enst-紅茶部
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名雪先輩には、お互いのことを知ってから答えを出させてほしいと伝えた。先輩も自分のことを詳しく知ったら、ユニットを組みたくなくなる可能性だってある。僕はその方が確率的に高い気がしていた。
その日以来、よく瑠衣のクラスには名雪先輩が来るようになった。時々あの屋上で一緒だった金髪の羽風先輩や高峯くんの部活の先輩である守沢先輩もいる。
基本的には昼休みや放課後が多く、放課後の時は一緒に帰ろうと提案されることがほとんどだ。何度か部活の見学をすると言って断り、真白くん所属の演劇部や南雲くん所属の空手部をみせてもらった。
学院はもうすぐでハロウィンが始まる。ハロウィンパーティーという名で各ユニットがパフォーマンスを行うイベントらしい。この間、名雪先輩に学院内が賑やかな感じがすると話した時に、詳しく説明をしてくれた。
クラスの皆も休み時間ごとにクラスから離れ、準備にあたっているようで数えられる人しか残っていない。紫之くんや真白くんもいないので、今日はお昼をどうしようと思っていたところ、ガーデンテラスに、名雪先輩と羽風先輩が見えた。
『あっ、あの!一緒におひる…』
近付いて話しかけたところまではよかったのだが、途中でもう一人知らない先輩がいるのに気がついた。ターコイズの瞳と視線がぶつかり、相手の眼光が鋭く、びくりと肩が震える。
『あっ…あの、えっと、やっぱり……』
大丈夫ですと言う前に、「ねぇ君」と、その先輩が瑠衣に話しかけてきた。
『は…はい?』
「瞳の色、もっと見せてもらってもいい?」
『……へっ?……少し、』
何を言われるんだろうと身構えて答えたが、また変わったことを頼まれたものだ。普段は前髪で隠しているから、そんなことを初めて言われた。緊張するからそうしているけれど、瞳を見たいなんて珍しい人もいるものだ。少しだけならそう言おうとして、声を出そうとした時、咄嗟に右腕を引かれて言葉が詰まる。
『ぅあ、……ん、な、名雪先輩?』
誰だろうと振り返ると、そこには眉をハの字にした名雪先輩がいた。
「泉、先に自己紹介」
『え、わ、わざわざいいですよっ』
「駄目、順序ってものがある。それに花守くんに失礼だよ」
『えぇ……』
「…真面目だねぇ、ゆきくんは」
はぁーあとわざとらしいため息をついた銀髪の先輩は、自らを瀬名泉と名乗った。おそるおそる名雪先輩を振り返ると、困ったような表情のまま小さく笑った。
「ごめんね、嫌な思いさせちゃって。目を合わせたくないから、前髪で隠してるんじゃないかなと思ってたんだけど違った?」
『あ、いえ………』
瀬名先輩が見ている前では正直に答えにくい。名雪先輩の核心をついたひとことはたとえ事実であっても、この場で頷くのは違う。アイドルを志してる学科に編入してきて、視線がこわいって何だそれって思われるに決まっているのだ。特に今もなお見定めようと視線を送り続けてくる瀬名先輩は、憤りすら感じそうだ。
「?」
『その………』
瑠衣は苦笑いしか返せずにいると、見兼ねたのか羽風先輩が席を立って、瑠衣の手を引き、空いている席へ導いた。
「まぁー、立ち話なんだし、座って話そう?史都もさ」
『えっ、でも……お邪魔じゃないですか?』
「俺達もちょうどお昼食べてたところだったんだよ、気にしないで」
羽風先輩たちの座っている席のテーブルをよく見ると、サンドイッチののったお皿やお弁当箱が置いてあった。ちらりと壁掛け時計に視線を送ると、時間もそれなりに経っている。そろそろ食べ始めないと、午後の授業にも間に合わなくなってしまう。そう考えて瑠衣はしぶしぶ席へ座った。
『し、失礼します…っ』
「どーぞ!」
相変わらずじっと見つめてくる瀬名先輩の視線にビクビクもしながら袋の中のお弁当箱を取り出す。
