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私の生まれた日

 誕生日、というものに特別な感情を抱いたことは無かった。
 私はセーラープルート。時空の扉を司る冥界の番人。どの時代、時間軸にも存在し、存在しない者。
 ただ独り、時空の扉を守りタブーを侵す者を消去する。それが私という存在だと、自分でもそう認識していた。
 だから誕生日というものはあってないようなもの。特別意識したことは無い。
 一応、その日が自分の誕生日だということは分かっているし忘れているわけでは無いけれどいつも通りの日を過ごすだけだったし、今年もそうだと思っていた。

「せつなママ! 明日はお昼、はるかパパとお出かけしてきてね!」
「え、ええ?」

 夜、突然ほたるにそんな事を言われる。それはもう困惑以外の何物でもなかった。
 だって、ねえ、はるかと2人で出かけろなんて言われると思わないじゃないですか普通。そういうのはみちるに言うべきことなのでは? と思いながらそれでもほたるがそう言う理由は理解していた。
 明日は一応、冥王せつなの誕生日。はるかと一緒に追い出されてる間にほたるとみちるが何かしらの準備をするのだろう。

「そういう事だから、明日は僕とのデートに付き合ってもらえるかな?」
「……いいんですか? 奥さんに締め上げられても知りませんよ」
「あれ? 君も僕の奥さんだと思ってたんだけど?」
「んなっ!?」

 背後から現れたはるかに呆れ半分揶揄い半分でみちるのことを言及すれば思わぬ返しをされて言葉に詰まる。
 いえ、確かに3人で誓いは立てましたけれど……! そういう、意味では、……そういう意味だったのでしょうか?
 悶々と考えているとくすくすと笑いながらみちるもやって来て私の横に腰を下ろした。

「そうね、せつなもはるかの奥さんって言えるわね」
「み、みちるまで……」
「でもそうしたら私もせつなの奥さんってことになるのかしら」
「ええ!?」

 みちるの言葉に大きな声を上げたのははるか。わたわたと慌てながらいや、でも、確かにそうかも……? なんて1人呟いている。
 そうしてブツブツと独り言を続けるはるかはピタッとそれを止めると慌ててみちるの背後に回って抱き締め始めた。

「いや、でもみちるは僕のだからな! いくらせつなでも渡さないからな!!」
「……はぁ、」

 何故か勝手に敵視? されて私はもう好きにしてくださいと諦める。みちるも、可笑しそうに笑ってないでどうにかしなさいその番犬を。

「はるか」
「?」

「はるかがいくらせつなでも私を取られたくないように、私だってはるかを取られたくないのよ?」
「みちる……」

 2人の世界に入り始めた万年新婚夫婦に溜息を吐きながら私はほたるを連れて先に2階へと上がった。

    ◇◇◇

 翌朝、起きて下に起きてみればなんと珍しいことに全員がすでに揃っていた。いくらなんでも出かけるにしては早い時間だからはるかはまだ寝ているだろうと思っていた。
 珍しいですね、と口を開こうとした時。それより先に3人が口を開く。

「せつな、お誕生日おめでとう」
「せつなママ! お誕生日おめでとう!」
「……ありがとう、ございます」

 一瞬の間の後、私は感謝の言葉を述べる。多分、顔はポカンとしていたと思う。
 だから3人が首を傾げておや? という表情を浮かべたのも理解出来る。予想していない反応だったからだろう。

「もしかして、忘れてた? って、感じではないよな?」
「ええ、まあ、忘れていたわけではないんですが」

 はるかの問いに曖昧に答えると3人は黙って続きを促してくる。

「こう、直接全面に出されたお祝いの言葉を頂くの初めてでして……少し驚いたと言いますか」
「え! おめでとうって初めて言われたの?」
「いえ、1日過ごすうちに今日誕生日なんだおめでとう、という風に言われることはありましたけど」
「あー、つまり最初から祝ってやるぞ! って気持ちを持った人に言われたのが初めてってこと?」

 はるかが分かりやすくまとめてくれたその言葉に頷く。ほたるもみちるも、それでようやく理解したようでなるほどと頷いていた。
 どことなく変な空気になってしまい私は居心地の悪さを感じる。誕生日を特別意識してこなかった代償ね、と苦笑いを浮かべるとほたるが抱きついてきた。

「じゃあせつなママの初めての『お誕生日おめでとう』は私たちが貰えたんだね!」

 なんかそれって、ちょっぴり嬉しい、と笑うほたるに自然と頬が緩む。はるかとみちるもほたると同じように嬉しそうに笑っていた。

「……そうですね。私も、初めての『お誕生日おめでとう』があなた達で、嬉しいです」

 素直に思ったことを口にすればせつな……! と何故か感極まった3人にギュウギュウに抱き締められてしまった。
 さて、そうして少しだけ一悶着があった後朝ご飯を食べ終えた私ははるかと一緒に追い出されていた。

