お似合い
朝晩の冷え込みもそこまで激しくなくなってきた今日この頃。そろそろ夏がやってくるなと感じた。
夏が苦手だという人もいるけれど私は夏が好き。海やプールに好きなだけ入れるから。それに、はるかの運転するオープンカーで色々な所へ行けるから。
はるかにお願いをしてどこかへ連れて行ってもらうこともあるけれど大抵ははるかが連れ出してくれる。私が行ったことがある場所も、行ったことがない場所も、はるかが工夫を凝らして楽しませてくれる。
もちろん、はるかが隣にいてくれるだけで私は退屈なんてしないのだけれど。
そうして今年の夏はどこに連れて行って貰おう、やっぱり海は行きたいな、と考えながら衣替えのためにクローゼットの中を覗く。
同じ服を短い期間で何度も着るという習慣がないこと、そしてもともと物持ちが良いこともあってクローゼットの中の服は見慣れたものばかり。
はるかは気に入った服をずっと着るタイプの人だから気にすることはないと思うけれど、そろそろ新調しようかしら。服はいつも自分で選んでいるけれどたまにははるかに選んでもらうのもいいかもしれない。
早速、今年最初のデート場所が決まった私はそわそわとした気持ちを抱いたままクローゼットから夏服を取り出し始めた。
そして夜、お仕事から帰ってきてソファでくつろぐはるかを背もたれ越しに背後から抱き締める。はるかはテレビに向けていた視線を私に移すとどうかした? と問いかけた。
「ね、はるか。次のお休みにショッピングをしたいのだけれど連れて行ってくださる?」
「なんだ、そんなこと。もちろん、お供させていただきますよ、姫」
「ふふ、ならもう1つのお願いも聞いてくださる? 王子様?」
はるかは柔らかい笑みを浮かべたままん? と小さく呟いて続きを促す。私ははるかを抱き締めたまま、頬擦りをするように顔を近付けると続きの言葉を口にした。
「夏服を新調したいのよ。それでね、せっかくだからあなたに選んで欲しいの」
いいかしら? と首を傾げて聞けばはるかはいいよ、とびきり君に似合う服を見つけなきゃな、と快諾してくれた。私はありがとう、と言ってはるかの頬にキスを送る。そこじゃないと言いたげなはるかに私は微笑むと目を閉じた。
◇◇◇
はるかとの約束当日、外はとても晴れていてデート日和だった。朝から一緒に出掛けるのは久しぶりで昨日はなかなか寝付けないくらい楽しみだった。
はるかよりも早く起きてその可愛らしい寝顔を堪能して、そして支度を始める。終わりが見えた頃にはるかを起こして支度をしてもらう。それで丁度良く、お互いの出掛ける準備が終わるのだ。
「準備、出来た?」
「ええ」
「よし、じゃあ行こうか、みちる」
「よくってよ、はるか」
差し出されたはるかの手に自分の手を重ねる。恭しく私をエスコートするはるかはやっぱりどんな男の人よりもかっこよくて紳士的だと思った。
オープンカーで風を切りながら目的地へと向かう。運転をしている時のはるかは本当に楽しそうで活き活きとしていて、つい見惚れてしまう。
そっと、視線をはるかから前に移して私は高鳴る心臓を落ち着けるために深呼吸をした。
目的地へ到着すると私ははるかと腕を組んで一緒に歩く。まずは第一の目的である夏服を買うために行きつけの洋服屋へと向かった。いらっしゃいませ、と馴染みの店員さんに迎えられた後はお店の中を好きに見て回る。
聞きたい事にはしっかりと答えてくれるけれど必要最低限しか干渉してこないこのお店が私は好きだった。はるかも何回か一緒にここに来たことがあるけれど同じようなことを言っていた。
「これとかどう?」
「いいわね」
風によく舞えるよう薄めの生地で作られたオーシャンブルーのワンピース。はるかから受け取って体の前で合わせる。どう? と見てもらうと好感触だったので試着してみることにした。店員さんに声をかけて試着をしてみるとサイズもぴったりだった。
フィッティングルームから出るとはるかは少し離れたところで他の服を選んでくれていた。代わりにいつもの店員さんがいてとてもお似合いですよ、と声をかけてくれる。
「実はそちら、同じ生地、デザインで作られたメンズの夏用シャツがあるんですよ」
「まあ」
こちらなんですけれど、と見せられたメンズシャツは私が試着しているワンピースとほとんど同じデザインだった。シンプルなデザインのものだからはるかも着やすいかもしれない。
「はるか」
「ん? あ、着替え、終わってたんだ」
