mha-轟
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隣に住んでいた幼馴染との初対面はいつだったのか。それは俺に聞かれてもわからない。なんせ気づいたら、隣に彼はいた。隣同士だったからこそ、きっと産まれて間もない頃から付き合いがあったのだろう。父や母に当時のことを聞くのは難しいため、これは推測に過ぎない。ただ俺から言えることは、幼稚園に入るより前から、顔を知っていて遊んだことがあるということくらいだ。
幼馴染の名前は覚えていない。覚えているのは、髪色と彼のことをそらくんと呼んでいたことだ。彼の家の花壇がどの季節も綺麗で、その中を歩く彼の髪色が空の色に似ていた。いつも母に空じゃなくて勿忘草色に近いのよと何度か訂正もされたけど、当時の俺は勿忘草を見たことがなくて、最後までそらくんと呼び続けていた。
彼がいなくなってから、はじめて勿忘草をみた。彼が忘れないでと言っているかのをように、偶然道端に咲くのを見かけたのだ。
4歳になり個性が出てから、5歳ごろから始まった父の特訓が辛かった。あまりに体中が痛くて、泣いていた日に思い出すのは、いつも彼からもらった言葉の数々だった。
彼は一言で言えば、快活な少年だった。前へ前へと引っ張ってくれる力、それも強引なやり方じゃなくて、自然と体が動くような説得力を持って声をかけてくれていた。もともと目立つのが苦手で大人しい焦凍でも、彼はきっと誰からも好かれるという確信が得られるほどだった。
「今日はどこへ行こうか?」
「そらくんの行きたいとこでいい」
行きたいところがあってもなかなか自分から言い出せない。こういうやり取りを何度となくしたけれど、そらくんはそのたびに嫌な顔をせず、一緒に考えてくれていた。
「そう?んー、昨日はぞうさん公園だったから…、あっ」
例えば、それは焦凍がふと視線を送った場所だったり、興味のありそうな場所を提案してくれるのだった。今思えば、決して彼自身の行きたい場所は言わなかった。
「みはらしの丘行こう?」
きっと夕焼け綺麗だよ。
そういって手を伸ばし、笑いかけてくれた。
昔から相手が喜びそうなことを考えついてすぐ実行に移す。積極性や実行力はあるのに、強引すぎないところが彼の魅力であり、大好きだった。
保健室は下校時間に近づき人気がなかった。一先ず、空いているベッドに彼の体を横たえさせた。リカバリーガールの姿もなく、どうしたものかと視線を彷徨わせる。
ここに来るまでの間にも彼は起きる気配がまるでなくて、体温と上下する胸だけが焦凍を安心させていた。
職員室かと考え、部屋を離れようとしたその時、見計らったように視線の先のドアが開いた。
「おや、こんな時間に怪我人かい?」
リカバリーガールの問いかけに首を振る。ただどう伝えたらいいのかわからず、「いや…、ただ、起きなくて」とありのままの様子を伝えながら、ベッドに視線を戻した。
話し声すら気にならないのか、全く起きる気配がない。
「……彼の事なら安心していいよ。眠ってるだけだねぇ」
「何ともないですか?」
「あぁ、個性が影響してるのさ。気にするなとは言わんが、じきに目が覚めるさね」
リカバリーガールがピクリともしない彼をちらりと見て苦笑した。
「でもまぁ、…初めて見た時は、不思議なこともあると思ったもんさ。そんなに気になるかい?」
顔を上げた彼女と目があう。大方、なかなか帰れずにいる理由を、彼が目を覚まさないことだと結びつけたのだろう。
それ以外にも焦凍には理由があった。別の意味で気になっていた。
「まぁ……」
誤魔化すこともできず、言葉を濁す。そんな焦凍をみたリカバリーガールは、椅子を準備すると言ってベッドを離れて行った。それを目で追ってから、再びベッドに眠る彼に視線を送る。
すると、眉間にシワが寄り始め、「うっ…」と、呻くような声を出した彼が目を開けた。部屋の電気が眩しいのか、開けたあともぼんやりした表情で目を細めている。
「あぁ…起きたんだねぇ、平気かい?」
いつの間にか戻ってきたリカバリーガールの問いかけに、彼は焦凍とはベッドの対面にいた彼女を見て、不思議そうにな表情をした。
『……、ほけんしつ、ですか?あれ、何で……』
「運んできてくれたそうだよ」
リカバリーガールが焦凍に視線を送った。それを見て彼も焦凍を見た。ぼんやりしていた意識がはっきりとしてきて、綺麗な瞳の中に焦凍が映る。目があった。ただそれだけのことなのにどきりと胸がはねた。
『……轟君』
「!…知ってるのか?」
『体育祭で大活躍してたから。…有名人だもん。流石にね』
くすっと笑って、彼は自身の右手を使って身体を起こした。初対面に人に話しかけるような他人行儀な受け応えに少なからずダメージを受ける。
「それだけか…?」
『ん?聞こえなかった、もう一度…』
「いや、独り言だ」
『そう?』
彼は暫く焦凍を見ていたが、リカバリーガールが「何ともないかい?」と気にかけたことで、彼女をみた。
『はい、頭が痛いですけど、多分ぶつけただけだから』
「……帰ったらゆっくり休むことだね」
『ごめんなさい。…気をつけます』
側頭部に軽く手を当てた彼は、また焦凍に視線を送った。
『1年C組保月志乃。今日はありがとね』
「あぁ、…今度は家につくまで倒れるなよ」
『うん』
