まだまだね
みちる、とあなたが私の名前を呼ぶ時。私はこの上ない幸せに包まれる。
嬉しそうに呼ぶ時も、楽しそうに呼ぶ時も、怒ったように呼ぶ時も、拗ねたように呼ぶ時も、感情を抑えるように呼ぶ時も、どんな時にも必ず、あなたの愛情が篭っているのを感じる。
初めて会った時はこんな風にあなたに名前を呼ばれるなんて思わなかった。名前を呼ばれるだけでこんな風に幸せを感じられるなんて知らなかった。
今では私の名前を呼ぶ人はあなた以外にも増えたけれど、あなたに呼ばれる時だけが特別なんだと余計に感じてしまう。
それが嬉しく感じてしまうのはやっぱり私が薄情だからなのかしらね。
だって私はあなたがいればそれでいいと思ってしまう。
私をママと呼んで慕ってくれる可愛らしい少女も、優しく微笑んで見守ってくれる聡明な女性も、屈託のない笑顔を振り撒いてみんなを笑顔にしてくれる愛らしいプリンセスも、みんな確かに大切だけれどあなた以上の人はいない。
あなたがいなくなってしまったら、私は生きていけない。あなたのいない世界なんて、いらない。
そこまで考えて随分と過激な思考だと、ふっと自嘲気味に笑う。
でも仕方ないじゃない、本当にそう思っているのだもの。あの人の、はるかのいない世界なんて考えられないんだから、と誰に言う訳でもない言い訳を心の中で呟く。
ソファに沈み込んでふぅ、と1つ息を吐くと背後に人の気配を感じた。
「みちる」
「……おかえりなさい、はるか」
顔を少し後ろに向けると優しく微笑んだはるかがただいま、と言いながら私を後ろから包み込む。
頬擦りをするように顔を寄せたと思えばはるかはそのまま私の頬にちゅ、とキスをした。
「なぁに?」
「なんだよ、理由がなきゃしちゃいけないの?」
はるかは拗ねたようにそう言うけれど、きっと顔は笑っているのだろうと思う。私の肩に顔を埋めてしまったからその顔は見えないけれど私は確信していた。
「好きだよ、みちる」
「知ってるわ」
「なんで?」
「あなたがいつも言葉にして伝えてくれるからよ」
もちろん、言葉にしなくてもあなたの何気ない言動1つ1つに愛情が篭っているのが分かっているからだけれど。
そのことにはるかは気付いているのかしらね。
「ふぅん」
「……あなたは、聞かないの?」
「何を?」
「好きかどうかってこと」
私はあんまり言葉にして伝えないから。自覚はしているけれどどうしても伝えるのが難しい。
その分、あなたを思って行動をしているつもりだけれどそれがあなたに伝わっているか分からないし、もしかしたら鬱陶しいと思われているかもしれないと少し不安になる。
なら、言葉にして伝えればいいのに、と思うけれど。
「んー、まあ、聞きたくないって言ったら嘘になるけど。でも、みちるは僕のこと好きだろ?」
私の顔を覗き込んで自信満々にそう言うはるかに私は安心した。私の愛があなたに伝わっているのだと、鬱陶しいと思われていないのだと。
「あら、随分と自信があるのね」
「そりゃあね。僕は君より君のこと、知ってるんだぜ?」
いつか私が漏らしてしまった言葉をはるかが同じように言う。
あの時のことを思い出しては今でも悔やむことがあるけれど、あなたがそうして時折私の悔いを昇華してくれる。
それに嬉しいと感じるのと同時にちょっと悔しいと思う私はやっぱり可愛げのない女だと思う。
「あら、本当かしら。私、あなたのこと好きじゃなくてよ」
「えっ」
はるかの腕をするりと抜け出して私はソファから立ち上がる。呆然と私を見上げるはるかに微笑みお夕飯の用意、するわね、と言ってキッチンへ足を向ける。
そんな私を見てはるかは慌てて立ち上がった。
「お、おいおい。冗談だろ?」
「さあ、どうかしら。でも私は少なくともほたるもせつなもうさぎたちも、好きよ」
「えっと、僕、は?」
「好きじゃないわね」
ええ? と困惑と不安を顔いっぱいに貼り付けるはるかを見て私はくすくすと笑う。立ち尽くすはるかを置き去りにして今度こそキッチンへ向かう。
残念、あなたはまだ私のことちゃんと分かってないみたいね。でもいいわ、そんなあなたも私は大好きで愛しているもの。
