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hair iron

 いつもより少し遅い時間に目を覚ます。
 寝起き特有のぼんやりとした頭で今日は学校はお休みで、予定も特にない日だということを脳内のスケジュールで確認したあと隣に眠るはるかの寝息に誘われて2度寝をしたことを思い出す。
 顔を横に向ければ未だにすやすやと気持ち良さそうに眠るはるかの顔が視界に入った。

「……ふふ、かわい」

 すべすべで柔らかい頬を撫でるとはるかは少しだけ唸って顔を枕に埋めた。寝癖のついた柔らかい髪を一撫でしてそろそろ起きなくちゃ、とベッドから抜け出す。
 顔を洗ったり服を着替えたりとしてから再び寝室へ戻る。はるかはまだ寝ているようでベッドに突っ伏していた。
 起こすのは髪をセットしてからでいいわね、と考えながらドレッサーの前に腰掛ける。癖のある髪にブラシを通しながらヘアアイロンの電源を入れる。
 温まるのを待ちながら他のことをしているとなんだか視線を感じて鏡越しに背後を見る。

「おはよう、はるか」
「……ん、はよ」

 ぽやっとした顔でこちらを見ているはるかに鏡越しに微笑むとはるかもふわりと笑っておはようと返してくれた。
 そろそろ起きた方がいいわよ、と声をかけながら十分に温まったアイロンで髪を整えていく。けれどはるかはじーっと私を見つめたまま微動だにしない。

「どうしたの?」
「んー、や、べつに」

 はるかはそう言うけれどその後も見つめてくるものだから私はふと、思い立って問いかけてみた。

「はるかもやってみる?」
「え? いや、でも僕の髪じゃ」
「私のよ」

 そう言って振り返ればはるかはぽかんとした顔をした後にいいの? と伺うような顔をした。私は笑みを浮かべて1つ頷くとベッドから抜け出してきたはるかにアイロンを渡した。
 はるかはアイロンを受け取ると私の髪に通して巻いていく。真剣な目で黙々と手を動かすはるかがレースに臨む時のはるかと同じで少しだけ照れてしまった。

「よし、出来た」
「ありがとう」

 しばらく無言でいたはるかがそう呟いて満足そうに笑う。私は自分の髪を鏡で見ながら素直に感心した。

「はるか、ヘアメイクとかしたことあるの?」
「え? ないけど、どうして?」
「本当? こんなに綺麗にアイロンかけられているし、編み込みもやった事なかったらこんなに上手に出来ないわ」

 上から覗くように私を見ていたはるかを下から見上げてそう答えればはるかはみちるがいつもやってるの見てたから、と言う。
 実際にやってみると上手くいかない事の方が多いのに、器用な人ねと思う。

「楽しかったよ。今度またやらせて」
「えぇ、今度というより毎日やって欲しいくらいだわ」

 半分冗談、半分本気で言うとはるかはんー、毎日は、ちょっと、と歯切れ悪く言った。
 毎日やるのは大変、とか、めんどう、という意味で言っているようでは無さそうで少し不思議に思ったけれど濁して答えたはるかが問い詰めて本当の事を言うわけはないだろうと気付かなかったフリをする。

「ね、はるか。デートしましょう」

 服を着替え始めたはるかにそう声をかけるとはるかは仰せのままに、お嬢様と言って別の服を取り出した。
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