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hair iron

「はぁ、本当に器用な人ですね」

 みちるの話を聞いた最初の言葉がそれだった。私の言葉にみちるはくすくすと笑う。
 私はあまりヘアアレンジをしないし、髪もストレートだからアイロンをかける必要もほとんどない。だからたまに結び方を変えたりする時はなかなかに苦戦を強いられるのだけれども、全くはるかの器用さが羨ましいわ。

「自分の髪をいじるのも大変なのに、他人の髪であそこまで仕上げられるのは本当に驚いたわ」

 私はうんうん、と頷いてみちるに同意する。今度から私も髪をいじる時ははるかにお願いしようかしら、なんて思っているとみちるからも同じように言われる。

「今度せつなもはるかにやってもらったら? せつなくらいの髪の長さならはるかもやりがいあるでしょうし」
「そうですね、今度お願いしようかしら」

 楽しみだわ、と笑うみちるに私も笑い返して紅茶を口にするとみちるはそういえば、と呟いた。
 私は首を傾げるとみちるは大したことじゃないのだけれどね、と言ってから言葉を続ける。

「はるか、どうして毎日はちょっと、って断ったのかしらと思って」
「……毎朝セットするのが大変だから、ではなくてですか?」
「そういう感じではなかったのよね。むしろ毎日やりたいけど、っていう雰囲気があったのよ」

 まぁ、考えてもわからないけとなのだけれどね、とみちるが呟いたタイミングでリビングの扉が開く。
 視線を向けると仕事を終えて帰ってきたはるかがいた。

「おかえりなさい、はるか」
「おかえりなさい」
「ただいま、みちる、せつな」

 コーヒーでいいかしら? と言いながらキッチンへ向かうみちるにはるかはうん、ありがとうと返す。荷物をソファの横に置くとはるかはそのままソファに腰掛けた。
 その様子を眺めていると視線に気付いたはるかが何? と不思議そうに首を傾げた。
 なんでもありません、と答えて空になったカップを手に立ち上がる。ちょうどキッチンから戻ってきたみちるが私を見ると部屋に戻るの? と問いかける。

「ええ、仕事が残ってますから」
「また君は……あまり根を詰めすぎるなよ?」

 はるかのちょっと呆れを含む言葉に分かっていますよ、と返して扉に手をかける。そして私はお仕事頑張ってね、という声を背にリビングを出た。
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