捕まえられたのはどっち
今年もハロウィンの日がやってくる。去年は知らないうちに仮装が決まっていて随分驚いたけれど今年は最初から僕も会議に参加させて貰えるようだ。
「今年は何の仮装にしようかなー!」
「去年は可愛い黒猫さんだったもんな」
リビングのソファに腰掛けた僕の膝に乗ったほたるが楽しそうに雑誌を見ている。ほたるはさっきからずっと仮装のヒントがないかいくつもの雑誌をパラパラと捲っている。
僕はそれをほたるの小さな頭越しに一緒になって眺めていた。
「お」
「なあにー? なんかいいのあった?」
「あ、うん。ちょっとね」
パラパラと捲られていくページの一部。それを見て思わず声を出してしまった。ほたるは僕の小さな呟きを聞き逃すことなくどれどれ〜? と言って僕に雑誌を手渡してきた。
「あー、これ。みちるに仮装してもらいたいなって思ってさ」
「わー! いいね! 絶対かわいいよ!」
苦笑いをしながら指さしたのは警官の仮装をしているモデル。ほたるはそれを見てみちるママにきっと似合うね、と無邪気な笑顔を見せる。
僕はほんのちょっとだけ、邪な気持ちを抱いてしまったからほたるには曖昧に微笑んだ。
「何か良さそうなのが見つかりましたか?」
「うん! はるかパパがみちるママにこれやって欲しいって!」
「あ、ほたる!」
人数分の紅茶を持ってやってきたせつなにほたるは雑誌を見せる。慌てて止めるも間に合わなかった。
せつなは片眉を上げると僕をちらっと見て呆れた顔を見せた。……多分、寸分の狂いもなく僕の思ってたことは彼女に筒抜けなんだと思う。
「ならはるかは囚人の仮装で決まりですね」
「え」
「みちるが警官なら当然でしょう」
それはみちるに捕まっておけおバカさんって意味ですかせつなさん。まあみちるに捕まるならいいかって気持ちもあるけど。
「なぁに? もう決まっちゃったの?」
「ええ、はるかが囚人でみちるが警官だそうですよ」
警官と囚人? と大きな瞳を丸くさせたみちるは次の瞬間にはふわりと微笑んでいいわね、と言った。
いいんですか、みちるさん。ミニスカポリスでお願いします。
「あとは私とせつなママのだね〜!」
再び雑誌を捲り始めるほたると一緒に雑誌を覗いているせつな。みちるは僕の横に腰掛けて警官の仮装をどうするか考えている。
「警官の仮装っていっても色々あるのね。ねえはるか? どれがいいと思う?」
「んえ? あー、っと。そうだなあ……こういうの、とか?」
と言って示したのは海外の警官風の仮装。しかもミニスカート。ちょっと露骨すぎたか、と思ったけどみちるは写真を見ながらこれなら作れそうね、と呟いていた。
なんか色々と自分が残念な奴すぎて頭を抱えてきたくなってきた。でも見たいんだもん。みちるのミニスカポリス。
と、誰に言うでもない言い訳を1人頭の中でしながら僕はせつなとほたるの仮装を探すのにテーブルに乗っていた雑誌の山から1つ手に取った。
◇◇◇
ハロウィン当日。今年は出かけるのではなく最初からうちでハロウィンパーティをすることになった。もちろん、おだんご頭たちも呼んで。
「とりっくおあとりーと!!」
「やあ、いらっしゃい」
「わあ! はるかさん今年は囚人さんの仮装なんですね!」
元気よく玄関の外から響く言葉に僕はみんなを出迎える。1人で出迎えたのは他の3人がパーティの準備で忙しかったから。
決して僕がサボってたというわけではない。誰かが行かなきゃいけない時に僕が一番適任だっただけだ。
「はい、お菓子」
「あーん、ザンネーン! はるかさんにイタズラ出来なかったわ〜」
「はは……美奈子ちゃんからのイタズラはちょっと怖い、かな」
苦笑いを浮かべながらそう答えると美奈子ちゃんの後ろに立っていた亜美ちゃん、レイちゃん、まこちゃんはうんうんと大きく頷いていた。
「こんにちはー!」
「いらっしゃい、みんな」
「キャー! みちるさん、色っぽーい!」
リビングに入るなり出迎えたみちるの姿を見ておだんご頭たちはキャーキャー騒いでいる。気持ちは分かるけど。
みちるは僕の要望通り、ミニスカポリスの仮装をしていた。めちゃくちゃ似合っててめちゃくちゃ可愛くて、そんでめちゃくちゃ色っぽい。
僕の願望の結果とはいえ、この格好で外には出したくなかったから今年は内々でのパーティが決まっていて本当に良かったと思った。
「いらっしゃい、みなさん」
「みなさんいらっしゃいませ! トリックオアトリート!」
