Dances with the Dragons
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「昼の休憩の時間だ」
廃タイヤを積んだだけの椅子から立ち上がり、ガユスは声を上げた。
朝からぶっ通しの基礎訓練をしていた新人たちは地面に膝を突き、へたり込み、リコリオに至っては四肢を投げ出し大の字に倒れ込んでいる。
「もう、何時間走って、ましたっけ」
「これも、市場価値増大のた、め…」
息も絶え絶えに苦い言葉を吐き出す新人たちに肩をすくめてみせながら、ガユスは言葉を継ぐ。
「疲れているだろうし、そのままでいいから聞いてくれ。今日付けで新たに一人うちの事務所に入ることになった」
足元からの疑問の目線を受け流し、ガユスは開け放たれたままだった事務所の裏口に向けて手を振った。
合図に気づいたらしいメッケンクラートが小さく手を掲げ、歩みを始める。紺の背広に先導され、次に裏口をくぐったのは趣味の悪いシャツと立てた前髪。テセオンだった。前髪に念入りに櫛を入れつつメッケンクラートの背を追う。
「えっ?」
「え?」
ピリカヤとリコリオの声が重なり、新人たちの表情に疑問の成分が足される。同時に声を上げてしまった二人がはたと顔を見合わせ、不快そうに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
見知らぬ人物が建物から出てきたのはその時だった。
派手なシャツの背に付き従う人物はテセオンより頭半分ほど背が低く、彼と比べると随分細身に見えた。年の頃は十代後半から二十代前半といったところだろうか。おさまりの悪い黒髪の下、灰緑色の瞳が落ち着きなく周囲を見回している。
腰の左右に穿いた尖剣 と短剣から伺うに整備士や会計士などではなく攻性咒式士として入所したのだろうが、街の服屋か雑貨屋にでも居そうな風貌だ。
「こちらへ」
廃車置場のフェンスをくぐったメッケンクラートがガユスの隣、積まれた廃タイヤの前を手で示して立ち止まった。
続いてフェンスをくぐったテセオンの横を抜け、彼女はガユスの隣に立ち止まる。街の若者然とした軽装に不釣り合いな軍用長靴が、アスファルトの上でゴツと鳴った。
「本日よりこちらでお世話になることになりました、ナマエ・ミョウジです」
深々と下げた頭をゆるりと上げてよろしくですと短く付け加える。
「メッケンクラートの推薦だ。先程入所試験を終えたばかりだが、入所の意思が固いようなので本日付で採用とさせてもらった」
突然湧いて出た1週間違いの後輩の存在にぽかんとした表情を並べる新人たちの疑問を打ち消すように事実を補足し、ガユスは視線で自己紹介の続きを促した。
「はい、ええと、先の使徒事件で所属していた事務所がほとんど壊滅状態になってしまいまして」
促されるままに言葉を継ぐナマエの声が微かに上擦る。
使徒たちに掛けられた賞金に目が眩み、行動をはやった咒式士たちの末路を知らぬものはその場にはいない。そして、取り残されてしまった者が居るであろうことも想像に難くはなかった。
自己紹介とはいえ、自身の辛い体験を吐露するジェチカの目元に朱が差していく。
「行き場もなくて困っていたところに学生時代と、咒式士見習いの頃にお世話になっていたメッケンクラートせんせ、じゃなくて、メッケンクラート代表にお声をかけていただきました」
手布で汗を拭いながらダルガッツがなるほどと相槌を打った。彼も事務所の壊滅がきっかけで四派合同事務所にやってきたのだ。なにか思うところがあるのだろう。
「それって縁故採用ってやつですか?ずるーい!」
服が汚れるのを嫌って少し離れたベンチに座っていたピリカヤが口を尖らせた。咄嗟にその言葉を否定することが出来なかったナマエは頬どころか耳の先まで赤くして口ごもり、ピリカヤとメッケンクラートの間に視線を彷徨わせている。
「ガユス先輩たちが決めた事だぞ!」
正義感からか声を上げ立ち上がったリコリオを、ガユスが手を掲げて制す。でも、と反論しかけたリコリオが不精不精と言った態度で腰を下ろした。表情には不満の色。
それを苦笑混ざりに眺めながら、メッケンクラートが口を開いた。
「当たり前だが、正規の入社試験と同じ基準で採否の判定をしている。筆記試験は先日の受験者と合わせても十二位、実技だと四位だ。階梯は十、前科なし、その他素性についても問題はない」
右手で紙の束が挟まれた筆記板を小さく掲げてみせる。その斜め後ろでテセオンが大きく頷き、立てた前髪が揺れた。
「こいつについて疑う必要なんてねえ。なんたって二年前にチーム“紅蓮の昇龍”で警察の捜査に協力した時、こいつは…」
「ちょっ、その恥ずかしいチーム名まだ覚えてたの!?」
思い出話を始めようとするテセオンに、ナマエが声を上げた。テセオンの独特というか酷い命名センスは、どうやら昔からのものらしい。
「ふーん」
ピリカヤは気のない返事をし、手を挙げてみせた。
「特別扱いがなかったなら異存ないでーす」
「僕もです!今日からよろしくお願いします!」「ダルガッツでさ、よろしく」「我輩はニャルン」「エリダナでの市場拡大を目指して共に頑張ろう!」
リコリオが元気よく立ち上がり、他の新人たちも口々に挨拶を交わしていく。
「一週間の遅れは頑張って取り戻します、今日からよろしくお願いします」
「ナマエには午後から新人たちと同じ訓練を受けてもらうから、そのつもりで」
携帯端末で時間を確認しながらガユスが言った。ああそれと、と思い出したように付け加える。
「夕方にはささやかだが歓迎会を予定しているから、午後からしっかり腹を空かせておいてくれ」
