enst-紅茶部
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紅茶にあうパウンドケーキはなんだろうと、悩みながらも作った抹茶パウンドは生徒会長にも紫之くんにも、それからお菓子作りの好きな朔間先輩にも好評だった。朝から頑張ったかいがある。3人の笑顔に、僕の方が幸せをもらった気がする。誰かに喜んでもらえるってこんなに嬉しいことなんだ。
『…朔間先輩の作ったもの、美味しいですね』
「ふーん、どれが一番だったぁ〜?」
『塩キャラメル、ですね。はじめて食べたんですが、甘すぎなくて…、紅茶との相性がすごくよかったです』
「好きかなぁって思って作ったから気にいって貰えてよかった」
ふふっと得意げに笑い、朔間先輩はティーカップを口元に運んだ。
「そういえばさぁ、その朔間先輩って言うの止めて欲しいんだよねぇ…」
『…っ』
朔間先輩のものすごく嫌そうな声に、肩がビクリと揺れる。一瞬前の笑顔とはかけ離れた声色に、この数秒のうちに何か気に触れてしまったのだろうかと、おそるおそる口にした。
『……、朔間さんとお呼びした方が…』
「もっと嫌」
『えっ』
「それだと兄者呼んでるみたいに聞こえるんだよねぇ」
あにじゃ…?……あに?お兄さん?朔間先輩にはお兄さんがいる?
「朔間零って三年知ってる?それがこいつの兄貴」
首を傾げていると、衣更先輩が補足してくれる。
『でっでは、なんとお呼びしたら……』
「んー…?さっきの以外なら何でもー」
投げやりに答えて、お菓子を食べ始めた先輩から、視線をティーカップの水面にやった。ダージリンの匂いが心を落ち着かせてくれる。怒っているわけじゃなかったから一先ずは安心したけれど、これからなんと呼ぼう。紫之くんは凛月先輩と呼んでいたっけ。けれど、部活にも入部していない僕が呼ぶには恐れ多いと思う。天祥院先輩は、凛月くんと呼んでいた気がする。…参考にはならない、かも。
「…好きなように呼んであげればいいよ」
『天祥院先輩…」
爽やかスマイルの先輩に、紫之くんもふわっと笑って頷いている。アドバイスそのものが難しいのだけれど、折角のご助言を無碍にもできない。お礼を伝えて、朔間先輩の作って下さったクッキーを頂いた。ちらりと朔間先輩を見れば、天祥院先輩と楽しげに話していて、さっきの会話なんてなかったかのような笑顔で笑っている。
なんて呼ぼう。
苗字が一緒なのだから、名前に先輩づけが妥当だと思うけれど。でも凛月先輩と呼んでもいいのだろうか。紫之くんの先輩なのに。紅茶部でもない僕が…。さっきと同じ思考に走っていることに気づいて、ティーカップの紅茶を一気に飲み、そっと立ち上がった。
『お手洗い、行ってきますっ』
あのままガーデンテラスにいたら、だんだん自己嫌悪に陥っていってしまう。そう思って、ガーデンテラスから離れて、校舎の近くまでやってきた。少ししたら戻ろう。近くのベンチに座って、一度目を閉じた。もう放課後というだけあって、いろんな場所からたくさんの声がした。
ここは、アイドル科以外に五つの学科のあるアイドル養成に特化した学院なのだ。普通科以外に声楽科に演劇科、音楽科、それから新設されたプロデュース科がある。
広い校内に、たくさんの人の声。落ち着くにはやっぱりあの静かなガーデンテラスの方が良かったかもしれない。
……そろそろ、戻ろうかな。
あまり長いと怪しく思われる。
そっと目を開いて、立ち上がる。ぐーっと空に背伸びして、息を吐きだした。よし、呼び方はまだ決まってないけど、何とかしよう。
くるっと振り返り、来た道を戻ろうとした時、建物の影に印象的な赤い髪が見えた。
『衣更…せんぱい』
「気分でも悪かったか?…それとも凛月の、」
『ちっ、違います!』
咄嗟に叫んだことにハッとして、おそるおそる衣更先輩を見上げると、目があった先輩はちょっと苦笑いした。
『…嘘ついて出てきてしまって、ごめんなさい』
「いや、謝ることない。あれはあいつの言い方が悪い。だから気にすんな。お前にとっての朔間先輩は、あいつだけなんだから、他の呼び方で呼びづらきゃ変えなくていい。先輩だからって、言いなりにしなきゃいけないことなんてない」
『…えっ、でも』
「会長のいうように好きなように呼べよ」
『……っ!』
衣更先輩は優しい先輩だ。それに追いかけてきてくれるなんて面倒見もいい。
「さっ、戻ろうぜ。皆待ってる」
『っはい!』
衣更先輩の差し出してくれた手をとって隣に並ぶと、ニカッと笑った先輩と目があった。
「そーやって、笑ってるほうがいいや」
格好いい。
きっとこの笑顔を見た僕じゃなくたって、そう思うはずだ。
『…朔間先輩の作ったもの、美味しいですね』
「ふーん、どれが一番だったぁ〜?」
『塩キャラメル、ですね。はじめて食べたんですが、甘すぎなくて…、紅茶との相性がすごくよかったです』
「好きかなぁって思って作ったから気にいって貰えてよかった」
ふふっと得意げに笑い、朔間先輩はティーカップを口元に運んだ。
「そういえばさぁ、その朔間先輩って言うの止めて欲しいんだよねぇ…」
『…っ』
朔間先輩のものすごく嫌そうな声に、肩がビクリと揺れる。一瞬前の笑顔とはかけ離れた声色に、この数秒のうちに何か気に触れてしまったのだろうかと、おそるおそる口にした。
『……、朔間さんとお呼びした方が…』
「もっと嫌」
『えっ』
「それだと兄者呼んでるみたいに聞こえるんだよねぇ」
あにじゃ…?……あに?お兄さん?朔間先輩にはお兄さんがいる?