キッチンの方からやってきたのはフランケンシュタインとその生みの親、科学者の仮装をしたせつなとほたるだった。
その完成度の高さにおだんご頭たちは感嘆の声を漏らす。ちなみにせつなが科学者の仮装じゃないのは職場での格好と対して変わらないよなというものからだった。
結果、フランケンシュタインをせつなが。科学者をほたるがやる事になったんだけど、その格好がゲルマトイドに乗っ取られていた時の土萠教授そのもので。
ちょっとだけフクザツな気持ちを抱いている僕だったりする。まあ楽しそうだし可愛いからいいんだけどさ。
はい、どうぞ、とみんなからお菓子をもらっているほたるとおちびちゃんはにこにこと笑顔でとても可愛い。
流れるようにおだんご頭もお菓子を貰おうとしていてレイちゃんに怒られていた。
「まあまあ、お菓子はいっぱいあるし。いいじゃないか」
「わーん! はるかさーん!」
「もー、はるかさんって本当にうさぎに甘いんだから!」
「そうかなあ」
よく言われるけどそんなに僕っておだんごに甘いかな。ほたるやみちるに甘い自覚はあるんだけど。や、みちるには弱いが正しいかもしれないな。
「ふふ、でもはるかの言う通り。私たちだけじゃ食べきれないからぜひみんなも貰っていただけるかしら?」
「ま、まあ? みちるさんが言うなら、ありがたくいただきますけど」
「なーんだ、レイちゃんもやっぱりお菓子欲しかったんじゃん」
「うさぎ!」
きゃー! 暴力はんたーい! と騒ぐみんなを見て僕は思わず噴き出した。隣ではみちるも僕と一緒に笑っている。
「はるかさんもみちるさんも、笑うなんてひどーい!」
「くくっ、いや、ごめん」
「ふふふっ、ごめんなさい」
本当、面白い子たちね、と珍しくうっすらと涙を浮かべながら笑うみちるに僕も微笑んでそうだな、と答えた。
その後のハロウィンパーティもおだんご頭たちのおかげでとても賑やかで楽しいものになった。
夕方頃には後片付けも終えてそろそろ解散しようか、となった時、ほたるがおちびちゃんからお泊まりをしようと誘われた。
「はるかパパ、みちるママ、せつなママ。ダメ?」
なんて、上目遣いでおねだりしてくるほたる。一体どこで覚えてきたのやら、そんな顔されたらいいよって言う以外ないじゃないか。
「やったー! ありがとうパパ! ママ!」
おちびちゃんと手を取り合って喜ぶ2人はその後、せつなも一緒に泊まろうとおねだりをし始めた。
最初は辞退していたせつなもおだんご頭からの援護射撃もあって最終的には首を縦に振ることとなった。
「楽しんでこいよ」
「ええ。では、いってきます」
「いってきまーす!」
泊まり支度を終えた2人はおだんご頭たちと一緒に行ってしまった。
ついさっきまで賑やかだった家の中は僕とみちるの2人だけになってとても静かになる。日もすっかり落ちたリビングは薄い闇に支配され始めていた。
電気を付けようとスイッチのある方へ足を向けた矢先、僕はみちるに捕まった。
「みち……ん、」
「んっ、」
ぐっ、と体を僕の方へ預けるみちるを支えながらもジリジリと後退させられてキスをしたままソファに倒れ込む。
僕の上に馬乗りになったみちるは一体どこに隠し持っていたのかおもちゃの手錠で僕の両手を拘束した。
「……随分、積極的だね。みちるさん?」
「あら、こういう事をしたかったのはあなたではなくて? はるかさん?」
「やっぱりバレてたか」
僕の呟きににっこりと微笑んだみちるはするりと細くしなやかな指を服の裾から侵入させる。
僕の腹の上をくるくると優しく撫でながらみちるは体を倒してまた僕にキスをする。
ちょっとでも動けばまた唇同士がくっつくくらいの距離でお互いを見つめ合う。
「随分と大人しい囚人さんね」
「囚人にこんな事する警官の方が実は悪かったりしないかい?」
「さあ、どうかしら」
全く、悪い警官だ。
少しだけ顎を上げて今度は僕からキスをする。みちるはそっと目を細めて満足そうに笑った。
手錠で両手が繋がったまま僕は上体を起こしてみちると体勢を入れ替えた。
みちるが僕にしたのと同じように服の裾から両手を入れて撫でるように触れる。
「悪い警官は悪い囚人に捕まっても自業自得かな?」
「ふふ、そうかも」
あとでみちるに手錠付け替えてイタズラしてやろう、と考えたところでああそういえば今日はそういう日だったと思い出す。
「みちる、trick or treat」
突然の僕の問いかけに目を丸くさせるみちる。数瞬ぱちぱちと瞬きをしたあと、ふっと妖艶な笑みを浮かべると呟いた。
