめんなさい…!」
二人から謝罪されたけど、何で謝られたのか、なんて返していいのか分からず、小首を傾げる。むしろ、僕が邪魔した側なのに。それに二人の会話は、掛け合いが心地よくてずっと聞いていられる。
『…僕もごめんなさい、盗み聞き』
二人に壮からも謝罪を伝えると、二人はきょとんとした表情で見つめ合ったあと、どちらからともなくくすくす笑い出す。ますますどうしたらいいか分からなくなって、僕は途方に暮れた。
「はぁー今日イチ笑った!天沢、話聞いてたんなら一緒行こ!」
「また園子、強引に!まずは相手の予定を聞くところからでしょ?」
「もうノリよ、そんなの!放課後どう?空いてる?」
この流れはさっきの予定に入れてくれるということでいいのだろうか。二人の邪魔にならないだろうか。
『えーと…』
返答に困っていると、僕の様子を見ていた毛利さんが助け舟を出してくれた。
「私たちと一緒に放課後喫茶ポアロに行ってみる?園子、天沢君のこと、気に入ったみたいで、もっと話したいんだって」
あの文章の中に、そんな意味が含まれてたなんて…。毛利さんの鈴木さん理解力が流石すぎて、頭が上がらない。何年一緒にいたら、こんな関係性を築けるんだろう。
『邪魔じゃなければ…』
その8文字を口にするまでに数十秒要した僕では、友達という相手ができるまでに何十年もかかってしまうに違いない。
そんなこんなで、何の授業を受けたか覚えていないほど、ぼんやり授業を受け続け、放課後になった。「出発〜!」と、元気ハツラツな鈴木さんを先頭に、僕と毛利さんは、彼女の数歩後ろを歩いた。
しばらく歩くと、車通りの多い道にたどり着く。オフィスの入る灰色の建物が多い中、レンガ調のそのお店は存在した。
カランコロン。
お店のドアを開けると、「いらっしゃいませ」と男性の声がした。
「あ、こんにちは!安室さん」
「毛利さん!鈴木さんもいらっしゃい」
「は〜い!窓側の席座っていいですか?」
「はい、どうぞ。おや、新しいお友達ですか?」
『………、っ』
二人の後ろからあまり良く見えなかったが、席に移動しようと動いていく二人に対して、目が合った壮は金縛りにあったように身体が硬直した。
…な、なんだこのイケメンさんは。
「どしたの?天沢」
「天沢君?」
先を歩いていった女子高生二人が席から呼んでいる声が聞こえてはいるものの、壮の脳内はそれを受け入れる余裕がなくなるくらいには大パニック状態だった。
街の中のありふれた外観のお店に、こんな瞳が綺麗な湖の色をした長身イケメンさんが、何故働いているんだろう。コーヒーミルを操る手は様になっているけれど、こういう場所はどっちかというと初老のおじいさんがマスターをしているようなイメージが…。え、ちょっと…なんだろう。カフェの内装は外観と合っているのに、店員さんだけ別世界の人みたいにアンバランスだ。失礼すぎるけど。と、そこまで考えて、「キミ、大丈夫?」と自分の目の前までさっきの綺麗な瞳のイケメン店員さんが来ていることに気づいた。
『…ぇ…、あ、ぁ……だ、だ、だいじょぶ、です』
壮はかろうじてそれだけ口にして、そそくさと席に移動して座る。まだ背後のイケメンさんからの視線を感じつつも、その気配すら絶つように自分の視線を隠しながら俯いた。視界から外しているのに、心臓の興奮は続いている。落ち着けと言い聞かせるように服の上から右手を重ねるが、あまり効果は感じられなかった。
急に様子の変わった壮の姿に、蘭と園子は目を合わせてくすりと笑った。
「安室さんに一目惚れしちゃったかな?天沢」
「どーだろね?何か感じたのは間違いないだろうけど……」
「ハムサンド目当てで来たのに、安室さんに沼っちゃったかぁ。いつもと逆パターンね」
