バレンタイン2024
〜ヴァーリの家
ヴァ「ただいま。おかえりヴァーリさん」
ホズ「…(おかえりまで自分で言ってる…。やっぱり一人暮らしだよね…。ああ、いくら気まずくても帰るべきだったかな…)」(玄関で立ち止まる)
ヴァ「大丈夫だよ、段差や障害物はないから。そのまままっすぐ歩くんだ」(ホズの背を押して手を引く)
ホズ「…う、うん」(ちょっとヴァリから顔を離し、ゆっくり一歩ずつ進んでいく。一体何が待ち受けてるのか、色々な想像を巡らせては、心に重い不安を積み上げる)
ヴァ「さてここがリビングだ。鉢植えがあるから気をつけて…おや?」(リビングの扉を開けたヴァリは、真ん中に置かれているソファを見て首を傾げた)「…誰かいる?」
ホズ「えっ…?」(ヴァリの言葉に驚いて耳を澄ます。遠くからほんの微かに、小気味良い咀嚼音が聞こえてきた)「ひ、一人暮らしじゃ…ないの…?」
ヴァ「うーん?一人だったような、何か忘れているような…。君はここで待っていたまえ。何かあるといけないから扉は閉めていくよ」(ホズを廊下に残してリビングへ入っていった)
ホズ「え…ちょっと…」(手を伸ばすと硬い壁に当たった。探ると取っ手のようなものがある。本当に扉を閉めていったようだ)
「…(どうしよう、今なら逃げられるかもしれない…けど。もし本当に不審者がいて、あの子に何かあったら…?あの時やっぱり怪我をしていて、十分な抵抗もできずに殺されたりとかしたら…?)」(嫌な想像ばかりが真っ黒な視界の中に浮かんでくる。せめて少しでも様子を窺おうと冷たい扉に耳をつけてみると、ややくぐもってはいるが、あの澄んだ声が聞こえてきた)
「あああ、君!何をしているんだやめたまえ!」
ホズ「ーーっ!」(急いで取っ手に手をかける)
「それはホズにあげるクッキーだ!」
ホズ「…えっ」(今度は不審者の方が心配になってきた。あの子の手作りクッキーを、何も知らずに食べるとは。何が入っているかもわからないのに。不審者の様子を知りたくて、取っ手に手をかけたまま耳を澄まし続ける)
「ああ全く!ほとんど残っていないじゃないか…!なぜ兄弟という生き物は、すぐに冷蔵庫の中のものを食べるんだ!」
ホズ「(ほとんど食べちゃったんだ…可哀想に、大丈夫なのかな…。って…あれ?今なんて…?兄弟…?)」
「これは民事訴訟ものだよ、君。名前を教えたまえ」
ホズ「え…?(どういうこと…?兄弟に名前聞くわけないよね…やっぱり聞き間違い…?というかあの子、声大きいな…不審者の声は全然聞こえないのに…)」
「ん?ああ、学生証か。えーと…ヴィーザル…ヴィーザル?それは確か僕の弟の名前で…あれ?」
ホズ「…」
「あっ!思い出した、君は僕の弟くんじゃないか!」
ホズ「…自分で兄弟って言ってたのに…」(思わずそう呟くと、じわじわと笑いが込み上げてきた。しかしヴァリが近づいてくる足音がしたので必死に口を引き結んで噛み殺し、扉から静かに離れた)
ガチャッ
ヴァ「…待たせたね、ホズ。侵入者かと思ったら僕の弟くんだったよ」
ホズ「そ、そう…それなら良かった」(まだ腹の上の方で燻っている笑いを堪えながら、何も知らない風に平静を装う)
ヴァ「彼は寡黙で何を考えているかよくわからないけど、まあ悪い子じゃない。安心して入ってきたまえ。ついでに紹介しよう」(ホズの手を取りリビングに招き入れる)
ホズ「寡黙…(まさか、それであんなに声が聞こえなかったのかな…。だとすると寡黙というより、全然喋らない子って感じだけど…。兄弟揃って変人なのかな…)」
ヴァ「さてホズ、彼が僕の弟、ヴィーザルだ。…弟くん。彼はホズ。目が見えないそうだから、会釈じゃなくて握手をしたまえ」
