mha-轟
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彼の表情をみて嫌な予感がした。あの様子からして、きっと彼は志乃を知っている。彼の名前を知っている理由を伝えてからの動揺した様子が印象的だった。
「…志乃、学校で何かあったか?」
夕食の席で父から言われて、志乃は箸を止めた。
『どうして?』
心配をかけたくなかったし、自分のことだからと黙っていた。普段通り振舞っているつもりでいたのにと、父を見て苦笑いをこぼした。
「箸の進みが遅いから気になってな。いつもなら早々に食べ終えて、食後の紅茶を飲んでいるだろ」
父に言われて、テーブルを見ると、父よりおかずが減っていない。言われてから気づいたけれど、食欲もあまりわいていない自分がいた。諦めるように箸を箸置きに戻すと、父も箸を置いて、心配そうに志乃をみた。
「もういらないのか?どこか体調が悪いのか?」
『悪くないよ。……一つ聞きたいことがあるんだ』
「何だい?」
『エンデヴァーさんって知ってる?№2のヒーロー』
轟君とどこでいつ初めてあったのだろうとずっと考えていた。もやもやしていた。だから父からヒントでも得られればと思った。父はカメラマンだ。個性は完全記憶能力。一度見た光景をすべて記憶する能力を持っている。女優の母は、触れた相手に自分の感情を伝えることが出来、また相手の感情にも寄り添うことのできるエンパスにちかい個性を持つ。その息子である志乃は、自分の記憶を他者へ伝達できる個性を持っていた。だだし、志乃には欠点があった。それは父のように、全ての記憶を保持できるわけではなく、過去5年間の記憶しか保持できないことだ。それ以前の記憶は思い出すことができない。無理に思い出そうとすると、頭痛がしてその場に立っていることさえままならなくなるのだ。今日のように、考えたり推測する程度のことであれば、そこまでの事にはならないのだが、両親が志乃を過度に心配する理由の一端は、このことも関係しているのだと志乃自身思っている。
「あぁ、エンデヴァー…轟さんか。懐かしい名前だな」
父は目を細めて笑った。
「覚えてるよ。昔、隣同士で住んでたんだ。まだ、志乃に個性が出る少し前のことだ」
『隣に住んでいたんだ』
懐かしみながら話してくれる父は、視線を送っている志乃に気づいて、ふふっと笑った。
「あぁ。彼はお子さんが多いんだけど、同い年の焦凍君とは仲が良かったよ。よく遊びにいって暗くなるまで帰ってこないこともあった。引っ越しの日は、二人して泣いてたな」
焦凍…。轟君のことだ。引越しのことさえ覚えていない志乃にとっては、父から聞く話がどれも新鮮だった。同時に彼の言動にも納得がいく。彼は覚えてくれていたのだろう。10年も前に離れていった幼馴染のことを。
『……どうして引っ越したの?』
両親が考えなしに引っ越しするわけがないと、理由を尋ねた。父はその問いに、「志乃は呆れるかもしれないけどね」と前置きしてから答えてくれた。
「パパたちは、仕事と志乃の時間をどちらも取りたかったんだ」
『どちらも?』
「そう、欲張りだった。…静岡はママの大切な生まれ故郷だったけど、仕事をやめてまで住んでいたい場所ではなくて…。仕事が増えて、君との時間が減っていった。それでもお互い仕事は大切だった。大好きだったんだよ、志乃と過ごす時間と同じくらい。二人して選べなくてさ、子どもと同じくらい好きって周りに話したら、仕事人間だなって笑われたよ」
『でもどちらも取ってくれたから、今の生活があるよ』
当時の自分のことはわからない。きっと友達と離れ離れになって、駄々をこねたのかもしれない。でも今、志乃は幸せだった。
夕食の時には必ず両親のどちらかがいる。昔聞いたであろうその理由を志乃は忘れてしまったけれど、それほど過保護にさせてしまっているのはきっと自分のせいだという謎の確信もあった。 それは普段志乃に対して、向けてくれるものすべてに愛情が含まれている。それを実感できるほどだからだ。
「そう言ってもらえると、パパは嬉しいな」
本当に嬉しそうに笑う父を見て、改めて両親には心配をかけまいと思った。
食後の紅茶を、自分で部屋に運んだ。それを机に置いてから、クローゼットを開ける。中には黒い棚が収まっていた。
『個性が出る前の記憶…』
棚の中のパッケージにはそれぞれ年月日とその記録の中身が大雑把に書かれている。50以上あるそのデータパッケージは、すべて志乃の記憶を録画したDVDだ。志乃は自分の記憶を相手へ伝達できる。その方法として、まずひとつ目に相手の身体に触れて直に脳へ伝えるというもの、ふたつ目にテレビやパソコンなど相手に見せられる媒体に触れて、映像を流すことができた。そのため、5年間しか保持できないとわかった時に記憶を残す方法を試した結果がDVDに焼くことだった。前はテレビにディスクを入れて映像と同時に録画ボタンを押していたが、今はディスクを触って、記憶をコピーすることもできるようになった。ファイルとしてパソコンにもバックアップデータを残している。目で見た情報は映像を見た日から五年間志乃の中に残る。決してその当時の自分のことが思い出せるわけではないけれど、見ることでどういう関係だったのか知ることはできる。
『見終わったら、轟君と話せるかな』
個性のことは無闇に口にするなと父から釘を刺されていた。父曰く、決して見聞きしたものを忘れない個性を狙う人もいるらしい。父の体験談なのだろう。たとえそれが五年間だけだとしても、口外しない方が身のためだという。
