色付けるのは君
みちると出会って、色んなイベントに2人で参加するようになって、今まではなんとなしに友人たちと過ごしていたイベントがこんなに色のついたものであると初めて実感をするようになった。
友人たちと過ごすイベントも楽しくなかったわけではないが、心の中ではどこか僕は冷めた気持ちでいたんだ。それは僕が彼らに心を開いていないという証拠なのだろう。
今年も何度か彼らに誘われたが断った。
戦士として覚醒してからはいつ何時、抜けることになるか分からない。当然、僕の性格や仕事をよく知っている彼らは突然抜けることになっても特に何も思ったりはしないだろう。
ひとえに僕自身の問題だった。上手く切り替えられる自信がなかったのだ。まだ、慣れないこの戦士としての生活に。
その点、みちるとはとても過ごしやすかった。それは共犯的な関係から来るものなのか、彼女が僕をよく理解していることから来るものなのか、よく分からないけれど、とにかく息がしやすかった。
秘密を共有し合っているから切り替える必要がない分、普段の生活はもちろん、イベントを彼女と過ごすのも負担がなかった。
そうして僕は初めて気付いた。みちると過ごす夏祭りやハロウィンやクリスマスが今までの記憶よりずっと色がついていることに。
それに気付いた時、僕は戸惑った。けれど同時に、嬉しかった。
戦いの中でこんな気持ちに気付くなんて思わなかったし、いいのだろうか、と悩むけれど、それでも僕は隣で少し頬を蒸気させて微笑むみちるを見ているとまあ、このくらいいいか、という気持ちになる。
そんなこんなで、だんだんとイベントを楽しみに思えるようになってきた僕は、正月はどうしようか、と考え始めていた。
当然、今までのイベントをみちると過ごしていたから僕の中では正月も彼女と過ごすつもりで考えていたのだが、その考えは見事に粉砕された。
「お正月は実家に帰るわ」
そうみちるに告げられたのは12月30日。いよいよ正月を目前に、一応誘いのつもりでどうする? と声を掛けるとそう返ってきたのだ。
毎年、正月だけは両親も日本に必ず帰ってきて家族で過ごすのだと。
はるかは? と聞かれて僕は友人たちと夜通しバカ騒ぎかな、と取り繕った。
みちるは僕の返答にどこかホッとしたような顔を浮かべるとそう、楽しんでいらして、と微笑む。
良かった、変に僕も家族と過ごすよって返さなくて。そう言ってしまえば彼女にはきっと嘘がバレていた。
いつも通り、取り繕ってその日はみちると別れた。
あれから2日経ち、僕はその時の胸の痛みを抱えながら1人正月を迎えていた。
今年の、いや正確には去年のみちると過ごした様々なイベントとのコントラストが凄い。
勝手に期待して、勝手に裏切られた気分になって、なんて自分勝手なヤツなんだろうとさらに気持ちが沈む。
以前の僕ならこういうときは走りに行って全てを振り切っていたのだが、そんな気分でもない。
けれど、じっと家の中で過ごすのも居心地が悪く、僕は1人街に出ることにした。
◇◇◇
街はまあまあ賑やかだった。初詣に向かう恋人たち。お正月セールで買い物に来ている家族連れ。おそらく昨日の夜から一緒に楽しんでいるだろう友人グループ。
色々な音や匂い、色が広がるが僕の周りはとても静かで、色がなかった。
前まではそれが当たり前で、平気だったはずなのに。
気付けば僕は海浜公園まで来ていた。ベンチに腰を下ろし、じっと海を見つめる。
波の音。潮の匂い。空と海の青。ここだけは、なぜか色々なものを感じた。それになんだか安心して、僕はずーっと1人でこの場所で海を眺め続ける。
気付けば空と海が青からオレンジなるまでずっとそこにいた。いくらなんでも居すぎたな、と気付いた時には体は芯から冷えきっていた。
脳が冷えていることに気付くともうダメで、今度は寒すぎて動くことが出来なくなってしまった。僕はうずくまって体を温めようと動き始めた時、海以外灰色だった視界の端に色が映りこんだ。
そちらへ視線を向けると驚いた顔をしたみちるがいた。
