君がいるから
身動ぎをしようとして思ったように体が動かせずに目を覚ます。目を開けると視界はまだ真っ暗で起きる時間では無いことが分かる。
背中があったかいなぁ、と思っているとすぐ後ろからん、と微かに声が聞こえた。そっと振り返るとふわふわとした翡翠色が視界に映る。
みちるが僕の背中に顔を埋めて寝ているのだと理解して思わず頬が緩んだ。
よくよく見るとみちるは僕の背中にピッタリとくっ付いていて、腕は僕を暖めるように回されている。おまけに片手は指をしっかりと絡められていた。
『寝る前はみちるが寒くないようにしてたのにな』
先に自分の世界へ行ってしまったみちるを見てちょっとだけ拗ねながら冷え込みが酷くなってきたこの時期に風邪をひかないよう布団を肩まで掛けてから僕は目を閉じたのだ。
そういえば、自分にはちゃんと布団を掛けないまま寝たかもしれない、と思い出しきっと目が覚めたみちるが暖めようとしてくれたのだと気付く。
僕は自然と口角が上がるのを感じながらそっとみちるの腕を持ち上げてくるりと体を反転させた。今度は自分の腕の中にみちるを閉じ込めて僕の温もりを彼女に分け与える。
心做しか、1人布団に包まれていた時よりみちるの寝顔は穏やかになっている気がする。
「あぁ……そっか……」
どうしてみちるの顔が穏やかに見えるのか、僕はその理由に思い至って小さく独り言を呟いた。
もし、僕が思い至った理由があっているならすごく嬉しいな、そうであって欲しいな、と思いながら僕はみちるの香りと温もりに包まれながら再び目を閉じた。
◇◇◇
腕の中の温もりと顎の下を何かで擽られる感覚で僕の意識は少しずつ自分の世界から戻ってくる。
ゆっくりと目を開ければ視界は明るくなっていて朝を迎えたのだとぼんやりとする頭で理解した。
少しの間ぼーっとしていると再び顎の下を擽られる感覚がして視線をそちらに向ける。見ればふわふわの翡翠色が僕の腕の中に収まっていた。
「み、ちる……?」
「ん、おはよう。はるか」
名前を呼べば顔を上げたみちるがふわりと花が綻ぶような綺麗で可愛らしい笑みを浮かべてそう言った。
僕も微笑んでおはよう、と返しながら柔らかくていい匂いのするみちるの髪に口付けを落とす。するとみちるは嬉しそうに笑ってまた僕の胸に擦り寄った。
「なんだい? 何かいい夢でも見たの?」
「ふふ、さぁ? どうかしら。そういうあなたも、随分気持ち良さそうに眠っていたけれど、いい夢でも見ていたのかしら?」
朝からこんなにみちるが甘えてくるなんて珍しくてそう問いかければはぐらかされて逆に僕が問い詰められる。
みちるの言葉に僕はみちると出会う前の僕を思い出す。
ずっと胸の真ん中が空っぽで何をしても、誰といても空虚感や孤独感を抱いていた。夜、寝る時はいつも寒くて自分の体を抱いて寒さを耐えるように1人布団の中に丸まっていた。
そんな夜が変わったのは、みちると出会ってからだ。
みちるが僕の中にいてくれる。そばにいてくれる。空っぽだった胸の真ん中を、みちるが埋めてくれた。
僕は独りじゃなくなったんだ。
『寒さを感じず、気持ち良く寝れているのは……』
「はるか?」
みちるを腕に抱いたまま思い耽っていると名前を呼ばれた。みちるは不思議そうに僕を見つめている。
「……さあ? もう忘れちゃったな。でもきっと、君がいてくれたよ」
きっと、なんて言ったけれど絶対にいたよ。みちるはいつも僕のそばにいてくれる。
でもそれを直接言うのはちょっと恥ずかしいから誤魔化させてくれ。それも、君にはお見通しなんだろうけどさ。
だって君はあら、それは光栄だわ、なんて嬉しそうに笑うんだもん。
「今日、休みだろ? もうちょっと、こうしてたい」
今日はなんだかこうしてみちると幸せを噛み締めていたい日なんだ。君も、そう思っているだろう? そう思っていて欲しいな。
僕はみちるに僕の気持ちが伝わるようにそっと額を合わせてそう呟いた。