「どっか行きたい所とかある?」
「そうですね、特には……」
「せつなって家と職場以外にどっか行ったりするの?」
「失礼ですね。それなりに出掛けたりしますよ」

 それなりに、ですけれど。
 ふーん、とジト目でこちらを見るはるかから視線をそらして高速で流れていく景色を見る。いつものオープンカーではないにしても助手席に座るのは少し躊躇われた。
 やっぱりはるかの横はみちるの場所、という認識があるからでしょうね、なんてあてもなく走り続ける車に揺られながら考えているとはるかに話しかけられた。

「せつなってさ」
「はい」
「誕生日、なんとも思ってないだろ」

 私は目を見開いてはるかを見つめる。はるかはもちろん運転中だから前しか見ていないけれど私の表情が手に取るように分かっているのか可笑しそうに笑うとやっぱりな、と口にした。

「どうして、分かるんです?」
「せつなの考え方って合理的だから。あと、単純に僕も自分の誕生日に興味はないからね」

 ま、君たちの誕生日は別だけど、と続けるはるかを私はじっと見つめる。ふっ、と目を細めたはるかは言葉を続けた。

「君は、冥王せつなであり、セーラープルートだ。それは僕もみちるもほたるもそうなんだけど、君はまた少し特別だろう?」
「……そうですね」
「僕らは前世のウラヌスたちと同一人物のようでそうじゃない。僕らは地球人だ。僕はセーラーウラヌスだけど、それ以前に天王はるかだ。でも君は、冥王せつなでありセーラープルートだろ」
「その通りです。私はどの時間軸にも存在し、存在しない者、ですから」

 はるかに向けていた視線を真っ直ぐ前に向けながらはるかの言葉を肯定する。

「だから誕生日なんてそんなのあってないようなもんだって思ってるんだろ」
「はるかは時々恐ろしく勘が鋭いですね」

 普段は鈍いくせに、という意図して隠した意味を理解したはるかは唇を尖らせながら一言余計だろ、と呟く。

「でもさあ、僕思うんだけど。やっぱり君にも誕生日はあるんだよ」
「?」
「今、君は冥王せつなとしてこの地球で過ごしてる。地球で培った知識や経験を活かして生きてる。それってさ、プルートとは違う人間なんじゃない?」

 何となく、はるかの言いたいことが分かる。確かに、冥王せつなとして地球で過ごしている間は自身の知識欲に素直に学びたいことを学んで好きなように生きている。
 それは時空の扉を守り、タブーを侵すものを消去するという使命を全うするセーラープルートは全く違う生き方だ。

「君は確かにプルートだけど、それ以前に冥王せつななんだよ。10月29日は、冥王せつなが生まれた日なんだ。どの時代、時間軸にも存在するセーラープルートとはまた違う」
「……そう、なのでしょうか」
「そうだと思うぜ? だってプルートならここでそれは違うって一刀両断さ。そうかもしれないって悩む時点で君は冥王せつななんだ。それに、今朝せつなは祝われることに対して嬉しいって言ったろ? 誕生日を特別意識したことの無いプルートがそう思うかな」

 プルートも祝われること自体に対しては嬉しいと思うだろうけれど確かに誕生日というものに対しては口では感謝を述べながらも心の中では首を傾げるかもしれない。
 そう考えるとはるかの言う通り、冥王せつなとセーラープルートは別人なのかもしれない。
 私は冥王せつななんだ、というのがストンと胸に落ちた。

「納得した?」
「ええ。なんだか、生まれ変わったような感じですね」
「はは、じゃあ本当に今日がせつなの誕生日になったな」

 ま、そもそも僕ら結構な回数死んでるし? なんて言うはるかに苦笑いを浮かべて不謹慎ですよと窘める。事実なんですけどね。

「さて、そろそろ帰るか。お姫様たちを待たせすぎると僕が怒られちゃうからね」
「そうですね、せっかくの私の誕生日に家族が喧嘩をしているのを私も見たくありませんから」

 はるかは私の言葉に笑うとご機嫌を損ねないように気を付けるよ、と言った。
 誕生日、というものに対して特別な感情を抱いた今日。私は本当に冥王せつなとして生まれたのだろうなと思った。
 そして同時に、セーラープルートの誕生日も祝いたいとそう思う。だってプルートも私だから。代わり映えのない悠久の時を独り過ごす彼女に、特別な日があったって良いじゃないかと、そう思った。
 ねえ、プルート。あなたの誕生日も今日で良いでしょうか。セーラープルートから冥王せつなが生まれた日、それはセーラープルートが新たなセーラープルートになった日でもあるのではないかと、そう思うから。

「……ハッピーバースデー、プルート」

 窓に映った私、プルートが微笑んだ気がした。
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