「どーゆう意味?」
キョトンとした蘭に、園子がふふんと楽しそうに笑いかける。
「店員目当てで来るお客さんが多いじゃない?ポアロって」
「あ、私たちはハムサンド目当てだったから??」
「そうそう」
今もその表情を髪で隠しながら俯くクラスメイトは、教室での彼とはまるで別人のように年相応な姿だった。
そんな初対面を経験してから、何度か壮は蘭と園子とポアロを訪れていた。最初は、ハムサンドの味をじっくり味わえず、緊張からコーヒーをこぼしたり、挙動が怪しかったりしていたものの、半年後には一人でも訪れることができるようにまでなった。
「はい、いつものコーヒーとハムサンドです」
『ありがとうございます、安室さん』
テーブルに運ばれてきた湯気のたつブラックコーヒー。香りが鼻腔をくすぐり、自然と緊張がほぐれてゆく。
「そろそろ出会ってから一年になりますね、天沢くん」
静かな店内は、僕とあと二組のお客さんだけだった。安室さんはトレーを手にしたまま、懐かしむような表情で話しかけてくれる。
『よく覚えてましたね』
「インパクト大でしたから…」
『あはは…!そうでした』
「恥ずかしかってましたね、天沢くん」
『僕のせいじゃなくて、安室さんが綺麗すぎるのがいけないんですよ』
「責任転嫁させないでくださいよ」
困っちゃうなぁと少しも困ったように見えない安室さんに、僕もふふっと笑ってしまった。今だから言えることだけど、あの時は本当にこのカフェにトリップさせられたように世界観の合わないイケメンさんがいたから、衝撃的すぎたのだ。芸能人と言われても可笑しくない美貌で、所作や声に至るまで完璧で、照れどころではなくて、キャパオーバーしてしまっていた。テレビの中の人が目の前にいるくらいの衝撃だった。
「それで、いつカウンターに座ってくれるんですか?」
『……高校卒業したら、でしょうか?』
「あと一年近くあるじゃないですか!」
『まだ正面だと緊張してしまうので…』
「これだけ会話できるようになったんですからもう解禁しましょうよ」
『む、難しいです〜』
正面から話しかけようとする安室さんから顔を背ける。会話ができることと視線を合わせられることは、別問題なのだ。
安室さんには気づかれていないようだけど、これでも心臓がどくどくとうるさいのは今でも変わらずなので、多めに見てほしい。冗談ぬきにして卒業近くまではかかりそうなのに。
「天沢くん、料理冷めてしまいますよ?」
『誰のせいですか』
でもからかわれるのも、話しかけられるのも嫌じゃない。緊張はしてしまうけど、この場所とこの店員さんと、この空間すべてが本当に好きだ。
『冷めてもおいしいですよ、安室さん』
何度も通い詰めてしまうくらいには。
『こんにちは、安室さん』
いつものくださいと伝えて、壮は窓際のテーブル席に座った。
ここは、喫茶ポアロ。窓際のテーブル席は僕のお気に入りの席で、この場所から見るカウンター向こうの安室さんが大好きなのだ。
この喫茶店を知ったきっかけは、クラスメートの毛利さんと鈴木さんの会話だった。
「蘭~、久しぶりにポアロ行かない?」
「どーしたの園子。珍しいね?」
「今日コンビニのサンドイッチ食べたんだけど、ちょっとイマイチだったのね。だからハムサンドが恋しくなっちゃって!」
「あのハムサンドほんと美味しいよね。私も久しぶりに食べたくなっちゃった」
「じゃあ決定ね!」
眩しいくらいの笑顔を浮かべながら話す二人に、『そんなに美味しいの?』と呟いてしまい、あろうことかいつもより大きめの独り言が偶然二人の耳に届いてしまったようで、「何なに天沢、ハムサンドに興味あるの?!」と、鈴木さんに話しかけられた。
「ちょっと園子!急に話しかけたら、びっくりしちゃうよ、天沢君」