「trick」
「今年は何の仮装にしようかなー!」
「去年は可愛い黒猫さんだったもんな」
リビングのソファに腰掛けた僕の膝に乗ったほたるが楽しそうに雑誌を見ている。ほたるはさっきからずっと仮装のヒントがないかいくつもの雑誌をパラパラと捲っている。
僕はそれをほたるの小さな頭越しに一緒になって眺めていた。
「お」
「なあにー? なんかいいのあった?」
「あ、うん。ちょっとね」
パラパラと捲られていくページの一部。それを見て思わず声を出してしまった。ほたるは僕の小さな呟きを聞き逃すことなくどれどれ〜? と言って僕に雑誌を手渡してきた。
「あー、これ。みちるに仮装してもらいたいなって思ってさ」
「わー! いいね! 絶対かわいいよ!」
苦笑いをしながら指さしたのは警官の仮装をしているモデル。ほたるはそれを見てみちるママにきっと似合うね、と無邪気な笑顔を見せる。
僕はほんのちょっとだけ、邪な気持ちを抱いてしまったからほたるには曖昧に微笑んだ。
「何か良さそうなのが見つかりましたか?」
「うん! はるかパパがみちるママにこれやって欲しいって!」
「あ、ほたる!」
人数分の紅茶を持ってやってきたせつなにほたるは雑誌を見せる。慌てて止めるも間に合わなかった。
せつなは片眉を上げると僕をちらっと見て呆れた顔を見せた。……多分、寸分の狂いもなく僕の思ってたことは彼女に筒抜けなんだと思う。
「ならはるかは囚人の仮装で決まりですね」
「え」
「みちるが警官なら当然でしょう」
それはみちるに捕まっておけおバカさんって意味ですかせつなさん。まあみちるに捕まるならいいかって気持ちもあるけど。
「なぁに? もう決まっちゃったの?」
「ええ、はるかが囚人でみちるが警官だそうですよ」
警官と囚人? と大きな瞳を丸くさせたみちるは次の瞬間にはふわりと微笑んでいいわね、と言った。
いいんですか、みちるさん。ミニスカポリスでお願いします。
「あとは私とせつなママのだね〜!」
再び雑誌を捲り始めるほたると一緒に雑誌を覗いているせつな。みちるは僕の横に腰掛けて警官の仮装をどうするか考えている。
「警官の仮装っていっても色々あるのね。ねえはるか? どれがいいと思う?」
「んえ? あー、っと。そうだなあ……こういうの、とか?」
と言って示したのは海外の警官風の仮装。しかもミニスカート。ちょっと露骨すぎたか、と思ったけどみちるは写真を見ながらこれなら作れそうね、と呟いていた。
なんか色々と自分が残念な奴すぎて頭を抱えてきたくなってきた。でも見たいんだもん。みちるのミニスカポリス。
と、誰に言うでもない言い訳を1人頭の中でしながら僕はせつなとほたるの仮装を探すのにテーブルに乗っていた雑誌の山から1つ手に取った。
◇◇◇
ハロウィン当日。今年は出かけるのではなく最初からうちでハロウィンパーティをすることになった。もちろん、おだんご頭たちも呼んで。
「とりっくおあとりーと!!」
「やあ、いらっしゃい」
「わあ! はるかさん今年は囚人さんの仮装なんですね!」
元気よく玄関の外から響く言葉に僕はみんなを出迎える。1人で出迎えたのは他の3人がパーティの準備で忙しかったから。
決して僕がサボってたというわけではない。誰かが行かなきゃいけない時に僕が一番適任だっただけだ。
「はい、お菓子」
「あーん、ザンネーン! はるかさんにイタズラ出来なかったわ〜」
「はは……美奈子ちゃんからのイタズラはちょっと怖い、かな」
苦笑いを浮かべながらそう答えると美奈子ちゃんの後ろに立っていた亜美ちゃん、レイちゃん、まこちゃんはうんうんと大きく頷いていた。
「こんにちはー!」
「いらっしゃい、みんな」
「キャー! みちるさん、色っぽーい!」
リビングに入るなり出迎えたみちるの姿を見ておだんご頭たちはキャーキャー騒いでいる。気持ちは分かるけど。
みちるは僕の要望通り、ミニスカポリスの仮装をしていた。めちゃくちゃ似合っててめちゃくちゃ可愛くて、そんでめちゃくちゃ色っぽい。
僕の願望の結果とはいえ、この格好で外には出したくなかったから今年は内々でのパーティが決まっていて本当に良かったと思った。
「いらっしゃい、みなさん」
「みなさんいらっしゃいませ! トリックオアトリート!」
キッチンの方からやってきたのはフランケンシュタインとその生みの親、科学者の仮装をしたせつなとほたるだった。
