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赤ちゃんみたい

「……なに、あれ」
「さあ」

 午前中、せつなママとお買い物に出かけたあと少し部屋にこもってた私はリビングに入って首を傾げる。
 せつなママはしばらくここにいたはずだけど特に気にした様子もなくコーヒーを飲みながら新聞やチラシに視線を落としていた。
 私はとりあえず自分の飲み物を用意してせつなママの横に腰掛けてチラっと問題の2人に視線を向けた。

「あの、みちる?」
「……」
「えっと……」
「……」

 ソファに腰掛けるはるかパパの上に乗ってみちるママはじーっとその顔を見つめている。最初見た時はみちるママが怒ってるのかなって思ったけど、2人の間の空気を見るにどうやら違うみたい。
 はるかパパのほっぺを両手で挟んで顔を固定しているみちるママをはるかパパは為す術なく見上げている。
 心底困惑して助けてくれ……と目で訴えるはるかパパ。せつなママは全く見ていない。ガン無視だ。

「助けなくていいの?」
「めんどうじゃないですか」

 それとなくせつなママに問いかけてみたけれど一蹴されてしまった。はるかパパ、ご愁傷さま。両手を顔の前で合わせて一礼すると察したはるかパパはがっくりと肩を落とした。
 まあ、でも。多少満更でもなさそうなのはやっぱり目の前にみちるママがいるからなんだろうなあ。
 そう思って眺めていると微動だにしなかったみちるママがふと、動き出す。優しく摩るようにほっぺを撫でたり軽く頬擦りをしたり、珍しい行動を取り始めた。
 はるかパパも驚いて固まっちゃった、と思ったら今度はほっぺを摘んで柔らかさを堪能しているみたいだ。

「い、いひゃ、いひゃいよ、みひる」
「うーん……」

 抗議の声を無視して、というか聞こえてないようなみちるママははるかパパのほっぺを摘んだまま唸る。涙目になるはるかパパがちょっとかわいいと思ってしまったのは内緒にしておこう。

「……珍しいですね、どうしたんですみちる」

 せつなママが読んでいた新聞たちを畳みながらそう問いかける。みちるママの珍しい行動につい問いかけたのか、でもせつなママは優しいからそろそろはるかパパを助けてあげようと思ったのかもしれない。
 はるかパパはそんなせつなママにメシア……と呟いた。

「ちょっと、羨ましかったというか、嫉妬してたというか。とにかくせつなも見てちょうだい」
「はい?」

 みちるママのよく分からない言葉にせつなママは首を傾げて、でも言われた通りにパパたちの元へ歩み寄った。
 そして無言ではるかパパのほっぺを譲られるとせつなママはみちるママと同じようにパパのほっぺを摩ったり摘んだりし始めた。

「お、おひ、ひぇつな?」
「これは……」

 困惑の色を宿していた瞳は真剣そのものになりはるかパパの声はせつなママに届いていなかった。しばらく2人で観察したあとようやく解放されたはるかパパは涙目を浮かべ、ほっぺを両手で包みながらママたちを見上げる。

「何なんだよ、一体」
「はるかって別にお肌のお手入れ、何もしてないわよね?」
「え? ああ、うん」
「それで……これですか……」

 みちるママとせつなママの言葉。それで私はああそういうこと、と理解する。はるかパパは未だに首を傾げていて説明を求めていた。

「まあでも、何もしていないからこそなのかもしれませんね」
「そうね」

 はるかはそのままでいてちょうだいね、とみちるママは言うとはるかパパのほっぺに1つキスをする。せつなママも大事にしてください、と言うと反対側のほっぺにまた1つ。
 さっきとは違う理由で両手でほっぺを押さえたはるかパパをそのままにママたちはキッチンへ行ってしまった。
 頭の上にたくさんはてなマークを浮かべるはるかパパに私も近寄ってママたちと同じ行動を取る。もう慣れたのか、はたまたその前の衝撃のせいか、されるがままの状態のはるかパパに私も1つキス。
 そしてヒントを残してあげたのだった。
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