はるかを呼ぶとこちらに歩み寄りながら私の姿を見てうん、やっぱりいいねそれ、と微笑んでくれる。よく似合ってるよ、こっちもいいと思うんだけど、と言って差し出してくれた服を受け取りながら私は答えた。
「そうね、とりあえずこれは買うことにするわ。こっちも試着してみるわね。はるかが選んでくれたものだから間違いないと思うけれど」
「そうかな? あんまり自信はないけど」
「大丈夫よ、はるかの見立てなら。ね、それよりはるかもちょっとこのシャツ試着してみて」
え? と目を丸くするはるかに店員さんが手にしているシャツを手渡した。はるかはシャツと私とを交互に見て、そして分かったよ、と苦笑いをすると隣のフィッティングルームへ入った。
私もはるかが持ってきてくれた白のノースリーブニットと薄い黄緑色のフレアスカートを試着してみる。やっぱりはるかの見立てに間違いはなく、私は涼しくシンプルなこの服も気に入った。外へ出るとはるかが既に試着を終えて立っていた。
「あら、いいわね。はるかってやっぱりその色がよく似合うわ」
「うん。結構涼しいし、デザインもシンプルでいいかな」
どうやら意外と服にうるさいはるかのお眼鏡にかなったようで私は1人良かったと心の中で呟く。はるかにそのシャツも買いましょうと言えばこくんと1つ頷いた。
そしてはるかは自分の姿を確認し終えると私の方を見て綺麗だよ、と一言。私はこれも買うことにすると告げて店員さんに1つお願いをした。
「すみません、さっきのオーシャンブルーのワンピースとこちらのシャツのタグ、取っていただけますか?」
「かしこまりました」
「着て帰るの?」
「いいでしょう? だめ?」
だめじゃないけど、と少し歯切れの悪いはるかに私はじゃあいいわね、と言って押し通す。はるかがちょっと渋っているのは単純にお揃いが恥ずかしいだけ。気障なセリフは臆面もなく言うくせに、こういう所がこの人の可愛い所だったりする。
すっかりお揃いの服を着た私たちは店員さんにありがとうございました、また来ます、と告げてお店を後にする。
再びはるかと腕を組みながら歩く。さっきより自分たちが若く感じるのはお揃いの服を着たからかしら、なんてまだまだ若いのにこんな事言ったらまたはるかに言われちゃうわね。
その他にも色々な洋服屋さんを回ってたくさんの夏服を購入した。私のだけでなくはるかのやほたる、せつなの服も選んで1日が終わる。たくさんの紙袋を後部座席に乗せて帰路に着く中、はるかは海に寄ってくれた。
雑貨屋さんや喫茶店にも寄って今日は本当に久しぶりのデートを満喫できた。
夕陽でオレンジに染まる海を眺めて、私は足だけ海の中へ入れる。程よい冷たさと指の間をさらさらと流れていく砂の感触に自然と笑みがこぼれる。ワンピースの裾が濡れないよう少しだけ持ち上げて波打ち際を歩く。はるかは私の靴を手に数歩後ろを歩いていた。
「みちる」
「なぁに?」
不意に呼ばれて振り返ると風にふわりとスカートが舞った。優しくて心地の良い悪戯な風ね、と微笑みながらはるかを見るととても柔らかい笑顔を浮かべていた。
優しく、愛おしむような眼差しを受けて私の心臓は大きく高鳴る。その場から動けなくなってしまった私にはるかは近付いて抱き締めた。
「かわいい、みちる」
「なぁに、急に」
何とか平静を装って答えるとはるかは服に視線を移した。海の妖精かと思ったよ、と言いながらワンピースの裾を軽く持ち上げるとまたふわりと風に舞った。優しく私を腕の中に閉じ込めるとはるかは顔を私の肩に埋めて呟く。
「本当に、綺麗で、可愛いよ、みちる。どんな服も君には似合うけれど、とびきり似合う服を本当に見つけちゃったな」
「ありがとう。はるかも、とってもかっこいいわよ。この色が1番似合うのはやっぱりはるかね」
2人で話しながら手を繋いで、少しその繋いだ手を前後に振りながら今来た道を今度は同じ歩幅で戻る。
今の私たちを傍から見たら初々しいカップルに見えるのかしら。
いつもより少し幼い行動を取っている自覚があるし、心なしかはるかもいつもより幼い気がする。お揃いの効力ってすごいのね。
「なんか、さ」
「?」
「たまには、いいな。こういうの」
顔を赤くさせながらそう言うはるかに私は一瞬、呆気にとられる。そして私は抑えきれない笑みを浮かべるとはるかの手をさらにぎゅっと握って顔、赤いわよ、と教えてあげた。
「赤くない」
「そう?」
「そうだ。夕陽が赤いからそう見えるだけだろ」
「ふふ、そういう事にしておくわ」
不貞腐れながらも手を離さないで私のペースに合わせてくれる優しいはるかに私は大好きよ、と呟いた。
