その眼差しは
はるか、ほたる、ご飯よ、というみちるの声で目を覚ます。目を擦りながら体を起こして辺りを見回すと開け放たれた窓から夏の匂いを纏った風がそよそよと吹いている。
日は少し傾き、オレンジ色に差し掛かり始めているのを見るとどうやら数時間は寝ていたらしい。
隣で丸まって眠るほたるの肩に手を置いて軽く揺すりながら声を掛ける。
「ほたる、ご飯だって」
「ぅ〜ん、ぱぱ、だっこ……」
寝起きでぎこちない動きをする体を無視しながらほたるを抱っこする。すると嬉しそうに笑いながら擦り寄ってくるほたるに思わず頬が緩む。
ゆっくりと、ほたるを万が一にでも落とさないように気を付けながら階段を降りてリビングへ向かうとみちるとせつながテーブルに夕食を用意していた。
僕たちに気付いた2人はちょっと呆れたような、でも凄く優しい笑顔を浮かべて迎え入れる。
「もう、お昼寝してたのね」
「どうりで静かだと思いました」
「うん、ごめん」
僕は微笑む2人に苦笑いを浮かべながら謝る。夕食の支度もそうだし、リビングに広げっぱなしにしていた雑誌や上着は綺麗に片付けられていたから。
けれど2人はいいのよ、いつもほたるの相手をしてくれているじゃない、と返してくれる。
夏休みに入って、毎日ほたるが家にいるのは僕らにとっても嬉しいことだけれど、やっぱりそれなりに疲れるのも事実だった。
まだ僕らだって若いけれど、一体この小さな体のどこにそんな体力があるのか時々驚かされる。
だから夏休みに入ってからの遊び相手はもっぱら僕で、疲労が溜まっているから仕方ないと2人は言ってくれるのだ。
「ほたる、ご飯よ。目を覚ましてちょうだい」
「ぅん、ごはん、たべる……」
腕に抱いていたほたるを椅子に座らせ、みちるに任せる。ほたるはみちるの言葉に反応して食べるとは言うもののその目は全く開いていない。
みちるが試しにほたるの口元にご飯を持っていくとぱくりと食べるが口の動きは緩慢だ。僕とせつなは思わず目を合わせて苦笑いをする。
「もう少しだけ寝かせてあげようか」
「その方がいいかも」
ほたるを移動させるために腰を上げた瞬間、ほたるはんー、と唸りながら目の前にあるみちるの腕をとる。そしてそのままその腕に頭を預け眠ってしまった。
そのあまりの手際の良さに僕らは呆然と見つめるしかなかった。
「ふふ、ほたるに捕まってしまいましたね」
せつなは可笑しそうに笑ってみちるの分のご飯をはいどうぞ、とみちるの口元に運ぶ。みちるはちょっと躊躇った後に頬を薄く赤らめながらぱくりと一口食べる。
「あ、おい! せつな!」
「おや、どうかしましたか?」
とぼけるせつなにずるいだとか、羨ましいだとか、素直に言うのは憚れて唸ることしかできない。
少しの間みちるはせつなにせっせとご飯を食べさせられており、僕はそんな2人を見ながらご飯を食べ進めるしか無かった。
僕が食べ終えるのを確認するとせつなはじゃあ代わってくださいと言い始めた。
「は?」
「え?」
「私、まだ食べれていないので」
せつなの言葉に反応したのは僕だけじゃなくて。みちると目を合わせるとみちるはさっきよりも顔を赤くさせて目を伏せる。
ゆっくりとみちるの方に向き直り、まだ残っているみちるのご飯を運ぶ。
恥ずかしいのだろうか、顔を真っ赤にして涙をうっすらと浮かべたみちるは散々迷ってぱくりと一口。
……なんだ、この可愛い生き物は。
夢中になって食べさせていると気付けば皿は空っぽになり、ご馳走様でした……というか細い声が聞こえる。
ハッとなって僕は皿を片付けるよ、と全員分の皿をシンクへ運び洗い始める。少しの後、みちるがほたるの分のご飯を持って戻ってきた。
「あれ、ほたるは?」
「せつなが代わってくれたわ……あの、ご飯ありがとう」
