mha-轟
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『産まれた時から3歳ぐらいの時まで、君と一緒に遊んだりしてた、んだって』
志乃がそう口にした時、分かりやすく彼の感情が伝わってきた。顔を合わせて話すのが二度目の自分でも分かる。
…嬉しいんだ。
僕の口から幼馴染だという証言が聞けたことが。
そのあとぎゅっと抱きしめられて、喜んでいる焦凍を見て、志乃は罪悪感しかなかった。つい先日まで忘れていたのだ。自分の記憶データを再生して、はじめて仲が良かったことを知った。また会えると言った自分の言葉に強く頷いてくれていた映像の中の彼を見て、ひどく胸が苦しくなった。
過去の自分に罪はない。
ただ行き場のないもやもやした感情がわいて仕方なかった。
放課後になり、焦凍は宣言通りにC組まで迎えにやってきた。ヒーロー科の人間が来ることを快く思っていない人が多いので、志乃は急ぎ足で荷物を持って教室を出た。
テスト勉強をやりながら話せる場所はどこだろうと考えながら昇降口に向かって歩いていると隣を歩く彼から話しかけられた。
「なぁ、何処に向かってるんだ?」
『げ…た、ばこ、だけど……』
何か不味かったかな?とおそるおそる隣を見ると、じっとこちらを見る彼とバッチリ目があってしまった。気まずさからとっさに目をそらす。
『……もしよければ僕の家でやらない?帰りは送ってもらえるようにするから』
そう言うと、彼は迷惑じゃねぇならと承諾してくれた。
志乃は周りからきっかけとなる話題を振ってくれることが多く、それを元に広げることが得意だった。ただ、その代わりに自分から話しかけることに関しては、緊張してどもってしまったり、頭で考えるあまりに周りの声が入らなくなることが多かった。
そして今、まさに家に向かっている車の車内でも、さっきと同じことが起きていた。
何か話さないとと考えこむ志乃をじっと見つめ、何を考えているのだろうと不思議そうに覗く焦凍という静かな空間は、少し音がするだけで気になるほどだ。どちらからも声が出ないまま、志乃の家に着いたことを運転手をしている志乃の執事が告げた。
『中で待ってて』
志乃がそう言って案内したのは、普段志乃が過ごしている部屋の隣にある客間だった。自分の部屋は殺風景すぎて恥ずかしかったのだ。気にした様子なく、あぁと返した彼に、自分の動揺が伝わらなくて良かったと安堵しながらドアを閉めた。
部屋で私服に着替え、勉強道具を整えたところで、ノックの音が聞こえた。
『はい』
「志乃様、お茶の準備が整いました。先にお運びしても?」
『あ、うん。僕も行く。…その様づけ、…』
「何度言われてもやめませんからね」
『はぁ…』
もう幾度となく同じやり取りを繰り返している彼にもそろそろ諦めてもらいたいものだ。もう何年もこの状態だから、諦めも半分は入っているのだけど。そんなドア越しの会話をさっと終えてから、志乃は部屋を出た。 廊下にいた志乃の執事、志田は幼少期より身の回りの世話をしてくれている。兄弟のいない志乃にとっては、父より年の近いお兄さんのような存在だ。
「ご友人をお呼びすると伺った時は驚きました」
『…ぁ、志田は轟君を知ってたよね』
「はい、存じておりました」
志田の言葉にあまり驚かず、志乃は曖昧に笑った。
『そうだよね。僕だけ忘れてたんだ』
独り言のように呟く志乃に、志田が眉を顰めたが、僅かに俯いていた志乃には見えていなかった。
『…行こう』
気持ちを切り替え顔を上げた志乃は、そのまま隣の部屋へ向かう。志田も後ろをついてくるのが足音でわかった。
『轟君、おまたせ』
そう言って中にはいる。勉強道具を置いてから、志田からティーポットののるトレーを受け取った。
「何かございましたらお申しつけください」
『うん、ありがとう』