『大丈夫だよ、毛利さん。お気遣いありがとうね』
「天沢君がいいならいいけど…」
毛利さんはちっちゃな溜息をした後、「園子ってほんとこわいもの知らず」と、褒め言葉なのか、それ以外の意味もあるのか真意のつかめない呟きをした。
「それ、どーゆーことよぉ!」
小さい声だったけど、鈴木さんには聞こえていたらしい。口調が強い返し言葉に、自分が言われているわけではないのに、肩がすくむ。地獄耳っていうのかな。
「え〜?独り言だったかもとか、読書の邪魔しちゃ悪いかもとか、そういう配慮がないから…」
「長所の間違いじゃない?」
「もー、園子ったら調子乗っちゃって!」
壮には、友達といえる相手がいないため、二人のぽんぽん弾むような会話が面白くて、テンポがいい音楽みたいだ。
「ほら早速天沢君置いてけぼりじゃない」
「あ、ごめんねぇ…天沢!」
「私からもごめんなさい…!」
二人から謝罪されたけど、何で謝られたのか、なんて返していいのか分からず、小首を傾げる。むしろ、僕が邪魔した側なのに。それに二人の会話は、掛け合いが心地よくてずっと聞いていられる。
『…僕もごめんなさい、盗み聞き』
二人に壮からも謝罪を伝えると、二人はきょとんとした表情で見つめ合ったあと、どちらからともなくくすくす笑い出す。ますますどうしたらいいか分からなくなって、僕は途方に暮れた。
「はぁー今日イチ笑った!天沢、話聞いてたんなら一緒行こ!」
「また園子、強引に!まずは相手の予定を聞くところからでしょ?」
「もうノリよ、そんなの!放課後どう?空いてる?」
この流れはさっきの予定に入れてくれるということでいいのだろうか。二人の邪魔にならないだろうか。
『えーと…』
返答に困っていると、僕の様子を見ていた毛利さんが助け舟を出してくれた。
「私たちと一緒に放課後喫茶ポアロに行ってみる?園子、天沢君のこと、気に入ったみたいで、もっと話したいんだって」
あの文章の中に、そんな意味が含まれてたなんて…。毛利さんの鈴木さん理解力が流石すぎて、頭が上がらない。何年一緒にいたら、こんな関係性を築けるんだろう。
『邪魔じゃなければ…』
その8文字を口にするまでに数十秒要した僕では、友達という相手ができるまでに何十年もかかってしまうに違いない。
そんなこんなで、何の授業を受けたか覚えていないほど、ぼんやり授業を受け続け、放課後になった。「出発〜!」と、元気ハツラツな鈴木さんを先頭に、僕と毛利さんは、彼女の数歩後ろを歩いた。
しばらく歩くと、車通りの多い道にたどり着く。オフィスの入る灰色の建物が多い中、レンガ調のそのお店は存在した。
カランコロン。
お店のドアを開けると、「いらっしゃいませ」と男性の声がした。
「あ、こんにちは!安室さん」
「毛利さん!鈴木さんもいらっしゃい」
「は〜い!窓側の席座っていいですか?」
「はい、どうぞ。おや、新しいお友達ですか?」
『………、っ』
二人の後ろからあまり良く見えなかったが、席に移動しようと動いていく二人に対して、目が合った壮は金縛りにあったように身体が硬直した。
…な、なんだこのイケメンさんは。
「どしたの?天沢」
「天沢君?」
先を歩いていった女子高生二人が席から呼んでいる声が聞こえてはいるものの、壮の脳内はそれを受け入れる余裕がなくなるくらいには大パニック状態だった。
街の中のありふれた外観のお店に、こんな瞳が綺麗な湖の色をした長身イケメンさんが、何故働いているんだろう。コーヒーミルを操る手は様になっているけれど、こういう場所はどっちかというと初老のおじいさんがマスターをしているようなイメージが…。え、ちょっと…なんだろう。カフェの内装は外観と合っているのに、店員さんだけ別世界の人みたいにアンバランスだ。失礼すぎるけど。と、そこまで考えて、「キミ、大丈夫?」と自分の目の前までさっきの綺麗な瞳のイケメン店員さんが来ていることに気づいた。
