enst-紅茶部
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「受け取ってください」
紫之くんからの言葉は、嬉しいはずなのに、胸の奥がとても痛い。気づかれないよう、気づかせぬよう、僕はそっと手のひらを重ねた。
『ありがとう』
サシェを受け取った僕は、それを自身の手の中に閉じ込め目を閉じた。
『…大切にするね』
ずっと。これから先、ずっと。
それから、もし…君が良ければ、だけど、僕も君のこと、知っていきたいと思うんだ。
side:凛月
数日が過ぎて、今日は紅茶部の活動日。今日こそは授業に出ずとも、学校には行かなくてはと睡眠を欲する身体に鞭打って何とか苦手な早起きをし朝からお菓子作りをする。あのは〜くんのクラスメイト、はなちゃんの好きなものはなんだろう。ホットケーキが好きなら、ふわふわしたマカロンやジャムクッキーとか好きかな?オーブンの予熱をしながら、卵をかき混ぜる。あー、ホットケーキ好きにはバターみたいな少しの塩味が好きな人もいるよねぇ。塩キャラメルなんかもいいかも?黒髪の肩につくかつかないかの長さの彼を思い浮かべて、口元がニヤついた。
そんなことを考えて作っていたせいか、気づけばキッチンには甘い香りが充満している。
「あれぇ〜、いつから作ってたんだっけ、俺」
自分の腹部からの空腹の訴えで、我に帰った頃には時計はいつの間にか11時を指していた。
日差しで眠くなりつつある身体を引きづって何とか学院までやってきた。近場に丁度寝心地の良さそうな木の日陰を発見して、ゴロンと横になる。芝生の心地よさから目を閉じると、脳裏にこの間のはなちゃんの顔が浮かんだ。は〜くんに話しかけられるたびに、ビクついて、どこか苦しそうだった。は〜くんは気づいていなかったようだけど、バレないよう上手く笑って誤魔化して、そんなふうに彼がつくろっていくたびに、自分の心を縛り付けていくようで見てられなかった。
何か隠しているのは、明白だった。
ま、はなちゃんから話があるまでは、自ら足を突っ込んでいくなんて面倒なことはするつもりはない。気が紛れるようなお茶会は何度でも開いてあげるけど。
「ふぁーあ…」
それにしても眠いなぁ…。学院にいれば、そのうちま〜くんあたりが見つけて起こしてくれるはず…?限界、このまま寝ちゃおーっと。
side:瑠衣
今日の授業が全て終わり、僕は日直の紫之くんに先へ行っていてくださいと言われ、ガーデンテラスに向かっていた。たしか、この角を曲がって進めばつくはずだ。広くて覚えきれていない学院の地図を朧気ながらに思い出しながら歩いていると、校舎沿いに続く芝生の中にあった落葉樹の木陰に、誰かが倒れているのが見えた。
自分と同じ黒い髪。近づいてみると、それは数日前に会話した朔間先輩だった。
『せんぱい?』
声をかけても、反応がないので、しゃがみこんで、袖から見える手に触れた。
『……っ!』
寝ているだけだと思っていたから、とても冷たい手の感覚に、息を呑んでぱっと手を離した。生きてる?ちゃんと生きてるよね?寝ているだけ…だよね?