ラップをかけながらみちるはそう呟いた。ちょっと上目遣いに見上げてくるのは身長差のこともあって当然なんだけれど、なんでだろう、今日は本当に特に可愛い。
ささっと残りの食器を洗い、水切りかごに立てて手を拭くとみちるを抱きしめる。
腕の中で戸惑う様子を感じたけれどすぐにそれは無くなり、そっと僕の背中にも手が回る。しばらく2人して無言でそうして抱きしめているとみちるは僕の胸の中で何かを喋っている。
「ん?」
「……なんでかしら、今日のはるか、眼差しが凄く、凄くパパって感じで、なんだかちょっと照れちゃう」
なんて呟くみちる。あー、それで、と納得する。割と普段からあーんし合ったりしているのに今日は特段と照れているなと思ったのはそれが原因だったのか。
「ほたるの相手をしてたからかな?」
「そうかも」
「で、そんな僕に照れちゃったわけ?」
「……そうかも?」
「僕としては、普段とあんまり変えてるつもりないんだけどな」
「眼差しが、いつもよりもっと優しくて。いつも優しいのよ? でも本当に、パパみたいで、なんだか自分も子どもに戻ったみたいで……」
それで、というみちるに僕は微笑む。そっとみちるの顔を上げて視線が交わるようにすると唇にキスをする。
「そうやって可愛いみちるを見せてくれたのは嬉しいけど、いつものみちるのがいいかな」
「どうして? 子どもっぽい私はイヤ?」
「そうじゃないさ。子どもっぽいみちるだってとっても可愛い。現にそうだろ? ……でも、子どもだったら今みたいなキスはできない」
できるだけ、みちるのいう親の眼差しを消してその蒼い瞳を覗き込む。恋人として見つめていると、みちるの瞳にも同じ色が映る。
ずるい人、と呟くみちるの唇をもう一度塞ぎ、夜は付き合ってもらうぜ? と囁く。
「……いいわ。日中はほたるに取られっぱなしですもの。あなたが本当は誰のものか、ちゃんと分かってもらわないと」
きゅ、と少し強めに抱き返された僕はちゃんと分かってるよ、という意味を込めてその腰を抱き寄せたのだった。
日は少し傾き、オレンジ色に差し掛かり始めているのを見るとどうやら数時間は寝ていたらしい。
隣で丸まって眠るほたるの肩に手を置いて軽く揺すりながら声を掛ける。
「ほたる、ご飯だって」
「ぅ〜ん、ぱぱ、だっこ……」
寝起きでぎこちない動きをする体を無視しながらほたるを抱っこする。すると嬉しそうに笑いながら擦り寄ってくるほたるに思わず頬が緩む。
ゆっくりと、ほたるを万が一にでも落とさないように気を付けながら階段を降りてリビングへ向かうとみちるとせつながテーブルに夕食を用意していた。
僕たちに気付いた2人はちょっと呆れたような、でも凄く優しい笑顔を浮かべて迎え入れる。
「もう、お昼寝してたのね」
「どうりで静かだと思いました」
「うん、ごめん」
僕は微笑む2人に苦笑いを浮かべながら謝る。夕食の支度もそうだし、リビングに広げっぱなしにしていた雑誌や上着は綺麗に片付けられていたから。
けれど2人はいいのよ、いつもほたるの相手をしてくれているじゃない、と返してくれる。
夏休みに入って、毎日ほたるが家にいるのは僕らにとっても嬉しいことだけれど、やっぱりそれなりに疲れるのも事実だった。
まだ僕らだって若いけれど、一体この小さな体のどこにそんな体力があるのか時々驚かされる。
だから夏休みに入ってからの遊び相手はもっぱら僕で、疲労が溜まっているから仕方ないと2人は言ってくれるのだ。
「ほたる、ご飯よ。目を覚ましてちょうだい」
「ぅん、ごはん、たべる……」
腕に抱いていたほたるを椅子に座らせ、みちるに任せる。ほたるはみちるの言葉に反応して食べるとは言うもののその目は全く開いていない。
みちるが試しにほたるの口元にご飯を持っていくとぱくりと食べるが口の動きは緩慢だ。僕とせつなは思わず目を合わせて苦笑いをする。
「もう少しだけ寝かせてあげようか」
「その方がいいかも」
