enst-紅茶部
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ゴメンな、驚いたろ
衣更先輩からのメモの最初はそんなはじまりだった。先輩には何も否がないのにメモまでもらって申し訳無さが募った。
それにしても、丁寧な字形。
一文字一文字が丁寧で綺麗で、先輩の性格が出ているなぁと思った。指でなぞって続きを読む。
驚かせるつもりも、怖がらせるつもりも
アイツにはなかったんだ
まぁそれは雰囲気でわかるだろ?
良い奴なんだ、ただちょっと空気が伝わらないだけで。
放課後のことだけどさ、
俺が1Aまで迎えに行くよ
待ち合わせより不安がなくなるだろ?
だから、教室で待ってて
衣更
最後まで読んで、ほんとに迷惑しかかけていない自分が情けなくなる。こんなうじうじした性格でなければ、先輩にご足労までかけることはなかったはずなのに。
メモに視線を向けたまま、ため息ばかりついていたら、紫之くんが背中を押してくれた。
「ため息ばかりじゃ幸せが逃げちゃいますよ?」
『紫之くん…』
「花守くんって、周りに気を張ってばかりで、見ていて心配になっちゃうんですよね」
『そんなこと…』
「ない…とは言わせません。……苦手って、誰にでもあると思うんです。ぼくは明星先輩のこと大好きです。前だけを見て歩いている眩しい先輩だからこそ、憧れちゃってるんです。でもキラキラな先輩をきっと苦手な人もいる」
紫之くんは優しい目で先輩の話をした。とても柔らかい声で、大切な人なんだってわかる気持ちがこもった言葉だった。
『皆に慕われてる人でも……?』
「万人から好かれるなんて、誰にだって難しいんです。苦手なら、周りに迷惑をかけたっていいんです。だって周りは迷惑だと感じません。君に頼られて嬉しいって思うんです。だから衣更先輩だって、きっと」
『そう…なのかな』
僕が人見知りを克服して、誰とでも…それこそあの明星先輩や衣更先輩のように、怖気づかずに話しかけられる人になれれば…。
「花守?」
『っ!衣更…せんぱい?』
気がつくと衣更先輩が、僕の前の席から顔を覗き込んでいて、心臓が飛び出しそうなほど驚いた。
「ごめんな。考え事してたみたいだったから、前の席借りてたんだ」
「ぼくも声、かけたんですけど」
『…紫之くんも?ご、ごめんね…ぼんやりしてたんだね』
僕が謝ると、二人して顔を合わせて苦笑した。
「すぐ謝るよな、花守は」
「ですね」
「俺は紫之にも同じことが言えると思ってるけど?」
「え!す、すみませんっ、これから気をつけますね!」
「言ってる側からだぞ」
「っ、くせなのかもしれませんね」
コントのような会話についていけず、二人をぼんやりとみていると、それに気づいた衣更先輩が苦笑いを浮かべた。
「行こうぜ、花守」
先輩の差し出してくれる掌はとても大きくて、頼りがいのありそうな優しいものだった。
『衣更先輩って苦手なひといるのかな…』
体育館への道すがら考えていた。
前を歩く先輩に緊張しながらもずっと見ていた彼の背中。大きくて、包容力のある1つ年上の先輩。1つしか違わないけど、大きな1年。そんなことを考えていたら、ふと、先ほどまでの紫之くんとの会話を思い出して。万人から好かれる性格を持っている先輩は、きっと苦手と感じる前に克服術を編み出していそう。
「なんだ、ずっと考え事してるなと思ってたらそんなことか」
『わっ!』
先輩の声が聞こえたと思ったら、急に立ち止まった先輩の背中に思い切り顔をぶつけた。
「おっ、ゴメンな?」
『せ、先輩…?』
「けど、俺も苦手な人くらいいるから、否定しときたくってさ」
振り返った衣更先輩は、苦笑しながら僕の髪を乱暴に撫でた。
「周りがみんな受け入れられる人間ってわけじゃない。けど、効率をよくするのってやっぱ関係をしっかり築かなきゃって思うから。面倒事を増やさないように何事も上手く回せるようにしてるだけなんだよ、俺は」
きょとんと言葉を返せずにいた僕は、少し高めにある先輩の顔を見上げた。
『どうやって苦手な人と向き合っているんですか?』
僕の一番聞きたかったことは、たぶんこっちだ。好かれる性格だとみんなから思われてる先輩。でも苦手な人もいると言った。誰からも好かれてる人だったなら、きっとたくさんの人が魅了されて、話したいと思って近づいてくる。それはアイドルとしてはいいことというかありがたいことになるとは思うけど。
「うーん…、相手を理解したいと思う気持ち、かな。考え方って人それぞれだから、考えを聞いて、苦手だなと感じることはあっても、苦手だから避けるみたいなことをしてない。人は人、なんだからさ」
そういって先輩は、「ほら行くぞー」と僕に背を向け歩き出す。僕も小走りで近寄って、先輩を追いかけた。
衣更先輩、かっこいいなぁ…
好かれてる先輩の考えが聞けて、僕もそんなふうに考えられたら、少しは今の自分を変えていけるかもなんて、漠然とした考えが頭をよぎった。
衣更先輩からのメモの最初はそんなはじまりだった。先輩には何も否がないのにメモまでもらって申し訳無さが募った。
それにしても、丁寧な字形。
一文字一文字が丁寧で綺麗で、先輩の性格が出ているなぁと思った。指でなぞって続きを読む。
驚かせるつもりも、怖がらせるつもりも
アイツにはなかったんだ
まぁそれは雰囲気でわかるだろ?
