enst-紅茶部
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side:創
どうやら事の発端は、凛月先輩が今日部活で食べようとしていたクッキーを、部室に一番乗りした会長が食べてしまったことに始まるらしい。凛月先輩が作ったものしては、形がまともだったので、お茶菓子に誰かが差し入れてくれたのか、もしくはぼくの用意したものだと勘違いしたのだという。
「さぞ、美味しかったことでしょーうよぉ」と頬を膨らませる凛月先輩を、まぁまぁと宥めながら、隣に座る彼を見た。
転入してから、彼のことは隣の席でずっと見てきた。今までも肩から力が抜けたところは見たことがなく、誰にでも敬語を使い(それはぼくにも言えることですが…)、常に背筋を伸ばして座っている。
そして今は、いつになく緊張度がましているのか、ティーカップを持つ手が震えていたり、動きが見るからにぎこちない。
「紅茶の味はどうだい?僕が気に入っているものなのだけど」
『お、美味しい、と思います…』
「本当かい?お気に召したようで何よりだよ。特に香りがいいんだ、落ちつくと思う。ところで、一週間経ったけど学院には慣れてきたかい?」
『もう、少し…時間が…かかりそうです』
「そうか。でも学院の生徒は皆、優しい人ばかりだから、ゆっくり慣れていければいいね」
『は、はい』
紅茶を口にした会長をちらちら見ながら、花守くんはやはりどこかそわそわしている様子だ。不安なのがびしばし伝わってくる。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、花守くん?」
「そうそう、気ぃ張ってたら疲れるしー?」
「凛月くんはもう少し気を張ったらいいと思うけどね」
「それは無理な相談だねぇ…日の出てる間に起きてるだけでも頑張ってるんだよ、エッちゃん」
ぼくたちの言葉に、少しだけ緊張が解れたのか、くすりと花守くんが笑う。隣で見ていたぼくは何となくその笑顔に遠い昔に見覚えがあるように感じて、「花守くん…?」と無意識に呼んでいた。
『…紫之くん?』
「あ、いえ……、何となく」
何となく見覚えがある。でも、どこで見たのか、全く背景すら思い出せなくて、何でもないと誤魔化した。暫く市販のお菓子や紅茶でお茶会をしながら、時々花守くんを見た。はじめの緊張感は少しずつ、氷でも溶かすようにゆっくりと消えつつあるようにみえた。今は凛月先輩とお菓子談義に花を咲かせている。
「一番好きなんだ?ホットケーキ」
『……』
「まぁ……楽だけどさぁ?俺は、妥協しなくないんだよねぇ〜。マフィンとかは作らないの?」
『…あまり。ど、ちらかと、いうと…パウンドケーキが、多いかも…です』
「へぇー、今度食べてみたいな」
『えっ、あ、あの…』
「じゃあはなちゃん、今度の活動日に作ってきてよ。俺も気が向いたら何か作ってくるからさぁ」
『…はなちゃんって?』
「俺、あだなつけるのすきなんだぁ」
パウンドケーキ、作れるんだ。家事は基本的にできるけど、お菓子は作らない。自分からは話さないけど、聞かれたら素直に話してくれる。そんなところが控えめで彼らしさでもあるのだろう。
「は〜くん?さっきからぼーっとして具合悪い?」
「あ、いえっ。…考え事です」
「ふーん?ま、話したくないならいーけど」
凛月先輩とちらっと視線がぶつかった。凛月先輩は洞察力が鋭い。こわいとは思わない。けど、こういうところが頭の回転の良さやknightsの参謀と呼ばれる所以なのかもしれない、きっと。
ぼくは「大丈夫です」と答えた。
「先輩方に話せないことなんてないですよ。元々秘密が多いわけでもないんですけど」
「もしよければ、僕も知りたいな」
会長にも話を促されて、凛月先輩や花守くんもきょとんとぼくを見た。注目されるのは、少しだけ苦手だけど。でも平気。
「えっと、……その…、花守くんのこと、…もっと知りたいって、そう思っていただけなんです」
『僕のことを……?』
自分のことだとは思っていなかったのだろう。目を丸くし驚く花守くんの手をとって微笑む。
「はい。これからもっと知って、もっと仲良くなっていきたいなって。これ、プレゼントです」
知り合って間もないから、知らないことがいっぱいあるのは仕方のないこと。だから知っていきたい。そうしたら、さっき感じた何かにたどり着ける気がする。
彼の手のひらに、そっとポケットから取り出したサシェをのせた。