ヴィ「…」(物珍しそうにホズを見ながら近づいてきて、ヴァリからホズの手を受け取り軽く振る)
ホズ「あ…う、うん…よろしく…」(ヴァリより少し硬い手の感触でようやく、第三者の存在に実感が伴う。しかしこれは本当に本物の人間の手なのだろうか。そう疑うほどに、ヴィーザルと呼ばれたその子の気配が薄い)
ヴァ「それと弟くん。彼に謝りたまえ。クッキーをほとんど食べてしまったことに関して」
ヴィ「…」(頭を下げる)
ヴァ「…ホズ。見えないかもしれないけれど、今弟くんは誠心誠意謝っているところだ。君のためのクッキーは残り三枚となってしまったけど…どうか許してくれないかな」
ホズ「え、あ、ああ…うん…いいよ、僕は別に。むしろ好都合…って、そうだ、弟くん、そのクッキー変な味とかしなかった?何か余計なものが入ってたり、今少し具合が悪かったり…そういうことはない?」
ヴィ「?」(首を振る)
ヴァ「ホズ…君…。僕がいくらダークマター製造機だからって、本人の前でそんなことを聞くのは失礼だと思わないのかい」
ホズ「だ、ダークマター…?」
ヴァ「おっとなんでもない。…大丈夫だよ。味も中身もモージ先生のお墨付きだ。…美味しかっただろう?弟くん」
ヴィ「…」(頷く)
ヴァ「ほら、弟くんも美味しかったって」
ホズ「ほ、本当に美味しかったって言ってる…?」
ヴァ「…。いや、参ったな。なんだかんだ、生まれて初めてだよ。弟くんの無口にここまで不便を感じたのは。…少し待っていたまえ」(自室に引っ込み、すぐに戻ってきた)「…ほら弟くん。これを使うんだ」
ヴィ「…?」(マルとバツのボタンがついた謎のおもちゃを渡された。とりあえずマルを押してみる)
ピンポーン!
ホズ「わっ」
ヴィ「!」(びくっ)
ヴァ「バツの方を押せばブブーって鳴るはずだ。これでなんとなく意思の疎通ができるだろう?」
ヴィ「…」(ピンポーン!ブブーッ)
ホズ「な、なるほど…。えっと…じゃあ、あの…君のお兄さんが作ったクッキー、本当に美味しかった…?」
ヴィ「…」(ピンポーン!ピンポーン!)
ホズ「あ…。そ、そう…。うーん、でも…」(まだ不安そう)
ヴァ「やれやれ。まだ疑う気かい?」
ホズ「…だって…こんなに喋らない人間なんて怪しいよ…。さっき握った手だって、作り物の可能性もあるし…気配もないし…。全部君の自作自演なんじゃ…?」
ヴィ「⁉︎」(ブブーッ!ブブブブーッ!)(異議申し立て)
ホズ「うわっ」(ブブー音の迫力に一歩下がる)
ヴァ「フフ。仕方ないよ弟くん。ホズは一度思い込むとなかなかでね。何かの拍子に誤解が解けるまでは、存在と非存在の狭間に潜むシュレディンガーの弟くんでいたまえ。…それか何か言いたまえ。むしろそれが望ましいな、下手な一人芝居を疑われている僕からすれば」
ヴィ「…」(ブブーッ)
ヴァ「やれやれ…。変わり者の弟を持つと苦労するよ」
ヴィ「…!」(ブブブブーッ!)(異議あり)
ヴァ「はいはい」
ホズ「…」(ヴァリが一人でやってるのか、意地でも喋らない弟が本当にいるのか、判断できずに困っている。異世界に迷い込んだ気分である)
ヴァ「さて、変な弟くんのことは放っておいて、僕の部屋に行こうか。ハーブティーとクッキーでお茶しよう。三枚しかないけれど」(めっちゃ根に持ってる)
ヴィ「…」(ちょっと拗ねてる)
ホズ「き、君の部屋?ここじゃなくて?」
ヴァ「ああ。…嫌かい?ここがいいなら、弟くんを追い出そうか?」
ヴィ「!」(ブブーッ!)
ホズ「…。いや…わかった。いいよ、君の部屋で…。弟くんが本当にいるのなら、さすがにそんな酷いことはできないしね…」
ヴィ「!」(ピンポーン!)
