挿話集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「124年ぶりなんだって!」
『…124?』
「あ、やっぱ聞いてなかったべ?そうかなーとは薄々思ってたけどさぁ」
手ぇ動かしながらでいーから構ってよ。そんなふうにぶつくさ言いながら、菅原が僕の腰に腕を回す。正直に言うと、嫌ではない。ないけれども、今は洗い物中だから離してほしい。けれど、強引に引き離す程、僕も薄情ではなくて、手に泡ついてるし、勢いつけるとお皿滑らせて割っちゃうかもだし、なんて言い訳をつけてそのまま放置する。この温もりは好きなのだ。僕だって。それを彼もわかってる。確信犯、ずるい。
『で、何が124年ぶりなの?』
さっきの話に戻さないと、菅原がそろそろ拗ねてしまう。いや、すでに今の時点で拗ねてはいるのかもだけども。仕方なしに聞き直すと、それはそれは嬉しそうな声で、菅原は話しだした。
「さっき聞いてなかったからクイズね!立春の前の日は何の日でしょーう!」
『りっしゅん…?』
「そう、立春!」
『んー…』
手を動かしたまま、考える。りっしゅん、りっしゅん、りっしゅん。あぁ、立春か。暦上の季節で、春が来る日か。暦的って実際の季節より、二ヶ月くらい早く来るんだった気がするけど…。春って、いつから春?3月?だとしたら1月頃だっけ?それとも純粋に4月?からの二ヶ月くらい前で2月?国語苦手だったし、わかんないや。そもそも暦の季節って祝日とかじゃないから意識しないって。でも、春の前の日だったら、あれかな。
『せつ、』
「ぶっぶー、残念時間切れ!答えは節分」
『あ、ずるい』
「惜しかったねぇ」
背後からくすくす笑い声がする。菅原のが背が高いので、ちょっと口元を抑えながら笑うとちょうど僕の耳の後ろあたりになる。
『くすぐったいよ』
肩越しに文句を言うと、「ごめん、ごめん」なんてちっとも気持ちのこもってない返事が返ってくる。まぁ、いいんだけどね。
泡を流し終えた食器を食洗機に並べていく。その間も、腰には菅原の手が巻き付いたまま。でも、もう慣れてしまった。
今は食洗機に入れれば洗ってくれる機能のあるやつもあるけど、個人的には汚いまま入れるのが嫌で僕はある程度手洗いしてからいれている。気持ちいいからね。それにしても…。
『孝ちゃん、いつまで笑ってるのさ』
さっきの、わざとだってわかってるんだからね。くすくすと笑い続ける菅原の横腹に手を回して擽ってみた。
「ごめんって。いや、反応が可愛くて、つい」
『だから、耳もとで笑わないでよ…』
もう確信犯通り越して嫌がらせだよ。振り返って、菅原に向き直ると、笑いすぎて頬のあたりが赤くなり、ちょっとだけ目頭に涙を浮かべる彼の姿があった。やっぱ、可愛くて好きだなぁ。
「……壮君、見惚れちゃってる?」
『そんなこと、ない』
まぁ直視は出来ないので、視線を外す。菅原はほんとに整った顔をしていて、ずるいと思う。急に真面目になるのだけは、一緒に暮らし始めてからもうすぐ10ヶ月近くになるというのになれない。しかもこの近距離。その顔に弱いの知ってるのかどうかはわかんないけど、すんごく目尻が下がって、ふんわり優しい表情になるのだ。自分でいうのも恥ずかしいけど、好きだよって視線が言ってる。ずるいなぁ、もう。
「…壮?こっち見てよ、見惚れてないなら、目線合わせてみて」
『ぜったいやだ!』
あー意地悪だ。おもちゃにされてるのだけは分かるから、そっぽを向いたまま、上手く菅原の腕をすり抜けて、リビングルームのソファーまでダッシュした。菅原は、やっぱりくすくす笑いながらゆっくり追いかけてきて、余裕そうだ。こっちは耳が熱くなってるというのに、もう。
「やだとかかわいい。…拗ねないでよ、壮」
『拗ねてない』
ないけど、顔は馬鹿にされるから見たくない。そう思ってキッチン側が背になるように座っていたら、ソファーの後ろから菅原の気配がした。
「壮、壮!」
今度は何するんだろ。そう思って振り返ると、ほっぺに人差し指の感触。
『孝ちゃん〜!』
後ろを振り向いた途端に頬を人差し指でむにっと触る菅原の姿があった。ぽかほかと軽めに腕を叩くと、あははと笑いながら、菅原が僕の隣に座ってくれた。
「ほんといちいちかわいーから。…話し戻すとね、さっきの124年ぶりっていうの節分なんだ」
『2月3日?』
「そう。今年は2月2日なんだって」
『えっ、節分って変わるものなんだ。てっきり、七夕と同じ感じで考えてた』
本当に驚いた声が出て、思わず口を抑えると、それが見たかったと言わんばかりに菅原が「驚いたべ?」と得意げに言った。