みちるは何度か口を開いては閉じを繰り返し、一瞬キュッと顔を顰めたが次の瞬間にはいつもの微笑みを携えてご機嫌よう、と口にした。
「やあ、今日は家族と一緒じゃなかったのかい?」
「そのつもりだったのだけれど、生憎、お仕事が入ってしまったみたい」
「それは、残念だったね」
何事もないかのように会話を続ける。僕も、みちるも。お互いが嘘をついていることなんて分かりきっているのに。
「じゃあ、そんなひとりぽっちになってしまったお嬢様は海を眺めにでも来たのかい?」
「……いいえ、空を」
一言そう呟いてみちるはオレンジに染まった空を見上げる。そして再び僕に視線を合わせるとゆっくりと目を細めた。
「空を、お誘いに来てみたの」
「お誘い?」
「ええ。ひとりぽっちの私と一緒に、お正月を過ごしてくれる空を」
僕の世界は一言で全てを取り戻した。海と、みちるとにしか色のなかった世界が急速に色付いていく。僕の周りに音が、匂いが広がっていく。
まったく、君というやつは。
僕はベンチから立ち上がるとみちるの前に向き直った。そして彼女の手を取ると、空はいつでも歓迎さ、と返す。
みちるは嬉しそうに微笑むと、そういえば言ってなかったわね、と呟く。
なんの事だか分からない僕は目を瞬かせているとみちるは冷えきった僕の両手をひと回り小さな両手で包みこう言った。
「あけましておめでとう、はるか。今年も、どうぞよろしくお願いします」
僕は数瞬、呆気にとられ、理解する。そして、きっと情けないだろう顔をしながら答えた。
「あけましておめでとう、みちる。こちらこそ、よろしく」
指先からじんわりと広がる温度に、僕は泣きそうになった。
みちるは気付かないフリをして、さぁ行きましょう、と僕の手を引く。
「こんなに冷えてるなんて……一体どれだけの時間見惚れていたのかしら」
「……もともとは爽やかな色だったよ」
僕の答えに目を見開くみちる。滅多に見られないその顔に僕はくすりと笑うと、彼女に怒られてしまった。
おせちなんて食べてる場合じゃないわ、スープよ、スープ、というみちるに僕はおせちも食べたいと返した。
友人たちと過ごすイベントも楽しくなかったわけではないが、心の中ではどこか僕は冷めた気持ちでいたんだ。それは僕が彼らに心を開いていないという証拠なのだろう。
今年も何度か彼らに誘われたが断った。
戦士として覚醒してからはいつ何時、抜けることになるか分からない。当然、僕の性格や仕事をよく知っている彼らは突然抜けることになっても特に何も思ったりはしないだろう。
ひとえに僕自身の問題だった。上手く切り替えられる自信がなかったのだ。まだ、慣れないこの戦士としての生活に。
その点、みちるとはとても過ごしやすかった。それは共犯的な関係から来るものなのか、彼女が僕をよく理解していることから来るものなのか、よく分からないけれど、とにかく息がしやすかった。
秘密を共有し合っているから切り替える必要がない分、普段の生活はもちろん、イベントを彼女と過ごすのも負担がなかった。
そうして僕は初めて気付いた。みちると過ごす夏祭りやハロウィンやクリスマスが今までの記憶よりずっと色がついていることに。
それに気付いた時、僕は戸惑った。けれど同時に、嬉しかった。
戦いの中でこんな気持ちに気付くなんて思わなかったし、いいのだろうか、と悩むけれど、それでも僕は隣で少し頬を蒸気させて微笑むみちるを見ているとまあ、このくらいいいか、という気持ちになる。
そんなこんなで、だんだんとイベントを楽しみに思えるようになってきた僕は、正月はどうしようか、と考え始めていた。
当然、今までのイベントをみちると過ごしていたから僕の中では正月も彼女と過ごすつもりで考えていたのだが、その考えは見事に粉砕された。
「お正月は実家に帰るわ」
そうみちるに告げられたのは12月30日。いよいよ正月を目前に、一応誘いのつもりでどうする? と声を掛けるとそう返ってきたのだ。
毎年、正月だけは両親も日本に必ず帰ってきて家族で過ごすのだと。
はるかは? と聞かれて僕は友人たちと夜通しバカ騒ぎかな、と取り繕った。
