鬼は外、パパも外?
一旦帰る、と連絡してからまあまあな時間が経ってしまった。これ、またみちるを怒らせる要因になるんじゃないだろうかと思ったけれど帰り道の途中で見つけてしまったのだから仕方がない。
物で釣って仲直りをしようという訳では無いがお詫びの品として用意したくなるのはどうも僕の癖らしい。
家の鍵がないからチャイムを鳴らして開けてもらうのを待つ。出てくるのはせつなか、ほたるか。みちるはきっとリビングで待っているだろうな、と思いながら開けられた扉の向こうに立つ人物を見つめて少しだけ驚いた。
そこに立っていたのはみちるだったから。
「お、かえりなさい。はるか」
「ただ、いま……みちる」
両手が塞がっていた僕はいつまでもみちるに扉を押さえ続けさせる訳にはいかないと固まっていた体を動かす。するりと玄関に入り込みみちるを正面から見据えた。
よし、ちゃんと謝るぞ、と意気込んで大きく深呼吸をした。
「みち……」
「ごめんなさい!」
「へっ!?」
玄関に大きく響く謝罪の言葉。それは僕の口から出たものではなくみちるの口から出たものだった。あまりにも予想していなかったことが連続して僕は思いっきりマヌケな声を上げる。
「はるかのこと、疑ったりしてごめんなさい。はるかが浮気なんてするはず、ないのに……」
頭を下げたまま続く言葉に僕は困惑して、でもそう言って貰えたことが嬉しくて僕は気が付くと微笑んでいた。
みちる、と呼んで顔を上げてもらい右手に抱えていた花束を渡す。ブーゲンビリアとナズナが綺麗にまとめられた花束だ。
「はるか、これ」
「僕も、ごめん。君を不安にさせてばっかりだ」
「そんなことないわ! はるかはいつだって愛をくれているのに、私が勝手に疑ったのよ」
「それでもだよ。君が疑ってしまうのなら僕の愛がまだまだ足りないってこと」
まだ納得いかないような顔をするみちるに頬擦りをして柔らかな髪にキスをする。髪、耳たぶ、頬、鼻、そして唇の順にキスをしていって空いた右手で腰を抱き寄せる。
細く、けれど程よくふっくらとした女性らしい曲線にうっとりとしながら僕が愛するのはみちるだけだと体全体で伝える。
みちるも花束を抱えていない左手を僕の背中に回すとその体をピッタリとくっつける。
「はるか、好きよ。好き、愛してるわ」
「僕も、みちるが好き。大好きだよ、愛してる」
最後にもう一度頬擦りをしてからキスをしてそっと体を離す。視界いっぱいに広がるのはみちるの笑顔。あまりに眩しくて目を細めた。
みちるも同じように目を細めてから花束に視線を移して小さくありがとう、と呟く。今朝見た時と同じように耳が赤くなっていて僕はまた可愛いと思った。
「それは僕の気持ち。こっちはお詫びの品だよ」
「なあに?」
塞がっていた左手をあげてみちるに見せてやる。これはみちるを不安にさせてしまったこと、せつなとほたるにいらぬ心配と苦労をかけてしまったことのお詫びとして買ってきたケーキだ。
恵方ロールだよ、本当の恵方巻きを食べて夕飯を終えたらデザートに食べようぜ、と言えばみちるは花開くような笑顔で頷いた。
リビングに入れば笑顔でおかえりと迎えてくれるせつなとほたるにただいまと返す。そしてすぐにごめん、と謝れば謝罪はいいから早く節分をやろうと急かされる。
本当に、良い家族を持てた、と思いながらよーし、じゃあまずは豆まきからだ! と気合いを入れた。
「鬼役は私がやるわ」
「え? いや、僕がやるよ」
豆の用意をしてあとは僕が鬼のお面を被るだけとなった時にみちるがそんなことを言い出した。最初から僕が鬼をやるという方向で話が進んでいただけにこの発言にはせつなもほたるも驚いていた。
「だって、私の中の鬼を退治したいもの」
「君の中の鬼って……?」
そんなの、いるか? なんて首を傾げるがどうやらせつなとほたるは理解したみたいでじゃあみちるママお願いね、なんてお面を渡してしまった。
みちるに豆なんて投げられないぞ、と隣のせつなに耳打ちするとせつなは私だってみちるに豆を投げるなんてしたくないし出来ませんよ、と返してきた。
「おい、それ言い様によっては僕には投げられるって言ってるようなもんだぞ……」
「あら、そう言っているのですが」
せつなの気持ちも分かるからおいおい、と言いながらも僕は苦笑いを浮かべる。そりゃあみちるに投げるよりは僕に投げる方が投げやすいだろうさ。
なんて思っていると背筋がゾクリとした。せつなも同じだったようで2人一緒にゆっくりと背後を振り返る。
そこには鬼の面を付けたみちるが立っているのだが、何故だか、どうしてか、とてつもなく、恐い。
「は、はるかパパ……せつなママ……」
「ほ、ほたる、こっちこい」
僕らと同じように体を強ばらせたほたるを呼んで腕の中に抱き込む。何でだ、可愛くデフォルメされた鬼の面だよな? 僕には般若に見えるんだけど? と冷や汗をダラダラと流しながら心の中で叫ぶ。
「さあ、はじめましょうか」
ゆらりと動き出した鬼(みちる)に僕ら3人は顔を引き攣らせてジリジリと距離を取る。一向に豆を投げない僕らを焦れったく思った鬼(みちる)が一気に距離を詰めてきたその時、3人の悲鳴が家にこだました。