嬉しそうに呼ぶ時も、楽しそうに呼ぶ時も、怒ったように呼ぶ時も、拗ねたように呼ぶ時も、感情を抑えるように呼ぶ時も、どんな時にも必ず、あなたの愛情が篭っているのを感じる。
初めて会った時はこんな風にあなたに名前を呼ばれるなんて思わなかった。名前を呼ばれるだけでこんな風に幸せを感じられるなんて知らなかった。
今では私の名前を呼ぶ人はあなた以外にも増えたけれど、あなたに呼ばれる時だけが特別なんだと余計に感じてしまう。
それが嬉しく感じてしまうのはやっぱり私が薄情だからなのかしらね。
だって私はあなたがいればそれでいいと思ってしまう。
私をママと呼んで慕ってくれる可愛らしい少女も、優しく微笑んで見守ってくれる聡明な女性も、屈託のない笑顔を振り撒いてみんなを笑顔にしてくれる愛らしいプリンセスも、みんな確かに大切だけれどあなた以上の人はいない。
あなたがいなくなってしまったら、私は生きていけない。あなたのいない世界なんて、いらない。
そこまで考えて随分と過激な思考だと、ふっと自嘲気味に笑う。
でも仕方ないじゃない、本当にそう思っているのだもの。あの人の、はるかのいない世界なんて考えられないんだから、と誰に言う訳でもない言い訳を心の中で呟く。
ソファに沈み込んでふぅ、と1つ息を吐くと背後に人の気配を感じた。
「みちる」
「……おかえりなさい、はるか」
顔を少し後ろに向けると優しく微笑んだはるかがただいま、と言いながら私を後ろから包み込む。
頬擦りをするように顔を寄せたと思えばはるかはそのまま私の頬にちゅ、とキスをした。
「なぁに?」
「なんだよ、理由がなきゃしちゃいけないの?」
はるかは拗ねたようにそう言うけれど、きっと顔は笑っているのだろうと思う。私の肩に顔を埋めてしまったからその顔は見えないけれど私は確信していた。
「好きだよ、みちる」
「知ってるわ」
「なんで?」
「あなたがいつも言葉にして伝えてくれるからよ」
もちろん、言葉にしなくてもあなたの何気ない言動1つ1つに愛情が篭っているのが分かっているからだけれど。
そのことにはるかは気付いているのかしらね。
「ふぅん」
「……あなたは、聞かないの?」
「何を?」
「好きかどうかってこと」
私はあんまり言葉にして伝えないから。自覚はしているけれどどうしても伝えるのが難しい。
その分、あなたを思って行動をしているつもりだけれどそれがあなたに伝わっているか分からないし、もしかしたら鬱陶しいと思われているかもしれないと少し不安になる。
なら、言葉にして伝えればいいのに、と思うけれど。
「んー、まあ、聞きたくないって言ったら嘘になるけど。でも、みちるは僕のこと好きだろ?」
私の顔を覗き込んで自信満々にそう言うはるかに私は安心した。私の愛があなたに伝わっているのだと、鬱陶しいと思われていないのだと。
「あら、随分と自信があるのね」
「そりゃあね。僕は君より君のこと、知ってるんだぜ?」
いつか私が漏らしてしまった言葉をはるかが同じように言う。
あの時のことを思い出しては今でも悔やむことがあるけれど、あなたがそうして時折私の悔いを昇華してくれる。
それに嬉しいと感じるのと同時にちょっと悔しいと思う私はやっぱり可愛げのない女だと思う。
「あら、本当かしら。私、あなたのこと好きじゃなくてよ」
「えっ」
はるかの腕をするりと抜け出して私はソファから立ち上がる。呆然と私を見上げるはるかに微笑みお夕飯の用意、するわね、と言ってキッチンへ足を向ける。
そんな私を見てはるかは慌てて立ち上がった。
「お、おいおい。冗談だろ?」
「さあ、どうかしら。でも私は少なくともほたるもせつなもうさぎたちも、好きよ」
「えっと、僕、は?」
「好きじゃないわね」
ええ? と困惑と不安を顔いっぱいに貼り付けるはるかを見て私はくすくすと笑う。立ち尽くすはるかを置き去りにして今度こそキッチンへ向かう。
残念、あなたはまだ私のことちゃんと分かってないみたいね。でもいいわ、そんなあなたも私は大好きで愛しているもの。
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