ゆるし
重たい鉛色をした空を見上げる。自分でもいつからずっとここに立ち尽くして空を見上げているのか分からない。それでもなお、私の足は地面に縫い付けられたように少しも動かない。変わらず無気力にただ呆然と鉛色を見上げる。
次第に視界の色は濃くなりしとしとと水滴が落ち始める。水滴は瞬く間に勢いを増していき私を一瞬でずぶ濡れにした。
冷たい水滴に体温を奪われていくことも、衣服が濡れて体に張り付く不快感も、何も気にならない。けれど何故か体はとても重く感じ、私は重力に従うように地面にへたり込む。
見上げていた頭も重力に従って下を向く。不思議なことに普段緑色をしているはずの地面はモノクロだった。
頭の片隅でぼんやりとそんな風に思っている間にも体はどんどん重くなっていく。息苦しさも感じ始めて気が付けば肩で息をしていた。
地面に手をついて倒れ込みそうになる体をどうにか支える。何も考えられない、何も感じない、そんな状況なのに、どうしてか倒れることだけは許さないと体の奥底から命令されているように感じた。
それでも容赦なく叩き付けてくる水滴に、引き寄せてくる重力に、体が地面と一体化しそうになったその時、パシャという音が聞こえた。
視線だけを横にするとモノクロの世界に誰かが立っている。どうにか少しずつ視線を上げていくとモノクロの世界に濃い蜂蜜色が現れた。
「……はる、か」
はるかは何も言わず、ただ私の隣に立って少し前の私と同じようにずぶ濡れになって鉛色を見上げる。
私はモノクロの世界に映える眩しい蜂蜜色から目を逸らすように再び地面を見つめた。
私とはるかの間にはざあざあという音だけが響き渡る。
一体どれだけの時間が経っただろう。数分かもしれないし数時間かもしれない。とっくの昔に時間感覚の無くなっている私には到底分かりもしないことだった。
ノロノロと再び重たい頭を上げると視界には濃い蜂蜜色だけではなく暗い、けれど輝く蒼色も映った。その色に今まで何も感じなかった私の体がドキリと脈を打った。
互いに何も言わずただ見つめ合う。しばらくすると暗く輝く蒼色がゆっくりと細められた。
それを皮切りに地面に吸い寄せられていた体がゆっくりと起き上がっていく。
変わらず水滴は容赦なく私の体を打ち付けるし、重力も私を引き寄せる。それなのに私の体は嘘のように起き上がって呼吸も正常を取り戻す。
モノクロの世界も蒼色と蜂蜜色を起点に徐々に色を取り戻していった。
「……止むよ」
はるかはただ一言そう呟いた。言葉通り、体を叩き付けていた水滴は無くなり、濃い鉛色の間からは澄んだ天色が顔を覗かせる。
水滴は無くなったはずなのに私の頬を暖かい水滴が流れていく。
ぼやける視界に色鮮やかになった世界を映し、私は再び蒼色を見つめる。
「……ありがとう、はるか」
私の言葉に再び蒼色はゆっくりと細められていった。
次第に視界の色は濃くなりしとしとと水滴が落ち始める。水滴は瞬く間に勢いを増していき私を一瞬でずぶ濡れにした。
冷たい水滴に体温を奪われていくことも、衣服が濡れて体に張り付く不快感も、何も気にならない。けれど何故か体はとても重く感じ、私は重力に従うように地面にへたり込む。
見上げていた頭も重力に従って下を向く。不思議なことに普段緑色をしているはずの地面はモノクロだった。
頭の片隅でぼんやりとそんな風に思っている間にも体はどんどん重くなっていく。息苦しさも感じ始めて気が付けば肩で息をしていた。
地面に手をついて倒れ込みそうになる体をどうにか支える。何も考えられない、何も感じない、そんな状況なのに、どうしてか倒れることだけは許さないと体の奥底から命令されているように感じた。
それでも容赦なく叩き付けてくる水滴に、引き寄せてくる重力に、体が地面と一体化しそうになったその時、パシャという音が聞こえた。
視線だけを横にするとモノクロの世界に誰かが立っている。どうにか少しずつ視線を上げていくとモノクロの世界に濃い蜂蜜色が現れた。
「……はる、か」
はるかは何も言わず、ただ私の隣に立って少し前の私と同じようにずぶ濡れになって鉛色を見上げる。
私はモノクロの世界に映える眩しい蜂蜜色から目を逸らすように再び地面を見つめた。
私とはるかの間にはざあざあという音だけが響き渡る。
一体どれだけの時間が経っただろう。数分かもしれないし数時間かもしれない。とっくの昔に時間感覚の無くなっている私には到底分かりもしないことだった。
ノロノロと再び重たい頭を上げると視界には濃い蜂蜜色だけではなく暗い、けれど輝く蒼色も映った。その色に今まで何も感じなかった私の体がドキリと脈を打った。
互いに何も言わずただ見つめ合う。しばらくすると暗く輝く蒼色がゆっくりと細められた。
それを皮切りに地面に吸い寄せられていた体がゆっくりと起き上がっていく。
変わらず水滴は容赦なく私の体を打ち付けるし、重力も私を引き寄せる。それなのに私の体は嘘のように起き上がって呼吸も正常を取り戻す。
モノクロの世界も蒼色と蜂蜜色を起点に徐々に色を取り戻していった。
「……止むよ」
はるかはただ一言そう呟いた。言葉通り、体を叩き付けていた水滴は無くなり、濃い鉛色の間からは澄んだ天色が顔を覗かせる。
水滴は無くなったはずなのに私の頬を暖かい水滴が流れていく。
ぼやける視界に色鮮やかになった世界を映し、私は再び蒼色を見つめる。
「……ありがとう、はるか」
私の言葉に再び蒼色はゆっくりと細められていった。
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