志田は一礼してドアを閉めていった。彼を見送っていた志乃の背中に焦凍から声がかかる。
「全然変わらないな、あの人」
『…そうだね。ずっと、支えてくれてる』
「運転手に昇格したのか?」
『引っ越してからすぐ免許とったの』
テーブルにトレーを置いて、ティーポットから紅茶を注ぐ。いい香りが鼻孔を擽るも、志乃は何の香りか考える余裕まで持ち合わせていなかった。
これ以上、志田の話を広げないようにするにはどうするか、それしか頭になかった。
記憶を再生してわかったことだが、幼い頃志乃が焦凍と出かける時は徒歩圏内までと決められていたらしい。出かける時は必ず志田がいた。けれど、まだ免許を取得していなかった。…いつ取得したのか、具体的に聞かれたら、きっと言葉に詰まってしまう。そして彼がいつから自分といるのか、今いくつなのか知らなかった。誕生日は知っている。ただ、志田について詳しいことは何も知らなかった。というより知ろうとしなかったのだ。いずれ忘れてしまうことだからと、志乃から情報を取りに行かなかった。
『…明日のテスト教科だけ復習したら、気持ちに余裕も出てくると思う。話はそれからでもいい?』
「分かった」
口早に志乃が言うと、焦凍も了承してくれた。聞きたいことや話したいことが山ほどあるだろうに何も言わずにノートを開いた彼の優しさに感謝しか出てこない。志乃もそっと教科書を開きながら、改めて彼を見た。
志乃も同じくらい知りたいことがあった。
幼少期にはなかった顔の火傷。笑顔がほとんどなくなった表情。鋭さを増した目元。…一体何が彼を変えたのか。
でも同時に、家に招いたことを悔いている自分もどこかにいた。浅く広くが志乃の心がけてきた人間関係だ。個性が個性なだけに、遠くへ暫く離れてしまうようなことになった時、相手のことを忘れてしまう。今回がいい例だ。自分の身に起こったことでさえ忘れてしまう。自分の大切に思っている記憶でさえ、相手のことでさえ、全く思い出せなくなる。
いくら大好きな両親から受け継いだ個性だとしても、好きになれなかった。
志乃がそう口にした時、分かりやすく彼の感情が伝わってきた。顔を合わせて話すのが二度目の自分でも分かる。
…嬉しいんだ。
僕の口から幼馴染だという証言が聞けたことが。
そのあとぎゅっと抱きしめられて、喜んでいる焦凍を見て、志乃は罪悪感しかなかった。つい先日まで忘れていたのだ。自分の記憶データを再生して、はじめて仲が良かったことを知った。また会えると言った自分の言葉に強く頷いてくれていた映像の中の彼を見て、ひどく胸が苦しくなった。
過去の自分に罪はない。
ただ行き場のないもやもやした感情がわいて仕方なかった。
放課後になり、焦凍は宣言通りにC組まで迎えにやってきた。ヒーロー科の人間が来ることを快く思っていない人が多いので、志乃は急ぎ足で荷物を持って教室を出た。
テスト勉強をやりながら話せる場所はどこだろうと考えながら昇降口に向かって歩いていると隣を歩く彼から話しかけられた。
「なぁ、何処に向かってるんだ?」
『げ…た、ばこ、だけど……』
何か不味かったかな?とおそるおそる隣を見ると、じっとこちらを見る彼とバッチリ目があってしまった。気まずさからとっさに目をそらす。
『……もしよければ僕の家でやらない?帰りは送ってもらえるようにするから』
そう言うと、彼は迷惑じゃねぇならと承諾してくれた。
志乃は周りからきっかけとなる話題を振ってくれることが多く、それを元に広げることが得意だった。ただ、その代わりに自分から話しかけることに関しては、緊張してどもってしまったり、頭で考えるあまりに周りの声が入らなくなることが多かった。
そして今、まさに家に向かっている車の車内でも、さっきと同じことが起きていた。