その完成度の高さにおだんご頭たちは感嘆の声を漏らす。ちなみにせつなが科学者の仮装じゃないのは職場での格好と対して変わらないよなというものからだった。
結果、フランケンシュタインをせつなが。科学者をほたるがやる事になったんだけど、その格好がゲルマトイドに乗っ取られていた時の土萠教授そのもので。
ちょっとだけフクザツな気持ちを抱いている僕だったりする。まあ楽しそうだし可愛いからいいんだけどさ。
はい、どうぞ、とみんなからお菓子をもらっているほたるとおちびちゃんはにこにこと笑顔でとても可愛い。
流れるようにおだんご頭もお菓子を貰おうとしていてレイちゃんに怒られていた。
「まあまあ、お菓子はいっぱいあるし。いいじゃないか」
「わーん! はるかさーん!」
「もー、はるかさんって本当にうさぎに甘いんだから!」
「そうかなあ」
よく言われるけどそんなに僕っておだんごに甘いかな。ほたるやみちるに甘い自覚はあるんだけど。や、みちるには弱いが正しいかもしれないな。
「ふふ、でもはるかの言う通り。私たちだけじゃ食べきれないからぜひみんなも貰っていただけるかしら?」
「ま、まあ? みちるさんが言うなら、ありがたくいただきますけど」
「なーんだ、レイちゃんもやっぱりお菓子欲しかったんじゃん」
「うさぎ!」
きゃー! 暴力はんたーい! と騒ぐみんなを見て僕は思わず噴き出した。隣ではみちるも僕と一緒に笑っている。
「はるかさんもみちるさんも、笑うなんてひどーい!」
「くくっ、いや、ごめん」
「ふふふっ、ごめんなさい」
本当、面白い子たちね、と珍しくうっすらと涙を浮かべながら笑うみちるに僕も微笑んでそうだな、と答えた。
その後のハロウィンパーティもおだんご頭たちのおかげでとても賑やかで楽しいものになった。
夕方頃には後片付けも終えてそろそろ解散しようか、となった時、ほたるがおちびちゃんからお泊まりをしようと誘われた。
「はるかパパ、みちるママ、せつなママ。ダメ?」
なんて、上目遣いでおねだりしてくるほたる。一体どこで覚えてきたのやら、そんな顔されたらいいよって言う以外ないじゃないか。
「やったー! ありがとうパパ! ママ!」
おちびちゃんと手を取り合って喜ぶ2人はその後、せつなも一緒に泊まろうとおねだりをし始めた。
最初は辞退していたせつなもおだんご頭からの援護射撃もあって最終的には首を縦に振ることとなった。
「楽しんでこいよ」
「ええ。では、いってきます」
「いってきまーす!」
泊まり支度を終えた2人はおだんご頭たちと一緒に行ってしまった。
ついさっきまで賑やかだった家の中は僕とみちるの2人だけになってとても静かになる。日もすっかり落ちたリビングは薄い闇に支配され始めていた。
電気を付けようとスイッチのある方へ足を向けた矢先、僕はみちるに捕まった。
「みち……ん、」
「んっ、」
ぐっ、と体を僕の方へ預けるみちるを支えながらもジリジリと後退させられてキスをしたままソファに倒れ込む。
僕の上に馬乗りになったみちるは一体どこに隠し持っていたのかおもちゃの手錠で僕の両手を拘束した。
「……随分、積極的だね。みちるさん?」
「あら、こういう事をしたかったのはあなたではなくて? はるかさん?」
「やっぱりバレてたか」
僕の呟きににっこりと微笑んだみちるはするりと細くしなやかな指を服の裾から侵入させる。
僕の腹の上をくるくると優しく撫でながらみちるは体を倒してまた僕にキスをする。
ちょっとでも動けばまた唇同士がくっつくくらいの距離でお互いを見つめ合う。
「随分と大人しい囚人さんね」
「囚人にこんな事する警官の方が実は悪かったりしないかい?」
「さあ、どうかしら」
全く、悪い警官だ。
少しだけ顎を上げて今度は僕からキスをする。みちるはそっと目を細めて満足そうに笑った。
手錠で両手が繋がったまま僕は上体を起こしてみちると体勢を入れ替えた。
みちるが僕にしたのと同じように服の裾から両手を入れて撫でるように触れる。
「悪い警官は悪い囚人に捕まっても自業自得かな?」
「ふふ、そうかも」
あとでみちるに手錠付け替えてイタズラしてやろう、と考えたところでああそういえば今日はそういう日だったと思い出す。
「みちる、trick or treat」
突然の僕の問いかけに目を丸くさせるみちる。数瞬ぱちぱちと瞬きをしたあと、ふっと妖艶な笑みを浮かべると呟いた。
「trick」
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