mha-轟
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『個性に負の感情…か。悲観的になるのは個性が大半の原因なんだけど。……同じ、だね。僕の場合、両親は好きだけど、個性は好きじゃないんだ』
静かに語り始めてから、志乃の視線が自然と下に落ちていく。その様子から、話したくないことなのだろうと容易に想像することはできた。ただ、それでも彼はゆっくり話し続けてくれていた。
紅茶はすでに冷たくなっている。それでも部屋にはポットの中の紅茶の香りがふわふわ漂っているようだった。
『僕の個性はちょっと大きな声では教えられない個性なんだ。家族と学校、主治医くらいしか知らない。父さんと全く同じ個性を持ってるけど、隠して生きてきたって言ってた』
志乃の両親は確かプロカメラマンをしている父親とヒーロー兼女優の母親だった。二人とも多忙な中でも家族との時間を大切にしているとテレビを通して見たことがある。父親はメディアにこそ顔を出さないものの、実際にあったことのある自分としては、志乃のことを激愛しているのだと子供ながらに感じていた。
『知られたら悪用されかねない個性でね。知られるくらいなら、…無個性と偽るほうがって。だから僕も、その手の話題は避けてきた。……君が、初めてなんだ』
自分の指先を動かしながら静かに話していた志乃がふと手の動きを止めた。
『轟君』
ぼんやりその動きを見つめていた焦凍は顔を上げた。こちらを見つめていた志乃と目が合う。
「なんだ?」
そう問いかけると、しばしの間のあと真顔だった志乃が、ふわっと目を細めて笑った。
『…轟君にだったら、いつか話せるかもしれない』
何を、とは言わなくても察することができた。
「何故そう思うんだ?」
ただ、どうしてかはわからなかった。
頑なに避けてきた話題をこんなにもあっさりと打ち分けてくれるのか。彼にとって自分はまだ会話した印象が殆ど無い相手だろう。焦凍にとってしたって、顔を忘れていたし、そもそも子供の頃のことなど鮮明に覚えている人間なんて多くない。それこそ記憶や実体験を忘れないような個性を持っていなければ難しいはずだ。
『直感…かな。まだ君のことあまり知らないけど、君だったら何となく大丈夫だ、信頼できるって思える』
真剣な声色で言った志乃は少しして、恥ずかしくなったのかくすっと笑った。
「……保月」
『あっ、ふざけてるわけじゃないんだ!こういう話するつもりなかったから、言葉がまとまってなくて、だけど、君ならって……』
「…………」
『……不信感を抱かせたならごめんね?』
「…そーいう、わけじゃ…ないだが」
焦凍の表情に、何か感じるものがあったのだろう。志乃から謝罪の言葉がもれた。でも事実反論できない自分がいて、焦凍は言葉に詰まりながらもこのもやもやを何とか伝えようと口を開いた。
「相手を見る力がきっとお前にはある。だから個性を隠していても、それを馬鹿にする奴らがいなくて、周りからも慕われてる」
『……そんなことないよ』
「謙遜するな。………ただ、俺は…。お前にとって、最重要機密を話せるような間柄じゃねぇはずだ……。その直感とやらが外れたらどうすんだ。俺が自分の知り合いに話すリスクは考えなかったのか」
そこまで言ってから、自分の言いたかったことがようやくわかった。もやもやしていたそのわけは、初対面に近い相手に対する危機感のなさだ。
志乃は話しやすいやつなのだろう。実際に人気があるように見える。今までもこんなふうに人と接してきたんだとしたら、心配したくもなる。
『僕のこと、そんなに親身になって考えてくれているだけで十分証拠だよ。いい人なんだ、轟君は』
志乃はティーカップの縁を指先でなぞりながら、くすっと笑った。
『……個性に対して感じてる感情も近いものがあったし、何故か勝手に親近感がわいてる。それに家族のこと、話してくれた。それだけ轟君が僕のために話してくれてるってことは、僕もそれなりの話を君にしたいなって。それに例え悪用されたって轟君の信頼してる人になら悔いはないよ。悪い人いなさそうだもん』
「それも直感か?」
『んーなんだろうね。しっかり向き合いたいんだと思うよ、きっと君に』
向き合いたい、か。
『あ、さめちゃってたね』
焦凍は志乃が執事を呼んで、新しいティーカップと紅茶のセットを運んでもらってるのを静かに見ながらぼんやりと先ほどの言葉を反芻していた。
『淹れ直したよ、轟君』
「…………」
『轟君……?』
「保月」
『ん?』
「俺も…お前のこと、もっと知りてぇって思ってる。これかも時々話がしてぇ」
自分から相手を知りたいと伝えるのはこれが初めてかもしれなかった。志乃のきょとんとした顔を見る限り、きっと言われるのは初めての事だったんだろう。
「だから、……また家に来てもいいか?」
人に対して好奇心がわくとは思わなかった。
けれど、知りたい。
『うん、大丈夫だよ。これから宜しくね、轟君』
その笑顔の中に隠されたことをもっと話してほしい。