何か話さないとと考えこむ志乃をじっと見つめ、何を考えているのだろうと不思議そうに覗く焦凍という静かな空間は、少し音がするだけで気になるほどだ。どちらからも声が出ないまま、志乃の家に着いたことを運転手をしている志乃の執事が告げた。
『中で待ってて』
志乃がそう言って案内したのは、普段志乃が過ごしている部屋の隣にある客間だった。自分の部屋は殺風景すぎて恥ずかしかったのだ。気にした様子なく、あぁと返した彼に、自分の動揺が伝わらなくて良かったと安堵しながらドアを閉めた。
部屋で私服に着替え、勉強道具を整えたところで、ノックの音が聞こえた。
『はい』
「志乃様、お茶の準備が整いました。先にお運びしても?」
『あ、うん。僕も行く。…その様づけ、…』
「何度言われてもやめませんからね」
『はぁ…』
もう幾度となく同じやり取りを繰り返している彼にもそろそろ諦めてもらいたいものだ。もう何年もこの状態だから、諦めも半分は入っているのだけど。そんなドア越しの会話をさっと終えてから、志乃は部屋を出た。 廊下にいた志乃の執事、志田は幼少期より身の回りの世話をしてくれている。兄弟のいない志乃にとっては、父より年の近いお兄さんのような存在だ。
「ご友人をお呼びすると伺った時は驚きました」
『…ぁ、志田は轟君を知ってたよね』
「はい、存じておりました」
志田の言葉にあまり驚かず、志乃は曖昧に笑った。
『そうだよね。僕だけ忘れてたんだ』
独り言のように呟く志乃に、志田が眉を顰めたが、僅かに俯いていた志乃には見えていなかった。
『…行こう』
気持ちを切り替え顔を上げた志乃は、そのまま隣の部屋へ向かう。志田も後ろをついてくるのが足音でわかった。
『轟君、おまたせ』
そう言って中にはいる。勉強道具を置いてから、志田からティーポットののるトレーを受け取った。
「何かございましたらお申しつけください」
『うん、ありがとう』
志田は一礼してドアを閉めていった。彼を見送っていた志乃の背中に焦凍から声がかかる。
「全然変わらないな、あの人」
『…そうだね。ずっと、支えてくれてる』
「運転手に昇格したのか?」
『引っ越してからすぐ免許とったの』
テーブルにトレーを置いて、ティーポットから紅茶を注ぐ。いい香りが鼻孔を擽るも、志乃は何の香りか考える余裕まで持ち合わせていなかった。
これ以上、志田の話を広げないようにするにはどうするか、それしか頭になかった。
記憶を再生してわかったことだが、幼い頃志乃が焦凍と出かける時は徒歩圏内までと決められていたらしい。出かける時は必ず志田がいた。けれど、まだ免許を取得していなかった。…いつ取得したのか、具体的に聞かれたら、きっと言葉に詰まってしまう。そして彼がいつから自分といるのか、今いくつなのか知らなかった。誕生日は知っている。ただ、志田について詳しいことは何も知らなかった。というより知ろうとしなかったのだ。いずれ忘れてしまうことだからと、志乃から情報を取りに行かなかった。
『…明日のテスト教科だけ復習したら、気持ちに余裕も出てくると思う。話はそれからでもいい?』
「分かった」
口早に志乃が言うと、焦凍も了承してくれた。聞きたいことや話したいことが山ほどあるだろうに何も言わずにノートを開いた彼の優しさに感謝しか出てこない。志乃もそっと教科書を開きながら、改めて彼を見た。
志乃も同じくらい知りたいことがあった。
幼少期にはなかった顔の火傷。笑顔がほとんどなくなった表情。鋭さを増した目元。…一体何が彼を変えたのか。
でも同時に、家に招いたことを悔いている自分もどこかにいた。浅く広くが志乃の心がけてきた人間関係だ。個性が個性なだけに、遠くへ暫く離れてしまうようなことになった時、相手のことを忘れてしまう。今回がいい例だ。自分の身に起こったことでさえ忘れてしまう。自分の大切に思っている記憶でさえ、相手のことでさえ、全く思い出せなくなる。
いくら大好きな両親から受け継いだ個性だとしても、好きになれなかった。