「立春って春が立つって書くべ?節分も字の通り、季節を分けるって意味。節分って雑節の一つなんだけど、季節の移り変わりをよりはっきりさせる特別な暦日なんだよな。夏の彼岸と一緒。ちなみに、七夕は、五節句のくくりだから、端午の節句とかと同じなんだ」
『さすが先生…』
まぁ、ここらへんは古典に入るだろうから専門外だけどな。と菅原が頭をかいた。
『でも行事の節分が印象強いから、僕みたいに勘違いしちゃうだろうね』
「だなー。もうそこは興味があるやつだけ聞きに来ーいって投げるかも」
『教えるのが仕事なのに…』
「俺は雑学王になーる」
『雑学王…』
「ちなみに1984年の37年前は節分が2月4日だったんだべ」
本当に雑学王みたいだ。というのは言わないけれど、先生はいろんな知識を持っていないといけないのは菅原を見てても感じる。教える教科以外の知識も日々つけていく必要がある。菅原はマメだから、こういうの得意分野で本当に努力家だ。笑顔の絶えない菅原を高校の頃からずっと見てきた。けど、まさか先生になるなんて思わなかった。高校時代から面倒見がよかったり、洞察力もあった。それがきっと今に生きてきてるんだろう。
『…すごいなぁ、その知識はどっから集めてくるの』
「そりゃあTVだったり、雑誌だったり、色々だべ。気になったら調べる!これ鉄則」
そんな菅原を間近で見てると、いつか追いてかれるんじゃないかって感じる。いや、もう背中すら見えないのかも。いつも近くにいる。それは物理的に同じ部屋で暮らしているからであって、ただ上司に言われた仕事だけこなして定時に上がってる公務員の僕なんて、日々知識を得ようと、仕事以外でも仕事のことを考えている菅原よりくらべる土台にもたてない。…こんな僕が菅原の隣にいていいんだろうか。
「壮?暗い顔になってる」
『そんなことは…』
「すーぐ否定する。見ればわかるっての。何年一緒だと思ってんの、舐めんな」
菅原はそういうと僕の腕を引いて、自分の方へ引き寄せた。一瞬重なる口と口。瞬きをする間に、またくっついた。
「悪い癖、出てるぞー」
『……』
癖って言われても、もうこれで20数年生きてきてるし、変えようがないんだってば。菅原は、僕が俯く時は碌なことを考えていないというのを知っている。そしていつも笑ってこういうのだ。
「俺はいつだって壮の“最強の味方”だぞ」
『…124?』
「あ、やっぱ聞いてなかったべ?そうかなーとは薄々思ってたけどさぁ」
手ぇ動かしながらでいーから構ってよ。そんなふうにぶつくさ言いながら、菅原が僕の腰に腕を回す。正直に言うと、嫌ではない。ないけれども、今は洗い物中だから離してほしい。けれど、強引に引き離す程、僕も薄情ではなくて、手に泡ついてるし、勢いつけるとお皿滑らせて割っちゃうかもだし、なんて言い訳をつけてそのまま放置する。この温もりは好きなのだ。僕だって。それを彼もわかってる。確信犯、ずるい。
『で、何が124年ぶりなの?』
さっきの話に戻さないと、菅原がそろそろ拗ねてしまう。いや、すでに今の時点で拗ねてはいるのかもだけども。仕方なしに聞き直すと、それはそれは嬉しそうな声で、菅原は話しだした。
「さっき聞いてなかったからクイズね!立春の前の日は何の日でしょーう!」
『りっしゅん…?』
「そう、立春!」
『んー…』
手を動かしたまま、考える。りっしゅん、りっしゅん、りっしゅん。あぁ、立春か。暦上の季節で、春が来る日か。暦的って実際の季節より、二ヶ月くらい早く来るんだった気がするけど…。春って、いつから春?3月?だとしたら1月頃だっけ?それとも純粋に4月?からの二ヶ月くらい前で2月?国語苦手だったし、わかんないや。そもそも暦の季節って祝日とかじゃないから意識しないって。でも、春の前の日だったら、あれかな。
『せつ、』
「ぶっぶー、残念時間切れ!答えは節分」
『あ、ずるい』
「惜しかったねぇ」
背後からくすくす笑い声がする。菅原のが背が高いので、ちょっと口元を抑えながら笑うとちょうど僕の耳の後ろあたりになる。
『くすぐったいよ』
肩越しに文句を言うと、「ごめん、ごめん」なんてちっとも気持ちのこもってない返事が返ってくる。まぁ、いいんだけどね。
泡を流し終えた食器を食洗機に並べていく。その間も、腰には菅原の手が巻き付いたまま。でも、もう慣れてしまった。
今は食洗機に入れれば洗ってくれる機能のあるやつもあるけど、個人的には汚いまま入れるのが嫌で僕はある程度手洗いしてからいれている。気持ちいいからね。それにしても…。
『孝ちゃん、いつまで笑ってるのさ』