「朔間零って三年知ってる?それがこいつの兄貴」
首を傾げていると、衣更先輩が補足してくれる。
『でっでは、なんとお呼びしたら……』
「んー…?さっきの以外なら何でもー」
投げやりに答えて、お菓子を食べ始めた先輩から、視線をティーカップの水面にやった。ダージリンの匂いが心を落ち着かせてくれる。怒っているわけじゃなかったから一先ずは安心したけれど、これからなんと呼ぼう。紫之くんは凛月先輩と呼んでいたっけ。けれど、部活にも入部していない僕が呼ぶには恐れ多いと思う。天祥院先輩は、凛月くんと呼んでいた気がする。…参考にはならない、かも。
「…好きなように呼んであげればいいよ」
『天祥院先輩…」
爽やかスマイルの先輩に、紫之くんもふわっと笑って頷いている。アドバイスそのものが難しいのだけれど、折角のご助言を無碍にもできない。お礼を伝えて、朔間先輩の作って下さったクッキーを頂いた。ちらりと朔間先輩を見れば、天祥院先輩と楽しげに話していて、さっきの会話なんてなかったかのような笑顔で笑っている。
なんて呼ぼう。
苗字が一緒なのだから、名前に先輩づけが妥当だと思うけれど。でも凛月先輩と呼んでもいいのだろうか。紫之くんの先輩なのに。紅茶部でもない僕が…。さっきと同じ思考に走っていることに気づいて、ティーカップの紅茶を一気に飲み、そっと立ち上がった。
『お手洗い、行ってきますっ』
あのままガーデンテラスにいたら、だんだん自己嫌悪に陥っていってしまう。そう思って、ガーデンテラスから離れて、校舎の近くまでやってきた。少ししたら戻ろう。近くのベンチに座って、一度目を閉じた。もう放課後というだけあって、いろんな場所からたくさんの声がした。
ここは、アイドル科以外に五つの学科のあるアイドル養成に特化した学院なのだ。普通科以外に声楽科に演劇科、音楽科、それから新設されたプロデュース科がある。
広い校内に、たくさんの人の声。落ち着くにはやっぱりあの静かなガーデンテラスの方が良かったかもしれない。
……そろそろ、戻ろうかな。
あまり長いと怪しく思われる。
そっと目を開いて、立ち上がる。ぐーっと空に背伸びして、息を吐きだした。よし、呼び方はまだ決まってないけど、何とかしよう。
くるっと振り返り、来た道を戻ろうとした時、建物の影に印象的な赤い髪が見えた。
『衣更…せんぱい』
「気分でも悪かったか?…それとも凛月の、」
『ちっ、違います!』
咄嗟に叫んだことにハッとして、おそるおそる衣更先輩を見上げると、目があった先輩はちょっと苦笑いした。
『…嘘ついて出てきてしまって、ごめんなさい』
「いや、謝ることない。あれはあいつの言い方が悪い。だから気にすんな。お前にとっての朔間先輩は、あいつだけなんだから、他の呼び方で呼びづらきゃ変えなくていい。先輩だからって、言いなりにしなきゃいけないことなんてない」
『…えっ、でも』
「会長のいうように好きなように呼べよ」
『……っ!』
衣更先輩は優しい先輩だ。それに追いかけてきてくれるなんて面倒見もいい。
「さっ、戻ろうぜ。皆待ってる」
『っはい!』
衣更先輩の差し出してくれた手をとって隣に並ぶと、ニカッと笑った先輩と目があった。
「そーやって、笑ってるほうがいいや」
格好いい。
きっとこの笑顔を見た僕じゃなくたって、そう思うはずだ。