夏が苦手だという人もいるけれど私は夏が好き。海やプールに好きなだけ入れるから。それに、はるかの運転するオープンカーで色々な所へ行けるから。
はるかにお願いをしてどこかへ連れて行ってもらうこともあるけれど大抵ははるかが連れ出してくれる。私が行ったことがある場所も、行ったことがない場所も、はるかが工夫を凝らして楽しませてくれる。
もちろん、はるかが隣にいてくれるだけで私は退屈なんてしないのだけれど。
そうして今年の夏はどこに連れて行って貰おう、やっぱり海は行きたいな、と考えながら衣替えのためにクローゼットの中を覗く。
同じ服を短い期間で何度も着るという習慣がないこと、そしてもともと物持ちが良いこともあってクローゼットの中の服は見慣れたものばかり。
はるかは気に入った服をずっと着るタイプの人だから気にすることはないと思うけれど、そろそろ新調しようかしら。服はいつも自分で選んでいるけれどたまにははるかに選んでもらうのもいいかもしれない。
早速、今年最初のデート場所が決まった私はそわそわとした気持ちを抱いたままクローゼットから夏服を取り出し始めた。
そして夜、お仕事から帰ってきてソファでくつろぐはるかを背もたれ越しに背後から抱き締める。はるかはテレビに向けていた視線を私に移すとどうかした? と問いかけた。
「ね、はるか。次のお休みにショッピングをしたいのだけれど連れて行ってくださる?」
「なんだ、そんなこと。もちろん、お供させていただきますよ、姫」
「ふふ、ならもう1つのお願いも聞いてくださる? 王子様?」
はるかは柔らかい笑みを浮かべたままん? と小さく呟いて続きを促す。私ははるかを抱き締めたまま、頬擦りをするように顔を近付けると続きの言葉を口にした。
「夏服を新調したいのよ。それでね、せっかくだからあなたに選んで欲しいの」
いいかしら? と首を傾げて聞けばはるかはいいよ、とびきり君に似合う服を見つけなきゃな、と快諾してくれた。私はありがとう、と言ってはるかの頬にキスを送る。そこじゃないと言いたげなはるかに私は微笑むと目を閉じた。
◇◇◇
はるかとの約束当日、外はとても晴れていてデート日和だった。朝から一緒に出掛けるのは久しぶりで昨日はなかなか寝付けないくらい楽しみだった。
はるかよりも早く起きてその可愛らしい寝顔を堪能して、そして支度を始める。終わりが見えた頃にはるかを起こして支度をしてもらう。それで丁度良く、お互いの出掛ける準備が終わるのだ。
「準備、出来た?」
「ええ」
「よし、じゃあ行こうか、みちる」
「よくってよ、はるか」
差し出されたはるかの手に自分の手を重ねる。恭しく私をエスコートするはるかはやっぱりどんな男の人よりもかっこよくて紳士的だと思った。
オープンカーで風を切りながら目的地へと向かう。運転をしている時のはるかは本当に楽しそうで活き活きとしていて、つい見惚れてしまう。
そっと、視線をはるかから前に移して私は高鳴る心臓を落ち着けるために深呼吸をした。
目的地へ到着すると私ははるかと腕を組んで一緒に歩く。まずは第一の目的である夏服を買うために行きつけの洋服屋へと向かった。いらっしゃいませ、と馴染みの店員さんに迎えられた後はお店の中を好きに見て回る。
聞きたい事にはしっかりと答えてくれるけれど必要最低限しか干渉してこないこのお店が私は好きだった。はるかも何回か一緒にここに来たことがあるけれど同じようなことを言っていた。
「これとかどう?」
「いいわね」
風によく舞えるよう薄めの生地で作られたオーシャンブルーのワンピース。はるかから受け取って体の前で合わせる。どう? と見てもらうと好感触だったので試着してみることにした。店員さんに声をかけて試着をしてみるとサイズもぴったりだった。
フィッティングルームから出るとはるかは少し離れたところで他の服を選んでくれていた。代わりにいつもの店員さんがいてとてもお似合いですよ、と声をかけてくれる。
「実はそちら、同じ生地、デザインで作られたメンズの夏用シャツがあるんですよ」
「まあ」
こちらなんですけれど、と見せられたメンズシャツは私が試着しているワンピースとほとんど同じデザインだった。シンプルなデザインのものだからはるかも着やすいかもしれない。
「はるか」
「ん? あ、着替え、終わってたんだ」
はるかを呼ぶとこちらに歩み寄りながら私の姿を見てうん、やっぱりいいねそれ、と微笑んでくれる。よく似合ってるよ、こっちもいいと思うんだけど、と言って差し出してくれた服を受け取りながら私は答えた。