さっきの、わざとだってわかってるんだからね。くすくすと笑い続ける菅原の横腹に手を回して擽ってみた。
「ごめんって。いや、反応が可愛くて、つい」
『だから、耳もとで笑わないでよ…』
もう確信犯通り越して嫌がらせだよ。振り返って、菅原に向き直ると、笑いすぎて頬のあたりが赤くなり、ちょっとだけ目頭に涙を浮かべる彼の姿があった。やっぱ、可愛くて好きだなぁ。
「……壮君、見惚れちゃってる?」
『そんなこと、ない』
まぁ直視は出来ないので、視線を外す。菅原はほんとに整った顔をしていて、ずるいと思う。急に真面目になるのだけは、一緒に暮らし始めてからもうすぐ10ヶ月近くになるというのになれない。しかもこの近距離。その顔に弱いの知ってるのかどうかはわかんないけど、すんごく目尻が下がって、ふんわり優しい表情になるのだ。自分でいうのも恥ずかしいけど、好きだよって視線が言ってる。ずるいなぁ、もう。
「…壮?こっち見てよ、見惚れてないなら、目線合わせてみて」
『ぜったいやだ!』
あー意地悪だ。おもちゃにされてるのだけは分かるから、そっぽを向いたまま、上手く菅原の腕をすり抜けて、リビングルームのソファーまでダッシュした。菅原は、やっぱりくすくす笑いながらゆっくり追いかけてきて、余裕そうだ。こっちは耳が熱くなってるというのに、もう。
「やだとかかわいい。…拗ねないでよ、壮」
『拗ねてない』
ないけど、顔は馬鹿にされるから見たくない。そう思ってキッチン側が背になるように座っていたら、ソファーの後ろから菅原の気配がした。
「壮、壮!」
今度は何するんだろ。そう思って振り返ると、ほっぺに人差し指の感触。
『孝ちゃん〜!』
後ろを振り向いた途端に頬を人差し指でむにっと触る菅原の姿があった。ぽかほかと軽めに腕を叩くと、あははと笑いながら、菅原が僕の隣に座ってくれた。
「ほんといちいちかわいーから。…話し戻すとね、さっきの124年ぶりっていうの節分なんだ」
『2月3日?』
「そう。今年は2月2日なんだって」
『えっ、節分って変わるものなんだ。てっきり、七夕と同じ感じで考えてた』
本当に驚いた声が出て、思わず口を抑えると、それが見たかったと言わんばかりに菅原が「驚いたべ?」と得意げに言った。
「立春って春が立つって書くべ?節分も字の通り、季節を分けるって意味。節分って雑節の一つなんだけど、季節の移り変わりをよりはっきりさせる特別な暦日なんだよな。夏の彼岸と一緒。ちなみに、七夕は、五節句のくくりだから、端午の節句とかと同じなんだ」
『さすが先生…』
まぁ、ここらへんは古典に入るだろうから専門外だけどな。と菅原が頭をかいた。
『でも行事の節分が印象強いから、僕みたいに勘違いしちゃうだろうね』
「だなー。もうそこは興味があるやつだけ聞きに来ーいって投げるかも」
『教えるのが仕事なのに…』
「俺は雑学王になーる」
『雑学王…』
「ちなみに1984年の37年前は節分が2月4日だったんだべ」
本当に雑学王みたいだ。というのは言わないけれど、先生はいろんな知識を持っていないといけないのは菅原を見てても感じる。教える教科以外の知識も日々つけていく必要がある。菅原はマメだから、こういうの得意分野で本当に努力家だ。笑顔の絶えない菅原を高校の頃からずっと見てきた。けど、まさか先生になるなんて思わなかった。高校時代から面倒見がよかったり、洞察力もあった。それがきっと今に生きてきてるんだろう。
『…すごいなぁ、その知識はどっから集めてくるの』
「そりゃあTVだったり、雑誌だったり、色々だべ。気になったら調べる!これ鉄則」
そんな菅原を間近で見てると、いつか追いてかれるんじゃないかって感じる。いや、もう背中すら見えないのかも。いつも近くにいる。それは物理的に同じ部屋で暮らしているからであって、ただ上司に言われた仕事だけこなして定時に上がってる公務員の僕なんて、日々知識を得ようと、仕事以外でも仕事のことを考えている菅原よりくらべる土台にもたてない。…こんな僕が菅原の隣にいていいんだろうか。
「壮?暗い顔になってる」
『そんなことは…』
「すーぐ否定する。見ればわかるっての。何年一緒だと思ってんの、舐めんな」
菅原はそういうと僕の腕を引いて、自分の方へ引き寄せた。一瞬重なる口と口。瞬きをする間に、またくっついた。
「悪い癖、出てるぞー」
『……』
癖って言われても、もうこれで20数年生きてきてるし、変えようがないんだってば。菅原は、僕が俯く時は碌なことを考えていないというのを知っている。そしていつも笑ってこういうのだ。
「俺はいつだって壮の“最強の味方”だぞ」
1/1ページ