『…ぇ…、あ、ぁ……だ、だ、だいじょぶ、です』
壮はかろうじてそれだけ口にして、そそくさと席に移動して座る。まだ背後のイケメンさんからの視線を感じつつも、その気配すら絶つように自分の視線を隠しながら俯いた。視界から外しているのに、心臓の興奮は続いている。落ち着けと言い聞かせるように服の上から右手を重ねるが、あまり効果は感じられなかった。
急に様子の変わった壮の姿に、蘭と園子は目を合わせてくすりと笑った。
「安室さんに一目惚れしちゃったかな?天沢」
「どーだろね?何か感じたのは間違いないだろうけど……」
「ハムサンド目当てで来たのに、安室さんに沼っちゃったかぁ。いつもと逆パターンね」
「どーゆう意味?」
キョトンとした蘭に、園子がふふんと楽しそうに笑いかける。
「店員目当てで来るお客さんが多いじゃない?ポアロって」
「あ、私たちはハムサンド目当てだったから??」
「そうそう」
今もその表情を髪で隠しながら俯くクラスメイトは、教室での彼とはまるで別人のように年相応な姿だった。
そんな初対面を経験してから、何度か壮は蘭と園子とポアロを訪れていた。最初は、ハムサンドの味をじっくり味わえず、緊張からコーヒーをこぼしたり、挙動が怪しかったりしていたものの、半年後には一人でも訪れることができるようにまでなった。
「はい、いつものコーヒーとハムサンドです」
『ありがとうございます、安室さん』
テーブルに運ばれてきた湯気のたつブラックコーヒー。香りが鼻腔をくすぐり、自然と緊張がほぐれてゆく。
「そろそろ出会ってから一年になりますね、天沢くん」
静かな店内は、僕とあと二組のお客さんだけだった。安室さんはトレーを手にしたまま、懐かしむような表情で話しかけてくれる。
『よく覚えてましたね』
「インパクト大でしたから…」
『あはは…!そうでした』
「恥ずかしかってましたね、天沢くん」
『僕のせいじゃなくて、安室さんが綺麗すぎるのがいけないんですよ』
「責任転嫁させないでくださいよ」
困っちゃうなぁと少しも困ったように見えない安室さんに、僕もふふっと笑ってしまった。今だから言えることだけど、あの時は本当にこのカフェにトリップさせられたように世界観の合わないイケメンさんがいたから、衝撃的すぎたのだ。芸能人と言われても可笑しくない美貌で、所作や声に至るまで完璧で、照れどころではなくて、キャパオーバーしてしまっていた。テレビの中の人が目の前にいるくらいの衝撃だった。
「それで、いつカウンターに座ってくれるんですか?」
『……高校卒業したら、でしょうか?』
「あと一年近くあるじゃないですか!」
『まだ正面だと緊張してしまうので…』
「これだけ会話できるようになったんですからもう解禁しましょうよ」
『む、難しいです〜』
正面から話しかけようとする安室さんから顔を背ける。会話ができることと視線を合わせられることは、別問題なのだ。
安室さんには気づかれていないようだけど、これでも心臓がどくどくとうるさいのは今でも変わらずなので、多めに見てほしい。冗談ぬきにして卒業近くまではかかりそうなのに。
「天沢くん、料理冷めてしまいますよ?」
『誰のせいですか』
でもからかわれるのも、話しかけられるのも嫌じゃない。緊張はしてしまうけど、この場所とこの店員さんと、この空間すべてが本当に好きだ。
『冷めてもおいしいですよ、安室さん』
何度も通い詰めてしまうくらいには。
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