ふわりと笑った保月は女子が騒ぐように、綺麗な顔立ちをしている。リカバリーガールとのやり取りを見ていても彼が好感のもてる人物だということを実感した。ただ焦凍は、自分を繕う余裕すらなくなっていて、当たり障りのない答えだけを返し、その場を離れた。
彼は覚えていない。それは確信だった。
幼馴染の名前は覚えていない。覚えているのは、髪色と彼のことをそらくんと呼んでいたことだ。彼の家の花壇がどの季節も綺麗で、その中を歩く彼の髪色が空の色に似ていた。いつも母に空じゃなくて勿忘草色に近いのよと何度か訂正もされたけど、当時の俺は勿忘草を見たことがなくて、最後までそらくんと呼び続けていた。
彼がいなくなってから、はじめて勿忘草をみた。彼が忘れないでと言っているかのをように、偶然道端に咲くのを見かけたのだ。
4歳になり個性が出てから、5歳ごろから始まった父の特訓が辛かった。あまりに体中が痛くて、泣いていた日に思い出すのは、いつも彼からもらった言葉の数々だった。
彼は一言で言えば、快活な少年だった。前へ前へと引っ張ってくれる力、それも強引なやり方じゃなくて、自然と体が動くような説得力を持って声をかけてくれていた。もともと目立つのが苦手で大人しい焦凍でも、彼はきっと誰からも好かれるという確信が得られるほどだった。
「今日はどこへ行こうか?」
「そらくんの行きたいとこでいい」
行きたいところがあってもなかなか自分から言い出せない。こういうやり取りを何度となくしたけれど、そらくんはそのたびに嫌な顔をせず、一緒に考えてくれていた。
「そう?んー、昨日はぞうさん公園だったから…、あっ」
例えば、それは焦凍がふと視線を送った場所だったり、興味のありそうな場所を提案してくれるのだった。今思えば、決して彼自身の行きたい場所は言わなかった。
「みはらしの丘行こう?」
きっと夕焼け綺麗だよ。
そういって手を伸ばし、笑いかけてくれた。
昔から相手が喜びそうなことを考えついてすぐ実行に移す。積極性や実行力はあるのに、強引すぎないところが彼の魅力であり、大好きだった。
保健室は下校時間に近づき人気がなかった。一先ず、空いているベッドに彼の体を横たえさせた。リカバリーガールの姿もなく、どうしたものかと視線を彷徨わせる。
ここに来るまでの間にも彼は起きる気配がまるでなくて、体温と上下する胸だけが焦凍を安心させていた。
職員室かと考え、部屋を離れようとしたその時、見計らったように視線の先のドアが開いた。
「おや、こんな時間に怪我人かい?」
リカバリーガールの問いかけに首を振る。ただどう伝えたらいいのかわからず、「いや…、ただ、起きなくて」とありのままの様子を伝えながら、ベッドに視線を戻した。
話し声すら気にならないのか、全く起きる気配がない。
「……彼の事なら安心していいよ。眠ってるだけだねぇ」
「何ともないですか?」
「あぁ、個性が影響してるのさ。気にするなとは言わんが、じきに目が覚めるさね」
リカバリーガールがピクリともしない彼をちらりと見て苦笑した。
「でもまぁ、…初めて見た時は、不思議なこともあると思ったもんさ。そんなに気になるかい?」
顔を上げた彼女と目があう。大方、なかなか帰れずにいる理由を、彼が目を覚まさないことだと結びつけたのだろう。
それ以外にも焦凍には理由があった。別の意味で気になっていた。
「まぁ……」
誤魔化すこともできず、言葉を濁す。そんな焦凍をみたリカバリーガールは、椅子を準備すると言ってベッドを離れて行った。それを目で追ってから、再びベッドに眠る彼に視線を送る。
すると、眉間にシワが寄り始め、「うっ…」と、呻くような声を出した彼が目を開けた。部屋の電気が眩しいのか、開けたあともぼんやりした表情で目を細めている。
「あぁ…起きたんだねぇ、平気かい?」
いつの間にか戻ってきたリカバリーガールの問いかけに、彼は焦凍とはベッドの対面にいた彼女を見て、不思議そうにな表情をした。
『……、ほけんしつ、ですか?あれ、何で……』
「運んできてくれたそうだよ」
リカバリーガールが焦凍に視線を送った。それを見て彼も焦凍を見た。ぼんやりしていた意識がはっきりとしてきて、綺麗な瞳の中に焦凍が映る。目があった。ただそれだけのことなのにどきりと胸がはねた。
『……轟君』
「!…知ってるのか?」
『体育祭で大活躍してたから。…有名人だもん。流石にね』
くすっと笑って、彼は自身の右手を使って身体を起こした。初対面に人に話しかけるような他人行儀な受け応えに少なからずダメージを受ける。
「それだけか…?」
『ん?聞こえなかった、もう一度…』
「いや、独り言だ」
『そう?』
彼は暫く焦凍を見ていたが、リカバリーガールが「何ともないかい?」と気にかけたことで、彼女をみた。
『はい、頭が痛いですけど、多分ぶつけただけだから』
「……帰ったらゆっくり休むことだね」
『ごめんなさい。…気をつけます』
側頭部に軽く手を当てた彼は、また焦凍に視線を送った。
『1年C組保月志乃。今日はありがとね』
「あぁ、…今度は家につくまで倒れるなよ」
『うん』
ふわりと笑った保月は女子が騒ぐように、綺麗な顔立ちをしている。リカバリーガールとのやり取りを見ていても彼が好感のもてる人物だということを実感した。ただ焦凍は、自分を繕う余裕すらなくなっていて、当たり障りのない答えだけを返し、その場を離れた。
彼は覚えていない。それは確信だった。