背中があったかいなぁ、と思っているとすぐ後ろからん、と微かに声が聞こえた。そっと振り返るとふわふわとした翡翠色が視界に映る。
みちるが僕の背中に顔を埋めて寝ているのだと理解して思わず頬が緩んだ。
よくよく見るとみちるは僕の背中にピッタリとくっ付いていて、腕は僕を暖めるように回されている。おまけに片手は指をしっかりと絡められていた。
『寝る前はみちるが寒くないようにしてたのにな』
先に自分の世界へ行ってしまったみちるを見てちょっとだけ拗ねながら冷え込みが酷くなってきたこの時期に風邪をひかないよう布団を肩まで掛けてから僕は目を閉じたのだ。
そういえば、自分にはちゃんと布団を掛けないまま寝たかもしれない、と思い出しきっと目が覚めたみちるが暖めようとしてくれたのだと気付く。
僕は自然と口角が上がるのを感じながらそっとみちるの腕を持ち上げてくるりと体を反転させた。今度は自分の腕の中にみちるを閉じ込めて僕の温もりを彼女に分け与える。
心做しか、1人布団に包まれていた時よりみちるの寝顔は穏やかになっている気がする。
「あぁ……そっか……」
どうしてみちるの顔が穏やかに見えるのか、僕はその理由に思い至って小さく独り言を呟いた。
もし、僕が思い至った理由があっているならすごく嬉しいな、そうであって欲しいな、と思いながら僕はみちるの香りと温もりに包まれながら再び目を閉じた。
◇◇◇
腕の中の温もりと顎の下を何かで擽られる感覚で僕の意識は少しずつ自分の世界から戻ってくる。
ゆっくりと目を開ければ視界は明るくなっていて朝を迎えたのだとぼんやりとする頭で理解した。
少しの間ぼーっとしていると再び顎の下を擽られる感覚がして視線をそちらに向ける。見ればふわふわの翡翠色が僕の腕の中に収まっていた。
「み、ちる……?」
「ん、おはよう。はるか」
名前を呼べば顔を上げたみちるがふわりと花が綻ぶような綺麗で可愛らしい笑みを浮かべてそう言った。
僕も微笑んでおはよう、と返しながら柔らかくていい匂いのするみちるの髪に口付けを落とす。するとみちるは嬉しそうに笑ってまた僕の胸に擦り寄った。
「なんだい? 何かいい夢でも見たの?」
「ふふ、さぁ? どうかしら。そういうあなたも、随分気持ち良さそうに眠っていたけれど、いい夢でも見ていたのかしら?」
朝からこんなにみちるが甘えてくるなんて珍しくてそう問いかければはぐらかされて逆に僕が問い詰められる。
みちるの言葉に僕はみちると出会う前の僕を思い出す。
ずっと胸の真ん中が空っぽで何をしても、誰といても空虚感や孤独感を抱いていた。夜、寝る時はいつも寒くて自分の体を抱いて寒さを耐えるように1人布団の中に丸まっていた。
そんな夜が変わったのは、みちると出会ってからだ。
みちるが僕の中にいてくれる。そばにいてくれる。空っぽだった胸の真ん中を、みちるが埋めてくれた。
僕は独りじゃなくなったんだ。
『寒さを感じず、気持ち良く寝れているのは……』
「はるか?」
みちるを腕に抱いたまま思い耽っていると名前を呼ばれた。みちるは不思議そうに僕を見つめている。
「……さあ? もう忘れちゃったな。でもきっと、君がいてくれたよ」
きっと、なんて言ったけれど絶対にいたよ。みちるはいつも僕のそばにいてくれる。
でもそれを直接言うのはちょっと恥ずかしいから誤魔化させてくれ。それも、君にはお見通しなんだろうけどさ。
だって君はあら、それは光栄だわ、なんて嬉しそうに笑うんだもん。
「今日、休みだろ? もうちょっと、こうしてたい」
今日はなんだかこうしてみちると幸せを噛み締めていたい日なんだ。君も、そう思っているだろう? そう思っていて欲しいな。
僕はみちるに僕の気持ちが伝わるようにそっと額を合わせてそう呟いた。
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