『朔間先輩…起きてください』
冷えている身体をゆさゆさと揺さぶってみる。それでも一向に開く気配のない瞳に、不安が増してくる。
『おきて…、起きてください、せんぱい』
ゆさゆさからもう少し強めに揺さぶる。
『うぅー…せんぱーい』
朔間先輩の冷たい身体に、手の震えがしてくる。どうしよう、どうしよう。全く反応がない。こんなに揺らしてるのに。自然と涙が出てきて、どうしたら良いのかわからない不安から手を止める。
『せんぱーい……』
握った拳に、涙が落ちてきた。
「泣いてるのか?」
心細くて、誰かを呼びたくて、でも立ち去れずにいた僕は、上からした声に顔を上げた。
『……?……っ、』
前髪をヘアピンでとめた赤い髪の人と目があった。この人は誰だろう。こぼれた涙を拭ってくれる。それから僕の隣にしゃがんでくれて、目線の高さが一緒になる。それから、呆れたような声で、目の前に横たわる朔間先輩の背中をべしっと叩いた。
「おい、凛月。もう起きてやれって。後輩君が泣いてるぞ」
「…ま〜くんがあとちょっと早く来てくれてたら、泣かせなくてすんでたよ」
「あのなぁ、…」
「少し前からみてたま〜くんも同罪」
「はぁー、気づいてたなら起きろよな」
「ま〜くんにおこされたかったんだもーん」
「可愛くねぇよ」
「ちぇー」
先輩がま〜くんと呼んだ人物から伸ばされた手をとって身体を起こし、「ふぁーあ…よく寝たぁー」と背伸びしつつ、あくびをした。
「いま、何時間目…?」
「…おまえまだ寝ぼけてる?もう放課後だっつの」
「だからこんなに日が傾いてるんだ」
寝始めたのは昼だったけどと、呟く先輩。そんな寝ぼけ眼の先輩をじっと見てると、朔間先輩がふっと僕を見て笑った。
「意地悪してごめんねぇ…。部室、一緒に行こうか」
ガーデンテラスへと歩きながら、赤い髪の先輩が自己紹介をしてくれた。先輩は衣更真緒さんというらしい。2年生で朔間先輩と同じクラスの幼なじみ。生徒会のでいつもは放課後も生徒会室にこもりきりになるけれど、今日は少し余裕があるとのことで、一緒に紅茶部のお茶会に参加することになった。
「そーいえば、もう部活は決まったのか?」
『えっと…まだ、です』
「そっかぁ、凛月…紅茶部に入れてやれば?」
「…俺はいーけど、エッちゃんに聞かないとなぁ」
衣更先輩たちの話を聞きながら、転入の時に説明されたのを思い出していた。この学院は、部活動入部が必須らしい。紅茶部は確かに居心地が良かったけれど、もう完成している雰囲気のなかに入っていくのはちょっと勇気のいることだった。こないだは紫之くんと一緒に行ったから、スムーズに入れた気がしたけれど。
「花守、他の部活は見たか?」
『あ、……いえ、…まだ紅茶部だけ、です』
「明日は俺の部活見てくか?バスケ部だけど」
『え、……っと…、スポーツは……ちょっと、』
運動音痴過ぎて、体育の時間はその場にすら居づらいのだと小さな声で伝えると、二人は目を合わせて笑った。
「そんなにあからさまに嫌がらなくてもいんじゃね?」
「俺は共感出来るけどねぇ」
そもそも身体動かすのがだるいと欠伸しながら、朔間先輩が口元に手を当てた。そんな朔間先輩の頭に衣更先輩の手刀が入る。
「それ以前に授業に出ろよなー」
「ま〜くん、いたいー」
「まあともあれ、やらなくてもいーから、見学だけでもこいよ!バスケ部にさ紹介したい人がいるんだ」
『わ、かりました…』
そんな話をしているうちに、ガーデンテラスについた。
「あっ、花守くん!先に行っててなんて無責任過ぎましたよね…、迷いませんでしたか?!」