ヴァ「そうかい?なら行こう。こっちだ」(肩に手を回す)
ホズ「…近い」(思いっきり眉を顰めて身を逸らす)
ヴァ「え?別にいいじゃないかこれくらい…」(ため息を吐いて離れ、肩の代わりに手を取って誘導する)
ホズ「…」(小さく肩で息をして、ヴァリの言葉には何も答えずに歩きだした)
ヴィ「…」(二人が兄の部屋へ入っていったのを確認してから、ソファに座り直し、自分の鞄から別のチョコクッキーを取り出して食べ始めた)
ヴァ「ただいま。おかえりヴァーリさん」
ホズ「…(おかえりまで自分で言ってる…。やっぱり一人暮らしだよね…。ああ、いくら気まずくても帰るべきだったかな…)」(玄関で立ち止まる)
ヴァ「大丈夫だよ、段差や障害物はないから。そのまままっすぐ歩くんだ」(ホズの背を押して手を引く)
ホズ「…う、うん」(ちょっとヴァリから顔を離し、ゆっくり一歩ずつ進んでいく。一体何が待ち受けてるのか、色々な想像を巡らせては、心に重い不安を積み上げる)
ヴァ「さてここがリビングだ。鉢植えがあるから気をつけて…おや?」(リビングの扉を開けたヴァリは、真ん中に置かれているソファを見て首を傾げた)「…誰かいる?」
ホズ「えっ…?」(ヴァリの言葉に驚いて耳を澄ます。遠くからほんの微かに、小気味良い咀嚼音が聞こえてきた)「ひ、一人暮らしじゃ…ないの…?」
ヴァ「うーん?一人だったような、何か忘れているような…。君はここで待っていたまえ。何かあるといけないから扉は閉めていくよ」(ホズを廊下に残してリビングへ入っていった)
ホズ「え…ちょっと…」(手を伸ばすと硬い壁に当たった。探ると取っ手のようなものがある。本当に扉を閉めていったようだ)
「…(どうしよう、今なら逃げられるかもしれない…けど。もし本当に不審者がいて、あの子に何かあったら…?あの時やっぱり怪我をしていて、十分な抵抗もできずに殺されたりとかしたら…?)」(嫌な想像ばかりが真っ黒な視界の中に浮かんでくる。せめて少しでも様子を窺おうと冷たい扉に耳をつけてみると、ややくぐもってはいるが、あの澄んだ声が聞こえてきた)
「あああ、君!何をしているんだやめたまえ!」
ホズ「ーーっ!」(急いで取っ手に手をかける)
「それはホズにあげるクッキーだ!」
ホズ「…えっ」(今度は不審者の方が心配になってきた。あの子の手作りクッキーを、何も知らずに食べるとは。何が入っているかもわからないのに。不審者の様子を知りたくて、取っ手に手をかけたまま耳を澄まし続ける)
「ああ全く!ほとんど残っていないじゃないか…!なぜ兄弟という生き物は、すぐに冷蔵庫の中のものを食べるんだ!」
ホズ「(ほとんど食べちゃったんだ…可哀想に、大丈夫なのかな…。って…あれ?今なんて…?兄弟…?)」
「これは民事訴訟ものだよ、君。名前を教えたまえ」
ホズ「え…?(どういうこと…?兄弟に名前聞くわけないよね…やっぱり聞き間違い…?というかあの子、声大きいな…不審者の声は全然聞こえないのに…)」
「ん?ああ、学生証か。えーと…ヴィーザル…ヴィーザル?それは確か僕の弟の名前で…あれ?」
ホズ「…」
「あっ!思い出した、君は僕の弟くんじゃないか!」
ホズ「…自分で兄弟って言ってたのに…」(思わずそう呟くと、じわじわと笑いが込み上げてきた。しかしヴァリが近づいてくる足音がしたので必死に口を引き結んで噛み殺し、扉から静かに離れた)
ガチャッ
ヴァ「…待たせたね、ホズ。侵入者かと思ったら僕の弟くんだったよ」
ホズ「そ、そう…それなら良かった」(まだ腹の上の方で燻っている笑いを堪えながら、何も知らない風に平静を装う)
ヴァ「彼は寡黙で何を考えているかよくわからないけど、まあ悪い子じゃない。安心して入ってきたまえ。ついでに紹介しよう」(ホズの手を取りリビングに招き入れる)
ホズ「寡黙…(まさか、それであんなに声が聞こえなかったのかな…。だとすると寡黙というより、全然喋らない子って感じだけど…。兄弟揃って変人なのかな…)」
ヴァ「さてホズ、彼が僕の弟、ヴィーザルだ。…弟くん。彼はホズ。目が見えないそうだから、会釈じゃなくて握手をしたまえ」