「そうね、とりあえずこれは買うことにするわ。こっちも試着してみるわね。はるかが選んでくれたものだから間違いないと思うけれど」
「そうかな? あんまり自信はないけど」
「大丈夫よ、はるかの見立てなら。ね、それよりはるかもちょっとこのシャツ試着してみて」
え? と目を丸くするはるかに店員さんが手にしているシャツを手渡した。はるかはシャツと私とを交互に見て、そして分かったよ、と苦笑いをすると隣のフィッティングルームへ入った。
私もはるかが持ってきてくれた白のノースリーブニットと薄い黄緑色のフレアスカートを試着してみる。やっぱりはるかの見立てに間違いはなく、私は涼しくシンプルなこの服も気に入った。外へ出るとはるかが既に試着を終えて立っていた。
「あら、いいわね。はるかってやっぱりその色がよく似合うわ」
「うん。結構涼しいし、デザインもシンプルでいいかな」
どうやら意外と服にうるさいはるかのお眼鏡にかなったようで私は1人良かったと心の中で呟く。はるかにそのシャツも買いましょうと言えばこくんと1つ頷いた。
そしてはるかは自分の姿を確認し終えると私の方を見て綺麗だよ、と一言。私はこれも買うことにすると告げて店員さんに1つお願いをした。
「すみません、さっきのオーシャンブルーのワンピースとこちらのシャツのタグ、取っていただけますか?」
「かしこまりました」
「着て帰るの?」
「いいでしょう? だめ?」
だめじゃないけど、と少し歯切れの悪いはるかに私はじゃあいいわね、と言って押し通す。はるかがちょっと渋っているのは単純にお揃いが恥ずかしいだけ。気障なセリフは臆面もなく言うくせに、こういう所がこの人の可愛い所だったりする。
すっかりお揃いの服を着た私たちは店員さんにありがとうございました、また来ます、と告げてお店を後にする。
再びはるかと腕を組みながら歩く。さっきより自分たちが若く感じるのはお揃いの服を着たからかしら、なんてまだまだ若いのにこんな事言ったらまたはるかに言われちゃうわね。
その他にも色々な洋服屋さんを回ってたくさんの夏服を購入した。私のだけでなくはるかのやほたる、せつなの服も選んで1日が終わる。たくさんの紙袋を後部座席に乗せて帰路に着く中、はるかは海に寄ってくれた。
雑貨屋さんや喫茶店にも寄って今日は本当に久しぶりのデートを満喫できた。
夕陽でオレンジに染まる海を眺めて、私は足だけ海の中へ入れる。程よい冷たさと指の間をさらさらと流れていく砂の感触に自然と笑みがこぼれる。ワンピースの裾が濡れないよう少しだけ持ち上げて波打ち際を歩く。はるかは私の靴を手に数歩後ろを歩いていた。
「みちる」
「なぁに?」
不意に呼ばれて振り返ると風にふわりとスカートが舞った。優しくて心地の良い悪戯な風ね、と微笑みながらはるかを見るととても柔らかい笑顔を浮かべていた。
優しく、愛おしむような眼差しを受けて私の心臓は大きく高鳴る。その場から動けなくなってしまった私にはるかは近付いて抱き締めた。
「かわいい、みちる」
「なぁに、急に」
何とか平静を装って答えるとはるかは服に視線を移した。海の妖精かと思ったよ、と言いながらワンピースの裾を軽く持ち上げるとまたふわりと風に舞った。優しく私を腕の中に閉じ込めるとはるかは顔を私の肩に埋めて呟く。
「本当に、綺麗で、可愛いよ、みちる。どんな服も君には似合うけれど、とびきり似合う服を本当に見つけちゃったな」
「ありがとう。はるかも、とってもかっこいいわよ。この色が1番似合うのはやっぱりはるかね」
2人で話しながら手を繋いで、少しその繋いだ手を前後に振りながら今来た道を今度は同じ歩幅で戻る。
今の私たちを傍から見たら初々しいカップルに見えるのかしら。
いつもより少し幼い行動を取っている自覚があるし、心なしかはるかもいつもより幼い気がする。お揃いの効力ってすごいのね。
「なんか、さ」
「?」
「たまには、いいな。こういうの」
顔を赤くさせながらそう言うはるかに私は一瞬、呆気にとられる。そして私は抑えきれない笑みを浮かべるとはるかの手をさらにぎゅっと握って顔、赤いわよ、と教えてあげた。
「赤くない」
「そう?」
「そうだ。夕陽が赤いからそう見えるだけだろ」
「ふふ、そういう事にしておくわ」
不貞腐れながらも手を離さないで私のペースに合わせてくれる優しいはるかに私は大好きよ、と呟いた。
1/1ページ