『紫之くん…、大丈夫…でした!』
「よ、良かった〜。心配していたんですよ」
先に着いていたらしい紫之くんが慌てて近寄ってきてくれて、ぎゅっと手を握ってくれた。
『えっと…ち、…ちがくて…。朔間先輩と…途中で会って』
「それで遅かったんですね」
くすっと笑った紫之くんがそのまま手を引いて、テーブルまで案内してくれた。心配をかけてしまったことを申し訳なく思いながらも、優しく迎えてくれたことがすごく嬉しい。席には天祥院先輩が先に来ていた。遅くなってしまった謝罪をしながら、かばんから作ってきたお菓子を取り出した。
紫之くんからの言葉は、嬉しいはずなのに、胸の奥がとても痛い。気づかれないよう、気づかせぬよう、僕はそっと手のひらを重ねた。
『ありがとう』
サシェを受け取った僕は、それを自身の手の中に閉じ込め目を閉じた。
『…大切にするね』
ずっと。これから先、ずっと。
それから、もし…君が良ければ、だけど、僕も君のこと、知っていきたいと思うんだ。
side:凛月
数日が過ぎて、今日は紅茶部の活動日。今日こそは授業に出ずとも、学校には行かなくてはと睡眠を欲する身体に鞭打って何とか苦手な早起きをし朝からお菓子作りをする。あのは〜くんのクラスメイト、はなちゃんの好きなものはなんだろう。ホットケーキが好きなら、ふわふわしたマカロンやジャムクッキーとか好きかな?オーブンの予熱をしながら、卵をかき混ぜる。あー、ホットケーキ好きにはバターみたいな少しの塩味が好きな人もいるよねぇ。塩キャラメルなんかもいいかも?黒髪の肩につくかつかないかの長さの彼を思い浮かべて、口元がニヤついた。
そんなことを考えて作っていたせいか、気づけばキッチンには甘い香りが充満している。
「あれぇ〜、いつから作ってたんだっけ、俺」
自分の腹部からの空腹の訴えで、我に帰った頃には時計はいつの間にか11時を指していた。
日差しで眠くなりつつある身体を引きづって何とか学院までやってきた。近場に丁度寝心地の良さそうな木の日陰を発見して、ゴロンと横になる。芝生の心地よさから目を閉じると、脳裏にこの間のはなちゃんの顔が浮かんだ。は〜くんに話しかけられるたびに、ビクついて、どこか苦しそうだった。は〜くんは気づいていなかったようだけど、バレないよう上手く笑って誤魔化して、そんなふうに彼がつくろっていくたびに、自分の心を縛り付けていくようで見てられなかった。
何か隠しているのは、明白だった。
ま、はなちゃんから話があるまでは、自ら足を突っ込んでいくなんて面倒なことはするつもりはない。気が紛れるようなお茶会は何度でも開いてあげるけど。
「ふぁーあ…」
それにしても眠いなぁ…。学院にいれば、そのうちま〜くんあたりが見つけて起こしてくれるはず…?限界、このまま寝ちゃおーっと。
side:瑠衣
今日の授業が全て終わり、僕は日直の紫之くんに先へ行っていてくださいと言われ、ガーデンテラスに向かっていた。たしか、この角を曲がって進めばつくはずだ。広くて覚えきれていない学院の地図を朧気ながらに思い出しながら歩いていると、校舎沿いに続く芝生の中にあった落葉樹の木陰に、誰かが倒れているのが見えた。
自分と同じ黒い髪。近づいてみると、それは数日前に会話した朔間先輩だった。
『せんぱい?』
声をかけても、反応がないので、しゃがみこんで、袖から見える手に触れた。
『……っ!』
寝ているだけだと思っていたから、とても冷たい手の感覚に、息を呑んでぱっと手を離した。生きてる?ちゃんと生きてるよね?寝ているだけ…だよね?