ヴィ「…」(物珍しそうにホズを見ながら近づいてきて、ヴァリからホズの手を受け取り軽く振る)
ホズ「あ…う、うん…よろしく…」(ヴァリより少し硬い手の感触でようやく、第三者の存在に実感が伴う。しかしこれは本当に本物の人間の手なのだろうか。そう疑うほどに、ヴィーザルと呼ばれたその子の気配が薄い)
ヴァ「それと弟くん。彼に謝りたまえ。クッキーをほとんど食べてしまったことに関して」
ヴィ「…」(頭を下げる)
ヴァ「…ホズ。見えないかもしれないけれど、今弟くんは誠心誠意謝っているところだ。君のためのクッキーは残り三枚となってしまったけど…どうか許してくれないかな」
ホズ「え、あ、ああ…うん…いいよ、僕は別に。むしろ好都合…って、そうだ、弟くん、そのクッキー変な味とかしなかった?何か余計なものが入ってたり、今少し具合が悪かったり…そういうことはない?」
ヴィ「?」(首を振る)
ヴァ「ホズ…君…。僕がいくらダークマター製造機だからって、本人の前でそんなことを聞くのは失礼だと思わないのかい」
ホズ「だ、ダークマター…?」
ヴァ「おっとなんでもない。…大丈夫だよ。味も中身もモージ先生のお墨付きだ。…美味しかっただろう?弟くん」
ヴィ「…」(頷く)
ヴァ「ほら、弟くんも美味しかったって」
ホズ「ほ、本当に美味しかったって言ってる…?」
ヴァ「…。いや、参ったな。なんだかんだ、生まれて初めてだよ。弟くんの無口にここまで不便を感じたのは。…少し待っていたまえ」(自室に引っ込み、すぐに戻ってきた)「…ほら弟くん。これを使うんだ」
ヴィ「…?」(マルとバツのボタンがついた謎のおもちゃを渡された。とりあえずマルを押してみる)
ピンポーン!
ホズ「わっ」
ヴィ「!」(びくっ)
ヴァ「バツの方を押せばブブーって鳴るはずだ。これでなんとなく意思の疎通ができるだろう?」
ヴィ「…」(ピンポーン!ブブーッ)
ホズ「な、なるほど…。えっと…じゃあ、あの…君のお兄さんが作ったクッキー、本当に美味しかった…?」
ヴィ「…」(ピンポーン!ピンポーン!)
ホズ「あ…。そ、そう…。うーん、でも…」(まだ不安そう)
ヴァ「やれやれ。まだ疑う気かい?」
ホズ「…だって…こんなに喋らない人間なんて怪しいよ…。さっき握った手だって、作り物の可能性もあるし…気配もないし…。全部君の自作自演なんじゃ…?」
ヴィ「⁉︎」(ブブーッ!ブブブブーッ!)(異議申し立て)
ホズ「うわっ」(ブブー音の迫力に一歩下がる)
ヴァ「フフ。仕方ないよ弟くん。ホズは一度思い込むとなかなかでね。何かの拍子に誤解が解けるまでは、存在と非存在の狭間に潜むシュレディンガーの弟くんでいたまえ。…それか何か言いたまえ。むしろそれが望ましいな、下手な一人芝居を疑われている僕からすれば」
ヴィ「…」(ブブーッ)
ヴァ「やれやれ…。変わり者の弟を持つと苦労するよ」
ヴィ「…!」(ブブブブーッ!)(異議あり)
ヴァ「はいはい」
ホズ「…」(ヴァリが一人でやってるのか、意地でも喋らない弟が本当にいるのか、判断できずに困っている。異世界に迷い込んだ気分である)
ヴァ「さて、変な弟くんのことは放っておいて、僕の部屋に行こうか。ハーブティーとクッキーでお茶しよう。三枚しかないけれど」(めっちゃ根に持ってる)
ヴィ「…」(ちょっと拗ねてる)
ホズ「き、君の部屋?ここじゃなくて?」
ヴァ「ああ。…嫌かい?ここがいいなら、弟くんを追い出そうか?」
ヴィ「!」(ブブーッ!)
ホズ「…。いや…わかった。いいよ、君の部屋で…。弟くんが本当にいるのなら、さすがにそんな酷いことはできないしね…」
ヴィ「!」(ピンポーン!)
ヴァ「そうかい?なら行こう。こっちだ」(肩に手を回す)
ホズ「…近い」(思いっきり眉を顰めて身を逸らす)
ヴァ「え?別にいいじゃないかこれくらい…」(ため息を吐いて離れ、肩の代わりに手を取って誘導する)
ホズ「…」(小さく肩で息をして、ヴァリの言葉には何も答えずに歩きだした)
ヴィ「…」(二人が兄の部屋へ入っていったのを確認してから、ソファに座り直し、自分の鞄から別のチョコクッキーを取り出して食べ始めた)