ナマエの肩を叩き、ガユスはいたずらっぽくウィンクをして見せた。
廃タイヤを積んだだけの椅子から立ち上がり、ガユスは声を上げた。
朝からぶっ通しの基礎訓練をしていた新人たちは地面に膝を突き、へたり込み、リコリオに至っては四肢を投げ出し大の字に倒れ込んでいる。
「もう、何時間走って、ましたっけ」
「これも、市場価値増大のた、め…」
息も絶え絶えに苦い言葉を吐き出す新人たちに肩をすくめてみせながら、ガユスは言葉を継ぐ。
「疲れているだろうし、そのままでいいから聞いてくれ。今日付けで新たに一人うちの事務所に入ることになった」
足元からの疑問の目線を受け流し、ガユスは開け放たれたままだった事務所の裏口に向けて手を振った。
合図に気づいたらしいメッケンクラートが小さく手を掲げ、歩みを始める。紺の背広に先導され、次に裏口をくぐったのは趣味の悪いシャツと立てた前髪。テセオンだった。前髪に念入りに櫛を入れつつメッケンクラートの背を追う。
「えっ?」
「え?」
ピリカヤとリコリオの声が重なり、新人たちの表情に疑問の成分が足される。同時に声を上げてしまった二人がはたと顔を見合わせ、不快そうに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
見知らぬ人物が建物から出てきたのはその時だった。
派手なシャツの背に付き従う人物はテセオンより頭半分ほど背が低く、彼と比べると随分細身に見えた。年の頃は十代後半から二十代前半といったところだろうか。おさまりの悪い黒髪の下、灰緑色の瞳が落ち着きなく周囲を見回している。
腰の左右に穿いた
「こちらへ」
廃車置場のフェンスをくぐったメッケンクラートがガユスの隣、積まれた廃タイヤの前を手で示して立ち止まった。
続いてフェンスをくぐったテセオンの横を抜け、彼女はガユスの隣に立ち止まる。街の若者然とした軽装に不釣り合いな軍用長靴が、アスファルトの上でゴツと鳴った。
「本日よりこちらでお世話になることになりました、ナマエ・ミョウジです」
深々と下げた頭をゆるりと上げてよろしくですと短く付け加える。
「メッケンクラートの推薦だ。先程入所試験を終えたばかりだが、入所の意思が固いようなので本日付で採用とさせてもらった」
突然湧いて出た1週間違いの後輩の存在にぽかんとした表情を並べる新人たちの疑問を打ち消すように事実を補足し、ガユスは視線で自己紹介の続きを促した。
「はい、ええと、先の使徒事件で所属していた事務所がほとんど壊滅状態になってしまいまして」
促されるままに言葉を継ぐナマエの声が微かに上擦る。
使徒たちに掛けられた賞金に目が眩み、行動をはやった咒式士たちの末路を知らぬものはその場にはいない。そして、取り残されてしまった者が居るであろうことも想像に難くはなかった。
自己紹介とはいえ、自身の辛い体験を吐露するジェチカの目元に朱が差していく。
「行き場もなくて困っていたところに学生時代と、咒式士見習いの頃にお世話になっていたメッケンクラートせんせ、じゃなくて、メッケンクラート代表にお声をかけていただきました」
手布で汗を拭いながらダルガッツがなるほどと相槌を打った。彼も事務所の壊滅がきっかけで四派合同事務所にやってきたのだ。なにか思うところがあるのだろう。
「それって縁故採用ってやつですか?ずるーい!」
服が汚れるのを嫌って少し離れたベンチに座っていたピリカヤが口を尖らせた。咄嗟にその言葉を否定することが出来なかったナマエは頬どころか耳の先まで赤くして口ごもり、ピリカヤとメッケンクラートの間に視線を彷徨わせている。
「ガユス先輩たちが決めた事だぞ!」
正義感からか声を上げ立ち上がったリコリオを、ガユスが手を掲げて制す。でも、と反論しかけたリコリオが不精不精と言った態度で腰を下ろした。表情には不満の色。
それを苦笑混ざりに眺めながら、メッケンクラートが口を開いた。
「当たり前だが、正規の入社試験と同じ基準で採否の判定をしている。筆記試験は先日の受験者と合わせても十二位、実技だと四位だ。階梯は十、前科なし、その他素性についても問題はない」
右手で紙の束が挟まれた筆記板を小さく掲げてみせる。その斜め後ろでテセオンが大きく頷き、立てた前髪が揺れた。
「こいつについて疑う必要なんてねえ。なんたって二年前にチーム“紅蓮の昇龍”で警察の捜査に協力した時、こいつは…」
「ちょっ、その恥ずかしいチーム名まだ覚えてたの!?」
思い出話を始めようとするテセオンに、ナマエが声を上げた。テセオンの独特というか酷い命名センスは、どうやら昔からのものらしい。
「ふーん」
ピリカヤは気のない返事をし、手を挙げてみせた。
「特別扱いがなかったなら異存ないでーす」
「僕もです!今日からよろしくお願いします!」「ダルガッツでさ、よろしく」「我輩はニャルン」「エリダナでの市場拡大を目指して共に頑張ろう!」
リコリオが元気よく立ち上がり、他の新人たちも口々に挨拶を交わしていく。
「一週間の遅れは頑張って取り戻します、今日からよろしくお願いします」
「ナマエには午後から新人たちと同じ訓練を受けてもらうから、そのつもりで」
携帯端末で時間を確認しながらガユスが言った。ああそれと、と思い出したように付け加える。
「夕方にはささやかだが歓迎会を予定しているから、午後からしっかり腹を空かせておいてくれ」
ナマエの肩を叩き、ガユスはいたずらっぽくウィンクをして見せた。
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