『朔間先輩…起きてください』
冷えている身体をゆさゆさと揺さぶってみる。それでも一向に開く気配のない瞳に、不安が増してくる。
『おきて…、起きてください、せんぱい』
ゆさゆさからもう少し強めに揺さぶる。
『うぅー…せんぱーい』
朔間先輩の冷たい身体に、手の震えがしてくる。どうしよう、どうしよう。全く反応がない。こんなに揺らしてるのに。自然と涙が出てきて、どうしたら良いのかわからない不安から手を止める。
『せんぱーい……』
握った拳に、涙が落ちてきた。
「泣いてるのか?」
心細くて、誰かを呼びたくて、でも立ち去れずにいた僕は、上からした声に顔を上げた。
『……?……っ、』
前髪をヘアピンでとめた赤い髪の人と目があった。この人は誰だろう。こぼれた涙を拭ってくれる。それから僕の隣にしゃがんでくれて、目線の高さが一緒になる。それから、呆れたような声で、目の前に横たわる朔間先輩の背中をべしっと叩いた。
「おい、凛月。もう起きてやれって。後輩君が泣いてるぞ」
「…ま〜くんがあとちょっと早く来てくれてたら、泣かせなくてすんでたよ」
「あのなぁ、…」
「少し前からみてたま〜くんも同罪」
「はぁー、気づいてたなら起きろよな」
「ま〜くんにおこされたかったんだもーん」
「可愛くねぇよ」
「ちぇー」
先輩がま〜くんと呼んだ人物から伸ばされた手をとって身体を起こし、「ふぁーあ…よく寝たぁー」と背伸びしつつ、あくびをした。
「いま、何時間目…?」
「…おまえまだ寝ぼけてる?もう放課後だっつの」
「だからこんなに日が傾いてるんだ」
寝始めたのは昼だったけどと、呟く先輩。そんな寝ぼけ眼の先輩をじっと見てると、朔間先輩がふっと僕を見て笑った。
「意地悪してごめんねぇ…。部室、一緒に行こうか」
ガーデンテラスへと歩きながら、赤い髪の先輩が自己紹介をしてくれた。先輩は衣更真緒さんというらしい。2年生で朔間先輩と同じクラスの幼なじみ。生徒会のでいつもは放課後も生徒会室にこもりきりになるけれど、今日は少し余裕があるとのことで、一緒に紅茶部のお茶会に参加することになった。
「そーいえば、もう部活は決まったのか?」
『えっと…まだ、です』
「そっかぁ、凛月…紅茶部に入れてやれば?」
「…俺はいーけど、エッちゃんに聞かないとなぁ」
衣更先輩たちの話を聞きながら、転入の時に説明されたのを思い出していた。この学院は、部活動入部が必須らしい。紅茶部は確かに居心地が良かったけれど、もう完成している雰囲気のなかに入っていくのはちょっと勇気のいることだった。こないだは紫之くんと一緒に行ったから、スムーズに入れた気がしたけれど。
「花守、他の部活は見たか?」
『あ、……いえ、…まだ紅茶部だけ、です』
「明日は俺の部活見てくか?バスケ部だけど」
『え、……っと…、スポーツは……ちょっと、』
運動音痴過ぎて、体育の時間はその場にすら居づらいのだと小さな声で伝えると、二人は目を合わせて笑った。
「そんなにあからさまに嫌がらなくてもいんじゃね?」
「俺は共感出来るけどねぇ」
そもそも身体動かすのがだるいと欠伸しながら、朔間先輩が口元に手を当てた。そんな朔間先輩の頭に衣更先輩の手刀が入る。
「それ以前に授業に出ろよなー」
「ま〜くん、いたいー」
「まあともあれ、やらなくてもいーから、見学だけでもこいよ!バスケ部にさ紹介したい人がいるんだ」
『わ、かりました…』
そんな話をしているうちに、ガーデンテラスについた。
「あっ、花守くん!先に行っててなんて無責任過ぎましたよね…、迷いませんでしたか?!」
『紫之くん…、大丈夫…でした!』
「よ、良かった〜。心配していたんですよ」
先に着いていたらしい紫之くんが慌てて近寄ってきてくれて、ぎゅっと手を握ってくれた。
『えっと…ち、…ちがくて…。朔間先輩と…途中で会って』
「それで遅かったんですね」
くすっと笑った紫之くんがそのまま手を引いて、テーブルまで案内してくれた。心配をかけてしまったことを申し訳なく思いながらも、優しく迎えてくれたことがすごく嬉しい。席には天祥院先輩が先に来ていた。遅くなってしまった謝罪をしながら、かばんから作ってきたお菓子を取り出した。