良い奴なんだ、ただちょっと空気が伝わらないだけで。
放課後のことだけどさ、
俺が1Aまで迎えに行くよ
待ち合わせより不安がなくなるだろ?
だから、教室で待ってて
衣更
最後まで読んで、ほんとに迷惑しかかけていない自分が情けなくなる。こんなうじうじした性格でなければ、先輩にご足労までかけることはなかったはずなのに。
メモに視線を向けたまま、ため息ばかりついていたら、紫之くんが背中を押してくれた。
「ため息ばかりじゃ幸せが逃げちゃいますよ?」
『紫之くん…』
「花守くんって、周りに気を張ってばかりで、見ていて心配になっちゃうんですよね」
『そんなこと…』
「ない…とは言わせません。……苦手って、誰にでもあると思うんです。ぼくは明星先輩のこと大好きです。前だけを見て歩いている眩しい先輩だからこそ、憧れちゃってるんです。でもキラキラな先輩をきっと苦手な人もいる」
紫之くんは優しい目で先輩の話をした。とても柔らかい声で、大切な人なんだってわかる気持ちがこもった言葉だった。
『皆に慕われてる人でも……?』
「万人から好かれるなんて、誰にだって難しいんです。苦手なら、周りに迷惑をかけたっていいんです。だって周りは迷惑だと感じません。君に頼られて嬉しいって思うんです。だから衣更先輩だって、きっと」
『そう…なのかな』
僕が人見知りを克服して、誰とでも…それこそあの明星先輩や衣更先輩のように、怖気づかずに話しかけられる人になれれば…。
「花守?」
『っ!衣更…せんぱい?』
気がつくと衣更先輩が、僕の前の席から顔を覗き込んでいて、心臓が飛び出しそうなほど驚いた。
「ごめんな。考え事してたみたいだったから、前の席借りてたんだ」
「ぼくも声、かけたんですけど」
『…紫之くんも?ご、ごめんね…ぼんやりしてたんだね』
僕が謝ると、二人して顔を合わせて苦笑した。
「すぐ謝るよな、花守は」
「ですね」
「俺は紫之にも同じことが言えると思ってるけど?」
「え!す、すみませんっ、これから気をつけますね!」
「言ってる側からだぞ」
「っ、くせなのかもしれませんね」
コントのような会話についていけず、二人をぼんやりとみていると、それに気づいた衣更先輩が苦笑いを浮かべた。
「行こうぜ、花守」
先輩の差し出してくれる掌はとても大きくて、頼りがいのありそうな優しいものだった。
『衣更先輩って苦手なひといるのかな…』
体育館への道すがら考えていた。
前を歩く先輩に緊張しながらもずっと見ていた彼の背中。大きくて、包容力のある1つ年上の先輩。1つしか違わないけど、大きな1年。そんなことを考えていたら、ふと、先ほどまでの紫之くんとの会話を思い出して。万人から好かれる性格を持っている先輩は、きっと苦手と感じる前に克服術を編み出していそう。
「なんだ、ずっと考え事してるなと思ってたらそんなことか」
『わっ!』
先輩の声が聞こえたと思ったら、急に立ち止まった先輩の背中に思い切り顔をぶつけた。
「おっ、ゴメンな?」
『せ、先輩…?』
「けど、俺も苦手な人くらいいるから、否定しときたくってさ」
振り返った衣更先輩は、苦笑しながら僕の髪を乱暴に撫でた。
「周りがみんな受け入れられる人間ってわけじゃない。けど、効率をよくするのってやっぱ関係をしっかり築かなきゃって思うから。面倒事を増やさないように何事も上手く回せるようにしてるだけなんだよ、俺は」
きょとんと言葉を返せずにいた僕は、少し高めにある先輩の顔を見上げた。
『どうやって苦手な人と向き合っているんですか?』
僕の一番聞きたかったことは、たぶんこっちだ。好かれる性格だとみんなから思われてる先輩。でも苦手な人もいると言った。誰からも好かれてる人だったなら、きっとたくさんの人が魅了されて、話したいと思って近づいてくる。それはアイドルとしてはいいことというかありがたいことになるとは思うけど。
「うーん…、相手を理解したいと思う気持ち、かな。考え方って人それぞれだから、考えを聞いて、苦手だなと感じることはあっても、苦手だから避けるみたいなことをしてない。人は人、なんだからさ」
そういって先輩は、「ほら行くぞー」と僕に背を向け歩き出す。僕も小走りで近寄って、先輩を追いかけた。
衣更先輩、かっこいいなぁ…
好かれてる先輩の考えが聞けて、僕もそんなふうに考えられたら、少しは今の自分を変えていけるかもなんて、漠然とした考えが頭をよぎった。