mha-轟
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つい先日まで、噂でしか彼のことを知らず、姿さえ見たことはなかったはずなのに、1ヶ月もたたないうちに家に呼んでもらえるとは思わなかった。きっと彼も自分との距離をどうとっていいのか戸惑っているのだろう。きっと忘れてしまっているからこその罪悪感がある。だから不特定多数の人が集まるような学校ではなく、普段自分の過ごしている静かな場所を選んで、こうして話をしてくれようとしているのだ。
無心で問題を解く向かい側の彼の顔を正面から時々盗み見ながら、焦凍も怪しまれない程度に手を動かした。クラスの女子の噂していたように、所作が男子のそれではない。顔にかかりそうになる髪を耳にかけたり、問題を解くことに悩んでいるのかふっと息を吐き口元に手をあてている。テスト勉強を提案してくれた彼には申し訳ないが、全くと言っていいほど手がつけられなかった。
室内はお互いのシャーペンの芯がノートに字を綴る音のみ。その空間が心地よかった。
小一時間ほど経っただろうか。シャーペンの音が止まった。ふと気になって顔を上げると、こちらを見る志乃と視線がぶつかった。
『轟君、僕はあらかた復習終わったけどどう?』
「…俺も平気だ」
『そっか、じゃあお茶菓子でひと休憩入れようか』
「あぁ」
洋菓子に和菓子が少しずつ乗ったトレーを近くに寄せた志乃が『好みが分からなくて…』と笑った。
「お前は何が好きなんだ?」
『僕?…お菓子はあまり食べないんだ。果物がすき』
「そうか。わざわざ用意してもらって悪ぃな」
『ううん』
志乃が手短にあった小さなお煎餅を手にとって口に運んだ。
『あ、美味しい…』
「初めて食べたのか?」
『…うん、はじめて』
「珍しいな」
焦凍の言葉に志乃が頷いた。
『…きっと轟君が考えているより、知らないことが多いよ』
「そりゃお互い様だ」
志乃の表情からは苦笑いしか汲み取れず、焦凍もどんな顔をしていいかわからなかった。
「こないだも話したが、俺だってあの時の俺じゃねえ。知らねぇ事がたくさんあるってそんな悪いことか」
そんな焦凍の言葉を聞き、志乃は笑うのをやめた。そのままじっとこちらへ視線を送ってくれる。真っ直ぐに自分へ送られる眼差しに、内心気恥ずかしさがあったが、それでも今の思いを伝えたかった。
焦凍は手短にあったクッキーをつまんで口に運んだ。
「俺だって似たようなもんだ」
『……どういうこと?』
「俺は個性に負の感情ばかり抱いてた。その個性に執着し、母を傷つけた父 を超えてやろうって、それしか考えてなかった。…けど、緑谷が個性の価値に気づかせてくれた」
個性が出てから、正直いい思い出はなく、個性のせいでと、何度も思った。でも、個性を知らなかった頃の思い出があったから頑張ってこられた部分も、忘れていただけで、きっとあったはずだ。
だから夢に出てくる。
時間が経って美化された記憶だとしても、自分を支えてくれたものに変わりはない。
「むしろ知らねぇ事があればあるほど、これから気付ける。発見がたくさんあるってことだ。……悲観的になるなよ」
悪いことばかりじゃねぇ。
それが伝わったらいい。
そんな意味を込めた視線に彼はどう返してくれるだろうか。
無心で問題を解く向かい側の彼の顔を正面から時々盗み見ながら、焦凍も怪しまれない程度に手を動かした。クラスの女子の噂していたように、所作が男子のそれではない。顔にかかりそうになる髪を耳にかけたり、問題を解くことに悩んでいるのかふっと息を吐き口元に手をあてている。テスト勉強を提案してくれた彼には申し訳ないが、全くと言っていいほど手がつけられなかった。
室内はお互いのシャーペンの芯がノートに字を綴る音のみ。その空間が心地よかった。
小一時間ほど経っただろうか。シャーペンの音が止まった。ふと気になって顔を上げると、こちらを見る志乃と視線がぶつかった。
『轟君、僕はあらかた復習終わったけどどう?』
「…俺も平気だ」
『そっか、じゃあお茶菓子でひと休憩入れようか』
「あぁ」
洋菓子に和菓子が少しずつ乗ったトレーを近くに寄せた志乃が『好みが分からなくて…』と笑った。
「お前は何が好きなんだ?」
『僕?…お菓子はあまり食べないんだ。果物がすき』
「そうか。わざわざ用意してもらって悪ぃな」
『ううん』
志乃が手短にあった小さなお煎餅を手にとって口に運んだ。
『あ、美味しい…』
「初めて食べたのか?」
『…うん、はじめて』
「珍しいな」
焦凍の言葉に志乃が頷いた。
『…きっと轟君が考えているより、知らないことが多いよ』
「そりゃお互い様だ」
志乃の表情からは苦笑いしか汲み取れず、焦凍もどんな顔をしていいかわからなかった。
「こないだも話したが、俺だってあの時の俺じゃねえ。知らねぇ事がたくさんあるってそんな悪いことか」
そんな焦凍の言葉を聞き、志乃は笑うのをやめた。そのままじっとこちらへ視線を送ってくれる。真っ直ぐに自分へ送られる眼差しに、内心気恥ずかしさがあったが、それでも今の思いを伝えたかった。
焦凍は手短にあったクッキーをつまんで口に運んだ。
「俺だって似たようなもんだ」
『……どういうこと?』
「俺は個性に負の感情ばかり抱いてた。その個性に執着し、母を傷つけた
個性が出てから、正直いい思い出はなく、個性のせいでと、何度も思った。でも、個性を知らなかった頃の思い出があったから頑張ってこられた部分も、忘れていただけで、きっとあったはずだ。
だから夢に出てくる。
時間が経って美化された記憶だとしても、自分を支えてくれたものに変わりはない。
「むしろ知らねぇ事があればあるほど、これから気付ける。発見がたくさんあるってことだ。……悲観的になるなよ」
悪いことばかりじゃねぇ。
それが伝わったらいい。
そんな意味を込めた視線に彼はどう返してくれるだろうか。