「海の色してるね、それ」
『っはい、グラデーションが気に入って…』
「いい趣味してるよ」
『ありがとうございます』
「中身、手作り?」
『…いくつか母と一緒に作りました』
「色合い綺麗だね」
『え、あ、ありがと…ございます』
「あ、つい話し込んじゃったね。長話してると、時間も押しちゃうし、花守君は気にせずに食べたらどう?」
『は、はい』
羽風先輩がお弁当箱の色や中身を褒めてくれる。それに羽風先輩って見た目が派手なわりに、周りをよく見て気配りができる人なんだな。先輩ばかりの中でなかなか食べ始められずにいたのを気にかけてくれて、本当に優しい先輩だ。きっと名雪先輩や瀬名先輩のこともこれから知っていけたら、新しい一面に出会えるのだろう。赤い顔の照れ隠しにおかずの卵焼きを無心で食べていると、ふとこちらを見る瀬名先輩と目があった。さっきまでのじっとした視線ではなくなっていたことに少しホッとする。もう見定め期間は終わったのかな、と思ったのもつかの間。重大なことを忘れていた。
『あ、』
「ん?」
『じ、自己紹介…えっと……、瀬名先輩。花守瑠衣と言います、一年です!よ、ろしくお願いしますっ』
瑠衣は自分が名乗っていないことに気づき、慌てて口の中のおかずを飲み込んでから挨拶した。それを見ていた三人の先輩方はお互いの顔を見合わせ、数秒の空白の後、一斉に笑い出す。
「今ッ?!」
「この流れで自己紹介?!ホント面白いっ」
「食べ始めてから気づいたの?」
名雪先輩が笑いをこらえながらもしてくれた質問に、コクンと頷く。
『……ごめんなさい』
「こっちこそごめんね。折角挨拶してくれたのに。そもそもの原因は泉だし」
「もう時効でしょ、それ。蒸し返さないでよー」
瀬名先輩は呆れたと言わんばかりに盛大なため息をつき、その後うっすら口元に笑みを浮かべた。
…あ、綺麗だ。
なんと見とれたのも一瞬。
「でもまぁ、真面目ちゃん同士気が合うとは思うけどねぇ。共倒れにだけはなって欲しくないしー?俺としては、もう少し機転が利くメンバーだったら、世話してばっかりの一方的な関係にならずに済むと思うけど」
…?
瀬名先輩は何の話をしたのだろう。
さっきの真面目云々の話だったら、今のは。
瑠衣は再び鋭さを増した瀬名先輩の瞳をちらりとみた。メンバーってことはもしかして、名雪先輩はこの二人にユニットの相談をしていたのかもしれない。そこにたまたま来てしまったから、瀬名先輩はあんな観察するような視線を送ってきたのだとしたら。見定めるような視線だったことにも説明がつく。
「……紹介する前に察するところはさすがだね」
「褒めてるんだか貶してるんだか…」
「ちゃんと褒めてるよ。疑う事は悪いことじゃないけれど、その用心深さが顔にも出てるよね、泉は」
「誰にでも尻尾振って生きてきたわけじゃないからね。この業界に身をおこうとしてる時点で見極められるようになってなきゃ困るし」
「言葉で攻撃を仕掛ける話し方はいつか誤解を生むよ。俺は慣れたけど、一年生には恐がられそうで心配だよ」
先輩達の話は、箸を止めずに入られなかった。気にならないわけないのだ。ユニットのことを心配している瀬名先輩は、きっとそれだけ名雪先輩自身の心配もしている。ユニットのことを初めて自分にしてくれた時の羽風先輩だって、名雪先輩を気遣う言葉をかけていた。名雪先輩が三年のこの時期に、ユニットを組もうと提案してくること。その原因とは一体何なのか。名雪先輩に何があったのか。
ユニットを組むこと以前に知らなければならないことが瑠衣にはたくさんあるように思った。
「実はちょうどユニットのことを話していたんだ」
瑠衣が羽風先輩に促されて、昼食を食べ終えたのを見計らい、名雪先輩がこそっと話しかけてきた。
「泉が君に興味を持ったのもそのせいだと思う」
『…そうだったんですね』