ほたるを移動させるために腰を上げた瞬間、ほたるはんー、と唸りながら目の前にあるみちるの腕をとる。そしてそのままその腕に頭を預け眠ってしまった。
そのあまりの手際の良さに僕らは呆然と見つめるしかなかった。
「ふふ、ほたるに捕まってしまいましたね」
せつなは可笑しそうに笑ってみちるの分のご飯をはいどうぞ、とみちるの口元に運ぶ。みちるはちょっと躊躇った後に頬を薄く赤らめながらぱくりと一口食べる。
「あ、おい! せつな!」
「おや、どうかしましたか?」
とぼけるせつなにずるいだとか、羨ましいだとか、素直に言うのは憚れて唸ることしかできない。
少しの間みちるはせつなにせっせとご飯を食べさせられており、僕はそんな2人を見ながらご飯を食べ進めるしか無かった。
僕が食べ終えるのを確認するとせつなはじゃあ代わってくださいと言い始めた。
「は?」
「え?」
「私、まだ食べれていないので」
せつなの言葉に反応したのは僕だけじゃなくて。みちると目を合わせるとみちるはさっきよりも顔を赤くさせて目を伏せる。
ゆっくりとみちるの方に向き直り、まだ残っているみちるのご飯を運ぶ。
恥ずかしいのだろうか、顔を真っ赤にして涙をうっすらと浮かべたみちるは散々迷ってぱくりと一口。
……なんだ、この可愛い生き物は。
夢中になって食べさせていると気付けば皿は空っぽになり、ご馳走様でした……というか細い声が聞こえる。
ハッとなって僕は皿を片付けるよ、と全員分の皿をシンクへ運び洗い始める。少しの後、みちるがほたるの分のご飯を持って戻ってきた。
「あれ、ほたるは?」
「せつなが代わってくれたわ……あの、ご飯ありがとう」
ラップをかけながらみちるはそう呟いた。ちょっと上目遣いに見上げてくるのは身長差のこともあって当然なんだけれど、なんでだろう、今日は本当に特に可愛い。
ささっと残りの食器を洗い、水切りかごに立てて手を拭くとみちるを抱きしめる。
腕の中で戸惑う様子を感じたけれどすぐにそれは無くなり、そっと僕の背中にも手が回る。しばらく2人して無言でそうして抱きしめているとみちるは僕の胸の中で何かを喋っている。
「ん?」
「……なんでかしら、今日のはるか、眼差しが凄く、凄くパパって感じで、なんだかちょっと照れちゃう」
なんて呟くみちる。あー、それで、と納得する。割と普段からあーんし合ったりしているのに今日は特段と照れているなと思ったのはそれが原因だったのか。
「ほたるの相手をしてたからかな?」
「そうかも」
「で、そんな僕に照れちゃったわけ?」
「……そうかも?」
「僕としては、普段とあんまり変えてるつもりないんだけどな」
「眼差しが、いつもよりもっと優しくて。いつも優しいのよ? でも本当に、パパみたいで、なんだか自分も子どもに戻ったみたいで……」
それで、というみちるに僕は微笑む。そっとみちるの顔を上げて視線が交わるようにすると唇にキスをする。
「そうやって可愛いみちるを見せてくれたのは嬉しいけど、いつものみちるのがいいかな」
「どうして? 子どもっぽい私はイヤ?」
「そうじゃないさ。子どもっぽいみちるだってとっても可愛い。現にそうだろ? ……でも、子どもだったら今みたいなキスはできない」
できるだけ、みちるのいう親の眼差しを消してその蒼い瞳を覗き込む。恋人として見つめていると、みちるの瞳にも同じ色が映る。
ずるい人、と呟くみちるの唇をもう一度塞ぎ、夜は付き合ってもらうぜ? と囁く。
「……いいわ。日中はほたるに取られっぱなしですもの。あなたが本当は誰のものか、ちゃんと分かってもらわないと」
きゅ、と少し強めに抱き返された僕はちゃんと分かってるよ、という意味を込めてその腰を抱き寄せたのだった。
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