差し出された手を握る。ふわっと笑った志乃の笑顔に幼い頃見た顔が重なった。
この握手に誓ってもう泣かせたりしないと心に決めた。
静かに語り始めてから、志乃の視線が自然と下に落ちていく。その様子から、話したくないことなのだろうと容易に想像することはできた。ただ、それでも彼はゆっくり話し続けてくれていた。
紅茶はすでに冷たくなっている。それでも部屋にはポットの中の紅茶の香りがふわふわ漂っているようだった。
『僕の個性はちょっと大きな声では教えられない個性なんだ。家族と学校、主治医くらいしか知らない。父さんと全く同じ個性を持ってるけど、隠して生きてきたって言ってた』
志乃の両親は確かプロカメラマンをしている父親とヒーロー兼女優の母親だった。二人とも多忙な中でも家族との時間を大切にしているとテレビを通して見たことがある。父親はメディアにこそ顔を出さないものの、実際にあったことのある自分としては、志乃のことを激愛しているのだと子供ながらに感じていた。
『知られたら悪用されかねない個性でね。知られるくらいなら、…無個性と偽るほうがって。だから僕も、その手の話題は避けてきた。……君が、初めてなんだ』
自分の指先を動かしながら静かに話していた志乃がふと手の動きを止めた。
『轟君』
ぼんやりその動きを見つめていた焦凍は顔を上げた。こちらを見つめていた志乃と目が合う。
「なんだ?」
そう問いかけると、しばしの間のあと真顔だった志乃が、ふわっと目を細めて笑った。
『…轟君にだったら、いつか話せるかもしれない』
何を、とは言わなくても察することができた。
「何故そう思うんだ?」
ただ、どうしてかはわからなかった。
頑なに避けてきた話題をこんなにもあっさりと打ち分けてくれるのか。彼にとって自分はまだ会話した印象が殆ど無い相手だろう。焦凍にとってしたって、顔を忘れていたし、そもそも子供の頃のことなど鮮明に覚えている人間なんて多くない。それこそ記憶や実体験を忘れないような個性を持っていなければ難しいはずだ。
『直感…かな。まだ君のことあまり知らないけど、君だったら何となく大丈夫だ、信頼できるって思える』
真剣な声色で言った志乃は少しして、恥ずかしくなったのかくすっと笑った。
「……保月」
『あっ、ふざけてるわけじゃないんだ!こういう話するつもりなかったから、言葉がまとまってなくて、だけど、君ならって……』
「…………」
『……不信感を抱かせたならごめんね?』
「…そーいう、わけじゃ…ないだが」
焦凍の表情に、何か感じるものがあったのだろう。志乃から謝罪の言葉がもれた。でも事実反論できない自分がいて、焦凍は言葉に詰まりながらもこのもやもやを何とか伝えようと口を開いた。
「相手を見る力がきっとお前にはある。だから個性を隠していても、それを馬鹿にする奴らがいなくて、周りからも慕われてる」
『……そんなことないよ』
「謙遜するな。………ただ、俺は…。お前にとって、最重要機密を話せるような間柄じゃねぇはずだ……。その直感とやらが外れたらどうすんだ。俺が自分の知り合いに話すリスクは考えなかったのか」
そこまで言ってから、自分の言いたかったことがようやくわかった。もやもやしていたそのわけは、初対面に近い相手に対する危機感のなさだ。
志乃は話しやすいやつなのだろう。実際に人気があるように見える。今までもこんなふうに人と接してきたんだとしたら、心配したくもなる。
『僕のこと、そんなに親身になって考えてくれているだけで十分証拠だよ。いい人なんだ、轟君は』
志乃はティーカップの縁を指先でなぞりながら、くすっと笑った。
『……個性に対して感じてる感情も近いものがあったし、何故か勝手に親近感がわいてる。それに家族のこと、話してくれた。それだけ轟君が僕のために話してくれてるってことは、僕もそれなりの話を君にしたいなって。それに例え悪用されたって轟君の信頼してる人になら悔いはないよ。悪い人いなさそうだもん』
「それも直感か?」
『んーなんだろうね。しっかり向き合いたいんだと思うよ、きっと君に』
向き合いたい、か。
『あ、さめちゃってたね』
焦凍は志乃が執事を呼んで、新しいティーカップと紅茶のセットを運んでもらってるのを静かに見ながらぼんやりと先ほどの言葉を反芻していた。
『淹れ直したよ、轟君』
「…………」
『轟君……?』
「保月」
『ん?』
「俺も…お前のこと、もっと知りてぇって思ってる。これかも時々話がしてぇ」
自分から相手を知りたいと伝えるのはこれが初めてかもしれなかった。志乃のきょとんとした顔を見る限り、きっと言われるのは初めての事だったんだろう。
「だから、……また家に来てもいいか?」
人に対して好奇心がわくとは思わなかった。
けれど、知りたい。
『うん、大丈夫だよ。これから宜しくね、轟君』
その笑顔の中に隠されたことをもっと話してほしい。
差し出された手を握る。ふわっと笑った志乃の笑顔に幼い頃見た顔が重なった。
この握手に誓ってもう泣かせたりしないと心に決めた。