物で釣って仲直りをしようという訳では無いがお詫びの品として用意したくなるのはどうも僕の癖らしい。
家の鍵がないからチャイムを鳴らして開けてもらうのを待つ。出てくるのはせつなか、ほたるか。みちるはきっとリビングで待っているだろうな、と思いながら開けられた扉の向こうに立つ人物を見つめて少しだけ驚いた。
そこに立っていたのはみちるだったから。
「お、かえりなさい。はるか」
「ただ、いま……みちる」
両手が塞がっていた僕はいつまでもみちるに扉を押さえ続けさせる訳にはいかないと固まっていた体を動かす。するりと玄関に入り込みみちるを正面から見据えた。
よし、ちゃんと謝るぞ、と意気込んで大きく深呼吸をした。
「みち……」
「ごめんなさい!」
「へっ!?」
玄関に大きく響く謝罪の言葉。それは僕の口から出たものではなくみちるの口から出たものだった。あまりにも予想していなかったことが連続して僕は思いっきりマヌケな声を上げる。
「はるかのこと、疑ったりしてごめんなさい。はるかが浮気なんてするはず、ないのに……」
頭を下げたまま続く言葉に僕は困惑して、でもそう言って貰えたことが嬉しくて僕は気が付くと微笑んでいた。
みちる、と呼んで顔を上げてもらい右手に抱えていた花束を渡す。ブーゲンビリアとナズナが綺麗にまとめられた花束だ。
「はるか、これ」
「僕も、ごめん。君を不安にさせてばっかりだ」
「そんなことないわ! はるかはいつだって愛をくれているのに、私が勝手に疑ったのよ」
「それでもだよ。君が疑ってしまうのなら僕の愛がまだまだ足りないってこと」
まだ納得いかないような顔をするみちるに頬擦りをして柔らかな髪にキスをする。髪、耳たぶ、頬、鼻、そして唇の順にキスをしていって空いた右手で腰を抱き寄せる。
細く、けれど程よくふっくらとした女性らしい曲線にうっとりとしながら僕が愛するのはみちるだけだと体全体で伝える。
みちるも花束を抱えていない左手を僕の背中に回すとその体をピッタリとくっつける。
「はるか、好きよ。好き、愛してるわ」
「僕も、みちるが好き。大好きだよ、愛してる」
最後にもう一度頬擦りをしてからキスをしてそっと体を離す。視界いっぱいに広がるのはみちるの笑顔。あまりに眩しくて目を細めた。
みちるも同じように目を細めてから花束に視線を移して小さくありがとう、と呟く。今朝見た時と同じように耳が赤くなっていて僕はまた可愛いと思った。
「それは僕の気持ち。こっちはお詫びの品だよ」
「なあに?」
塞がっていた左手をあげてみちるに見せてやる。これはみちるを不安にさせてしまったこと、せつなとほたるにいらぬ心配と苦労をかけてしまったことのお詫びとして買ってきたケーキだ。
恵方ロールだよ、本当の恵方巻きを食べて夕飯を終えたらデザートに食べようぜ、と言えばみちるは花開くような笑顔で頷いた。
リビングに入れば笑顔でおかえりと迎えてくれるせつなとほたるにただいまと返す。そしてすぐにごめん、と謝れば謝罪はいいから早く節分をやろうと急かされる。
本当に、良い家族を持てた、と思いながらよーし、じゃあまずは豆まきからだ! と気合いを入れた。
「鬼役は私がやるわ」
「え? いや、僕がやるよ」
豆の用意をしてあとは僕が鬼のお面を被るだけとなった時にみちるがそんなことを言い出した。最初から僕が鬼をやるという方向で話が進んでいただけにこの発言にはせつなもほたるも驚いていた。
「だって、私の中の鬼を退治したいもの」
「君の中の鬼って……?」
そんなの、いるか? なんて首を傾げるがどうやらせつなとほたるは理解したみたいでじゃあみちるママお願いね、なんてお面を渡してしまった。
みちるに豆なんて投げられないぞ、と隣のせつなに耳打ちするとせつなは私だってみちるに豆を投げるなんてしたくないし出来ませんよ、と返してきた。
「おい、それ言い様によっては僕には投げられるって言ってるようなもんだぞ……」
「あら、そう言っているのですが」
せつなの気持ちも分かるからおいおい、と言いながらも僕は苦笑いを浮かべる。そりゃあみちるに投げるよりは僕に投げる方が投げやすいだろうさ。
なんて思っていると背筋がゾクリとした。せつなも同じだったようで2人一緒にゆっくりと背後を振り返る。
そこには鬼の面を付けたみちるが立っているのだが、何故だか、どうしてか、とてつもなく、恐い。
「は、はるかパパ……せつなママ……」
「ほ、ほたる、こっちこい」
僕らと同じように体を強ばらせたほたるを呼んで腕の中に抱き込む。何でだ、可愛くデフォルメされた鬼の面だよな? 僕には般若に見えるんだけど? と冷や汗をダラダラと流しながら心の中で叫ぶ。
「さあ、はじめましょうか」
ゆらりと動き出した鬼(みちる)に僕ら3人は顔を引き攣らせてジリジリと距離を取る。一向に豆を投げない僕らを焦れったく思った鬼(みちる)が一気に距離を詰めてきたその時、3人の悲鳴が家にこだました。
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