羽風先輩と話している瀬名先輩に視線を送りながら、やっぱり…と納得する。
「……名前も容姿も伝えていなかったのに気づくってそれだけ君が魅力的だった証拠だね」
『っ知らなかったんですか…?』
声を殺して話していたのに、思わず声が大きくなった。その声に、羽風先輩や瀬名先輩もこちらを見た。
「何、こそこそしてんのー?」
「あ、バレちゃったね」
「あのねぇ」
米神に青筋を立てた瀬名先輩は見るからに怒っていて、瑠衣は咄嗟に口を手で塞がなかったら悲鳴を上げてしまいそうなほどだった。自分の知らないところでコソコソされるのは誰だって嫌なはず。それでも名雪先輩はのんきな声で「短気だね」と慣れたようにいなしていた。
「悪口じゃないよ、泉が察しがよくて凄いって話してたの」
「はぁあ?さっきも言ったけど、ある程度アンテナはって置かないとすぐのまれるんだから、当ったり前でしょー」
「さっすが子役から仕事してる人は言う事が違うね」
「かおくん馬鹿にしてるでしょ!?」
瀬名先輩が一息大きくため息をつく。先輩の動作一つ一つにビクビクして、ずっと固唾を呑んでみていた。けれど、芸能に関わる人はそういう心づもりでいないといけないのか。だから瀬名先輩はこんなにぴりりとした雰囲気を持ってるのか。プライドばかりが高い人だなんて、どこかで思っていたけれど、きっと自分の心配もしてくれている。出会ったばかりの、こんなまだユニットさえ組んでいない後輩の。興味と名雪先輩は言っていたけど、その中にほんのひとつまみくらいは心配も含まれているのだ。
羽風先輩とまたじゃれあいのような話をし始めた瀬名先輩にちょっぴりくすりとしてしまう。
「……硬さが消えたね」
見られていたのか隣りに座る名雪先輩に話しかけられて、ふと自分より座高の高い先輩に視線を送る。何もかも見破られていそうな優しい表情をしているのをみて、敵わないななんて思った。
『少し、瀬名先輩が好きになれそうです』
僕らのやり取りを横目で瀬名先輩が見ていたのに気づいていたのは、一緒に話す羽風先輩だけだった。
その日以来、よく瑠衣のクラスには名雪先輩が来るようになった。時々あの屋上で一緒だった金髪の羽風先輩や高峯くんの部活の先輩である守沢先輩もいる。
基本的には昼休みや放課後が多く、放課後の時は一緒に帰ろうと提案されることがほとんどだ。何度か部活の見学をすると言って断り、真白くん所属の演劇部や南雲くん所属の空手部をみせてもらった。
学院はもうすぐでハロウィンが始まる。ハロウィンパーティーという名で各ユニットがパフォーマンスを行うイベントらしい。この間、名雪先輩に学院内が賑やかな感じがすると話した時に、詳しく説明をしてくれた。
クラスの皆も休み時間ごとにクラスから離れ、準備にあたっているようで数えられる人しか残っていない。紫之くんや真白くんもいないので、今日はお昼をどうしようと思っていたところ、ガーデンテラスに、名雪先輩と羽風先輩が見えた。
『あっ、あの!一緒におひる…』
近付いて話しかけたところまではよかったのだが、途中でもう一人知らない先輩がいるのに気がついた。ターコイズの瞳と視線がぶつかり、相手の眼光が鋭く、びくりと肩が震える。
『あっ…あの、えっと、やっぱり……』
大丈夫ですと言う前に、「ねぇ君」と、その先輩が瑠衣に話しかけてきた。
『は…はい?』
「瞳の色、もっと見せてもらってもいい?」
『……へっ?……少し、』
何を言われるんだろうと身構えて答えたが、また変わったことを頼まれたものだ。普段は前髪で隠しているから、そんなことを初めて言われた。緊張するからそうしているけれど、瞳を見たいなんて珍しい人もいるものだ。少しだけならそう言おうとして、声を出そうとした時、咄嗟に右腕を引かれて言葉が詰まる。
『ぅあ、……ん、な、名雪先輩?』
誰だろうと振り返ると、そこには眉をハの字にした名雪先輩がいた。