久し振りって伝えたら、なんて答えてくれるかな。
「…志乃、学校で何かあったか?」
夕食の席で父から言われて、志乃は箸を止めた。
『どうして?』
心配をかけたくなかったし、自分のことだからと黙っていた。普段通り振舞っているつもりでいたのにと、父を見て苦笑いをこぼした。
「箸の進みが遅いから気になってな。いつもなら早々に食べ終えて、食後の紅茶を飲んでいるだろ」
父に言われて、テーブルを見ると、父よりおかずが減っていない。言われてから気づいたけれど、食欲もあまりわいていない自分がいた。諦めるように箸を箸置きに戻すと、父も箸を置いて、心配そうに志乃をみた。
「もういらないのか?どこか体調が悪いのか?」
『悪くないよ。……一つ聞きたいことがあるんだ』
「何だい?」
『エンデヴァーさんって知ってる?№2のヒーロー』
轟君とどこでいつ初めてあったのだろうとずっと考えていた。もやもやしていた。だから父からヒントでも得られればと思った。父はカメラマンだ。個性は完全記憶能力。一度見た光景をすべて記憶する能力を持っている。女優の母は、触れた相手に自分の感情を伝えることが出来、また相手の感情にも寄り添うことのできるエンパスにちかい個性を持つ。その息子である志乃は、自分の記憶を他者へ伝達できる個性を持っていた。だだし、志乃には欠点があった。それは父のように、全ての記憶を保持できるわけではなく、過去5年間の記憶しか保持できないことだ。それ以前の記憶は思い出すことができない。無理に思い出そうとすると、頭痛がしてその場に立っていることさえままならなくなるのだ。今日のように、考えたり推測する程度のことであれば、そこまでの事にはならないのだが、両親が志乃を過度に心配する理由の一端は、このことも関係しているのだと志乃自身思っている。
「あぁ、エンデヴァー…轟さんか。懐かしい名前だな」
父は目を細めて笑った。
「覚えてるよ。昔、隣同士で住んでたんだ。まだ、志乃に個性が出る少し前のことだ」
『隣に住んでいたんだ』
懐かしみながら話してくれる父は、視線を送っている志乃に気づいて、ふふっと笑った。
「あぁ。彼はお子さんが多いんだけど、同い年の焦凍君とは仲が良かったよ。よく遊びにいって暗くなるまで帰ってこないこともあった。引っ越しの日は、二人して泣いてたな」
焦凍…。轟君のことだ。引越しのことさえ覚えていない志乃にとっては、父から聞く話がどれも新鮮だった。同時に彼の言動にも納得がいく。彼は覚えてくれていたのだろう。10年も前に離れていった幼馴染のことを。
『……どうして引っ越したの?』
両親が考えなしに引っ越しするわけがないと、理由を尋ねた。父はその問いに、「志乃は呆れるかもしれないけどね」と前置きしてから答えてくれた。
「パパたちは、仕事と志乃の時間をどちらも取りたかったんだ」
『どちらも?』
「そう、欲張りだった。…静岡はママの大切な生まれ故郷だったけど、仕事をやめてまで住んでいたい場所ではなくて…。仕事が増えて、君との時間が減っていった。それでもお互い仕事は大切だった。大好きだったんだよ、志乃と過ごす時間と同じくらい。二人して選べなくてさ、子どもと同じくらい好きって周りに話したら、仕事人間だなって笑われたよ」
『でもどちらも取ってくれたから、今の生活があるよ』
当時の自分のことはわからない。きっと友達と離れ離れになって、駄々をこねたのかもしれない。でも今、志乃は幸せだった。
夕食の時には必ず両親のどちらかがいる。昔聞いたであろうその理由を志乃は忘れてしまったけれど、それほど過保護にさせてしまっているのはきっと自分のせいだという謎の確信もあった。 それは普段志乃に対して、向けてくれるものすべてに愛情が含まれている。それを実感できるほどだからだ。
「そう言ってもらえると、パパは嬉しいな」
本当に嬉しそうに笑う父を見て、改めて両親には心配をかけまいと思った。
食後の紅茶を、自分で部屋に運んだ。それを机に置いてから、クローゼットを開ける。中には黒い棚が収まっていた。
『個性が出る前の記憶…』
棚の中のパッケージにはそれぞれ年月日とその記録の中身が大雑把に書かれている。50以上あるそのデータパッケージは、すべて志乃の記憶を録画したDVDだ。志乃は自分の記憶を相手へ伝達できる。その方法として、まずひとつ目に相手の身体に触れて直に脳へ伝えるというもの、ふたつ目にテレビやパソコンなど相手に見せられる媒体に触れて、映像を流すことができた。そのため、5年間しか保持できないとわかった時に記憶を残す方法を試した結果がDVDに焼くことだった。前はテレビにディスクを入れて映像と同時に録画ボタンを押していたが、今はディスクを触って、記憶をコピーすることもできるようになった。ファイルとしてパソコンにもバックアップデータを残している。目で見た情報は映像を見た日から五年間志乃の中に残る。決してその当時の自分のことが思い出せるわけではないけれど、見ることでどういう関係だったのか知ることはできる。
『見終わったら、轟君と話せるかな』
個性のことは無闇に口にするなと父から釘を刺されていた。父曰く、決して見聞きしたものを忘れない個性を狙う人もいるらしい。父の体験談なのだろう。たとえそれが五年間だけだとしても、口外しない方が身のためだという。
久し振りって伝えたら、なんて答えてくれるかな。