みちるは僕の返答にどこかホッとしたような顔を浮かべるとそう、楽しんでいらして、と微笑む。
良かった、変に僕も家族と過ごすよって返さなくて。そう言ってしまえば彼女にはきっと嘘がバレていた。
いつも通り、取り繕ってその日はみちると別れた。
あれから2日経ち、僕はその時の胸の痛みを抱えながら1人正月を迎えていた。
今年の、いや正確には去年のみちると過ごした様々なイベントとのコントラストが凄い。
勝手に期待して、勝手に裏切られた気分になって、なんて自分勝手なヤツなんだろうとさらに気持ちが沈む。
以前の僕ならこういうときは走りに行って全てを振り切っていたのだが、そんな気分でもない。
けれど、じっと家の中で過ごすのも居心地が悪く、僕は1人街に出ることにした。
◇◇◇
街はまあまあ賑やかだった。初詣に向かう恋人たち。お正月セールで買い物に来ている家族連れ。おそらく昨日の夜から一緒に楽しんでいるだろう友人グループ。
色々な音や匂い、色が広がるが僕の周りはとても静かで、色がなかった。
前まではそれが当たり前で、平気だったはずなのに。
気付けば僕は海浜公園まで来ていた。ベンチに腰を下ろし、じっと海を見つめる。
波の音。潮の匂い。空と海の青。ここだけは、なぜか色々なものを感じた。それになんだか安心して、僕はずーっと1人でこの場所で海を眺め続ける。
気付けば空と海が青からオレンジなるまでずっとそこにいた。いくらなんでも居すぎたな、と気付いた時には体は芯から冷えきっていた。
脳が冷えていることに気付くともうダメで、今度は寒すぎて動くことが出来なくなってしまった。僕はうずくまって体を温めようと動き始めた時、海以外灰色だった視界の端に色が映りこんだ。
そちらへ視線を向けると驚いた顔をしたみちるがいた。
みちるは何度か口を開いては閉じを繰り返し、一瞬キュッと顔を顰めたが次の瞬間にはいつもの微笑みを携えてご機嫌よう、と口にした。
「やあ、今日は家族と一緒じゃなかったのかい?」
「そのつもりだったのだけれど、生憎、お仕事が入ってしまったみたい」
「それは、残念だったね」
何事もないかのように会話を続ける。僕も、みちるも。お互いが嘘をついていることなんて分かりきっているのに。
「じゃあ、そんなひとりぽっちになってしまったお嬢様は海を眺めにでも来たのかい?」
「……いいえ、空を」
一言そう呟いてみちるはオレンジに染まった空を見上げる。そして再び僕に視線を合わせるとゆっくりと目を細めた。
「空を、お誘いに来てみたの」
「お誘い?」
「ええ。ひとりぽっちの私と一緒に、お正月を過ごしてくれる空を」
僕の世界は一言で全てを取り戻した。海と、みちるとにしか色のなかった世界が急速に色付いていく。僕の周りに音が、匂いが広がっていく。
まったく、君というやつは。
僕はベンチから立ち上がるとみちるの前に向き直った。そして彼女の手を取ると、空はいつでも歓迎さ、と返す。
みちるは嬉しそうに微笑むと、そういえば言ってなかったわね、と呟く。
なんの事だか分からない僕は目を瞬かせているとみちるは冷えきった僕の両手をひと回り小さな両手で包みこう言った。
「あけましておめでとう、はるか。今年も、どうぞよろしくお願いします」
僕は数瞬、呆気にとられ、理解する。そして、きっと情けないだろう顔をしながら答えた。
「あけましておめでとう、みちる。こちらこそ、よろしく」
指先からじんわりと広がる温度に、僕は泣きそうになった。
みちるは気付かないフリをして、さぁ行きましょう、と僕の手を引く。
「こんなに冷えてるなんて……一体どれだけの時間見惚れていたのかしら」
「……もともとは爽やかな色だったよ」
僕の答えに目を見開くみちる。滅多に見られないその顔に僕はくすりと笑うと、彼女に怒られてしまった。
おせちなんて食べてる場合じゃないわ、スープよ、スープ、というみちるに僕はおせちも食べたいと返した。
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