「泉、先に自己紹介」
『え、わ、わざわざいいですよっ』
「駄目、順序ってものがある。それに花守くんに失礼だよ」
『えぇ……』
「…真面目だねぇ、ゆきくんは」
はぁーあとわざとらしいため息をついた銀髪の先輩は、自らを瀬名泉と名乗った。おそるおそる名雪先輩を振り返ると、困ったような表情のまま小さく笑った。
「ごめんね、嫌な思いさせちゃって。目を合わせたくないから、前髪で隠してるんじゃないかなと思ってたんだけど違った?」
『あ、いえ………』
瀬名先輩が見ている前では正直に答えにくい。名雪先輩の核心をついたひとことはたとえ事実であっても、この場で頷くのは違う。アイドルを志してる学科に編入してきて、視線がこわいって何だそれって思われるに決まっているのだ。特に今もなお見定めようと視線を送り続けてくる瀬名先輩は、憤りすら感じそうだ。
「?」
『その………』
瑠衣は苦笑いしか返せずにいると、見兼ねたのか羽風先輩が席を立って、瑠衣の手を引き、空いている席へ導いた。
「まぁー、立ち話なんだし、座って話そう?史都もさ」
『えっ、でも……お邪魔じゃないですか?』
「俺達もちょうどお昼食べてたところだったんだよ、気にしないで」
羽風先輩たちの座っている席のテーブルをよく見ると、サンドイッチののったお皿やお弁当箱が置いてあった。ちらりと壁掛け時計に視線を送ると、時間もそれなりに経っている。そろそろ食べ始めないと、午後の授業にも間に合わなくなってしまう。そう考えて瑠衣はしぶしぶ席へ座った。
『し、失礼します…っ』
「どーぞ!」
相変わらずじっと見つめてくる瀬名先輩の視線にビクビクもしながら袋の中のお弁当箱を取り出す。
「海の色してるね、それ」
『っはい、グラデーションが気に入って…』
「いい趣味してるよ」
『ありがとうございます』
「中身、手作り?」
『…いくつか母と一緒に作りました』
「色合い綺麗だね」
『え、あ、ありがと…ございます』
「あ、つい話し込んじゃったね。長話してると、時間も押しちゃうし、花守君は気にせずに食べたらどう?」
『は、はい』
羽風先輩がお弁当箱の色や中身を褒めてくれる。それに羽風先輩って見た目が派手なわりに、周りをよく見て気配りができる人なんだな。先輩ばかりの中でなかなか食べ始められずにいたのを気にかけてくれて、本当に優しい先輩だ。きっと名雪先輩や瀬名先輩のこともこれから知っていけたら、新しい一面に出会えるのだろう。赤い顔の照れ隠しにおかずの卵焼きを無心で食べていると、ふとこちらを見る瀬名先輩と目があった。さっきまでのじっとした視線ではなくなっていたことに少しホッとする。もう見定め期間は終わったのかな、と思ったのもつかの間。重大なことを忘れていた。
『あ、』
「ん?」
『じ、自己紹介…えっと……、瀬名先輩。花守瑠衣と言います、一年です!よ、ろしくお願いしますっ』
瑠衣は自分が名乗っていないことに気づき、慌てて口の中のおかずを飲み込んでから挨拶した。それを見ていた三人の先輩方はお互いの顔を見合わせ、数秒の空白の後、一斉に笑い出す。
「今ッ?!」
「この流れで自己紹介?!ホント面白いっ」
「食べ始めてから気づいたの?」
名雪先輩が笑いをこらえながらもしてくれた質問に、コクンと頷く。
『……ごめんなさい』
「こっちこそごめんね。折角挨拶してくれたのに。そもそもの原因は泉だし」
「もう時効でしょ、それ。蒸し返さないでよー」
瀬名先輩は呆れたと言わんばかりに盛大なため息をつき、その後うっすら口元に笑みを浮かべた。
…あ、綺麗だ。
なんと見とれたのも一瞬。
「でもまぁ、真面目ちゃん同士気が合うとは思うけどねぇ。共倒れにだけはなって欲しくないしー?俺としては、もう少し機転が利くメンバーだったら、世話してばっかりの一方的な関係にならずに済むと思うけど」
…?