「ぼくのすきな、ラベンダーの香り。受け取ってください、花守くん」
どうやら事の発端は、凛月先輩が今日部活で食べようとしていたクッキーを、部室に一番乗りした会長が食べてしまったことに始まるらしい。凛月先輩が作ったものしては、形がまともだったので、お茶菓子に誰かが差し入れてくれたのか、もしくはぼくの用意したものだと勘違いしたのだという。
「さぞ、美味しかったことでしょーうよぉ」と頬を膨らませる凛月先輩を、まぁまぁと宥めながら、隣に座る彼を見た。
転入してから、彼のことは隣の席でずっと見てきた。今までも肩から力が抜けたところは見たことがなく、誰にでも敬語を使い(それはぼくにも言えることですが…)、常に背筋を伸ばして座っている。
そして今は、いつになく緊張度がましているのか、ティーカップを持つ手が震えていたり、動きが見るからにぎこちない。
「紅茶の味はどうだい?僕が気に入っているものなのだけど」
『お、美味しい、と思います…』
「本当かい?お気に召したようで何よりだよ。特に香りがいいんだ、落ちつくと思う。ところで、一週間経ったけど学院には慣れてきたかい?」
『もう、少し…時間が…かかりそうです』
「そうか。でも学院の生徒は皆、優しい人ばかりだから、ゆっくり慣れていければいいね」
『は、はい』
紅茶を口にした会長をちらちら見ながら、花守くんはやはりどこかそわそわしている様子だ。不安なのがびしばし伝わってくる。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、花守くん?」
「そうそう、気ぃ張ってたら疲れるしー?」
「凛月くんはもう少し気を張ったらいいと思うけどね」
「それは無理な相談だねぇ…日の出てる間に起きてるだけでも頑張ってるんだよ、エッちゃん」
ぼくたちの言葉に、少しだけ緊張が解れたのか、くすりと花守くんが笑う。隣で見ていたぼくは何となくその笑顔に遠い昔に見覚えがあるように感じて、「花守くん…?」と無意識に呼んでいた。
『…紫之くん?』
「あ、いえ……、何となく」
何となく見覚えがある。でも、どこで見たのか、全く背景すら思い出せなくて、何でもないと誤魔化した。暫く市販のお菓子や紅茶でお茶会をしながら、時々花守くんを見た。はじめの緊張感は少しずつ、氷でも溶かすようにゆっくりと消えつつあるようにみえた。今は凛月先輩とお菓子談義に花を咲かせている。
「一番好きなんだ?ホットケーキ」
『……』
「まぁ……楽だけどさぁ?俺は、妥協しなくないんだよねぇ〜。マフィンとかは作らないの?」
『…あまり。ど、ちらかと、いうと…パウンドケーキが、多いかも…です』
「へぇー、今度食べてみたいな」
『えっ、あ、あの…』
「じゃあはなちゃん、今度の活動日に作ってきてよ。俺も気が向いたら何か作ってくるからさぁ」
『…はなちゃんって?』
「俺、あだなつけるのすきなんだぁ」
パウンドケーキ、作れるんだ。家事は基本的にできるけど、お菓子は作らない。自分からは話さないけど、聞かれたら素直に話してくれる。そんなところが控えめで彼らしさでもあるのだろう。
「は〜くん?さっきからぼーっとして具合悪い?」
「あ、いえっ。…考え事です」
「ふーん?ま、話したくないならいーけど」
凛月先輩とちらっと視線がぶつかった。凛月先輩は洞察力が鋭い。こわいとは思わない。けど、こういうところが頭の回転の良さやknightsの参謀と呼ばれる所以なのかもしれない、きっと。
ぼくは「大丈夫です」と答えた。
「先輩方に話せないことなんてないですよ。元々秘密が多いわけでもないんですけど」
「もしよければ、僕も知りたいな」
会長にも話を促されて、凛月先輩や花守くんもきょとんとぼくを見た。注目されるのは、少しだけ苦手だけど。でも平気。
「えっと、……その…、花守くんのこと、…もっと知りたいって、そう思っていただけなんです」
『僕のことを……?』
自分のことだとは思っていなかったのだろう。目を丸くし驚く花守くんの手をとって微笑む。
「はい。これからもっと知って、もっと仲良くなっていきたいなって。これ、プレゼントです」
知り合って間もないから、知らないことがいっぱいあるのは仕方のないこと。だから知っていきたい。そうしたら、さっき感じた何かにたどり着ける気がする。
彼の手のひらに、そっとポケットから取り出したサシェをのせた。
「ぼくのすきな、ラベンダーの香り。受け取ってください、花守くん」