瀬名先輩は何の話をしたのだろう。
さっきの真面目云々の話だったら、今のは。
瑠衣は再び鋭さを増した瀬名先輩の瞳をちらりとみた。メンバーってことはもしかして、名雪先輩はこの二人にユニットの相談をしていたのかもしれない。そこにたまたま来てしまったから、瀬名先輩はあんな観察するような視線を送ってきたのだとしたら。見定めるような視線だったことにも説明がつく。
「……紹介する前に察するところはさすがだね」
「褒めてるんだか貶してるんだか…」
「ちゃんと褒めてるよ。疑う事は悪いことじゃないけれど、その用心深さが顔にも出てるよね、泉は」
「誰にでも尻尾振って生きてきたわけじゃないからね。この業界に身をおこうとしてる時点で見極められるようになってなきゃ困るし」
「言葉で攻撃を仕掛ける話し方はいつか誤解を生むよ。俺は慣れたけど、一年生には恐がられそうで心配だよ」
先輩達の話は、箸を止めずに入られなかった。気にならないわけないのだ。ユニットのことを心配している瀬名先輩は、きっとそれだけ名雪先輩自身の心配もしている。ユニットのことを初めて自分にしてくれた時の羽風先輩だって、名雪先輩を気遣う言葉をかけていた。名雪先輩が三年のこの時期に、ユニットを組もうと提案してくること。その原因とは一体何なのか。名雪先輩に何があったのか。
ユニットを組むこと以前に知らなければならないことが瑠衣にはたくさんあるように思った。
「実はちょうどユニットのことを話していたんだ」
瑠衣が羽風先輩に促されて、昼食を食べ終えたのを見計らい、名雪先輩がこそっと話しかけてきた。
「泉が君に興味を持ったのもそのせいだと思う」
『…そうだったんですね』
羽風先輩と話している瀬名先輩に視線を送りながら、やっぱり…と納得する。
「……名前も容姿も伝えていなかったのに気づくってそれだけ君が魅力的だった証拠だね」
『っ知らなかったんですか…?』
声を殺して話していたのに、思わず声が大きくなった。その声に、羽風先輩や瀬名先輩もこちらを見た。
「何、こそこそしてんのー?」
「あ、バレちゃったね」
「あのねぇ」
米神に青筋を立てた瀬名先輩は見るからに怒っていて、瑠衣は咄嗟に口を手で塞がなかったら悲鳴を上げてしまいそうなほどだった。自分の知らないところでコソコソされるのは誰だって嫌なはず。それでも名雪先輩はのんきな声で「短気だね」と慣れたようにいなしていた。
「悪口じゃないよ、泉が察しがよくて凄いって話してたの」
「はぁあ?さっきも言ったけど、ある程度アンテナはって置かないとすぐのまれるんだから、当ったり前でしょー」
「さっすが子役から仕事してる人は言う事が違うね」
「かおくん馬鹿にしてるでしょ!?」
瀬名先輩が一息大きくため息をつく。先輩の動作一つ一つにビクビクして、ずっと固唾を呑んでみていた。けれど、芸能に関わる人はそういう心づもりでいないといけないのか。だから瀬名先輩はこんなにぴりりとした雰囲気を持ってるのか。プライドばかりが高い人だなんて、どこかで思っていたけれど、きっと自分の心配もしてくれている。出会ったばかりの、こんなまだユニットさえ組んでいない後輩の。興味と名雪先輩は言っていたけど、その中にほんのひとつまみくらいは心配も含まれているのだ。
羽風先輩とまたじゃれあいのような話をし始めた瀬名先輩にちょっぴりくすりとしてしまう。
「……硬さが消えたね」
見られていたのか隣りに座る名雪先輩に話しかけられて、ふと自分より座高の高い先輩に視線を送る。何もかも見破られていそうな優しい表情をしているのをみて、敵わないななんて思った。
『少し、瀬名先輩が好きになれそうです』
僕らのやり取りを横目で瀬名先輩が見ていたのに気づいていたのは、一緒に話す羽風先輩だけだった。
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